シノブ


交流会も終わって普段通りの日常が戻ってきた。…んだけど、私は連日の任務続きでなかなか休みがない。思っていたより全国での神仏系の依頼は多いらしい。あっと言う間に冬が訪れていた。クソ、いつになったらパパ黒とちゃんメグに会いに行けるんだあああ!!!パパ黒とおせっせしてえええええ!!!!

「…もしかしてこれも上層部の嫌がらせだったりして…。」

あ…ありうるっ!!!くっ…どこまでも腐ったミカンだなァ!!

「廻神理玖様ですね。」
「…そうですけど、どちら様ですか?」

任務が終わってコンビニでアイスを買って出たところで、背広姿の男が私に声を掛けた。待って、タイミングよ。私のアイス。先アイス食べさせて。袋からガサガサと取り出したアイスを開封して嚙り付く。うん、冷たくて寒いけど最高にうまい。アイス最強。

「我々は、“神の子の会”。廻神理玖様、あなた様を祀る団体でございます。」
「え、そんなのまだあったんだ。」
「我々はあなた様を大いに信仰、崇拝しております。何れお役に立てる日が来るでしょう。どうぞ、一目だけでも足をお運び頂けませんか。」
「あ、興味ないのでそういう団体は解散してください。私これからもう一件任務あるんで。」

嘘だけど。

「あなた様の家族が、危険にさらされても?」
「…どう言う意味。」
「詳しい話は我々の聖地へ。」

…コイツ、胡散臭い…。それに、どっかで見たことある。家族を人質にとって有無を言わせない気か。めんどくさいけど乗ってやるよ。

「…行ってやってもいいけど、私の家族に手を出したら…殺すよ?」
「それはあなた様次第です。」
「場所は?」
「車を用意しております。どうぞお乗りください。」

車に乗せられて向かった施設は見覚えのある建物だった。何故ならここは…、

「盤星教…、」
「“時の器の会”…それが我々のもう一つの名です。我々はあなた様と同等に、天元様を信仰、崇拝しております。」
「で、何が目的で私をここに?」
「あと数か月ほどで、天元様の同化の時期が訪れます。我々は天元様と星蔣体との同化を望んでおりません。ですが、廻神理玖様、あなた様と天元様の同化となれば話は別です。」
「…言ってる意味が分からないね。純粋な天元様を望むのが、盤星教の思想じゃなかったっけ?」
「我々は天元様と廻神理玖様、両者を同等に信仰、崇拝していると申しました。両者が同化すればより完璧な、」
「あー無理無理。私の家族を人質にして、私と天元様を同化させようって発想が無理。激しくお断り。」
「…ならば、来たる日の為に、ここで静かに暮らしていただきたい。」
「二度も言わせないでもらえますか?無理。星蔣体はダメで私はヨシ?頭悪すぎて吐きそう、オ゛ッエー。私にはやること山済みなの。こんなとこでグウタラ過ごしたくないし、天元様と同化もしない。次私の前に姿見せたら、潰すぞ。」

セレクト。

【廻神織神と廻神風鈴が狙われています。選択してください。選択すると呪力を60消費します。(残り呪力:79)】
【1.神の加護を授ける】

1番。

【1.神の加護を授ける を選択しました。呪力を60消費しました。(残り呪力:19)】

「帰る。」
「家族の命がどうなっても、」
「ああ言い忘れてた、ひとつ忠告してあげるよ。星蔣体を暗殺しようとしても無駄だよ。何故なら、私が必ず食い止めるから。じゃあね、園田茂(・・・)さん。」
「な、なぜ私の名を…、」

盤星教の施設を出て大通りまで歩いた。何だこれ、何だこれ、何だこれ。

「何で私が天元様と同化?どういう事…?」

あ、やべ、吐きそう…、

「うっ、ぷ、」

「君は物語を多く変えすぎた。それによる反動が起きている。いずれ君は運命に飲み込まれるだろう。」

…これか…?

「おえええっ…、」

まさか、私が、いや、そんな馬鹿な、

「あー駄目だ、誰かに会いたい…。誰か私に大丈夫って言って…。」

だって私さっき、あの男を、非術師(・・・)を、

「殺そうとしちゃった…、」

あぁ…なんだこれ…これじゃあまるで、

「…傑の気持ち、分かって来たわ…。腐ったミカンも…猿も…クソ食らえ。」

あー…頭痛い。ダメだ、しっかりしろ私。私は何のために頑張ってるの?!好きな人達が幸せになる未来を創るって決めたじゃん。それなのになんだよこの様は…。しっかりしろ私。皆の幸せが私の幸せ!!!

「…理玖さん?」
「え…、建人君…、」
「どうしたんです、こんなところで…吐いたんですか?」
「あ、いや、ちょっと、気持ち悪くなっちゃって…。建人君こそどうしたのこんなところで。」
「…塾の帰りです。」
「塾!?」
「家庭教師がいなくなったので。」
「あ…、はは、そっか、そうだよね。私寮に入ったから、ごめんね…っ。」
「…どうしてそんなに泣きそうな顔してるんですか。辛いなら、どこか座れるところに行きましょう。」
「っ、大丈夫…ふっ…大丈夫だよ、」
「…使ってください。」

差し出されたハンカチ。受け取って、涙を拭う。あぁ、だめだ、だめだよナナミン、これ逆効果だよ。涙止まんないよ、私どうしたらいい?だってもう意味が分からないんだ。皆が幸せになる未来って、これで合ってるの?もうすぐ星蔣体の任務が来る。そしたらパパ黒と戦わなきゃいけない。天内理子を守って、そしたら、同化を阻止して、そのあとは?どうなんの?予想ができないし、見当もつかない。パパ黒を止めれる?救える?

「…けん、と君っ、ごめん、ぎゅってして…、」
「……、」

ナナミンがそっと私を抱きしめてくれた。私は人目も憚らずにその温もりに泣いた。ごめん、ブレてごめん。皆私が助けるって決めたんだから、ブレちゃだめだ。

「覚えてますか?」
「え…?」
「大きくなったら、何になりたいか、昔話したでしょう。」
「…あ、」
「私があなたを守りたいと。あなたも私を守るヒーローになると、言いましたよね。」
「…言った…。」
「どうすれば、私はあなたのヒーローになれますか。」
「…私が、辛い時に…、ぎゅってして…大丈夫って言って…、」
「…大丈夫です。理玖さんなら大丈夫。」
「…うんっ、」
「私に出来ることなら何でもします。一人で悩まないでください。辛い時はすぐに言ってください。」
「…うんっ、」
「好きです、理玖さん。私にあなたを守らせてください。」
「…ありがとう、建人君。…大好き。」

ナナミンは私が泣き止むまで抱き締めてくれた。人の視線も気にせずに、私達はしばらくその場でじっと互いの体温を感じ合った。それからナナミンと別れて高専に戻った。ナナミンは高校どこ行くのって聞いたら、高専に通うと言った。私がいるから、だそうだ。

「私も高専に通えば、理玖さんが辛い時いつでも抱き締められるでしょう。」

別れ際にナナミンはそう言った。ああ、なんていい子なんだナナミン。ブレてごめん、揺らいでごめん、私は皆の幸せを守るためなら、なんだってするよ。たとえそれが私にとって辛い選択だったとしても。私1人が耐えればいい。そうすれば皆幸せになれるんだから。皆が笑ってくれればそれでいい。皆の笑顔が見たいんだから。

「…にしても、ナナミン背が伸びててカッコ良くなってたなぁ…。写メっておけばよかった…。イケメンは正義…。」

1人ベッドで項垂れていると、誰かの気配が近付いてきた。気配は私の部屋の前で止まって、そして、

「理玖、いるかい?」
「…傑?」
「…ちょっと話せるかな?」

私は部屋を見渡す。…うん、散らかってはいないし、服もルームウェアだし問題ない。

「今開けるー。」

ドアを開けると傑がスウェット姿で立っていた。どうしたんだろう。とりあえず傑を部屋にあげた。

「どしたの?」
「…最近理玖に会えてなかったから、顔が見たくてね。」
「そう言えば、最近私任務尽くしですれ違いばっかだったね。なんか久しぶり?」
「うん、久し振り。…大丈夫?元気なさそうだよ。」
「あー…はは、ちょっと、疲れちゃって…。」
「…おいで、」

傑が両手を広げて私を見た。あー…なんでこんなにみんな優しいんだろ。私は傑の胸に飛び込んで、力いっぱい抱き着いた。傑がいつも部屋で焚いているお香の匂いがして、ほっとする。

「よしよし、理玖。頑張ってるね。」
「…な、に、」
「理玖はいつも一人で考える癖があるよね。」
「…そんなつもりは、」
「術式のせいかな?いつもどこか遠くに感じる。けど、今みたいに弱ってる時の理玖は、神の子でも呪術師でもない、ただの廻神理玖だよ。綺麗で可愛くて、料理が上手で悪ノリが好きで、良く笑う、ただの女の子。私の好きな人。」
「すぐる、」
「愛してるよ。」



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