代わりはいない


次の日、今日は傑と2人で任務だった。チャーンス。移動中の車内で、傑が私の手を掴んでするすると手を撫でている。

「どうしたの、傑?」
「ん?いや、理玖と2人で任務なんて、そうそうないから嬉しくてね。」
「んふふ、私もそれ思った。最近はどう?結構取り込んでる?」
「…そうだね、いつものことだけど。でもやっぱりいい気分ではないから、今日は理玖と2人なのがとても嬉しい。」
「口直しなら任せてね。」
「期待してるよ。」
「傑はさ、もし呪霊取り込む時の味が変えられるとしたら、何味にする?」
「…そんなことができるのかい?」
「あ、いや気になって聞いてみただけ、素朴な疑問だよ。変えれるなら変えたいけど。」
「…そうだね、…とりあえずあの味でなければなんでもいいかな…。でも、私はこのままでもいいと思っているよ。」
「なんで?」
「理玖が口直ししてくれるだろう?」
「まったくぅ〜、いやしんぼめ!」
「ははは。」

傑は笑っていたけど、正直なところ私は不安である。星蔣体任務が終わってからがかなり忙しくなる。今年は災害が頻発するらしいし、来年は蛆のように呪霊が湧くらしいし、可能な限りフラグを折っておかないと…。とりあえず今は傑の呪霊操術だな。本人が望む味に変わってくれれば一番いいんだけどなぁ、なんとかなるかなぁ?セレクト。

【あなたは呪霊操術について変えようとしています。選択してください。選択すると呪力を140消費します。(残り呪力:170)】
【1.味を変える 2.サイズを変える 3.なにもしない】

…なるほど、そう来たか。両方できれば飴玉みたいでもっと取り込みやすいんだろうけど、こればっかりは仕方ないな。サイズを変えたところであの味なら苦痛のままだろうし、やっぱり味変かなぁ…。うん、1番!

【1.味を変える を選択しました。呪力を140消費しました。(残り呪力:30)】

任務先について帳を降ろしてもらうと、早速1級呪霊が飛び掛かってきた。傑が手を翳してそれを球体にすると、他はザコ呪霊の群れらしい。傑が手持ちの呪霊で一掃してくれたので、私は何もすることがなかった。うん、流石特級。傑が呪霊玉を見つめていた。

「どうしたの、傑?」
「…ああ、いや、何でもないよ。」

傑が呪霊玉をごくんと飲み込んで、目を見開いて私を見た。首を傾げると、傑が私を抱きしめた。

「どうしたの?」
「…ありがとう理玖。」
「ん?何が?」
「…ふふ、何でもないよ。」
「口直しする?」
「いや、口直しじゃなくてありがとうのキスをしてもいいかな。」
「いくらでもどうぞ!傑大好きだよ。」
「理玖、私も大好き。愛してるよ。」

傑が私を抱きしめたまま唇を落とした。ちゅっと触れるだけのキスをして、2人で見つめ合ったまま笑った。

「理玖の味がしたんだ。」
「え?」
「これを取り込めば理玖とキスできる…そう考えてたら、理玖の味がした。」

…もしかして本当に本人が望む味になった?え、だとしたら、血の味がいいって思ったら血の味になるわけ!?えぇ!?それは、ちょっと、自分で言っておいてあれだけど、それってどうなのぉ!?まあでも、あの吐瀉物味じゃなくなったなら、いいのか…?

「今度から理玖のことを思い出して取り込むよ。」
「え、」
「理玖の汗の味はどんなだろうとか、理玖のピーーーの味とか、理玖がピーーーした時のピーーーーの味とか、」
「いや怖い怖い怖い怖い!!!傑の変態に拍車が掛かってる!!」
「怖がることはないよ理玖。私はいつも理玖の事を考えてるだけだから。」
「やめて、絶対モザイク不可避じゃん。」
「えー。」
「えーじゃない。」

くすくす笑いながらまた私にキスをした傑に、私もそれに応えるように唇を啄んだ。帳から出て傑と手を繋いで車に乗ると、そのまま高専に戻った。そういえば今更だけど、パパ黒がちゃんメグとつみっきーを高専に連れてきてくれたおかげで、2人は高専近くの小学校に通うことになったし、つみっきーの八十八橋での被呪は完全回避したのでは?とすればあそこにある宿儺の指は回収した方がいいんだろうか…?…いや…でも、八十八橋での一件、つみっきーがトリガーになって、ちゃんメグは領域展開できるようになるわけだよね…。うーん…、悟や傑みたいに私の術式で何とかなるならいいんだけど、こればっかりはなんとも言えないなぁ。ま、時間はまだあるから今はスルーしておくか…?

「理玖?」
「んぇ?」
「ふふ、おかしなリアクションだね。考え事かな?」
「あ…、いや、今日の夕飯何食べようかなぁ、みたいな。」
「ああ、なるほどね。私は和食がいいな。」
「和食かぁ…、うーん…、さっぱり系?」
「そうだね、暑くなってきたし。」
「冷やし中華とか?」
「中華だね。」
「あ、そっか。冷しゃぶサラダとか?」
「ああ、いいね。」
「じゃあ買い物行こう!あ、南田さん、またスーパー寄ってもらってもいいですか?」
「うっす。」

2人で食材を買って高専に戻った。傑も手伝ってくれて2人で冷しゃぶサラダを作った。皆に連絡して集まれた人だけで食べて、いない人の分はラップをかけて冷蔵庫に入れておいた。うーん、もしかしたら私、寮母さんとか向いてそうじゃない?って一瞬思ったけど、任務こなしながら毎日これは結構大変そうだと思ってすぐに諦めた。その日は硝子とつみっきーと一緒に寮のお風呂に入った。

「津美紀ちゃんはどう、ここでの生活。少しは慣れた?」
「うん!理玖ちゃんもいるし、高専の人はみんな優しいから。それに、学校まで送り迎えしてくれるから、すっごく楽!」
「あー、こっから一番近い小学校でも結構距離あるしね。車じゃないと学校着くまでにバテるわ。」
「高専って無駄に広いもんねぇ。友達出来た?」
「うん!」
「何かあったらすぐに言ってね?私と硝子が助けに行くから!」
「おー、任せろ。ちょん切ってやるから。」
「ありがとう、理玖ちゃん、硝子ちゃん。」
「津美紀ちゃんは私達の可愛い妹だからね。お姉ちゃんたちに存分に甘えなさい!」
「はーい!」

つみっきーとの好感度もやっぱりすぐに100%になった。相手が子供だったり同性だと、あっと言う間ですごく助かる…!3人で湯船に浸かって他愛もない話をして、お風呂を出た。つみっきーの髪の毛を乾かしてあげて、ちゃんメグと一緒につみっきーが過ごしている部屋まで送った。硝子は煙草を吸いに先に部屋に戻った。

「恵きゅーん?」
「理玖姉ちゃん!!」
「わっ、元気だねぇ?」

部屋に入るとちゃんメグが私に駆け寄ってきて、勢いよく抱き着いてきたちゃんメグを受け止める。髪の毛が湿っているから、パパ黒とお風呂に入って来たんだろうな。

「ドライヤーある?」
「あ、あるよ!」
「ありがとう津美紀ちゃん。きゅん〜、髪の毛乾かすよ?」
「うん!」

ドライヤーでちゃんメグの髪も乾かしてあげた。うひぃ髪の毛サラサラぁ…!でもやっぱりウニちゃんなのね…。

「はい、おしまい!」
「ありがと、」
「お礼言えて偉いねぇ?ご褒美にぎゅーしてあげる!」
「ん。(ぎゅう)」
「ここにも天使がいたか…。大天使メグエル…、」
「理玖姉ちゃん一緒に寝て。」
「ぐふっ、」

ちゃんメグの言葉に思わず吐血しかけた私は、口元を拭ってちゃんメグをこれでもかと抱きしめた。はぇええ…かわよぉおお…。

「いいよ、今日は3人で寝よっか。甚爾様はいつもどこで寝てるの?」
「隣の部屋にいるよ!3人だと狭いからって。」
「そっかぁ。じゃあ寝る準備しよう!はい、歯磨きするよ〜。」

3人で歯を磨いて布団に入る。私を真ん中にして、右につみっきー、左にちゃんメグが寝転がると、2人とも私の腕にぎゅうっと抱き着いた。いやもう天使しかおらんやんけ。昇天したろか。

「おやすみ、津美紀ちゃん、恵きゅん。」
「おやすみなさい、理玖ちゃん。」
「理玖姉ちゃん、おやすみ…、」

2人の寝息が聞こえると、静かに息を吐いて私も目を閉じた。暫くして、ぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえて目が覚めた。つみっきーが泣いているらしい。寝返りを打ってちゃんメグが私の腕から離れていたので、つみっきーに体を向けてぎゅっと抱きしめた。そうだよなぁ、お母さんと離れ離れになったもんなぁ…心細いよなぁ…。私が連れてきてって言ったから、パパ黒はつみっきーを連れて来たけど、つみっきーからしたらやっぱりお母さんと一緒にいたかったよなぁ…。ごめん。ごめんねつみっきー。せめてここにいる間は、私のことお母さんでもなんでも、好きなだけ代わりにしていいから。

「ごめんね、」

濡れた頬をそっと指で拭った。



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