玉折-1-


それから1年が過ぎるのはあっという間だった。2007年8月。

「いっくよー。」

硝子がペン、傑が消しゴム、私がマシュマロを悟に投げた。…いや、なんでマシュマロ?私達が投げたものはそれぞれ悟に向かって飛んでいく。ペンは無限で止まり、消しゴムは悟の額に当たる。マシュマロは難なく悟の口の中に収まった。

「うん、いけるね。」
「げ、何今の。」
「術式対象の自動選択か?」
「そ。」

悟は“最強”に成った。私は任務の度にセレクトをして頻発するはずだった災害の被害を軽減させていた。かなり呪力を食うせいで何度か呪力切れでぶっ倒れたけど、おかげで今年の夏は蛆のように呪霊が湧くことはなかった。傑もあれから呪霊を取り込む度に、今日は何の味だった。と私に連絡してくるくらいだ。少し前に驚いたのは、「今日は理玖のピーーの味だった。」と真顔で言われた時だ。正直困惑したけど、本人は満足そうだった。うん、傑の変態度が爆上がりしてちょっと怖いけど、その時その時で味が違うらしい。やっぱり傑が取り込むときに浮かんだ味になるみたい。食べ物の味、飲み物の味、色々と味が変わってちょっと楽しいと言っていた。傑が闇堕ち回避もこのままいけば叶うはず。

「理玖?」
「ん?」
「ちょっと痩せた?大丈夫か?」
「え…、私?あ、あぁ、夏バテかな?大丈夫だよ?」
「ソーメン食い過ぎた?」

悟の言葉に私は首を傾げる。あれ、これ傑が言われてたやつだよね?傑を見れば、傑も私を心配そうに見ていた。…あれ、ちょっと待って、なにか、

「今日は栄養のあるものを食べよう。」
「そうだな。」
「理玖、薬が必要ならすぐ行ってね。」
「あ、本当に大丈夫だよ?最近皆任務続きで疲れてるでしょ?」
「俺らより理玖だろ。」
「聞いたよ、少し前から呪力切れでよく倒れてるんだろう?」
「あー…、」

皆の為だから何ともないよ、なんて言えないから、私は笑って誤魔化した。

「心配かけてごめんね?ありがとう、皆。」
「なんかあったらすぐ言えよ。」
「うん、」

次の日、私は単独任務が終わって自販機の前で何を買うか考えていた。野薔薇も言ってたけど、ホント自販機増やしてくれないかな。いい加減飲み飽きてきた。

「あ!!理玖さん!!」
「ん?灰原きゅんじゃん!」
「お疲れ様です!!」
「灰原きゅんもお疲れ〜。何か飲む?」
「えぇ!?悪いですよ、コーラで!!」
「んふふ…、」

コーラを2本買って、ベンチに座る。プルタブを開けて乾杯をして2人でコーラを煽った。

「はぁ〜、暑い日のコーラって最高!」
「あぁ…生き返りますね!!」
「灰原きゅん一人で珍しいね?建人君は?」
「七海は荷造りしてます。明日の任務結構遠出なんですよ。」
「そうなんだ。灰原きゅんはもう荷造り終わったの?」
「はい!あ、お土産買ってきますね!甘いのとしょっぱいの、どっちがいいですか?」
「え、いいの?」
「はい!!理玖さんいつも僕たちにお土産買って来てくれるので、お返しです!!」
「灰原きゅん…!んもう、優しくて可愛い後輩がいてくれて先輩は嬉しい!!」
「あはは!」

灰原の肩を抱き寄せて頭をわしゃわしゃ撫でまわした。そこで私はふと気づく。さっきから、何かがおかしい。

「…待って、明日遠出って言ったよね?」
「はい!」
「…任務内容、聞いてもいい?」
「えっと…、たしか2級呪霊の討伐って聞きました。うぶなんとかって…、七海が言ってた気が、」
「…は?」

待って、もうそんな時期?!しかも、神仏系の任務は全部私に回してもらっていたはずなのに、なんで…、

「…待って、その任務行っちゃダメ。」
「え?」
「私が代わるから、2人は違う任務を受けてくれる?神仏系の任務は絶対に受けないで、私に回して。」
「え…でも、」
「いいから、次からそうして。それと、明日の任務、私が受ける事は私から報告するから。」
「…理玖さん?」
「ごめんねいきなり、びっくりさせたかもしれないけど…、私のお願い聞いてくれる?」
「…わかりました!じゃあ、七海にも話した方がいいですよね?僕、言ってきます!」
「ごめんね、折角2人とも荷造りしたのに!」
「大丈夫です!失礼しまーす!」

灰原が飲み干したコーラの缶を捨てて去って行く。私は両手で顔を覆って、溜め息を吐いた。危なかった…危うく灰原を死なせるところだった…。それにしても上層部め、全部私に回せって言ったのに勝手な事を…。

「また踏みつぶしに行った方が良さそうね、」

…ていうか昨日からちょっとおかしくないか?この立ち位置、このままだと、

【好感度イベント発生!選択してください。この選択には呪力を消費しません。(残り呪力:103)】
【1.イベントを選択する 2.イベントを無視する 3.なにもしない】

え、ってことは、もしかして、

「1番。」

【1.イベントを選択する を選択しました。この選択には呪力を消費しません。(残り呪力:103)】

「君が廻神君?」
「っ、」
「どんな男が好みかな?ん?」
「…なんで、」

何で、私の所に、

「九十九由基…、」
「おっ、流石神の子!私の事も知ってるのか。」
「…何の用ですか?」
「そう警戒しないでくれるかな。で、どんな男が好みかな?」
「…別に、私が好きって思った人が好みのタイプです。」
「ふぅん?」
「特級のくせに任務を全く受けず、海外をプラプラしてるろくでなしのあなたが、なんで高専に?」
「私高専って嫌ーい。」
「奇遇ですね、私もです。」
「…そうは見えないけどね、廻神君。君が嫌いなのは上層部の年寄りたちだろ。」

九十九由基、なんで私の所に来たのか全く理由が分からない。今はとりあえず話を聞いてみるか。

「聞いたよ、呪術連上層部の総入れ替えの話。君がやったんだってね。」
「いつの話ですか。昔の事過ぎて忘れちゃいました。」
「あれを聞いた時はもう爆笑した。私もスカッとしたよ。」
「…そうですか。それで、何の用ですか?」
「…ちょっと2人程スカウトをしようと思ってね。」
「…。」
「少し授業をしようか。そもそも呪霊とは何かな?」
「人間から漏出した呪力が澱のように積み重なり形を成したモノ。」
「エクセレント。すると呪霊の生まれない世界の作り方は2つ。�@全人類から呪力を無くす。�A全人類に呪力のコントロールを可能にさせる。�@はね、結構イイ線いくと思ったんだ。モデルケースもいたしね。君もよく知っているだろう?」
「…甚爾様。」
「そ。天与呪縛によって呪力が一般人並みになるケースはいくつか見て来たけど、呪力が完全に0なのは、世界中探しても彼1人だった。彼の面白い点は、」
「知ってます。」
「…流石神の子。」
「甚爾様はあなたのスカウトに乗らないでしょうね。一度振られたんじゃないですか?」
「…そこまで知られていたとは、恥ずかしいな。今日は彼にもう一度スカウトしようと思って来た。けど、私の本命は他にある。…君だよ、廻神理玖君。」
「…。」
「聞けば、入れ替わった上層部の年寄りたちは、呪力、術式両方を奪われたと聞いた。…君になら、私の理想が叶えられるかと思ってね。私は世界から呪霊を無くしたい。君になら、それができるんじゃないか?」

九十九由基は私をジッと見つめた。正直、16巻まで読んでも九十九由基の真の目的までは書かれていなかった。虎杖たちの味方というわけではない、本人がそう言っていた。世界から呪霊を無くす…確かに私の術式なら可能かもしれない。私の大事な人たちが呪いで苦しんだり、死んだりすることもないし。けど、

「それにはかなりのリスクがあります。正直私も、呪霊のない世界を作りたい気持ちはあります。けど、まだその時じゃない。」
「…何か知っているのかな。」
「言えません。」
「…ま、深くは追及しないさ。罰が当たると怖いからね。けど頭に入れておいて欲しいことがある。大雑把に言ってしまうと、全人類が術師になれば呪いは生まれない。」
「…私に非術師を皆殺しにしろとでも?」
「廻神君、それは“アリ”だ。というか多分それが一番簡単だ。」
「いい加減にして!!」

九十九由基は両手をあげて肩を竦めた。さっきからおかしい。どうして私が、傑の立ち位置にいて、どうして私に、

「君は薄々感付いてるんじゃないか?」

九十九由基は笑った。

「明日の準備があるのでこれで失礼します。」
「これからは特級同士、仲良くしよう。」

私は返事を返さなかった。

【九十九由基との親密度が100%になりました。選択してください。この選択には呪力を消費しません。また、この選択は親密度が100%の相手には何度でも選択できます。(残り呪力:104)】
【1.好きだと伝える 2.友達だと伝える 3.付き合いたいと伝える 4.なにもしない】



← 114 →
back

top