お泊まり会の翌日から、悟は大胆にも登校中の車内でも、学校でも、時と場所を選ばずに私にひっつくようになった。給食とトイレ以外は殆ど悟に何かしらちょっかいを出されている気がする。例えば今、授業中だ。私の右隣の悟は、机をピッタリとくっ付けて肘をつき、私をジーッと見つめている。…マジ恥ずいからやめろ見るな!とは言えず、私はボケーっと黒板を眺めるフリをしながらクルクルと指で鉛筆を回しているのだ。好感度が100%になるとここまで大胆になるとは予想もしていなかったから、正直私も戸惑っている。
「…理玖、こっち見ろよ。」
「ん?」
「…好き。」
「…お、おう、あ、りがと?」
おいおいおいおい悟くぅん?!やめろよマジで、今授業中だぞ?!教室中が静まり返ってるのは気のせいだと思いたい…!なんで皆板書の手を止めんの?!先生もなんか喋れや!!
「はぁ…。」
え、なんの溜息?!悟くぅん!?なんの溜息なのよ!?
「早く俺の事好きになれよ。」
「ン゛ッ!?」
「あーあ、俺の理玖になってくれねーかなー。」
「…悟、ちょっと黙ろうか?」
「なんで?」
「…授業中は静かにしようね。ほら授業進まないから!皆ずっと聞いてるからね?!」
「いいじゃん勝手に聞かせてれば。俺達別に勉強しなくてもこんなん余裕じゃん。」
「いやそうだけれども…。」
「サボろうぜ。」
「アンタ、本当に小1?」
埒があかんぞ。こうなったらセレクト。
【五条悟があなたにかまって欲しいようです。選択してください。選択すると呪力を10消費します。(残り呪力:60)】
【1.口を塞ぐ 2.目を塞ぐ 3.手を塞ぐ 4.なにもしない】
…………これは、使えん!私は思わず額に手を添えた。動物園デートの時の悟のピュアさが懐かしく感じる。えぇい、こうなったら1番じゃ!黙っとれぇい!
【1.口を塞ぐ を選択しました。呪力を10消費しました。(残り呪力:50)】
「…は?」
「へぇ、理玖ったら大胆。」
気付くと私は悟の口を塞いでいた。言葉通りの意味だ。唇を唇で塞いでいた。慌てて離れるも、悟はニヤニヤと私を見ている。クラス中が私達に注目していたせいでざわざわと騒がしくなってきた。…クッソがあああ!なんでそうなる!ガタン、と椅子を倒す勢いで立ち上がった。私は教室を飛び出す。あーもう!こんなの絶対噂になるやつじゃん!そんでもって悟が調子に乗るやつじゃん!選択ミスった!!私のバカっ!クソっ!無駄に恥ずい!なんなんだちくしょー!
「…あー、マジで…なんで着いてくんの…。」
「俺もサボろうと思って。」
「サボりじゃないわ!トイレ!」
「トイレ向こうじゃん。」
「…ああもう!着いてくんなバカ!」
「理玖、」
私の手を掴む悟が、少しだけ寂しそうな顔をする。…やめてその顔、ショタな分余計胸に刺さるから。
「…俺、本気で理玖のこと好き。だから付き合ってよ。」
「…私はまだよく分からん。けど言える事はひとつ、付き合うのは無理。悟のことは今の所友達としては好きだけど、恋愛感情かと聞かれたら分からない。」
「…絶対俺の事好きになるから、付き合って。」
「無理なんだって、私の術式が詰んじゃうから。」
「…どういうこと?」
「私の術式に関わるからあんま言えないけど、今は誰とも付き合えない!てか、まだ小1だから付き合ってもそんな楽しい事ないでしょ?!」
「理玖がいれば俺はそれで楽しいけど。」
「アンタ、本当に小1?」
「それさっきも聞いた。」
「とにかく、今はまだその返事はできない。」
「じゃあいつかは返事してくれんの?」
「…いつかね。」
そう言うと、悟はニッコリと笑った。眩しい笑顔に私はなんだか申し訳ない気持ちで胸が締め付けられる。正直、悟のことは結構好きだけど、私の術式にはまだ謎が多すぎる。
「そう言えばさっき術式使っただろ。」
「うん。」
「それでキスしたわけ?」
「そんなつもり無かったのに、気付いたらそうなってた。」
「ふーん。ま、俺は嬉しかったからいいけど。」
「だろうね。…はぁ、おかげで教室に居ずらくなるし、ほんと最悪。」
「…俺とキスするの、そんなに嫌?」
「…嫌ではないけど、流石に恥ずいっしょ?」
「俺は見せつけられたから満足だけど。」
「分かった分かった。」
そのまま2人で屋上に行った。授業中だから当たり前だけど、そこには誰もいない。2人で屋上のフェンス越しに外を眺める。その後私たちは給食の時間まで2人で屋上に寝転がった。
「明日、迎えに行くから。」
「明日?」
「俺んち、泊まんだろ?」
「…そういえばそうだった。何時に来るの?」
「8時くらい?」
「学校か!」
私のツッコミに悟は笑った。翌日、これまた宣言通り私を迎えに来た悟に、私は着替えと宿題を入れたリュックを背負って家を出た。お母さんに持たされた手土産もある。悟の家は想像をはるかに超えた広さだった。悟に手を引かれて家に上がると、着物姿の悟のご両親が出迎えてくれた。…マジか。
「お邪魔します。初めまして、廻神理玖と申します。こちら、つまらないものですが、」
そう言って手土産の紙袋を渡すと、悟のお父さんがニッコリと笑って受け取ってくれた。と、思いきや、紙袋はガサリとその場に投げ捨てられる。…は?なんやコイツ、意味わかんね。
「つまらん物など受け取らんよ。うちの悟にどうやって取り入ったか知らんが、君のような小娘が来ていい所ではない。」
「おい、オヤジ何しやがる!」
「悟、あなたは黙っていなさい。」
あーこれは、はは、流石に頭にきたわ。セレクト。
【五条??と五条??があなたを警戒しています。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:60)】
【1.泣く 2.屈伏させる 3.なにもしない】
問答無用、2番。私が黙っている事に、恐れを生したと思っているらしい。
【2.屈伏させる を選択しました。呪力を50消費しました。(残り呪力:10)】
突如、悟の両親がガクンとその場に膝を着いた。悟が私を振り返って目を丸くしている。悟の両親も何が起こったのか分かっていないからか、目を丸くしていた。
「あ、ごめんなさーい。私のような小娘が来る場所じゃなかったですね!でもそんな小娘に膝を着かされるなんて、さすが天下の五条家です!すっごーい!あはは!」
ニッコリ、仕返しとばかりに笑ってやった。悟が吹き出して、腹を抱えて爆笑している。
「やっぱり俺、理玖のこと好きだわ。」
「フーンだ、別に嬉しくなんてないし!」
…あれ、これじゃまるで私がツンデレみたいじゃね?