互いを想うからこそ、でしょ


「悟、」
「…なんだよ。」

両膝を着いたままだった悟のお父さんが、鋭い目付きで悟を見上げた。と思いきや、その顔は突然笑顔になった。え、何この人、情緒不安定なの?大丈夫?

「凄くいい子を見つけたな!父さん感激した!」
「理玖ちゃんだったかしら?ごめんなさいね、酷い事を言って…!悟がお友達の話をする事なんて初めてで、どんな子かと思って試させて貰ったの!」
「…なんだよそれ。」
「…えっと、」

よく見れば、悟の両親の頭上には100%の文字が。…え、ちょっと待てよ、試したってなに?!つか手土産は!?無事か!?

「理玖ちゃん、悟のこと頼んだよ!生意気だけどね、根はいい子だから。」
「理玖ちゃんと悟の子供なら、きっと強い術師になるわぁ…!」

…はい?

「すみません、よく分かりません。」

あ、今の私Siriみたい。ってそれどころじゃねえやい!子供!?私と悟の!?頭大丈夫か!?

「悟の嫁になってくれないか!」
「すみません、よく聞こえませんでした。」
「五条家に嫁いで欲しいのよ!」
「…悟、これは一体どういう事?」
「俺も知らねえけど、いいじゃん。俺に嫁げよ。」
「いやいやいやいや!なんでのそうなるのっ!?」

手土産を拾い上げて中身を確認する。箱の角がひしゃげてんじゃん!中身は無事か!?

「ああ、わざわざ手土産まで頂いたのに、申し訳ない事をしたね…。お詫びと言ってはなんだが、今日は自分の家だと思って過ごしてくれ。私たちは理玖ちゃんを歓迎するよ。」

手土産の袋を受け取った悟のお父さんがニッコリと笑った。…いやいやそんな簡単に水に流すかよ!覚えてるからな!食べ物を粗末にした罪は重いんだぞ!?

「俺の部屋行こうぜー。」
「お茶菓子を持って行かせるわね。」
「うん。」
「今度こそお邪魔します。」

悟の両親はニコニコと私と悟を見送った。いやいやいやいや、なんか期待してる所申し訳ないけど、嫁ぐとかそんなん今決めることじゃないから!めちゃくちゃ広い悟の部屋に通されると、背負っていたリュックを降ろして大きく息を吐いた。なんかもう、帰りたい。やだこの家族、なんか怖いんだけど…周りから囲んでくタイプのやつじゃね?!やめてぇぇええ、逃げ場なくなるから!!

「じゃ、早速特訓する?」
「あー、うん、する。」

適当なジャージに着替えて悟に体術を教えてもらう。格闘技のかの字も知らない私に、悟は手取り足取り事細かく教えてくれた。殴る時の力の込め方やタイミング、蹴る時の軸や体勢について、狙うべき急所やその攻め方など。正直悟の教え方はめちゃくちゃ上手いし、わかり易かった。マジで、本当に小1?いつから置かれていたのか覚えていないお茶菓子を見つけたのは、給仕係と思われる女性が私達を昼食に呼びに来た時だった。おぉ、思ってたより熱中していたらしい。それに、この体結構動けるみたい。正直昔の自分では想像のつかないくらい運動能力が格段に上がっている。これも神様仏様のおかげか?マジでありがたい!

「さ、遠慮せず食べてね。」
「…ありがとうございます、いただきます。」

…なんか懐石料理みたいな豪華な食事が出てきたんだけど…。こんな食事毎日食べてんの?マジ?ジャンクなの食べたくならないの?だから鍋食ったことなかったんか?!…てか、当たり前だけど悟の両親も一緒に食べるらしい。き、気まずい…。向こうはなんとも思っていないみたいだけど、私のお父さんの為にもここはきちんと謝罪しておくか…。結構失礼な態度取っちゃったし。食事に手を付ける前に、私は悟の両親に向けて床に両手をついて頭を下げた。ジャパニース土下座スタイルと言うやつだ。

「…あの、先程は…試されてたとはいえ、失礼な振る舞いをして申し訳ありませんでした。手土産は無事でしたか?」
「ああ、気にしないでいいのよ!実はね、あなたのお母様には事前にお話してあったの。」
「悟の運転手を通じて、理玖ちゃんを試させてもらう事を伝えていたんだ。手土産はいらないから、適当な空き箱を入れておいてくれとね。」

マジかよ、うちのオカンもグルかい!帰ったら問い詰めてやる!…と思ったけど、お母さん怒ると怖いから程々に問い詰めてやる…。食事の合間にも悟の両親は悟のいい所をペラペラと私に語っていく。悟と私をどうしても結び付けたいらしい。悟も満更ではないような顔で私の事をチラチラと見てくるから、早くこのよく分からない空間から逃げ出したくて、私はただ黙々と食事を続けた。

「というわけで、どうかな、理玖ちゃん。」
「すみません、お茶のおかわり頂いてもいいですか?」
「私達としても、理玖ちゃんのような賢くて可愛らしく実力も申し分ない子に、五条家に嫁いで貰えると凄く嬉しいのだがね。」
「あ、お茶ありがとうございます。美味しいですね、どこのお茶ですか?」

こんな感じで何とかスルーしようと試みる私を誰か褒めて欲しい。結構疲れるんだぞ、スルーする方も。

「ありがたいお話ですけど、私には荷が重すぎるので返事は結婚出来る歳になるまで保留でお願いします!無理です!今すぐ自分一人で決めるのは無理です!もう勘弁してください!食事の味も覚えてませんしどこのお茶だったかも忘れちゃいました!ごちそうさまでしたっ!」

最終的に根負けした私の言葉で、楽しい(?)食事の時間が終了した。悟は爆笑している。クソ、他人事だと思って…!ムカついたから背中を思いっ切り叩こうとしたけど、無限で止められた。クッソ!…ん、ちょっと待て?さっき普通に聞き流してたけど、私のお母さんには了承済みだったって、いつの間にそんな話をしたんだ…?…え、え、もしかして、先週悟の荷物取って玄関に戻った時に、うちのお母さんと運転手さん話してたよね…?え、マジ?もしかしてその時からもう決まってたの?!は!?知らなかったんですけど!?もっとさ、なんか、もっと!なんか!あるでしょ!やり方が!

「これが大人のやり方か…!」
「何言ってんの?」
「こっちの話だよ!」

その後、悟の部屋に戻ると、胃を落ち着ける為に宿題をした。…と言ってもものの10分も掛からずに終わってしまったのだけれど。あー、ご飯食べて直ぐに勉強って眠たくなるよねー。てか眠たい。ご飯の前に沢山動いたし。

「理玖、」
「なに?」
「五条理玖っていい響きじゃね?」
「まだ言うかおぬし…。」

もうその話は勘弁してくれ…。

「本当に、すぐに返事とか出来ないから。悟も私以外の人が気になる事だって有り得るし、私だって悟以外の人が気になる事だって有り得るんだから。」
「…なにそれ。俺の事ナメてんの?理玖しか興味ねえし。」

いやいや、あなたは特定の女性と付き合ってるイメージないですから。作者も言ってんだよ!公式で!それに今の内から悟と付き合ったとして、それが術式に関係なかったとしても、…私が狙われるなんて事だって有り得るんだ。好きだからこそ、悟の弱味にはなりたくない。

「…俺の気も知らねえで…。」
「…それはお互い様だよ…。」

広い室内に私の溜め息が響いた。



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