悟は全然起きなかった。私は悟のサングラスをそっと外して体を倒し、私の枕を貸してあげた。すやすや眠る悟の寝息を聞きながら、私は黙々と報告書を作成していく。ようやく半分書き終えた頃には、作業開始から4時間も立っていた。おいおいおいおい、マジかよ…。これで半分?
「ふぁ〜…。…ダメだ、集中力切れた。もういいや明日する…寝る…。」
冷めたコーヒーも、悟のココアも飲んでしまった。カップを洗って歯を磨いて寝支度を整えると、悟の肩を揺さぶる。
「悟ー、ベッド行こうよー、布団で寝よー?」
「…ん…、終わったの…?」
「半分ね。疲れたからあとは起きてからやる…。」
「…ん。」
もぞもぞと起き上がった悟をベッドに転がして電気を消す。枕と布団を整えて私も布団に入るとすぐに悟の腕が私の体を抱き寄せた。はぁあ…たまらんかよ…可愛いかよ…。
「おやすみ悟。」
「…ん、」
ちゅっとキスをして私も目を閉じた。次の日、私はスマホのアラームで目が覚めた。唸りながら画面をタッチしてアラームを止める。うぅ…クソ…まだ眠たい…。
「理玖、おはよ。」
「…ぬ…、」
「ぬ?」
「…う…、」
「…大丈夫?」
「…むり…ねむい…、」
「…ギリギリまで寝る?起こそうか?」
「…う…。」
私はお言葉に甘えて二度寝した。…暫くして、悟が私を揺り起こした。今度こそ起きなければ…。
「理玖、起きて。」
「…うむ…、」
「…大丈夫?」
「…いきてる…、」
「生きてるね。ほら、朝ですよお嬢様!今日もいい天気!」
「うげぇ…眩しい…有能執事がいる…、」
「僕有能執事だからお着替え手伝ってあげる。」
「ちょいちょいそれは待たれよ!」
悟が私のルームウェアを脱がせようとしたので慌てて止める。ちぇー、と口を尖らせる悟。朝っぱらから体力を消費させる気か…?!もぞもぞと起き上がって早速準備に取り掛かった。悟は既に準備を終えてわざわざ私を迎えに戻って来たらしい。準備を終えて食堂へ向かう。皆に挨拶してご飯を食べて、今日は真希達1年生の授業だ。軽く座学をして、あとは実技の授業。競馬場に行こうとするパパ黒を捕まえて、皆の体術を鍛えて貰っている。皆の様子を見ながら持って来たノートパソコンで報告書の続きを少しずつ進めていた時だった。
「仕事か?」
「おや、真希ちゃん。」
「報告書?」
「そ。ぶっ倒れてた分のやつ全部ね。夜中まで掛かって漸く半分だよぉ…。」
「大変だなぁ、特級術師。」
「…そういえば真希ちゃん、今階級は?」
「あー、真依と一緒。4級だよ。」
「何で?また禪院家?」
「知らね。そもそも高専に通うのも反対されたからな。」
「え、そうだったの?なんで?」
「俺らも理玖たんに会いたいのにってさ。」
「…直哉君か…。」
「アイツしかいねぇだろ、理玖のガチオタクは。」
「真希ちゃんは?」
「…なんだよ。」
「真希ちゃんは私の事だぁい好きだから東京校に来たんだよね?」
「はぁ!?ばっ、勘違いしてんじゃねぇよ!真依の方が理玖たん推しだろ!!」
「はいはい、2人とも私のこと大好きなの知ってんぞ。」
「クソ…、」
「女の子が汚い言葉を使わないの。」
真希のほっぺをつんつくしてみた。顔を赤くした真希がかわゆい。
「やめろ、触るな!」
「ホントは嬉しいくせにぃ〜。」
「あーもう!」
「真依ちゃんは素直に喜ぶよ?真希ちゃんも私にはもっと素直になってもいいんじゃない?」
「…、」
「あと真依ちゃん未だに理玖たん呼びしてくれるよ。真希ちゃんもほら、呼んで呼んで!!理玖たんって呼んで!!」
「………………たん、」
「え?なに?」
「…理玖たん!!これでいいだろ!!フン!!」
「あ、」
真希怒っちゃった。ぷんすかしながら立ち去った真希に、私はくすりと笑ってパソコンを閉じて立ち上がる。さてと、そろそろ飲み物を差し入れに買って来てあげようかな。
「皆ー、飲み物何がいいー?」
「俺カルパス。」
「それは食べ物。」
「ツナマヨ。」
「おっけー、真希ちゃんは?」
「私もスポドリ。」
「憂太君、」
「あ、僕もスポドリで。手伝います!」
「あらありがとう。甚爾様なに飲みますか?」
「あー、適当に頼むわ。」
「おしるこですね、わかりました。」
「なんでだよ。」
「菜々子ちゃん、美々子ちゃんは?」
「「理玖様が買ってくれるなら何でも!」」
「じゃあ全員スポドリね。甚爾様逃げないでくださいね?」
「逃げねぇよ。」
おっこちゅが私の後を追いかけてついてきた。はぇえ…かわゆいなぁ…。というか、おっこちゅ髪伸びたな…?と、いう事は…、
「憂太君普段ワックスとか使ってる?」
「え、いや、使ってないです。」
「そうなんだ?ちょっといい?」
「え、わっ、」
おっこちゅの前髪を掻き分ける。汗搔いてるから髪が纏まってくれて助かるな。…よし、出来た!16巻おっこちゅの完成だ!!
「憂太君かっこいい…!今度からこの髪型いいんじゃない?多分棘君あたりワックス持ってると思うし、今度借りてやってみてよ。…ほら、」
「わ…、別人みたい…。」
スマホの内カメでおっこちゅの顔を映してあげた。私のスマホを受け取って角度を変えながら髪型を観察するおっこちゅが可愛い。でも身長高いんだよなぁ…。これ2年になったら180センチくらいなんでしょ?成長期こわっ。
「憂太君これからまた身長伸びるだろうし、モテモテ間違いなしだね!」
「え…いや、そんな…、」
「あ、里香ちゃんがいるから次の恋には興味ない?」
「…そ、ういうわけじゃ…。」
「およ、意外だね?」
「…里香ちゃんが認めてくれたので、」
「…ん?何を?どういうこと?」
「その…、」
私の手を取って、おっこちゅがスマホを返してくれた。…え、何だ?手を掴む必要性よ。とりあえずスマホをポケットに入れた私。
「理玖さんなら、里香ちゃんもいいって言ってました。」
「…ん?…ん?…なんですと?」
「理玖さんなら、里香ちゃんもいいって言ってました。」
「あ、うん、一回で聞き取れたけど、うん、え?」
「…理玖さんは、」
「え、憂太君?」
おっこちゅが私の手をぎゅっと握りしめた。うえぇ!?ど、どうしたのおっこちゅ!?君には里香ちゃんと言う、
「僕じゃダメですか?」
「ぴゃ…、」
グッと手を引っ張られて私はおっこちゅの腕の中に。…え、ちょっと待ってね、頭が追い付いていないんですけど…?
「好きです、理玖さん。」
「…え、っと、」
「僕の愛に、応えてくれますよね?」
耳元でおっこちゅが囁く。ぞわりと背筋が凍った。んおお…、これぞ呪力量No.1、呪術界の新星おっこちゅ憂太…!?
「憂太君、ちょっと、」
「理玖さんは、僕じゃダメですか?」
【乙骨憂太の好感度が反転しました。今後は好感度の変動に注意してください。】
え…、えぇっ!?な、なんで久しぶりに好感度反転…!?えぇ!?なんでぇ!?えぇ!?いや、え?急にどうしたのおっこちゅ!?え?おっこちゅう!?おっこちゅが私からゆっくり離れる。にっこり笑っているおっこちゅの頭上には青いハート。
「見ましたよ昨日。狗巻君の部屋から出てくるところも、伏黒くんの部屋から出てくるところも…。」
「あ、いや、その、」
「いいんですか?理玖さんも一応教師ですよね?」
「は、はい、教師です…。」
「生徒の部屋で、なにしてたんですか?僕には言えないようなことですか?」
「い、いえ、その…えっと…、」
「…今夜、僕の部屋に来てくれますよね?」
「ひぇぇええ?!」
「来てくれなかったら…僕、口が滑っちゃうかもしれません…。」
「…い、行きます…、」
私がカタカタ震えながらそう言うと、おっこちゅはまたにっこりと笑った。今度はちゃんと可愛いいつものおっこちゅの笑顔だった。え、待って、どうしたのおっこちゅ…?!え?私のせい??前髪のせいなんて言わないよね…?あれがまさか、おっこちゅスイッチとか言わないよね?
「理玖さん?」
「ふぇ…憂太君が…憂太君がスレちゃったよぉ…、」
「スレちゃった…?理玖さんが僕をそうさせたんじゃないですか。」
「ぴえん…。」