また、理玖が泣いてる気がした。私は寝支度を整えるとタバコとジッポをポケットに入れ、今朝見つけた懐かしいプリクラをスマホカバーのポケットに挟んで部屋を出る。悟から聞いた。理玖が出張の帰りに事故に見せかけて殺されそうになったと。それも理玖を嫌う上の人間が仕向けたものだというのも。そして今日、出張から帰って来た悟、私、伏黒さん、理玖が三銃士と呼ぶ私たち3人で秘かな計画を立てた。
「僕達は何があっても理玖の味方だよね?」
「ああ。」
「当たり前だろうが。」
「…上が本気で理玖を消しにかかったら、僕は呪詛師になってでも上を消そうと思ってるんだけど、2人は?」
「いいね、私は賛成だよ。全力で上を潰して理玖を守る。」
「結果俺らが死刑になっても、か。」
「「ああ。」」
「フン、ガキ共がいっちょ前に大人ぶりやがって。」
「いや、僕達もうアラサーだし、充分大人だから。」
「そう言う伏黒さんはもうオッサンだよね。」
「あ゛?」
「やーいオッサン。」
「やーいパチンカス。」
「…オマエら殺されてぇのか?」
「冗談はさておいて、」
「オイ、俺は冗談だと思ってねぇぞ。」
「理玖はさ、僕たちの未来をある程度知ってるわけだけど、」
「うん。」
「ああ、言ってたな。」
「…理玖が僕たちの未来を変えた反動って、どこかで必ず来ると思うんだよね。それが上層部からの嫌がらせだったり、理玖が刺客に狙われたり、最悪、理玖が死ぬなんてこともあり得ると思ってる。」
「ハッ、死なせるわけねぇだろ。」
「僕もそのつもりはないよ。」
「私もないよ。」
「正直誰が一番の黒幕かなんてまだ掴めてない。理玖が出張の帰りに襲われた件も、呪詛師についての情報なんとか仕入れたんだけどさ、金で雇われただけっぽいんだよね。海外サーバーを使った出鱈目なアドレスのメールで指示を受けていたみたいなんだけど、理玖が乗る予定の新幹線を
「…内通者が身近にいる可能性がある、って事かい?」
「そういう事。」
「確かなのか。」
「確かだよ。」
「腐ったミカンだね…。」
「…俺が上のジジイ共を全員殺してやってもいいぜ。呪具さえ使わなきゃ証拠も残らねぇしな。」
「その後呪霊化されたら困るだろう?」
「んー、まあ、最悪呪霊化されても僕たち3人で祓えばよくない?
「全員どこに住んでるか分かんのか。」
「分かるよ、ずっと調べさせてたからね。」
「んじゃその情報俺によこせ。1人ずつ確実に殺ってやる。」
「証拠は絶対残すなよ。髪の毛一本ね。」
「誰に言ってやがんだよ。」
そんな話をしている内に荒井さんが戻ってきて、理玖は行く所があると言って車を降りたと聞いた。理玖はまた私達の未来に関わる何かを救うために動いているんだろう。また独りで苦しんでるんだろう。そう思ったから私は、
「理玖、いるかい?」
理玖の部屋を訪ねれば案の定、彼女は1人で泣いていた。その体を抱きしめて、優しく声を掛ける。理玖の手を引いてベッドに座る。何か元気が出る話題をと思い、私はまたデートをしようと声を掛けた。私は何となく、理玖の知っている未来に何かしら関係があるんだと思った。だから私と初めて会った時、理玖は泣いたんだと。
「理玖、愛してるよ。」
「私も、傑を愛してる。」
「早く私だけの理玖になって欲しいね。」
「…うーん、それはいつになったらできるかな…。」
「ハハハッ、今すぐになったらいいな。」
そう言うと私はまた理玖にキスをした。理玖も私に応えるように首に腕を回し、割り込ませた舌に自分の舌を絡めた。見つめ合っていると分かる。理玖が私を愛してくれていることも、理玖がそれ故に苦しんでいる事も。
「理玖、」
「ん…?」
「おやすみ、理玖。」
「…うん、おやすみ…傑…。」
理玖をベッドに寝かせて布団を掛けてあげる。本当は添い寝以上の事をしたい。が、今日は我慢だ。それをするのは邪魔の入らないデートの日。ポケットに入れていた荷物をテーブルに置いて部屋の電気をオレンジ灯にすると、理玖の隣に身を横たえて腕枕をした。空いた右手で、昔自分が母親にやってもらったように、私は理玖のお腹を布団の上から優しく一定のリズムで叩いた。ぽす、ぽす、ぽす、ぽす、
「…傑…、」
「なんだい、理玖。」
「……傑は私がどうなっても、ずっと…私の味方でいてくれる?」
「ああ、勿論だよ。私はいつだって理玖の味方だ。理玖だって私の味方だろう?」
「うん…、ありがとう…傑…、愛してる…、」
「私も愛してるよ、理玖。今はゆっくり休むといい。」
「……ん…、」
理玖の寝息を聞きながら、私は小さく笑ってその額にキスを落とした。理玖、私だけじゃなくて、高専にいる理玖を知っている人は全員、間違いなく君の味方だよ。御三家だって、今の当主たちは全員理玖の味方だ。上層部は理玖を消そうとしているけど、私達が絶対に理玖を守るよ。絶対にね。
「おやすみ理玖、良い夢を。」
私はそう言うと、静かに目を閉じた。翌日、目を醒ますとまだ私の腕の中に理玖がいた。枕元の目覚まし時計を確認して、そろそろ起こすべきかと少し考える。理玖の寝顔を眺めながら、もう少しだけこのままでいたいと思った。
「…ん…、」
「…や、おはよう理玖。」
「……傑…、おはよう、」
「少しは眠れたかい?」
「…うん、ありがとう傑。」
「私は何もしてないよ。」
「…ふへへっ、」
「どうしたんだい?にやにやして。」
「てっきり寝てる間に何かされるかと思ってたけど、何もされなかったなぁって思って。」
「おや、添い寝以上をお望みだったかい?」
「ちょっと期待した。」
「可愛い事を言うね、今から襲ってもいいんだけど。」
そう言って理玖にキスをすれば、小さく笑ったと息が漏れる。正直朝だから朝勃ちをしてるしヤろうと思えば理玖相手ならいくらでもできる。
「続きはデートの時にしようかな。ここだと邪魔が入るからね。」
「ふふん、いいだろう。」
「やっぱり無しは認めないよ。」
「そんな事言わないよ。」
2人でもぞもぞと布団から起き上がると、理玖がベッドから降りてグッと伸びをした。私もベッドの淵に座り、首をこきりと鳴らす。テーブルに載せていた煙草とジッポを掴み、キッチンへ向かう。理玖も私の後をついて来た。
「換気扇の下ならいいって言ってたよね?」
「うん、灰皿出すから待ってね。」
「ありがとう。」
理玖がどこからかガラスの灰皿を取り出して私に差し出した。それをありがたく受け取って煙草を咥えると、ジッポで火をつける。換気扇を付けて煙が理玖に行かないようにそちらに吐き出せば、理玖は私の背後からぎゅっと抱き着いた。
「ん?どうしたんだい?」
「傑は煙草似合うけど、あんまり吸い過ぎないようにね。」
「ああ、お気遣いありがとう。これでも少ない方だと思うけどね。」
「そうなの?」
「1日1箱くらいかな。」
「吸い過ぎ。」
「ハハハッ、減らせるように頑張るよ。」
理玖は私が煙草を吸い終わるまで背中にくっ付いていた。私は空いた左手を理玖の手に添え、いつもならフィルターギリギリまで吸うそれを半分で灰皿に押し付ける。
「灰皿ありがとう。」
「うん、あとで片付けるからそのままでいいよ。」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて。」
「顔洗お!」
「ああ。」
「えいっ!」
「おっと!」
理玖が私の背中に飛び乗った。理玖をおんぶして洗面所へ向かうと、理玖はストンと私の背中から降りる。
「随分お転婆なお姫様だ。」
「ふふん、侮って貰っちゃ困るわよ。」
「そんなところも愛してるよ、理玖。」
「朝から甘ーい!」
「理玖を甘やかしたいから仕方ないさ。」
2人で交代に顔を洗って口を漱ぐと、私も身支度をするために理玖の部屋を出た。勿論部屋を出る前にキスをして。男子教員寮の自分の部屋に戻ると、身支度を整えてt教員室へ向かった。悟が先に来ていたらしい。今日の教員たちのスケジュールが書かれた黒板を見ながら私に挨拶をした。
「おはよう、悟。」
「昨日もしかして理玖の部屋いた?」
「ああ、理玖が心配でね。」
「…また泣いてた?」
「…ああ。」
「早いとこなんとかしてあげたいね…。」
「そうだね…。そう言えば伏黒さんは?」
「ああ、早速準備するとか何とか言ってたよ。近いうち1人目かな。」
そんな話をしながら自分のカップを手にコーヒーを淹れていると、理玖が教員室に入ってきた。
「あれ、2人とも早いね?おはよう。」
「おはよう理玖。昨日はよく眠れた?」
「うん、眠れた!」
「私は悶々としたけどね。」
「は?どういう事?」
「理玖と添い寝したんだ。」
「傑だけずるい!僕も理玖と添い寝する!」
「悟は添い寝じゃすまないでしょ!?」
「当たり前でしょ!?理玖と一緒に寝て我慢できるわけないでしょ!!バカにしてるの!?」
「ちょ、なんで逆ギレ!?」
「ハハハッ、」
「あ、私今日授業!?忘れてた…。」
「何か都合が悪かったかい?」
理玖のカップに紅茶を、悟のカップにココアを淹れながら訊くと、理玖は何やら歯切れの悪い返答を返した。…また何かあるんだろうか。
「ちょっと天元様に会いに行かなきゃだから、先に体術させようかな。甚爾様は?」
「あー、また新台入れ替えがどうのこうのって言ってたよ。」
「まぁた、あのパチンカスは!」
「まあまあ、伏黒さんは非常勤講師だから、大目に見てあげようよ。それより紅茶淹れたよ、悟はココアね。」
「傑ありがと〜♡」
「僕の分までありがと〜♡」
「悟はちょっとキモい。」
「あ゛ぁん!?」
それから理玖に授業はどこまで教えてあるのかを伝えて、時間まで3人で他愛のない話をした。悟が出張先で買ってきたお菓子を食べて。