傑が私の部屋を去った後、軽く冷蔵庫の中を見て適当に朝食を食べて身支度を整えた。部屋を出て教員室で悟と傑と会って、傑が入れてくれた紅茶を飲みながら悟が買ってきたお土産のお菓子を食べた。授業の時間が近付いてくると、私は2人にキスをして先に教員室を出る。今日は傑が出張、悟は昼から御三家の会合とか言ってたな。教室に行くと既にかわいい子供たちは集まっていた。
「皆おはよー!」
「「理玖様!」」
「おはようございます、理玖さん。」
「すじこ!」
「はよ。」
「おっすー。」
「今日は私が授業なんだけどさ、ちょっと先に野暮用済ませてくるから、座学と体術の時間チェンジで!先に着替えてグラウンドで組手して待っててくれる?今日は私が体術も見るから!」
「「はーい!」」
「分かりました!」
「…っと、じゃあ時間ギリギリにごめんけど、そういう事でよろしくねー!」
軽く手を振って教室を出ると、薨星宮まで早足で向かう。天元様と会った場所まで辿り着くと、お見通しだったとでも言うように、天元様が腕組みをして待っていた。
「来たか。」
「おまたー!じゃ、さっさと始めますね。」
「ああ。」
「セレクト。」
【あなたは獄門彊を探しています。選択してください。選択すると呪力を200消費します。(残り呪力:270)】
【1.回収する 2.破壊する 3.なにもしない】
「…そう言えば、破壊するって選択もできるみたいなんですけど、どうします?」
「君の好きなようにするといい。」
「……そう言われると、破壊していいのかちょっと迷う…。ま、いっかとりあえず回収で。1番!」
【1.回収する を選択しました。呪力を200消費しました。(残り呪力:70)】
「…む。」
天元様がごそごそと袖を探った。え、そこに来たの?!
「…獄門彊・表だ。間違いない。」
「おぉ…イリュージョン!」
「君の術式だろう。」
「いや、そうなんだけどさ。…まあ、これで間違いなく封印できるって事ですね!」
「ああ。では早速封印しよう。」
天元様が獄門彊・表をズズズ、と裏を出した時のようにどこかに仕舞った。…え、それで終わり!?
「これで獄門彊が何者かに悪用されることはないだろう。」
「よかった…。じゃ、また何かあったら来ますね!」
「ああ。…そうだ、廻神理玖。」
「はい?」
「宿儺の指も君の術式で回収すればいいだろう。何故それをしない?」
「…何故って言うと…まあ、悪巧みバレたら困るんで☆」
「はっはっは、そうか、悪巧みか。」
「じゃあまたねー、天元様!」
「ああ。」
天元様に手を振ると天元様は意外にもにこやかに手を振り返してくれた。さては意外と茶目っ気あるな?薨星宮を出てグラウンドに戻ると、皆私の指示通りジャージ姿で体術に勤しんでいた。パパ黒はまたサボりらしいし、たまには先生らしいことしないとねー!
「おまたー!」
「理玖さん!」
「理玖、おせぇよ。」
「メンゴ!さて、誰から見て欲しい?」
「理玖さん、僕からお願いします!」
「憂太君ね、了解!里香ちゃんはなし、呪具はあり。1本取った取られたで交代。おっけ?」
「はい!」
「…フー…、よし、いいよー、どっからでもかかっておいでー。」
軽く首肩回りを解していつもの格好にヒールのまま私はおっこちゅに向けて指で挑発。竹刀を手に斬りかかってきたおっこちゅ。うんうん、動きは問題なし。スピードも本気じゃないんだろうな、もっと出せるだろう。攻撃を避けながらおっこちゅの動きを観察。そう言えばおっこちゅは反転術式使えるハズだけど、百鬼夜行起きなかったし、今は使えないのかな?うーん、
「避けるばっかりじゃないですか。」
「あー、うん、動き見たくてね。真希、それ貸してー。」
「ほらよ。」
「させませんよ!」
真希が持っていた棒を投げ渡された。おっこちゅは私に受け取らせまいと棒を叩き落とそうとしているらしい。それよりも早く地を蹴って棒を掴んで逆におっこちゅの竹刀をいなして急所を狙う。急所とは人間の正中線。真ん中だ。鳩尾に棒の先端が当たる寸前で止める。
「はい、1本もーらい。」
「…っはぁ〜!」
「憂太君最初から本気出さなきゃ、油断してたらあっと言う間だよ?」
「すみません、でも理玖さんヒールだし、その格好なんで…、その、」
「こらこら、いらない心配しなくていいの!憂太君は里香ちゃんの事もあって、特級なんだから、里香ちゃんに頼らなくても自分の実力も特級になるように頑張りな?」
「はい!ありがとうございます、理玖さん!」
「はい次ー、誰いくー?」
「理玖、相手しろよ。」
「真希ちゃーん、私の事は理玖たん♡って呼んでって言ってるのに〜!」
「言われてねぇよ!」
「言ったよぉ!はい、棒返すね。憂太君竹刀貸してー。」
「あ、はい。」
それから1年生全員を一人ずつ相手した後、私も十手を使って1年生全員対私で戦った。
「いつ誰とペアになるかも分からないから、お互いにしっかり動き見てねー。」
結果はまあ、私の圧勝だ。ごめんちゃい♡ぜえはあと息を切らして地に伏せる6人に苦笑い。
「飲み物奢ってあげるから戻るまで休憩ね!皆スポドリでいいかな?」
「…はい…、」
「…ありがとう…ございます…、」
「理玖様…ありがとう…、」
「俺はカルパス。」
「パンダは荷物持ちについておいで。息切れ一つしてないでしょ。」
「パンダ使い荒いなぁ。」
「スポドリの代わりに後でカルパス買ってあげるね。」
「よーし自販機までパンダーッシュ!」
「あ…、マジでパンダッシュで行っちゃったわ…。」
パンダの後を追って自販機で人数分のスポドリを買った。パンダに持たせて私は自分の分のスポドリを飲もうとした時、
【廻神織神と廻神風鈴に与えた加護の効果が消滅しました。】
「…は?」
「ん?どうした理玖。」
「…いや、ごめん、先戻ってて。」
どういう事だろう。…なんか、嫌な予感がする…。私はスマホを取り出して、お母さんのスマホに電話を掛けた。………出ない。お父さんは…?………出ない…。なに、一体何が、
「…なんで出ないの…?」
ぞわぞわと背筋が凍る。家に掛けても誰も電話に出ない。もう一度お母さんとお父さんに掛け直す。やっぱり出ない…。ドクン、ドクン、と嫌に心臓の音がうるさい。私は財布を取りに教員室へ戻るとついでに手の空いてる補助監督を捕まえた。
「ちょっと車出して。急いで!」
「は、はい!」
家の住所を告げてカーナビの案内で車は走り出した。移動中の車内でも私は電話を掛け続けた。やっぱり2人とも電話に出ない…。なに、一体何が…、なんで急に加護の効果が消えるの…?両親に何か…、
「……まさか…、」
「廻神術師?」
唇を噛み締める。お願い、どうか…違うと言って…。お願いだから。
「着きました。」
「ここで待機。念の為帳を。」
「は、はい。ご武運を。」
家の前で車を降りると補助監督は帳を下ろした。私の実家から感じる禍々しい呪力の気配。十手をホルダーから抜き取って呪力を確認する。
【残り呪力:98】
…最悪十手でごり押しできる。この気配間違いなく、
「特級か…、」
玄関を開ける。テレビの音がしていた。お母さんがいつも見ていたお昼の情報番組だ。リビングのドアを開ける。
「……なんで…、」
そこには、無残にも体をバラバラに切り捨てられた両親と思われる肉の塊。込み上げる吐き気に私はその場に嘔吐した。なんで…、なんで私の両親が殺されるわけ…?お母さんは以前羂索に殺されて…今度は2人とも殺されて…、誰が…一体何のために…、
<ニヒィ>
「…殺す!!」
私の背後に近付いた気配に十手を振りかざす。…コイツ…、英集少年院で見たのと同じ…宿儺の指を取り込んだ呪霊…!なんでこんな所に!?ていうか、まだゆじたんに指飲ませてないのに…!共振はまだのハズなのに…!なんで…!?
「クソ…、セレクト!」
【あなたは敵をとりたいと思っています。選択してください。選択すると呪力を270消費します。(残り呪力:99)】
【1.領域展開をする 2.特級仮想怨霊を祓う】
領域展開すれば確か最後にセレクトした直前に戻るんだったよな…。てことは今朝…天元様の所で獄門彊を回収するを選択する直前に戻るって事か。
<ニヒィイ>
…これ、今領域展開したら、私の体は完全に無防備だ。領域展開によって私の未来は上書きされるわけだけど、もし領域展開中の私がコイツに殺されたりしたら…その場合どうなる?!私の体に何か影響があっても、領域展開は継続されるの?!…分からない。けど、
「…先に祓って後で考える。」
十手を握りしめて特級相当に振りかぶる。ニヒニヒ笑いながら余裕そうに避けるソイツに舌打ちしていると、ソイツはあのはかいこうせんみたいな呪力を放った。十手でそれを受けてはかいこうせんを無効化しながら一気に距離を詰めた。クソ便利な十手で良かった。パパ黒ありがとう。
「…オマエ、マジで許さない。」
<ギ…ギヒィ!>
胸元に丸く開いた穴に十手を突き刺した。しゅわしゅわと湯気を立てながら藻搔いている呪霊の頭を鷲掴みにして床に打ち付ける。
<ヒギッ…ギヒィイイ!!>
「何でテメェがうちにいんだよ!!なんでうちの親殺してんだよっ!!ふざけんじゃねぇぞマジで!!何がしてぇんだよ!!誰が…っ、誰がこんな事…!死ねっ!死ね死ね死ね死ね死ねっ!!!!」
十手を抜いては突き刺して、私はひたすら泣きながら叫んでいた。やがて呪霊の体が消えてポトリと転がった宿儺の指を拾い上げて、私は声を上げて泣いた。いくら領域展開で未来を変えられるとして、それでも…私の両親は殺されたのだ。お母さんに至っては2度目の死だ…。なんで…誰が一体こんな事を…!!
「…まさか…上層部のクソ共?…ははは…っ、はははははっ、そんなに私が嫌いなら私を殺せよクソがああ!!!」
その場に泣き崩れる。うまく息が吸えなくて手足の先が痺れて感覚が鈍ってきた…。誰か…助けてよ誰か…、
「…はっ…、はっ、はっ、」
震える手で宿儺の指を握りしめて、ポケットからスマホを取り出して、私は、
『もしもし?どうしたの理玖、』
「はっ、はぁっ、」
『…理玖?今どこ、』
「た、けて…っ、さと、助けてぇ…っ、ひっ、うぅっ、」
『理玖、今どこにいるの?』
「うっ、はぁ…っ、実家…、」
『すぐ行く。』
電話が切れて、私は震える手でソレらに手を伸ばした。ドロリと赤くて鉄臭いものが垂れても気にせず、大好きだった2人の頭をただただ泣きながら抱きしめた。
「理玖!!」
それからすぐ悟が血相を変えて飛んできた。会合があるって言ってたから五条家の紋が付いた着物を着た悟が部屋を見てサングラスの向こうで目を見開いている。
「…誰が…、」
「……悟…、」
「理玖、」
「ごめん…、」
「え?」
セレクト。