私は三銃士に手紙を残した。荒井さんには三銃士の誰かが高専に戻ってきたらすぐにこの手紙を渡して欲しいと頼んだ。その手紙には、荒井さんが今回の騒動の手引きをしていた事。そしてそれは総監部から脅されて仕方なくやった事。家族を人質にされている事。荒井さん家族を逃がしてやって欲しいという事。そして今から私がしようとしている事も全部書き記した。悟には高専に戻る車内で電話をして、しばらく両親を匿って欲しいと伝えてはいる。詳しくは後で必ず話すから、とも。悟は了承してくれたし、うちの両親が五条家についたら連絡をしてくれるようにも伝えてある。
『理玖の親来たよ。』
『了解。暫くお世話になります。ごめんね!』
『お礼はデート1回ね!』
『エ〇リスかな?』
『そゆこと〜。あとで絶対事情聴くから。』
『うい〜!』
さて、あとは私の決意が揺らぐ前に。
「荒井さん、お願いします。」
「…はい…っ、」
荒井さんに嘘の報告をさせた。私の家族を殺し、異変を察知して帰宅した私も宿儺の指を取り込んだ呪霊に敗れ死亡。呪霊は行方をくらませた、と。報告の電話が終わると、荒井さんは深く息を吐いて、私にグッと親指を立てた。上はそれを信じたらしい。家族は解放すると言われたそうだ。
「荒井さん、ご家族に連絡して、無事を確認してください。一先ず高専に来るように伝えて、ご家族が到着したら地下室に隠れておくように。」
「はい。」
ここまでは順調だ。あとは本当に荒井さんの家族が無事で、本当に解放されているかどうかが問題。電話を掛ける荒井さんを見守りながら、私は今後の計画を練る。今は領域展開中だから、セレクトを使えば普段の倍呪力を消費する。そしてそのまま未来は継続するけど、私は呪力を消費した分回復イベントに移行。しばらく眠ったままだ。さっき領域展開する時に見た回復時間は確か500時間とかそんなんだった。つまり3週間近く眠ることになる。そして倍呪力を消費した分、回復時間はもっと増えるだろう。
「…フー…、」
私は今から、呪術連総監部に乗り込むつもりだ。上のやり方は気に食わないし、私の大事な人達を巻き込むことも許せない。面と向かって喧嘩も出来ないような奴らに従うことも気に食わない。だから全部壊す。私はもう後がない。次上に楯突けば呪詛師認定。間違いなく死刑だ。ホントはゆじたんが入学するまで大人しくしておきたかったんだけどなぁ、ま、もう決めたから。
「廻神さん、」
「どうでした?」
「…無事でした。すぐに荷物を纏めて高専に来るように伝えました。」
「そうですか、良かった。…じゃあ、この手紙は任せました。」
「…はい。…あの、本当に、良かったんですか…?」
「なにがですか?」
「…俺は…その…廻神さんを…、」
「何辛気臭い顔してんの荒井さん!私たち何年一緒に仕事してると思ってるんですか?高専の時から…あ、いや、中学の時も何回か会ってるから結構…10年くらい?もうちょっとか?一緒ですよね?荒井さんはさ、良い人じゃん。腐ったミカンの指示でやったとはいえ、荒井さんまで腐る必要はないよ。私、結構荒井さんの事気に入ってるから、尚更あなたを腐らせたくない。あ、海外移って落ち着いたらちゃんと連絡くださいね!」
「…はいっ、ありがとう…ございますっ、」
「うわっ、荒井さん泣いた。」
「ずびばぜんっ、」
「…じゃあ私、もう行きますね。また会えたらその時は、飲みにでも行きましょう!あ、勿論荒井さんの奢りでね!破産するまで飲みますから。」
「廻神さんお酒あまり強くないんじゃ…、」
「飲むったら飲む!!!」
「はい…っ、」
地下牢から荒井さんを出して、私はそのまま上層部謁見の間へ向かう。呪力は270で満タン。セレクトを使えは540の消費。十手もある。近接と十手でごり押し、最終的にはセレクトを使って捻り潰す。よし、出来る。私ならやれる。呪術連をぶっ壊して、それからのことは三銃士への手紙に全部指示を書いた。御三家が呪術連を取り仕切るように、と。皆私のこと大好きだし、三銃士も上のやり方気に食わないって言ってたから、きっと大丈夫。あの3人にも、御三家にも任せて、絶対大丈夫なはず…。深く息を吸って、吐き出す。謁見の間の扉を開ければ、高笑いする腐ったミカンが転がっていた。気配を消して会話を盗み聞いてみるか。
「神の子とやらもあっけないな。やはり死ぬ時は死ぬ。」
「宿儺の指を取り込んだ呪霊が姿をくらましたと言っていたが、どうする。」
「それは五条悟特級術師にでも任せよう。」
「このまま御三家も捻り潰してしまえばよいものを。」
「会合だと聞いている。一体何を会合するのやら。」
「廻神理玖を取り合っておると聞いたぞ。神の子が死んだと知れば荒れるじゃろうて。」
「その混乱に乗じて御三家を潰せばよかろう。それぞれの家が神の子を殺したとデマを流せば勝手に潰し合ってくれる。」
「それもそうだな。御三家のわがままにも付き合いきれんわ。」
「それもこれも廻神理玖のせいだ。死んでせいせいしたわい。」
「死ぬのはそっちなんだなぁ、これが。」
「「「「「!?」」」」」
セレクト。
【あなたは呪術連総監部を潰そうとしています。選択してください。選択すると呪力を540消費します。(残り呪力:270)】
【1.鏖殺する 2.術式・呪力を剥奪する 3.なにもしない】
「な、なぜ生きておる!」
「それ、聞いてどうするの?」
1番。
【1.鏖殺する を選択しました。呪力を540消費しました。(残り呪力:-270)】
バチュッ、ベシャッ、と音がした。血飛沫がそこら中に飛び散って、私の頬にもぴちゃりと跳ねる。それを親指で拭って、ざまあみろと呟いた。私の体はその場に崩れ落ちるように倒れる。
【あなたの残り呪力は-270です。呪力が回復するまでセレクトできません。これより呪力回復イベントに入ります。呪力が回復するまでイベントが続きます。また、残り呪力より多く呪力を消費したため、普段の回復よりも時間がかかります。】
【呪力回復まで残り2040時間(残り呪力:-270)】
いいんだこれで。皆が幸せになれる未来を作るためなんだか―――、
【領域展開を終了します。】
目を覚ますと、私は見覚えのある天井を見つけた。ここは…
「…っ、」
声、出ない。なんでだろ、体、動かないし、…あれ、なんか拘束されてる?
「…理玖?」
「!」
硝子の声だ。カーテンが開いて、最後にあった時よりも濃い隈を作った硝子と目が合った。
「理玖!よかった…目を覚ましたんだね、」
「……、」
未だに声が出ない。口に何か巻かれている…?もしかして呪符か…、なんで?
「…聞きたいことは山ほどあると思うけど、一先ず異常がないか診るよ。」
硝子はそう言うと私の脈を取り、点滴をのパックを確認したり、誰かに連絡したり、私はそれを体が動かないので目線だけで追いかけた。やがてバタバタと足音が近付いてきて医務室の扉が吹き飛ぶ音がした。えぇぇ…アグレッシブ入室ぅ…。
「「「理玖!!!」」」
三銃士の声だ。私は安心して涙が零れた。良かった、三人には何も危害がなかったのかな。詳しい話を早く聞きたい。家の両親は無事に逃げれたのか、荒井さん家族も身を隠せたのか、呪術連は御三家が取り持つことになったかどうか。シャッ!とカーテンを開けたのは悟だった。あ、目隠ししてる。そしてがしりと私の体に縋りついた悟がすごい剣幕で、
「何であんな事したわけ!?馬鹿なの!?次やったら呪詛師認定だって言われたでしょ!?そんなに僕たち頼りない!?そんなに1人で背負う必要ある?!なんで自分1人で「悟、落ち着いて!」落ち着けるわけないでしょ!」
「悟、理玖だって私達を巻き込まないように考えた結果だろう。そうだよね、理玖。」
「おい、話の前にさっさとこの拘束外してやれよ。」
「…そうだね。」
悟と傑が私の拘束を解いてくれた。それと口に巻かれた呪符も。ようやく体が動くようになると、私は込み上げる涙をそのままに三銃士と硝子に笑顔を向ける。
「ただいま!」
「「「「おかえり、理玖。」」」」
「とりあえず話したいことは山程あるんだけど、その前に確認したい。私どのくらい寝てた?今何年何月何日?」
「今は、2018年、4月8日。今日から恵が高専に入学だよ。」
「…マジ?」
「「「マジ。」」」
「……そっか、うんうん、なるほどね、了解。それで、私の手紙読んでくれた?」
「読んだよ。あの日私が荒井さんに手紙を受け取った。内容を見てすぐに悟と伏黒さんにも連絡を入れてね、謁見の間に駆け付けて見れば中はまるで血の海。その中に倒れてる理玖を見つけた時は心臓が止まるかと思ったよ。」
「でも硝子に診せたらいつもの呪力切れでぶっ倒れてるだけだって言われて、ほんとに安心した。でもさ、なんで一人であんなことしたわけ?!おかげで色々大変だったんだから!」
「ああするしかなかったの。もう誰も私のせいで死なせたくなかった。だから腐ったミカンだけ潰しておいたよ。」
「理玖…、」
「…おい、理玖。」
パパ黒に顔を向けた瞬間にベチンッと凄い痛みが頬に走った。は?え?なに?ちょっと、意味が分かんない、なんで、ビンタ…?
「おい何やってんだよ!!」
「理玖!!大丈夫かい?」
「1人で何でも勝手に決めやがって。それもオマエが見てきた未来を変える為かよ。誰も死なせたくねぇって、人の死期をテメェが勝手に決めんじゃねぇ。死ぬ時は誰だって死ぬんだよ。そう言うもんだろうが。テメェの都合で生かすも殺すも勝手に決めて何がしてぇんだ、理玖。オマエが望む未来ってなんだよ。あ?答えろ、理玖!」
胸ぐらを掴まれてパパ黒は私に怒鳴り散らした。私は頭が真っ白になって、ぶたれた頬がジンジン傷んで、切れた口の中で血の味を飲み込む。ぽろぽろと涙が零れて、震える口で、声を絞り出そうとして、何も言えなくなった。
「おい、理玖を離せ!」
「伏黒さん、理玖を離してください。悟も落ち着いて。理玖が混乱してるだろう。」
「………ごめん、なさい…っ、」
「理玖、」
「…ごめんなさい…っ、ごめんなさい…っ、ただ…私は…っ、私はただ皆に、幸せに…っ、」
「オマエがいねぇと誰も幸せになれねぇだろうが!」
パパ黒はそう言うと、私を苦しいほど抱きしめた。悟と傑がぎゃあぎゃあ騒いでいる。私は泣きながら、ただ、ごめんなさい、と。
「…理玖、」
硝子が三銃士の後ろから私の名前を呼んだ。視線を向ければ、硝子も泣いていた。悟も目隠しを下ろして、傑も私を見て、皆、泣いていた。
「…心配かけてごめんね、皆…愛してるうううぇえええん!!」
「理玖、鼻水出てる。」
「硝子ちゃんムード考えて!!!」
パパ黒が私から離れて、うわぁ見たいな顔で見ている。おい、やめろその顔。
「きたねぇな、さっさと拭け。」
「酷いっ!!」
「…悟、」
「…分かってる。」
硝子が私にティッシュ箱を渡してくれたので私は遠慮なく鼻をかんだ。悟が深く深呼吸をした。悟を見れば、いつもの綺麗な六眼が私を見つめている。
「…いいよ、分かってるから。」
「……廻神理玖特級術師…、呪術連総監部惨殺により、呪術規定に基づいて…君を処刑する。」
苦虫を嚙み潰したような顔でそう言った悟に、私は穏やかに笑みを向けた。