「そう言えば私のスマホどうなった?」
「確か五条が持ってる。」
再び酒を飲みながらつまみを食べる私達。硝子は枝豆を摘まみながらまたカップ酒を呷った。
「浮気調査とか言ってたぞ。」
「え゛っ、なにそれ!?」
「さあな。あの3人が好き勝手見てるんじゃないか?」
「何でアイツら私のパスコード知ってんの?」
「私も知ってるけど。」
「なんで!?」
ちびちびと酎ハイを飲みながら私も枝豆を食べた。
「スマホ使うのか?」
「あー…いや、ずっと連絡取れてなかった人たち居るだろうなって思って。私の両親も荒井さんも心配してるかなって思ったんだけど、そっちには私の事は?」
「伝えてないよ。理玖が上の奴らを殺したって通達は私達で止めておいた。死刑になったのも知らないと思う。」
「そっか…よかった。」
「そう言えば荒井さんから手紙が来てたな。夏油が持ってたけど。」
「見たいって言っておいて?ていうか、私皆がここに来るまで何して過ごせばいいのマジで…。スマホないと暇潰しもできないし、硝子たちにも連絡できないじゃん。」
「それは私も思った。こんな所に1か月近く籠るのは息が詰まりそうだしな。五条に伝えておくよ。」
「お願いね…。」
スマホが戻ってきたらまずはメカ丸に連絡だな。真人が不審な動きしてないか聞きたいし、いざという時はなんとかして止めて貰わないと困る。うーん…吉野順平についてもどうしようかな…。高専に通わせたいって気持ちもあるけど、あのまま凪さんと2人で幸せになって欲しい気持ちもある。
「ふぁ〜…、どうしようかなぁ…、」
「なにが?」
「皆に私が生きてましたーって、するでしょ、サプライズ。」
「…下手なことしたら刺されるぞ。」
「え、やだ、バイオレンス。そこは生きててよかったあってなってよ!生徒達は嬉しさと驚きで泣き笑い、夜蛾学長も建人君も灰原きゅんももらい泣き、嗚咽のあまりゲロを吐く者も現れ、最終的に地球温暖化も解決するでしょ!!!するでしょ!?」
「地球温暖化は解決しないだろ。」
「冷静すぎるツッコミをありがとう。」
「生きてるだけでサプライズなんだから、余計な事して嫌われるなよ。」
「えっ!?嫌われるの!?」
「さあな。」
「……はぁ…皆悲しませちゃったなぁ…。」
「やっと反省か?」
「うん、反省してる。」
「…理玖はさ、」
「うん、」
「何でも1人で抱えすぎ。私らは理玖の何?」
「…大事な人達だからこそ、巻き込みたくなかったの。」
「大事だからこそ、失くすのは辛いだろ。理玖がいなくなるくらいだったら、上を敵に回そうが呪詛師になろうが、私達は理玖を守るよ。アイツらなんて特にそうだろ。」
「…うん、」
「…私にも、隠さないでよ。」
「え?」
「……いや、何でもない。」
あ…そっか、私のこと知ってるの、三銃士だけだ。硝子も付き合い長いのに、結局あの3人にしか私が前世、というか元々いた世界の記憶があることも、呪術廻戦の未来を知ってることも言ってなかったなぁ…。…言ってもいいのかな?ていうか今セレクト使えないから、言っていいのかすらも確認できなかったりする?流石に注意書き出たりする?…ま、いっか。
「…信じられないかもしれないけど、聞いてくれる?」
「…信じるよ。」
「硝子ちゃん好き。」
「私は愛してるけどな。」
「はえええ…、らぶみが深すぎる…愛してるよぉ!硝子ちゃん!」
私は硝子にも話してみた。悟にはセレクトを使って前世の話は出来たけど、今回はどうだろう。三銃士に話した時は悟の推理を私の代わりに語ってもらっただけで、自分の口からは言ってないし。
「私、前世の記憶があるの。」
言えた。
「ほう?」
「あー、正確には前世じゃなかったんだよね、死んで分かったけど。」
「…どういう事だ?」
「………うん、これに関しては言えないみたい。とにかく、私には別の世界で生きてた記憶があるわけ。それで、その世界だと今いるこの世界が……あー、これもやっぱり言えないみたい。」
話そうとすると口が動かなくなるのは健在らしい。やっぱり自分から話せる範囲は決まってるみたいだな…。
「ごめん、私から言えるのはこれくらいしかないみたい…。話そうとすると縛りなのか何なのか、口固まっちゃって…。」
「…そうか。」
「硝子ちゃんが相手だからとかじゃないから!悟にも前世の記憶があるってまでは話せたけど、それ以外は話せないし、術式についても話せないからそれに関わりがあるのかも。」
「五条は知ってるのか。」
「うん、小1で知り合った時に話した。でも傑にも話したことなくて、甚爾様にも話したことなかったんだけど、大人になってからかな、三銃士には悟が私について推理した事を話してくれたよ。だからごめん、私から話せないから悟に聞いてもらえる?」
「縛りなら仕方ないな。明日にでも五条に話を聞くよ。」
「うん、ごめんね硝子ちゃん…。いずれ皆に自分の口から話せる時が来ればいいのになぁ…。」
「縛りならその縛りを解けば話せるんじゃないのか?」
「………どうやって?」
「さあな。だが、術式に関わる縛りなら解くのは難しいだろう。というかほぼ解けないに等しいと思う。天与呪縛のような物だろ。」
「…そうなるよねぇ…。」
「縛りを放棄する手もあるかもしれないが、そうなると術式を捨てるようなものだしな。正直どうなるか分からない。」
「術式を捨てるなんてできるの?」
「例えば、の話だからな。」
「………あれ、そう言えば、」
17巻でなんか見たな…、なんだっけ、死滅回游で天使って呼ばれてた術師が…、あ、でも、無理か?会えるわけないよねぇ…、千年前の術師って言ってたし。
「術式を捨てたら私呪術師できないじゃん!ダメダメ!」
「ま、そう言うと思った。」
「神の子様様なんだからねぇ、私の術式。」
「そうだろうな。」
「…お、空になった。おかわり〜。」
「今日はそこまで酔ってないみたいだな。」
「あー、酎ハイだしね、いつもよりは頭冴えてる。でも眠たい。」
「無理するなよ。」
「ありがとぉ!」
つまみは残りわずかになっていた。硝子もぐびぐびカップ酒を飲み干していて、机にはカップが6本転がっている。え、ちょ、飲み過ぎじゃない!?プシュッと音がしてみれば、硝子はハイボールの缶を開けていた。
「チャンポン…、」
「ん?普通だろ。」
「ザルでしたもんねぇ、すみません。」
私も2缶目の酎ハイを開けた。またしてもチビチビと飲んでふぅと一息。
「ほんと1か月もこんな所で何すればいいんだろ…。」
「…さあな、体が鈍らないようにトレーニングとか?」
「こんな狭い所で!?」
「筋トレくらいならできるだろ。」
「うわぁ…勘が鈍りそうで怖いよ…。」
「アイツ等に聞いてみればいいじゃないか。」
「聞いてみるかぁ…。」
そう言えばゆじたんは映画見て悟と鍛えてを繰り返してたよな…。………待って…、今更な事に気付いてしまった…!私の宣託呪法、セレクトじゃないと呪力使えない…!つまり!?私は!?あのバチュンって呪力を放って呪霊を祓うことが!?でき!!ない!!ああああああ!!なんてことだああああ!!!特級呪術師とあろう私が…術式と呪具頼りの戦闘しかできないなんて…。
「夜蛾学長からツカモト借りてきて…、」
「なに?」
「呪骸のツカモト借りてきて…、」
「急にどうした。」
「…私重要な事に気が付いたの…、」
「なんだ?」
「私術式と呪具以外で呪霊祓ったことない!!」
「………は?」
「だからぁあ!こう、ほら、皆がやるように呪力を放ってバチュンってできないの!したことないの!!いやあああ私これで特級名乗ってたなんて恥ずかし過ぎるううう!!!」
「いや、別に恥ずかしい事はないだろ。」
「ほんとぉ?」
「それを言い出したら天与呪縛の伏黒さんも真希も恥ずかしいって事になるぞ。」
「ごめんなさいでした。失言でした。私は真希ちゃんも甚爾様も大ちゅき。愛してる。自慢の生徒と師匠よ。」
「師匠に関しては自慢できる部分が少ないがな。」
「辛辣だけどご尤も。…生徒達、大丈夫かなぁ…。」
「夏油はかなり心が痛んだと言っていたぞ。」
「そうだよねぇ…。ホント申し訳ない…。」
「まあ、強くなる覚悟を決める時だったと思えばいい。大事な物を失くしてから気付くものだろ、自分たちの非力さを。」
「…うん。皆ぐれたりしないかなぁ…大丈夫かなぁ…心配だよぉ…!」
「はやく保守派が消えることを祈っておくんだな。」
「うん…。……硝子ちゃあん、」
「ん?」
「…眠たくなってきた。」
「もうお開きにするか?」
「…もうちょっと一緒にいて。」
「ああ。」
硝子の方に凭れて重たくなってきた瞼を閉じる。硝子が私の肩を抱き寄せて、頭を優しく撫でてくれた。はぁ…ホント、みんな優し過ぎる。大好き。だからこそ皆をもう悲しませないようにしないと…、幸せに…したいな…、
...
理玖は寝たらしい。飲み掛けの酎ハイを持ち上げて量を確認すれば、開けたばかりで殆ど減っていなかった。
「…おやすみ、理玖。」
小さく聞こえた寝息。私はそっとその唇にキスをする。…理玖のことはずっと好きだ。初めて会った中学生の時から、ずっと。女同士だって分かってる。理玖は私を選ばないことも分かってる。それでも一緒にいるのが楽しかったし、過ごした時間は幸せな物ばかりだった。だからこそ、理玖が呪詛師認定された時に私は、呪力切れで倒れた血に塗れた理玖を見た時に、私は…。
「愛してるよ、理玖。」
私の手で殺してあげたいと思った。泣いたよ、かなり泣いた。自室で1人声を殺して泣いた。寝たきりの理玖の面倒を見るのはよくあることだった。高専時代から無理してよく呪力切れを起こすこともあったし、私がその世話をすることも多かった。おとぎ話の眠り姫みたいに、寝返りすら打たずに眠り続ける理玖を見て、このまま起きなかったらどうしようと思って何度泣いたことか…理玖は知らないだろうね。理玖の処刑が決まった時は、誰かが理玖を殺す前に、私が殺しておけばよかったって本気で思ったし、今までは早く起きてって思っていたのに、この時ばかりは一生目を覚まさなければいいとさえ思った。ほんとはあの3人に連絡なんてしたくなかった。起きた理玖を抱きしめて、理玖のバカって怒鳴ってやりたかった。誰にも目につかないところに閉じ込めてやりたかった。理玖の首筋に吸い付いて痕を残した時、今だけは私だけの理玖だと思うと嬉しくてたまらなかった。理玖が私に痕をつけた時、今だけは理玖の1番になれた気がした。今だけは、私達だけのこの地下室で、私の中に渦巻くこの偏愛を、許して欲しいと思った。だって、ここには私達以外、誰もいないんだから。
「今くらい、許して…。」
ハイボールを飲み干して、理玖の飲み掛けの酎ハイ缶を手にとる。ずり落ちそうになった理玖の頭を支えて、温くなったそれを一気に呷った。何ともなかったアルコールが身に沁みる感覚に、1人小さく笑った。私を酔わせられるのはアンタだけなんだよ、理玖。知ってた?