君がため


「はい、これ。」

五条の坊が俺に手渡した書類を受け取ってざっと目を通した。

「保守派の情報、確かに渡したよ。それで、どんくらいで終わりそう?」
「……6人か、早くて1週間かそこらだな。」
「理玖には1か月弱って言っておいたから、怪しまれない程度に間隔あけて確実に殺ってよ。」
「誰に言ってんだ。」
「理玖の為に言ってんだよ。」

俺の部屋に五条の坊、呪霊操術のガキ…ってもうガキって歳じゃねえが、夏油、そして俺の3人。理玖を3人で抱き潰した後、呪具じゃねぇ武器の確認とメンテをしてる時に2人が来た。俺はナイフを研ぎながら書類に目を通す。どれも老いぼれ共だな。ならエモノはいらねぇか。

「この案件が終わったら、理玖はどうやって皆にお披露目するんだい?」
「それは僕に考えがあるから大丈夫。」
「私と悟は生徒達が心配だから、極力そっちについておくよ。恵君も2級で単独任務が許されているし、初めは私達のどちらかが引率する。七海や灰原のような信用できる術師にも、任務に慣れるまでは緊張するだろうからとかそんな理由でサポートを任せるよ。」
「津美紀ちゃんは窓に見張らせてるから、何かあれば僕か傑が対応する。まあ、津美紀ちゃんに何かあると決まったわけでもないし、これは保険だね。」
「ちなみにどういう風に殺るつもりだい?」
「顔を見られねぇことは勿論、俺の証拠も残さず事件性も持たせねぇ。警察も事故か自然死だと判断するように殺る。」
「監視カメラの映像なんかに残ったら困るね。電子系統に影響をきたす呪霊を持ってるから、貸しておくよ。」
「んなもん映らねぇ。」
「念には念を入れた方がいい。ここで出してはアラートで夜蛾学長にバレてしまうから、出発直前に天元様の結界を抜けたところで渡そう。」
「俺の倉庫に仕舞わせておきゃバレねぇか。」
「あの芋虫にかい?」
「ああ。」
「…そうだね、まあ、大丈夫だろう。」
「流石に一貫性ありすぎると誰かが勘繰る気がするけど。」
「んなの素人がやることだろ。俺を誰だと思ってんだよ。やり方は色々考えてある。」
「術師殺しが鈍ってないことを祈るよ。」
「誰に言ってんだ。で、この情報はどうやって仕入れた。」
「ああ、冥さんだよ。冥さんも理玖の事を気に入っていたし、金に目がないからね。大金積めばこんなの1日でやってくれるし、情報は信用できる。」
「理玖が生きてることは伏せているけど、冥さんも上から理玖を庇っていたようだよ。嘘の情報を上に流したり、理玖には上の動向を告げ口していたようだからね。」
「フン、いくら積んだんだか。」
「いくらだっけ、忘れちゃった。」
「10億だよ。」
「俺にもよこせよ。」
「「やだね。」」
「他に確認しておくことは?」
「明日は何時に発つんだい?」
「あー、4時だな。」
「近場から?」
「いや、バラバラだ。…そういや俺がいない間、アリバイはどうするつもりだ。」
「禪院家に帰省したって事にしようと思ったけど、御三家が総監部を務めてる以上、禪院家を巻き込むのは良くないからね。ラスベガスにギャンブルしに行った、って事にするよ。」
「ラスベガスか、行ってみてぇな。」
「僕が雇った奴が代わりに行くよ。見た目も特徴も完璧、パスポートも作って持たせた。」
「出入国の履歴はきちんとあった方がいいからね。」
「お土産も買うように言ってあるから、終わったら連絡してよ。」
「1か月は帰ってくんなって言っとけ。」
「4時にここを出るとなると、空港に着くのは6時過ぎか7時くらいだね。連絡しておかないと。」
「終わるまで高専に戻らねぇ。」
「寝泊りは?」
「山ん中だな。」
「山ならうちの別荘を貸すよ。」
「傑別荘持ってんの?」
「いや、私のじゃないけど、もう私のみたいなものだ。祖父が山籠もりが好きでね、たまに家族で別荘に泊まってた。位置情報を共有しておくよ。」
「そいつは助かるな。…他になんかあるか。」
「僕はもういいかな。」
「私ももうないかな。」
「んじゃもう寝る。」
「頼んだよ、オッサン。」
「信用してるよ、伏黒さん。」
「ハッ、」

部屋を出て行った2人の背中を一瞥して、研ぎ終えたナイフを倉庫に取り込ませる。あとは1人ずつ確実に殺っていくだけだ。保守派の奴らの情報を頭に叩き込んで、それも倉庫に取り込ませた。部屋の電気を消してベッドに体を転がす。……術師殺し、か。

「待ってろよ、理玖。」

翌日、日も昇ってない3時に起きた。軽く飯を食って部屋を見渡す。

『片付けないとダメじゃないですか。』

「フッ、」

片付けてやるよ、オマエの為にな。

『もう、こんなに散らかしちゃって。』

音を立てずに部屋を出る。鳥居の階段を下りたところで夏油を見つけた。

「よお、」
「ああ、来ましたね。ここだと人目につく。少し歩きましょう。」
「ああ。」

結界の外で呪霊を受け取って俺の倉庫に取り込ませた。なんかタコみてぇな呪霊だな。

「役に立ちますから。」
「だといいな。」
「それじゃあ、健闘を祈ります。」
「ああ。帰ったら1週間は理玖借りるぞ。」
「それは理玖に言ってくださいよ。あなたの相手をする度に死にかけてますからね。」
「そうかよ。じゃあな。」
「どうも。」

頭にインプットした保守派の情報を引っ張り出して、まずは1人目の家を目指す。交通機関は使わず防犯カメラにも映らねぇように屋根の上を走った。

「…随分走ったな。ま、衰えちゃいねぇって事か。」

まずは東北で1人。俺が報告入れなくとも、アイツ等には連絡がいくだろう。夏油に貰った位置情報を確認して山の中の別荘を目指す。カメラにも人の目にも映らねぇように走りっぱなしだったからな、適度な休息は大事だ。

「…ここか。」

『別荘の鍵は私の実家にあるから、適当にピッキングなりなんなりして開けてくれて構わない。電気や水道も使えるし、ガスも使える。好きに使うといい。』

つってたな。別荘の鍵をピッキングで開けて中に入る。…多少埃っぽいが、野宿よりはマシか。窓を開けて空気を入れ替えると、早速飯の調達に向かう。サバイバルみてぇなもんだな、俺には余裕だ。嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませて見つけたイノシシを仕留めると、別荘に担いで持ち帰った。これで肉は確保した。店を使えば俺が国内にいる証拠が残る。食いもんはこの山で仕入れりゃ十分だ。風呂場でイノシシを捌いて肉は冷蔵庫に仕舞った。食う分は適当に別荘に置いてあった調味料をぶっかけて焼いて食った。

「…獣臭さは風呂入りゃなんとかなんだろ。」

俺が本気でやれば6人なんざホントは3日も掛かんねぇが、関連性を勘ぐられたら面倒だ。ここは時間をかけて、確実に。埃っぽいベッドに寝転がって、その日はすぐに寝た。2人目を殺ったのはその4日後。3人目はその更に5日後。4人目は1週間後。そんな感じで間隔をあけつつ、確実に殺した。証拠も残らねぇように。事件性もないように。約1か月使って、6人全員を殺した。

「…見てただろ、終わったって伝えとけ。」

別荘の屋根に留まっていたカラスにそう言えば、カラスはひと鳴きして飛び去った。暫くして、別荘にあった電話が鳴った。

「…俺だ。」
『私だよ。今公衆電話からかけている。悟が雇ったカモフラージュに帰国命令を出したから、空港で荷物とお土産を受け取って、高専に戻ってこいだと。飛行機は大体12時間ほどかかるらしいから、帰国は明日の夜に成田に着くようにするそうだよ。荷物はトイレで受け渡すから、個室で待機。合図はくしゃみを7回。トイレの場所は荷物の受け取り場を出てすぐの男子トイレ。』
「念の為変装道具は持って来たが、マジで使うことになるとはな。」
『相手から荷物を受け取ったら、変装に使った物は相手に渡してくれ。それと、相手が着ていた服と交換して。相手も変装のプロだから、心配することはないよ。』
「…ああ。他には、」
『今のところ皆自然死扱いされているから、問題ない。硝子が念の為解剖すると言って死体を回収してるけど、どれも見事に自然死だって褒めてたよ。どうしたのか聞きたい所だけど、聞かない方がいいんだろうね。』
「ハッ。あとは殺したやつらが呪いになったらオマエらが完全に祓えよ。」
『勿論だよ。…っと、これからまた生徒達の引率なんだ。何かあればまたカラスに伝えて。』
「いや、問題ねぇ。じゃあな。」
『お疲れ様。』

電話を終えると風呂に入ってすぐに寝た。スマホはずっと電源を切っている。荷物を受け取ったら電源入れるか。

「ふぁ〜…、」

翌日、倉庫に取り込ませておいた変装道具を身に着けて山を下りた。指示通り、夜のラスベガス発の便を確認して、時間まで指定された個室に籠った。人の気配は色々あった。キャリーを引く音も紙袋やビニール袋の音もあった。

「へっくしゅん!ぶえっくしゅん!」

くしゃみの音が7回つってたな。

「うぇっくしゅ!はっくしゅん!」

気配からしてコイツだろうな。

「ひぇっくしょい!ふぇっくしゅん!えっくしゅん!」

個室の鍵を開ける。個室の前に立っていたのは俺そっくりの男。

「オマエだな。」
「手筈通りに。隣に入りますから、壁の上から着ている物を渡してください。」
「ああ。」

荷物を受け取って再び個室の鍵を閉める。変装に使った眼鏡やら帽子やらマスクやらと、着ていた私服を交換した。着替えを終えて個室を出る。相手は俺の顔とは全く別人の顔になっていた。

「それでは、以上でお間違いないですね。」
「ああ。」
「では、自分はこれで。」
「世話んなったな。」
「いえ、仕事ですから。」

トイレを時間差で出ると、俺は空港の前に停まっていたタクシーに乗り込んで高専に戻った。スマホの電源を付けて通知数がカンストしてるグループトークに帰国したとだけ連絡を入れた。土産を寄こせとうるせぇガキ共に小さく笑って窓の外を眺める。これで終わりでいいんだろうな、理玖。

「世話が焼ける奴だな、今も昔も。」

ま、好きで焼いた世話だが。

「帰ったぞ。」

教員室に荷物を持ったまま顔を出した。高専に着いたのは0時前。ガキ共はもう寝たのか、通知も静かになった。

「お疲れサマンサー!いやぁ、流石だね。」
「ガキ共が土産を寄こせってうるせぇ。」
「なんだかんだ、皆伏黒さんがいないことを寂しがってましたよ。」
「口だけだろ。」
「まあまあ、そんな事より早速お披露目の準備しよっか!」
「言われたものは準備してあるよ。」
「どうするつもりだ。」
「とりあえず例の部屋で落ち合おうか。あ、お土産全部持って来てねー。」
「ああ。」

一旦部屋に戻って荷物を整理した。キャリーの中には土産しか入ってなかった。相手もプロだって話だからな、服も現地調達とかそんなんだろ。土産の袋を持って地下室に向かう。1か月ぶりだな。

「甚爾様!おかえりなさい!!」

駆け寄った理玖を抱き留める。

「おう。」
「さて、じゃあ理玖のお披露目方法についてサクッと説明しちゃうよ!明日朝一で皆をびっくりさせちゃおう!」
「イエーイ!」
「怒らせないようにね。」
「大丈夫、僕最強だから。」
「あ?俺だろ。」
「いや、私だね。」
「いや僕でしょ。」
「3人とも最強だから競わなくていいって。」

そう言って笑った理玖に、俺も小さく鼻で笑った。



← 161 →
back

top