「おい、オマエ、」
俺は理玖さんの任務に無理矢理同行させられて仙台に来た。任務内容は特級呪物“両面宿儺”の指の回収だ。これは本来理玖さん個人に上から割り振られた任務であり、俺みたいな学生が関わる事のない任務。それなのに理玖さんは俺を連れて来た。廻神理玖、神の子と呼ばれる存在、特級呪術師で、上層部連中からの執拗な嫌がらせに耐えかねて14名を惨殺。呪詛師として五条先生に処刑された。俺はそれを親父に聞いた時、理玖さんの為に何もできなかったことへの後悔や、自分の不甲斐なさ、実力不足を実感して、強くなると決めた。結果的に理玖さんは生きていたけど、俺は今度こそ彼女を守りたいと思った。2級術師が特級術師を守るだなんて何言ってんだって感じだが、実力も術式もあの人の方が優れているのは知っている。でも俺が守りたいのはそういう意味じゃない。あの人の
「ん?」
「…理玖さんとどういう関係だ。」
「え、理玖姉?んー、話し始めたらちょっと複雑?になんだけどさ、俺の母ちゃんが昔原因不明の寝たきりになった事があって、そん時に確か母ちゃんに会わせてくれって親父を訪ねて来たらしい。そんでさ、どんなに手を尽くしても目覚めなかった母ちゃんが理玖姉が来て目覚めたって。親父も病院の人達もびっくりしてたってさ。すげぇよな!」
「……それで、オマエは理玖さんと、」
「そっから家族ぐるみでの付き合い!つーか理玖姉のあの服いつ見てもエロくね!?伏黒あれ毎日見てんの!?」
「……まあ、」
「うわーマジか!いいなぁ、俺も理玖姉のいる学校通えねぇかなぁ…。流石に無理?」
「…オマエ、これ持ってるだろ。」
「ん?」
俺はスマホの写真フォルダから両面宿儺の指の写真を見せた。この写真は高専に保有されているもので、万が一見かけた場合は可能であれば回収、もしくは理玖さんに連絡をするようにと高専に所属する全員に送られている。
「んー?あーはいはい、拾ったわ。」
「出せ、」
「俺は別にいいけどさ、先輩らが気に入ってんだよね。理由くらい説明してくんないと、」
「……日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10000人を超える。」
俺は呪いについて、そして虎杖が持っている者が特級呪物という物、呪いが、その呪物が、いかに危険であるかを話した。理玖さんが俺をここに連れて来た時点で、恐らくコイツが呪物を拾ったことは把握済み。という事は俺が虎杖に呪いについてを話すことも、
「人死にが出ないうちに渡せ。」
「いやだから、俺は別にいいんだって、先輩に言えよ。」
投げ渡された木箱。受け取って蓋を開ければ中は、
「空……!?中身は!?」
「だァから、先輩が持ってるって!!」
「ソイツの家は!?」
「知らねえよ、確か泉区の方…………、」
「なんだ?」
「そういや今日の夜学校で、アレのお札剥がすって言ってたな。え……、もしかしてヤバい?」
「ヤバいなんてもんじゃない、ソイツ死ぬぞ。」
「え、じゃ、じゃあ、どうすんの!?」
「理玖さんを呼んでくる。」
「お、俺も行く!」
ドタバタと虎杖の部屋を出てさっき一瞬だけ案内されたリビングに向かう。ドアを開けた先の光景に俺は、
「何やってんですか理玖さん!」
「はぇえ、めぐえりゅぅ!」
「えっ、理玖姉酒飲んでるの!?」
「なんだぁ、騒がしいぞ、」
「お義父さんが久し振りにって誘ったのよ。ごめんなさいね、えっと、何君かしら?」
「…伏黒です。」
理玖さんはビールの注がれたグラスをぐびっと呷っていた。任務中に酒飲むってどういうことだよ…!
「理玖さん、急用です!おい虎杖、学校まで案内しろ!」
「お、応、分かった!理玖姉、動ける?俺負ぶろうか?!」
「あら、もうご飯できちゃうわよ?」
「えっ、あー、」
「めぐえりゅぅ、らいじょうぶらよ、ごはんいたらいていこうねぇ?」
「アンタどんだけ飲んだんですか。」
「んへへ〜、わかんにゃ〜い、」
「2人で瓶2本は空けてるわね。それにしてもお酒弱かったなら止めておけばよかったわ、ごめんね。」
「あ、いえ、」
クソ、こんな時に酒飲むかよ普通…!俺が焦っている事に気付いたのか理玖さんはふにゃふにゃした顔から静かに表情を変えて俺を見つめた。
「恵、」
ぞくりとする。俺の名前を呼んだ一瞬だけ、理玖さんの顔から表情が消えた。そしてすぐに、
「らいじょ〜ぶ!」
「…っ、」
…理玖さんがそこまで言うなら、大丈夫…なのか…?それから何故か夕飯をご馳走になって、
「理玖さん、いい加減にしてください!」
「やらやらぁ!いたどりけたのしーんらもん!じんしゃんにもあいたいのぉ!」
虎杖の母親にしがみ付いた理玖さんと、それを引き離そうとする俺。なんでこんな事になった。虎杖の母親はあらあらとか言ってるし。いや、あらあらじゃねぇんだよ。
「めぐぅ、いまなんじぃ?」
「もう23時過ぎてます。いい加減に「お、じゃあ行こうか!」
パッと手を放して今までの酔っぱらいが嘘のようにしっかりとした足取りで立ち上がった理玖さん。
「香織さん、倭助さん、お邪魔しましたー!今度また仁さんにも会いに来ますねぇ!あ、あと悠仁君ちょっとお借りしまーす!」
「え、あ、うん、またいつでも来て頂戴ね。」
「うむ。また来いよ、理玖。」
「はーい!」
理玖さんに引っ張られて虎杖の家を出た。俺と虎杖の背中をパンと叩いて理玖さんはにんまりと笑う。
「さてさて良い子達!夜の学校に行きましょう!」
「理玖さんアンタ酔ってたんじゃ、」
「んー?私の術式使えばそんなのなかったことにできちゃうの♡」
「なぁ、じゅつしき?ってなに?」
「それはまだ悠仁君には早いかなぁ〜。ま、追々ね。とにかく学校!悠仁君道案内よろしく!」
「応!」
「あ、ダッシュね。」
「理玖姉そんな靴で走れんのかよ!?踵何センチあんの!?」
「はいはい、私の事はいいからさっさと走る!」
3人で虎杖の通う学校まで走った。杉沢第三高校、元々理玖さんが宿儺の指を回収するために行く予定だった学校だ。
「お、呪符外しちゃったね。」
「「!」」
ぞあっと背筋を駆け巡る
「恵、おいで。それから悠仁君、案内ありがとう。オカ研だっけ、部室どこ?」
俺も塀を飛び越える。
「待てよ理玖姉!俺も行く!ヤバいんだろ!?二月やそこらの付き合いだけど、友達なんだ!放っとけねえって、」
「だってさ。恵ならどうする?」
ニヤリと笑う理玖さん。
「ここにいろ。」
「だってさ!」
「そもそも理玖さんのせいですけどね。」
「え〜、なんのこと〜?」
「とぼけなくていいですから。早く行きますよ。」
理玖さんと2人で走り出す。呪物の気配は無茶苦茶だ。校内に忍び込んで部室を探して階段を上がる。
「今日はメグエルの実習も兼ねてるから、ザコは任せるよ。」
「チッ、」
「ああ!メグエルが私に舌打ちしたぁ!!」
「違います!」
目の前に低級の呪霊が現れた。俺は両手を合わせて印を組む。
「「玉犬」喰っていいぞ。」
「ん〜っ、かっくいい〜!メグエルキマってるぅ!」
「うるさいです!」
俺の陰から玉犬が出ると理玖さんは玉犬を撫で回し始めた。この人マジで何してんだ!?
「おーよすよす〜!あとでジャーキーあげるからねぇ!」
「理玖さん!!」
「んひひひっ、擽ったいっ、」
「いい加減にしてください!早く行きますよ!」
理玖さんの腕を掴んで走り出す。玉犬が低級呪霊に噛みついた。次第に呪いの数が増えてきた。近いな。
「!!」
見つけた!!呪物ごと取り込むつもりか!!
「クソッ、」
間に合わねぇ!!そう思った時、廊下の窓から見えた影。窓ガラスを蹴り破って呪霊から非術師を引き剥がしたのは、
「虎杖!?」
<い、いまぁ、>
「思ってたのと違うな!」
<なんじぃい、>
呪霊は俺が祓った。理玖さんは俺の後ろでにこやかに拍手をしている。これも知ってたって事か…。
「なんで来た、と言いたいところだが、良くやった。」
「なんで偉そうなの。」
「それにしてもここ4階なのに悠仁君凄いねぇ!あ、2人は私が診てあげるから、」
「お、応。因みにあっちで呪いバクバク喰ってんのは?」
「俺の式神だ。見えてんだな。」
理玖さんが虎杖の先輩である1人を廊下の壁に背中を預けるように座らせた。
「呪いってのは普通見えねぇんだよ。死に際とかこういう特殊な場では別だがな。」
「あー、確かに俺今まで幽霊とか見たことないしな。」
「オマエ、怖くないんだな。」
「いやまあ怖かったんだけどさ、知ってた?人ってマジで死ぬんだよ。」
「は?」
「だったらせめて自分が知ってる人くらいは、正しく死んでほしいって思うんだ。まあ、自分でもよく分からん。」
「…いや、」
虎杖が抱えていた女子生徒のポケットから何かがポロリと落ちた。
「これが、」
「ああ。特級呪物“両面宿儺”その一部だ。」
「りょうめ…?」
「言っても分かんねぇだろ、危ねぇからさっさと理玖さんに渡せ。」
「はいはい、」
虎杖が理玖さんに指を渡そうとした時、天井の形が変わる。俺は虎杖の肩を理玖さんに向けて押した。
「逃げろ、」