雨後


「———ん、理玖さん…!」
「!」

ハッとした。ヤバい、今意識飛んでた!?生得領域にいたはずなのに、

「大丈夫ですか…?荒井さん、もうすぐ着くそうです。」
「…あ、うん、ありがとう。」

え、宿儺どうなった?!最後までヤ…ってないな、ヤバいなこれ。宿儺がゆじたんと代わった時が怖いんですけど…。って、今はそれどころじゃないや。抱き締めていたゆじたんの体をそっと地面に置いて立ち上がる。メグエルを見れば、プイっと顔を逸らされた。両手を広げてメグエルに近付く。

「恵、おいで。」
「…っ、すみません…、俺が、」
「大丈夫。」

メグエルとぎゅっと抱きしめれば、背中に回った腕が私のチャイナ服を握りしめた。

「辛い役回りさせちゃってごめんね。」
「…いえ…、俺があの時、あの時…理玖さんの指示に従ってたら、」
「自分を責めちゃダメだよ、恵…。」

荒井さんが到着するまで恵の濡れた体をきつく抱きしめた。その後、到着した荒井さんの車にゆじたんを乗せ、メグエルは高専に戻った。私は後処理の為に現場に残った。宿儺がメグエルを吹っ飛ばして壊れた建物に関しては、私の術式で元通りにしておいた。呪力残っててよかったぁ…、これでもうスッカラカンだわ。英集少年院近辺に漏瑚の残穢が残っている気配はない。そろそろ高専に戻ろうかと思っていると、少年院の前に高専の車が停まっているのを見つけた。

「理玖、」
「傑、」
「すまない、遅くなった。この様子だと、もう落ち着いたのかな…?」
「うん…。だけど、悠仁君が…、」
「…彼に何があった、」

高専に戻る車内で傑に今回の一件を話した。勿論私が関わっているんだから、話せる範囲で。傑は拳を握りしめて怒りを抑えているらしい。傑の手をそっと重ねて握ると、傑も私の手に空いた手を重ねた。

「理玖…、大丈夫なのか?虎杖は理玖の知り合いだろう?」
「うん、これが結構堪えるね。」

私のせいでもあるから余計、ね。

「悟には報告は?」
「まだ。帰ったらすぐ連絡するよ。ああ、でも、きゅんと野薔薇ちゃんも心配だな。」
「理玖、無理しないで。」
「うん、ありがとう傑。」

高専についてすぐ、傑と別れて医務室へ向かった。硝子はメグエルの治療を終えたのか、コーヒーを飲んでいた。

「硝子ちゃ〜ん。」
「その呼び方の時は、メンタルやられてる時だな。」
「えっ、そうなの私!?知らなかった…。」
「虎杖なら霊安室に運んで貰った。会ってく?」
「いや、悟が戻って来てからで大丈夫。やること多いからね。きゅんは大丈夫そう?」
「骨折まではいってかなかったから、明日にはピンピンしてるだろ。部屋に戻って寝てるんじゃない?」
「子供たちのメンタルケアもしないと…。」
「1人で何もかも抱え込むなよ、理玖。」
「うん、ありがとう硝子。ん〜〜〜っ、報告書書くのめんどくせぇ!!!硝子ちゃんぎゅーしてぇ〜。」
「はいはい。」

その場で伸びをしてそう言った私に、硝子は持っていたカップを机に置いて立ち上がった。両手を広げた硝子にぎゅっと抱きしめられる。ほぇ〜、久し振りの硝子補充…。硝子の手がポンポンと私の背中を叩いた。そこでガラリと医務室のドアが開く。

「…ズルいじゃないか硝子。」
「うるさい、いつもクズ共が理玖を掻っ攫っていくんだから、たまにはいいだろ。」
「そうだそうだー!クズ共はんたーい!私には癒しの硝子様がおるんじゃい!」
「フッ、だってさ。」
「心外だな。悟はともかく、私はクズじゃないし、私だって理玖を独り占めできてないんだ。デートの約束もしてるのに、いつまでも予定が合わないし。」
「それに関してはマジですまん。」
「私も混ぜてくれるかな。」
「離れろ夏油、私の理玖だぞ。」
「違うよ硝子、私の理玖だよ。」
「きゃ〜、私の為に争わないで〜!」

翌日、遠方に出張任務だった悟が帰って来た。昨日の内に私が電話で報告したからか、帰ってきた悟はピリついていた。私と傑と悟と伊地知、4人でゆじたんのいる霊安室に入る。ゆじたんの体はこれから解剖されるからか、解剖台に置かれて布が掛けられていた。3人でゆじたんの顔を確認すると、傑は額をポリポリ、悟はストレッチャーにどかりと座った。そっと布を掛け直す私。さて、余計なことは喋らないようにしないと…。

「わざとでしょ。」
「と、仰いますと、」
「特級相手、しかも生死不明の5人救助に一年派遣はあり得ない。」
「そうだね。そもそも悠仁君は暫くの間私たち3人か甚爾様が同行しない限り、任務に就けないはずだけど。」
「保守派の奴らか、残ったミカンが腐れ始めたか、どちらにせよ、上の連中が特級を利用して体よく彼を始末したってところかな。」
「他の2人が死んでも、僕達に嫌がらせができて一石二鳥とか思ってんじゃない?特に、理玖は僕ら以上に保守派に目付けられてたし。」
「いや、しかし、派遣が決まった時点では本当に特級に成るとは…。」
「犯人探しも面倒だね、」
「そうだな、いっそのこと上の連中、全員殺してしまおうか?」

くぅ〜〜〜っ、カッッケェーーー!んでもってゴッッメェーン!!私のせいです!!

「珍しく感情的だな。」
「硝子〜、」
「理玖、今日は大丈夫か?」
「昨日硝子充電したからちょっと元気。」
「フ、そう。」
「ちょっと理玖、聞いてないんだけど?なに、硝子とナニしたわけ?」
「ぎゅうしただけ。」
「そんなことよりオマエ達、随分とお気に入りだったんだな、彼。」
「私は家族みたいなものだしね。」
「僕達はいつだって生徒思いのナイスガイだからね。」
「そういう事。」
「あまり伊地知をイジメるな。私達と上の間で苦労してるんだ。」
「男の苦労なんて興味ねーっつーの。」
「そうか。で、コレが宿儺の器か。この前会ったばっかりなのに、もうこんな事になるとはな。理玖、」
「何、硝子。」
「好きに解剖(バラ)していいよね。」
「うん、硝子にしか頼めないからね。」
「役立てろよ。」
「役立てるよ、誰に言ってんの。」



...



目を覚ますと俺は血みたいな水の上に立っていた。すぐそこには牛みたいな動物の頭蓋骨が山積みになっていて、その上には、

「許可なく見上げるな。不愉快だ、小僧。」
「なら降りてこい、見下してやっからよ。」

宿儺…!

「随分と殺気立っているな。」
「当たり前だ、こちとらオマエに殺されてんだぞ。」
「腕を治した恩を忘れるとはな。」
「その後心臓取っちゃったでしょーが!!死んでまでテメェと一緒なのは納得いかねぇけど、丁度いいや。泣かす。」

掴んだ頭蓋骨を宿儺目掛けてぶん投げた。まあ、避けるよな。背骨みてぇな所に逃げた宿儺目掛けて駆け上がると、拳を握りしめた。

「歯ぁ食いしばれ、」
「必要ない。」

来た、宿儺の右ストレート!それを足場を殴る勢いで避けて、

「ひっかかってやんの、」

とった!!卍蹴り!!

「アレ?」
「オマエは(・)つまらんな。」
「ぐぇ、」

うおわっ!

「ぷはっ、完ペキ入ったと思ったのに、ゔぼっ!!」

クソ、人の背中に飛び降りやがって…!

「ここはあの世ではない、俺の生得領域だ。」

俺は椅子じゃねぇっての!!ん?生得領域?

「伏黒が言ってたよーな…、」
「“心の中”と言いかえてもいい。つまり、俺達はまだ(・・)死んでいない。オマエが条件を飲めば、心臓を治して生き返らせてやる、…と言いたいところだが、今回は特別だ。無条件で生き返らせてやる。」
「偉っそうに、散々イキっといて結局テメェも死にたくねぇんだろ。」
「事情が変わったのだ。近い内、面白いモノが見れるぞ。それと貴様、今後俺の理玖とまぐわえば殺す。」
「はぁ?まぐわう?って何だ、」
「貴様が理玖の部屋でやっていただろう。セックスとやらだ。」
「ばっ、はぁ!?なんで知ってんの!?」
「理玖は1000年前から俺の嫁だ。貴様は触れるな、触れたら殺す。」
「知るかよ!大体なんで理玖姉がオマエの嫁なんだよ!理玖姉は俺の理玖姉だから!」
「はーうざ、」
「理玖姉はぜってぇ渡さねぇ。さっさと無条件で生き返らせろ…!」


...



「ちょっと君達。もう始めるけど、そこで見てるつもりか?」

硝子の手伝いでゆじたんの写真を撮っていると、ゆじたんがむくりと起き上がった。あ、ゆじちんは寝てるよ。

「おわっ!!フルチンじゃん!!」
「ごごご五ご五条さん!!夏油さん!!いいいいいい生き、」
「クックッ、伊地知うるさい。」
「これは驚いたね。」
「ちょっと残念。」
「あの〜、恥ずかしいんスけど…、あ…理玖姉、」
「悠仁君…、ごめんね…、」

ホントごめん。あとさり気なくゆじちんの写真も撮ってごめんね。

「悠仁!」
「虎杖、」
「五条先生、夏油先生、」
「「おかえり!!」」
「オッス、ただいま!!」
「悠仁君っ!!」
「おわっ、理玖姉ちょ、ビックリするって!」

カメラを置いてゆじたんをこれでもかと抱きしめておいた。いやぁ、マジでほんとごめん。ていうか宿儺とのやり取り大丈夫だったんかな…?

「とりあえず、悠仁をこれからどうするか考えないとね。」
「伊地知君、悠仁君を地下室に連れていってくれない?」
「え、地下室…ですか?」
「ああ、なるほどね。」
「その方が賢明かな。」
「ん??俺どうなるわけ?」
「まあまあ、ここは大人に任せなさい!」

ゆじたんは伊地知が地下室に連れて行った。ゆじたんの部屋から着替え類もこっそり持っていくように頼んで、悟と硝子と傑と私の4人は霊安室を出る。

「あー、報告修正しないとね。」
「硝子、そのままでいいよ。」
「え?」
「また狙われる前に、悠仁に最低限の力をつける時間が欲しい。」
「記録上、彼は死んだままの方がいいだろうから、修正はしないでくれるかい?」
「んー?じゃあ虎杖がっつり匿う感じ?」
「いや、交流会までには復学させる。」
「何故?」
「硝子ちゃん、悠仁君はまだ高校生だよ?」
「そ。若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ。何人たりともね。」



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