幼魚と逆罰


あっと言う間にその日はきた。

「あの、」

2018年9月。

「映画館の……アナタがやったんですか、」

そう、吉野順平と真人が出会う日が。

「へぇ、君、俺が見えるんだ。」




「もしかして、今日は理玖姉が俺に呪術を教えてくれんの!?」
「ごめんね悠仁君、私の術式は他の人と違って特殊だから、呪術という呪術は教科書程度の内容しか教えられないんだよね〜。」
「え〜!俺理玖姉にも稽古つけてもらいてぇよぉ!伏黒の父ちゃん容赦ねぇし、トイレ行くって言ってそのまま帰って来ねぇこと多いし!」
「マジ?あのパチンカス…。私が後で説教しとくわ。」

その日、神奈川県川崎市にあるキネマシネマで、男子高校3名の変死体が発見された。警察から高専への連絡で事件が発覚。原作通り、この任務はゆじたんとナナミンに担当してもらう。

「五条先生と夏油先生はちゃんと教えてくれんだけどさ、伏黒の父ちゃんはなんか適当?」
「甚爾様も、私とは違う意味で呪力云々は教えられないんだよね。」
「マジ?なんで?」
「ま、それはまた追々ね。ついたよ、悠仁君。」

人目に付かないようにゆじたんを地下室から連れ出して、辿り着いた広間。私がゆじたんをこの場に連れて来たのは他でもない。そう、今日はあの名シーンが生で見られる日なのだ…!

「おまた〜!」
「理玖、やっと来た!僕を待たせて許されるのは理玖だけだからね?」
「普段人を待たせてばかりの悟が何を言ってるんだい。」
「失敬失敬!美々子ちゃんと菜々子ちゃんと野薔薇ちゃんに捕まってさ〜。竹下通りのクレープ食べたいから連れて行けって。」
「いやはや、あんな猿共の多い場所のどこがいいのか。」
「傑〜、猿呼びやめようね〜。」
「フフッ、」
「それじゃ、今日悠仁君の任務を引率してくれる術師を紹介するね。」
「脱サラ呪術師の七海君でーす。」
「その言い方やめてください。それに私はサラリーマンになった覚えはありません。」
「でも、潜入任務で少しの間リーマンになっていただろう?」
「それはあくまで任務の一環です。」

そう、ナナミンはここ数か月間、サラリーマンとして証券会社に潜入していたのだ。潜入先がブラック企業だったらしく、見かける度にゲッソリとしていくナナミンにはなんだか申し訳ない気持ちになった。でもまあ、原作みたいに高専を辞めて4年もサラリーマンする未来にはならなくて良かったと思う。

「まあまあ、細かいことはいいじゃん?」
「呪術師って変な奴多いけど、コイツは会社に潜入できるだけあって、しっかりしてんだよね。」
「他の方もアナタには言われたくないでしょうね。」
「「言われたくなーい。」」
「脱サラ…。潜入任務なんてあるんスね?」
「まずは挨拶でしょう、はじめまして虎杖君。」
「あ、ハイ。ハジメマシテ。」
「私が高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということです。」

きたきた!

「そして、数か月の間ですが一般企業で働き気づいたことは、労働はクソということです。」
「そうなの?」
「同じクソならより適性のある方を。ブラック企業は社会の為に滅ぶべきだと思います。」
「暗いねー。」
「ねー。」
「相当扱き使われたみたいだねー。」
「ねー。」
「虎杖君、私と五条さん夏油さん、そして理玖さんが同じ考えとは思わないでください。」

あれ、私も?

「私はこの3人を信用しているし信頼している。」
「「「フッ、」」」
「でも尊敬はしてません。」
「「「あ゛ぁ゛ん?」」」
「上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。まあ、最近では多少はマシになった方だと思いますが…。話が長くなりましたね。要するに、私もアナタを術師として認めていない。宿儺という爆弾を抱えていても己は有用であると、そう示す事に尽力してください。」

「ちょっとちょっと、すぐ子聞いた?」
「聞いたわ、さと子。けん子ったらひどくなぁい〜?」
「ひっどぉい!アタシたちならまだしもぉ、理玖の事まで酷く言うなんてぇ、さと子許せない!プンプン!」
「すぐ子も許せない!プンプン!」
「えーんえーん!けん子ったら理玖の事嫌いなんだぁ、えーんえーん!」
「ちょっとけん子!理玖泣いちゃったじゃん!」
「そうよそうよー!どうしてくれんのよーぅ!」

「虎杖君、あの3人はお気になさらず。」
「お、応…。……あのさ、俺が弱くて使えないことなんて、ここ最近嫌という程思い知らされてる。でも俺は強くなるよ。強くならなきゃ護りたい人も護れねぇからな。言われなくても認めさせてやっからさ、もうちょい待っててよ。」
「いえ、私でなく上に言ってください。私はぶっちゃけどうでもいい。」
「あ、ハイ。」
「話は終わりです。では、私達は出発しましょう。」
「悠仁君、頑張ってね!建人君も、悠仁君の事よろしくね。」
「応!」
「ええ、では私達はこれで失礼します。」
「いってら〜。」
「いってらっしゃい、2人とも。」

立ち去るナナミンとゆじたんの背中を見送って、グーッとその場で伸びをする。さて、真人は無事に順平と接触した事だろうし、あとは里桜高校の事件の時に私も顔を出さないと。

「それにしても理玖、どうして悠仁に七海を付けたの?」
「ん〜?だって私たち、忙しいし。」
「灰原の方が七海と気が合ったんじゃないかな?」
「それも考えたけど、建人君の方が適任だと思うよ。ああ見えて彼も面倒見がいいし。」
「ま、それもそっか。はぁ、任務行きたくなーい!」
「悟は出張だったっけ?」
「そ。急に海外よ。まあ、理玖のお願いだから行くんだけどさ。」
「どうしても黒縄が欲しくてぇ♡」
「見つけたら理玖のこと1週間好きにしていいらしい。」
「ズルいじゃないか。理玖、私とのデートを延期にしておいて、どういう事かな?」
「すぐ子には別のお願いがあるの…♡」
「…理玖の頼みなら何でも聞くよ、言ってごらん?」
「例のさ、悟を襲った特急呪霊についてなんだけど。」

私の言葉に2人は顔色を変えた。私の計画はこうだ。真人、漏瑚、花御、陀艮の特急呪霊4体を、傑に取り込ませる。理由は簡単、あの4人は強いから。傑が取り込んで呪霊操術で使役できれば、悪いことはしないだろう。結構愛着湧いてる部分もあるし、祓うのは勿体ない。それに、天災と人の心から生まれた呪霊ならば、祓ったところでまた同じように生まれてくる可能性もある。それならば傑が取り込んで使役した方が、あの4人のような呪霊が生まれる可能性も減りそうだし、強い呪霊が手に入って万々歳って考えだ。我ながら単純な計画ではあるけどね。だけどこの計画にはかなりの犠牲も伴う可能性もあるから、下手は打てない。

「理玖は何か知ってるの?」
「いや、現在進行形で調査中だよ。宿儺の指を持っているか、在処を知っている可能性もあるし、慎重に調べを進めてる感じ。あの呪霊を傑が取り込めたら何かと役に立ちそうじゃない?」
「理玖の術式で場所を特定したりはできないのかい?」
「相手は特級だからね、私の呪力消費が激しすぎて1回使えばぶっ倒れちゃうかな。」
「そこから先は僕達がなんとかするよ。」
「焦っちゃダメだよ悟。下手したら生徒たちや、非術師たちを巻き込みかねないし、とりあえず計画立てたら伝えるからそれまで待ってて。」
「…理玖、あまり無理をしてはいけないよ?」
「うん、心配してくれてありがとう。」

里桜高校では真人は原作通りに逃がす。そして交流会当日までに、組屋鞣造と重面春太を探して、花御と真人組屋鞣造と重面春太の4人で高専へ奇襲をかけてもらう。そこで真人と花御は傑に取り込んでもらい、漏瑚と陀艮もうまいこと誘き出して同様に…。上手くいくかは分からない。ま、天元様は私の悪だくみを知っているし、現に干渉しないままだから高専にさえ手引きできればなんとかなるだろう。悟と傑とはその場で別れて、私は自分の任務へ。ちゃっちゃと済ませて真人と順平に会いに行かなきゃ。




「荒井さん、ここで降ります。」
「えっ、ここでですか?」
「うん、ちょっと知り合いに会いに行くので、先帰っててください。」
「分かりました。お気を付けて。」
「荒井さんもねー。」

任務を終えて移動中の車内で報告書は書き終えた。真人のいる下水道に繋がっている橋の近くで車を降りると、荒井さんの乗った車が見えなくなるまでその場で見送った。あとは冥さんのカラスに今2人がどこにいるか案内して貰わないと。冥さんのカラスには真人に当てた計画書を伝書烏として運んで貰っているから、ここ最近では冥さんのカラスが私の近くにいてくれる。用が終わったら冥さんにどれだけ体を請求される事やら…。また変なコスプレ写真を撮られるのかなぁ…。まあいいんだけどさ。近くを飛んでいたカラスに手を振ると、カァー、とひと鳴きされた。カラスはそのまま橋の下におり立って、私を見上げる。…頭いいなぁ。

「さてと、行きますか。」

近くに誰もいないことを確認して、橋の下にある下水道に続く梯子を下りた。ぴょんぴょんと跳ねるように進むカラスの後を追い、コンクリートで補正されたトンネルの中に入る。靴音をカツンカツンと響かせながら奥に進んだ。

「あ、理玖だー!」
「ぐへぇ!」

毎度恒例となっている真人のタックルに色気もクソもない声を上げる私。順平が私を見て目を見開いていた。

「ど、どうして、理玖さんが…?」
「順平君久し振り。元気にしてた?」
「…はい。」
「順平、理玖は俺のだからね!」
「真人の私になった覚えはないけどね?」
「えー!?」
「それで、今何の話してたの?」
「順平がさ、俺の無為転変を見て、自分にもできるか?って。」

原作通りの流れになっていて安心した。けど、それと同時に順平への申し訳なさもある。順平の家に宿儺の指は置かない選択をしたけど、順平が今後高専に通うかどうかは分からないし…。

「真人と全く同じことはできないけど、呪術なら扱えるようになると思うよ。」
「それ、さっき俺も言った!」
「早速やってあげてよ。何かあれば私も手を貸せるし。」
「順平はどうする?」

順平はごくりと唾を飲み込んで、小さく頷く。

「お、お願いします。」
「うん、そうこなくっちゃね。」

真人がニヤリと笑った。



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