「順平、少しは落ち着いた?」
「…はい、あの…ありがとうございました、真人さん。」
「…どういたしまして?」
俺は順平の家に上げてもらった。順平の部屋がある2階に案内されて、順平の母親は割れた窓ガラスと散らかった部屋を片付けている。順平の母親には俺が見えていないから、順平には俺の事は内緒にするように伝えた。順平の部屋のベッドに座って、不安そうな順平の肩をそっと抱き寄せる。
「さっきのは呪霊って言って人の負の感情から生まれた化物なんだ。」
嘘だけど。
「なんでっ、そんなものが家に……!!」
「人を呪うことで金を稼いでいる呪詛師は多い。そういう連中の仕業だろう。コネと金さえあれば人なんて簡単に呪い殺せるんだよ。心当たりはないかい?君や母親を恨んでいる人間、もしくは、金と暇を持て余した薄暗い人間に。」
「…!」
「心当たりがあるみたいだね。」
「……でも、」
「理玖がね、心配してたんだ。」
「え?」
「順平の事。」
「理玖さんが…?」
順平は俺を見上げて、見開いた目の中で小さく瞳を揺らした。
「順平のいじめを止めたの、理玖なんだって?」
「…はい、」
「理玖が勝手にやったことだけど、そのせいで順平がますます恨まれてたらどうしようってさ。心配だから俺に時々順平の様子を気に掛けてやってくれって。」
「…理玖さん…、」
面白くないよねぇ…。皆して理玖に心酔していくんだもん。でもそれと同時に、理玖の魂を壊せる材料が増えていく…。
「今日は式神を使えるようにしたばっかりだったし、順平大丈夫かなーって近くまで来たんだけど、来て正解だった。」
「……真人さんが来てくれなかったら、僕は…、死んでたかもしれない…ってことですか…?」
「…さあ、それはどうかな。順平は式神を使えるようになったし、俺がいてもいなくても自分の力で対処できたんじゃない?」
「……理玖さんって…何者なんですか?」
「理玖はね、呪術師である以前に…神の子だよ。」
「神の子…?」
「全知全能の神の子。理玖はこの世界で特別な存在なんだ。だからきっと、理玖が順平に会いに来たのも、なにか理由があるんじゃないかな?」
「……そういえば、理玖さんと出会ったのは…理玖さんが僕を訪ねて学校に来たからで…、」
「へぇ、そうなんだ。理玖はきっと、順平に素質があると知ってたんじゃないかな?どうして知ってたのかまでは俺も分からないけどね。」
「…素質…、」
「順平を呪術師にしたい、とかさ?」
「僕が…呪術師に…?」
「式神を使えるようになった順平なら、なれるんじゃない?呪術師。」
「…でも、そうなったら……、」
「俺を祓う事になる?」
小さく頷いた順平に、俺はプハッ!と噴き出した。順平如きに俺が祓えるわけないのにね!
「俺が理玖に協力している内は、理玖も俺を祓わないってそういう約束だから、俺の事は何も心配しなくていい。それより心配すべきは順平の事だよ。」
「え…?」
「順平の家に誰が呪霊を放ったのか…心当たりはあった?」
「……でも、確証が、」
「確証を求めるってことは、心当たりはあったんだ。それならあとは簡単だね、」
「え?」
「そいつを懲らしめてやればいい。同じくらいの恐怖を与えて、オマエがやったのかって問い詰めればいい。大丈夫、俺は順平の全てを肯定するよ。」
順平はまた小さく目を見開いて、そしてゆっくりと頷いた。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え。おー、できたできた。」
翌日、俺は順平の通う里桜高校に来ていた。これも理玖からの指示。“内からは出られない・外からは入れる”帳を下ろして欲しかったらしい。住宅街での事前告知のない“帳”はすぐに“窓”って奴らが通報するだろうから、だと。俺には理玖が何をやりたいのかよく分からないけど、あの七三術師と宿儺の器に会えるって言われたら、そりゃやるでしょ。理玖は、順平と宿儺の器が繋がることも知っていた。きっとこの先に何が起こるかも理玖は知ってる。
「あーあ、理玖も来るって言ってたけど、いつ来るのかなぁ〜。」
...
「理玖姉…、どいてくれ。」
「どかない。」
「俺急がねぇと、」
「伊地知君に報告は聞いたよ。特級相当の呪霊が関係してるみたいだね。建人君には引き続きその呪霊の捜索を頼んだから、急遽私は悠仁君の引率。友達が通ってる学校なんだって?帳が下りたの。」
「ああ…昨日友達になった、順平って奴の…。」
「そう…。それは絶対に助けないと。気張って行くよ。」
「…応!」
伊地知から、里桜高校に事前報告のない帳が下りたと聞いて、私は任務を全てパスしてゆじたんの元へ向かった。ナナミンはゆじたんに行ってはダメだと言ったみたいだけど、私が同行するからとナナミンと伊地知を説得、伊地知には運転を頼んだ。帳が下りたということは、真人が私の指示通りに動いてくれたということ。真人の改造人間で順平の母、凪さんを襲わせて、順平を呪った相手に心当たりがいないかとけしかけるように頼んでおいた。勿論私が指示したことは内緒にするようにも伝えてある。順平に心当たりがあるとすれば、以前順平をいじめていた伊藤翔太。殺すなとは伝えていたけど、もしかしたら凪さんが怪我をするくらいはあったかもしれない。順平にとってのトリガーは凪さんだから、申し訳ないとは思いつつも原作通りの流れを作るためにもそこを突かせもらった。帳の条件も真人に指示を出しているから、後は私が来るまで待機するように伝えてある。順平が人を殺すまではしないだろうけど、伊藤翔太は原作通りに腕が麻痺する可能性はある。そこは順平をいじめていた罰として受けてもらうしかないだろう。伊地知の運転で里桜高校に到着すると、念の為周辺住民への避難誘導を伊地知に頼んで私とゆじたんは帳の中に入った。
「人の気配が一か所に集まってるね、」
「えっ、そんなこと分かんの?」
「わかるよ。悠仁君ももっと鍛えていけば分かるようになるから。」
「あっちって…体育館?」
「多分そう。急ごう。」
「応!」
体育館まで走ってゆじたんがダァン!と重い扉を開けた。中には倒れた生徒や教員たちの姿。そしてステージ上に見えた順平の姿に、
「何してんだよ!!順平!!!」
「引っ込んでろよ、呪術師。」
「順平君、何やってるの?」
「!…なんで、理玖さんが…、」
「言ったでしょ、渦巻きのボタンをした制服は私の教え子だって。」
「理玖姉も順平と知り合いだったのかよ、」
「まあね、ちょっと前から。順平君、何があったのか知らないけど、それ以上他の人に危害を加えるようなら、私達はあなたを呪詛師として祓います。」
「っ、関係ない人は引っ込んでろ!!」
澱月が私達に向けて飛び掛かってきた。入り口から避けたけど、澱月はそのままゆじたんを狙って襲い掛かった。順平も澱月を追って体育館から出てきたけど、私はあえて順平を止めずにそのまま体育館へ。倒れた生徒達の様子からして、澱月の微量な毒で気を失ってるくらいだろう。
「あ、アンタ誰だ…!」
「ん?あー、」
ゴメン、外村先生いたの忘れてたわ…。
「呪術師です。一先ず、生徒達の安全を確認して応援を呼びますので、ご安心を。あなたは怪我はないですか?」
「呪術師?!なんだそれは、部外者がなんで急に…!そ、それよりも一体何が!」
「事情は後程説明します。私はまだ行く所がありますので、生徒達の傍にいてあげてください。」
「あ、ああ…。」
体育館を出て真人の気配を探して屋上へ向かう。澱月の毒は事が終わったら硝子に頼んで診てもらった方がいいだろう。解毒は反転術式では至難の業だと聞くけど、まあ硝子なら大丈夫かな。
「あ、やっと来た〜!」
「遅くなってごめんね。私の指示通りやってくれたみたいだね?」
「勿論。順平は思い当たる人物がいたみたいでよかったよ。改造人間を見せたことあるのにさ、俺が犯人だって気付かなくて笑っちゃうよね。」
「まあ、見慣れてないものを認識して判断するには時間が掛かるだろうからね。今、宿儺の器が順平君と戦ってるけど、真人は順平を殺しちゃダメだからね。無為転変もダメ。」
「それって難しくない?」
「真人と順平が合流した時に私も割り込むから大丈夫。あと、いつも言ってるように私は真人を敵として祓うつもりで戦うから、真人も同じように自然にね。」
「分かってるよ。」
「多分真人が昨日戦った七三術師も来るだろうから、なんとかして逃げてね。」
「了解。」
「期待してるよ、真人。」
ポン、と頭を撫でてやると、真人は目を見開いた。まさかこんな時に頭を撫でられるとは思っていなかったんだろう。真人が私を気に入ってくれてるのは見て分かるけど、真人は結局は呪霊だからいつ私を裏切るかは分からない。少しでも真人の心を掴んで好感度を上げておいた方が、真人が裏切る可能性も低くなるはず。現に、真人の好感度は今日までにかなり上がっている。78%と書かれた好感度を見れば、真人が私をどれだけ気に入っているかも一目瞭然だ。交流会までに100%にしておけば真人は問題ないだろう。
「ほんと、理玖って変なの。」
「よく言われる。それじゃ、また後で。」
屋上を後にしてゆじたんと順平の元へ走った。窓が割れたり所々壊れた校舎を見ながら、大体の位置を予測して廊下を走る。2人は廊下に座り込んでいた。
「順平、高専に来いよ。バカみてぇに強い先生とか、頼りになる仲間がいっぱいいるんだ。それに、理玖姉だっている。皆で協力すれば、順平の母ちゃんを呪った奴もきっと見つかる。必ず報いを受けさせてやる。一緒に戦おう。」
「悠仁君!順平君!」
「!理玖姉!」
「良かった、2人とも怪我は?!」
「俺は平気。それより、体育館の人達は、」
「大丈夫、後で硝子に診せるから。順平君、なにがあったのか後で詳しく聞かせてくれる?」
「…はい、」
「誰だ。」
廊下から来た私とは違い、真人は階段から降りてきた。ここからは私も真人を敵として認識しないといけないから、ホルスターから十手を抜いておいた。
「はじめましてだね、宿儺の器。」
「待って真人さん!!」
ゆじたんの体が真人の改造された腕に捕らわれた。それを十手で断ち切って、2人を庇うように立つ。真人と私の関係を知ってる順平には、余計なことをゆじたんに話さないでもらいたいけど、そこは後で何とかしよう。
「理玖さん…!?」
「順平君、悠仁君と一緒に逃げて。」
「で、でも、理玖さんと「悠仁君!」
「お、応!でも理玖姉は!」
「私は大丈夫。…つぎはぎ顔の人型呪霊って、君だよね。」
「アハハッ!俺って有名人?」
「アンタはここで祓う。」
「ん〜、理玖…理玖…、あ!君ってもしかして神の子?」
「そうだけど、それがなにか?」
「行くぞ順平!」
「虎杖君落ち着いて!!真人さんは悪い人じゃ———悪い……人……、」