狸寝入り


順平は真人を見て固まったままだった。真人は悪い人じゃない、そう言った自分の言葉の意味に気付いたからだろう。階段を下りた真人はジッと順平を見ている。

「順平はさ、まぁ頭いいんだろうね。でも熟慮はときに短慮以上の愚行を招くものさ。君ってその典型!!」

真人の視線を遮るように順平の前に立つ。順平に無為転変だけはするなと伝えてはいるけど…、

「順平早く!来い!」
「順平って、君が馬鹿にしている人間のその次位には馬鹿だから。」

真人が私と順平に向けて改造した手を伸ばした。順平をゆじたんの方へ突き飛ばして十手で真人の手を受けると、私の体はそのまま廊下の壁に押し付けられた。十手は触れたものの呪力を吸収、一時的に無効化するはずだけど、真人の手は十手が触れたところ以外は何ともないらしい。触れた部分は呪霊を祓った時みたいにしゅわしゅわと湯気のような物を立てている。

「ん〜、なんかそれイヤな感じ。」
「そう、効いてるみたいでよかった。」

ゆじたんが順平の腕を掴んでバタバタと廊下を駆けていく。念の為に戦っているフリは続けた。順平は真人に無為転変されてないし、もうすぐナナミンも合流するはず。残るは原作の流れ通り、真人がこの里桜高校から無事に逃げるだけ。ゆじたんと順平の気配が遠ざかると、私も真人も戦うのをやめた。あとはナナミンが来るまで待つだけだ。

「はぁ〜、いってぇ。」
「呪霊でも痛みはあるんだ?」
「あるよ。ていうかその呪具なに?」

その場にどさりと座り込んだ真人。十手の効果のせいか触れた部分の呪力を吸収されるのは痛いらしい。

「教えな〜い。」
「ケチ。で、これからどうすればいいわけ?七三術師が来るんだよね?」
「そのはずだけど遅いね。」

ナナミンが来るのはもう少し後だからね。ゆじたんがもし順平を帳の外に出そうとしても、帳の効果は内からは出られないようになっているから、順平も出られない。順平を安全なところに隠して、ゆじたんは戻ってくる可能性が高い。

「虎杖悠仁は戻って来ると思う?」
「戻って来るよ。」
「へー、即答じゃん。」
「でも私が真人に勝てないわけないって思ってるだろうから、真人がまだ祓われてない事実に驚きはするだろうね。私が術式使ったら真人に手も触れずに瞬殺できちゃうし。」
「ふーん、じゃあ、理玖が俺に殺されかけてる姿を見たらさ、虎杖悠仁はブチギレちゃう感じ?」
「ブチギレちゃうと思うよ。ついでに七三術師もね。」
「そうなんだ?楽しそうじゃん。…理玖って反転術式もできるんだっけ?」
「…できるけど、なんで?」

…あれちょっと待って、真人なにかよからぬことを考えてないか…?バタバタと聞こえる足音と近付いて来る1つの気配に、真人はニヤリと笑って、

「ガハッ!」

マジか、コイツ…!私のお腹には鋭い刃物のような、改造された真人の右手が刺さっていた。ボタボタと床に落ちる血。お腹の奥から咽上がってきた血を吐き出す。

「理玖姉…!」
「きちゃ、だめ…っ、」

クソ、いつだ、いつセレクトする!?お腹めちゃくちゃ熱い!!痛い!!真人の腕がずるりと抜かれて、力の抜けた体でその場に膝をつく。手の形を元に戻した真人は、その手についていた私の血をぺろりと舐めて私の体を壁に向けて蹴り飛ばした。どさりと転がる体。ゆじたんに視線を向ければ、目を見開いて固まっている。

「あ゛っ、ぐぅっ、」
「神の子って言うくらいだからどんなものかと思ってたけど、案外呆気ないね。」

いや、マジかよ、傷口踏むとかマジでやめて!?めちゃくちゃ痛いんですけど!!早く治したいんですけど!?でもすぐに治したら怪しまれたりしない!?いや寧ろすぐ治さないと怪しまれる!?もういい!とりあえずセレクト!!

【あなたは負傷しています。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:280)】
【1.反転術式を使う 2.なにもしない】

1を選択しようとしたところで、ゆじたんが真人に向けて走り出したのが見えた。待って、私気絶したフリとかするべき!?ねえするべきなの!?打ち合わせにないこと急にするのやめてくれない!?いや別にいいんだけどね!?反転術式使えてよかったわマジで!!物凄い打撃音を立ててゆじたんが真人をぶん殴った。吹き飛んだ真人の体。お、もしかしてまたここから原作通りの流れに戻る感じ?!

「けど残念、効かないよ。魂の形を保ってい——!?」

私の倒れている場所から真人は見えない。ゆじたんが私の体をゆっくりと起こして壁に背中を預けてくれた。いててっ、横のままの方が楽だったかもしれない…でもすぐ治すからいっか。

「ちょっと待ってろよ、理玖姉。」
「まって、ゆうじ、」
「俺がアイツを…ブッ殺してやる。」
「“祓う”の間違いだろ、呪術師。」

2人が戦い始めた隙に1を選んだ。反転術式でお腹の傷が治るのを感じながら、お腹を押さえて溜め息を吐く。…マジで痛かった…。校舎が崩れる音が聞こえる。多分真人が壁を切り刻んだところだろう。傷がちゃんと塞がるまで大人しくしておこう…。ナナミンももうすぐ到着するだろうし…。

「はぁ〜…しんどぉい…、めちゃくちゃ痛いしさぁ…。」

いつ戻ろう…。ゆじたんに人は殺させたくないし、やっぱり真人が改造人間を放った所でゆじたんと合流するかな。あの改造人間、セレクトで何とか元に戻せないかなぁ…。昔術式で藁人形にされた人間を元に戻したこともあるし、できるんじゃない?え、できるよね?できない?できてほしいんですけど。

「おー、やってるやってる。」

お腹の傷も塞がってきたので四つん這いで窓際へ。頭を出し過ぎないように窓から外を覗いて見れば、私がいる校舎の反対側でゆじたんが真人に頭突きをしている所だった。うひぃ!痛そう〜!あ、ナナミン来た!ということは、もうすぐゆじたんに改造人間が…!お腹の傷を見てみれば綺麗に塞がったらしい。うわぁ、仕事着に穴空いてるの恥ずかしすぎる…。だってジャケットの下にチャイナ服ってだけで恥ずかしいのにさぁ!?これもう…お臍丸見えじゃん…!!

「真人め…ゆるすまじ…!交流会で絶対傑に取り込ませてやる…!」

立ち上がって体の異常を確認して校舎に空いた穴から飛び降りた。真人が丁度改造人間をゆじたんに嗾けたところだ。ゆじたんが改造人間から逃げるのを追いかけてセレクト。

<あ…そぼ>
「〜〜〜!!」

【改造人間が虎杖悠仁を襲っています。選択してください。選択すると呪力を150消費します。(残り呪力:234)】
【1.元の姿に戻して殺す 2.元の姿に戻さず殺す 3.元の姿に戻す 4.なにもしない】

「悠仁君!」
「えっ、理玖姉!?」
<お……がい、ころして>
「3!」

【3.元の姿に戻す を選択しました。呪力を150消費しました。(残り呪力:84)】

改造人間の姿が見る見るうちに元の人間の子供の姿に戻って行く。その場にバタバタと倒れかけた3人の子供に、ゆじたんは慌ててその体を抱き留めた。

「…あ…れ、なにが、」
「良かった、悠仁君大丈夫?!」
「理玖姉…怪我は?!」
「私は平気、それよりあの呪霊は?!」
「い、今ナナミンが、」
「悠仁君は建人君の援護を。その前に、セレクト。」

【虎杖悠仁が負傷しています。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:84)】
【1.反転術式を使う 2.なにもしない】

1。

【1.反転術式を使う を選択しました。呪力を50消費しました。(残り呪力:34)】

「え、あれ、怪我が…、」
「行って、悠仁君。この子達は私が預かる。」
「…応!」

ゆじたんは抱き留めていた子供達をそっとその場に寝かせると、ナナミンと真人が戦っている方へ戻って行った。…それにしても、改造人間を元に戻せてよかった…。呼吸もちゃんとしているみたいだけど、念の為に硝子に診せた方がいいかもしれない。改造人間を元に戻せるということは、傑に真人を取り込ませた後、真人が今までに改造人間にした人達を全部吐き出させて、私のセレクトで元に戻すこともできるということ。ただ、子供3人対して150の呪力消費…つまり1人に50も呪力を消費する。これが大人だとまた消費する呪力量も変わるかもしれない。反転術式と同様に、頻繁に使うのは厳しいな…。ゆっくりと時間を掛けて全員を元の姿に戻す事になりそう…。一気に全員元に戻したとしても、確実に呪力切れの回復イベントが発生するから私は暫く動けなくなってしまう。羂索がいないから渋谷事変が起こらないと予想してはいるものの、原作の内容からガラッと変わる交流会以降の流れは読めない。やっぱり1日に最低3人…時間を掛けて元に戻す方が良さそうだな…。

「…さて、」

一先ず子供達はその場に寝かせたまま、私も3人が戦うグラウンドへ向かう。さっきゆじたんに反転術式をしたのは、私の呪力を消費するため。真人が逃げたとなればナナミンは私の術式で確実に後を追う、もしくは祓えると判断するだろう。ごっめーん!呪力なくてぶっ倒れちゃ〜う!となれば、自分達で後を追おうとするだろうから、それはなんとかして止めないと。もぉ〜!ほんとにこのイヤな役回りを早く終わらせたい!さっさと交流会も終わらせたいし、九相図トリオだって受肉させたいし…。…あ…そういえば、事変以降の新巻見れなくなったけど…やっぱり事変以降新キャラが出てたりするハズだよねぇ!?えぇ、見たい〜!!会いたい〜!!

「バイバぁ〜イ、」
「待て!!」
「楽しかったよ、」

真人は無事に逃げられたらしい。ナナミンが猪野君に電話している背中に駆け寄った。

「建人君…!」
「理玖さん!?よかった、無事だったんですね。」
「あの呪霊は?」
「排水溝から逃走しました。猪野君に今指示を、…理玖さんならすぐに祓えたのではないですか?」
「うん、術式使ったら間違いなく祓える。でも呪力足りなかった…ごめん…、特級術師が情けないよねぇ…。」
「…あなたの術式が特殊なのは理解しています。私と虎杖君で奴を追いましょう。」
「応!」

ごめん、真人祓われたら困るから気絶のフリします!!!マジでごめーん!!!

「分かった、気を付けて…、」

ハイ!私今気絶してます!メンゴ!!

「理玖姉!?」
「なっ、理玖さん!?理玖さん!」

突然その場に倒れると、ナナミンもゆじたんも驚いた声で私の名前を呼んだ。ホントにごめん、マジで、いやホントに悪いと思ってます!!静かに目を閉じている私の体を誰かが抱き上げた。



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