狡ツ辛い


「起きてるんだろ、理玖。」

気絶のフリをしていた私は、ナナミンとゆじたん、そして順平と一緒に伊地知の運転する車で高専に戻って来たらしい。ごめん!!私途中からマジ寝してた!!医務室に私を運んだナナミンは伊地知と再び里桜高校に戻って、あの場に巻き込まれた学校関係者たちの対応に戻ったみたいだ。ベッドに寝かされていた私は、硝子が私の頬に触れた事で目を覚ました。

「…寝てたよ、今まで。」
「フッ、どうだかな。それで?どこか体に異常は?」

ベッドに座った硝子に、私もゆっくりと体を起こす。

「うーん、反転術式使ったからなんとも。強いて言うなら疲れが出た?」
「そう。この穴はどうした?」
「あー、例のつぎはぎ呪霊にやられた…超痛かったよぉ、硝子ちゃぁん…。」

ぐすんぐすんと泣き真似をすれば、硝子はぽっかりと空いた私の服の穴からするりとお腹を撫でる。擽ったくて笑う私に、フッと小さく笑った硝子。

「私ですら理玖の肌に傷ひとつつけたことないっていうのに、」
「…ン?」
「呪霊相手にいいように腹を貫通させられるなんて…。」
「あれ、硝子ちゃん?それ心配してるってことでいいんだよね?」
「理玖が死んだ時、さっさと体を解剖しておくべきだったな。」
「硝子ちゃあん!?」
「冗談だ。」
「いや、硝子ちゃんが言うと冗談に聞こえないから!」

ていうか割りとガチトーンだったよね!?

「自分で治したなら大丈夫だと思うが、念の為に検査しておくか?」
「いや、大丈夫。それよりも里桜高校に戻らないと…結構な人数が毒で倒れてて、あと改造されてた子供も3人。あ、私の術式で元の姿に戻せはしたけど、念の為硝子にも診て欲しい。」
「分かった。でも全員連れて来るとなると大変だろ?私も行った方が良さそうだな。」
「ありがとう、助かる!…あれ、そういえば悠仁君は?一緒にもう1人男の子いたと思うんだけど、」
「ああ、それならもう治療したよ。ついでに2人とも夏油に引き渡した。」
「そっか、なら大丈夫かな。硝子すぐ行ける?」
「行けるよ。なにかあれば乙骨もいるからそっちを頼れって張り紙をしておく。」
「憂太君メンゴ。」

2人で医務室を出て、駐車場へ向かう途中で荒井さんに電話をして送迎を頼んだ。硝子と2人で後部座席に座って、荒井さんの運転で里桜高校へ。移動中の車内で分かっている範囲の現場の状況を硝子に伝えた。順平の式神である澱月はクラゲだ。クラゲの毒の成分が分かれば問題ないだろうとの事。里桜高校に着いて、ナナミンと伊地知と合流。硝子に怪我人の対応を頼んで、ナナミンと伊地知は高専に戻すことにした。猪野君からは真人が見つかったという報告はまだらしい。真人は上手いこと逃げられたようでよかった。体育館には未だに倒れたままの生徒もいるけど、何人かは意識だけは取り戻したらしい。改造されていた子供達もナナミンが体育館まで運んでくれたそうだ。3人はまだ意識を失ったままだけど…。

「ここは私と硝子に任せて、建人君は悠仁君のフォローよろしく。」
「…それは、理玖さんの方がいいのでは?」
「私が言うよりも、建人君の言葉の方が嬉しいと思うよ?もう認めたんでしょ?」
「……そうですね。先に高専に戻ります。」
「うん、お疲れ様。報告書もお願いねー。」

さて、あとは順平をどうするかも考えないとね…。一先ずは高専で保護するか、それとも呪術師として正式にスカウトするか…。でも凪さんの事を1人にするのは順平も心配するだろうなぁ…。真人が私に内緒で勝手に凪さんを殺しに行く、なんてこともないとは言い切れないし。うーん…どうしよう、今回の里桜高校の事件は学校関係者の記憶を消すくらいで何とかならないかなぁ…。順平がやったと知っているのは外村先生と、伊藤翔太くらいだろうし、2人の事件に関する記憶を消すくらいなら今の私にもできるだろう。呪力もちょっと回復してるし…、集団で熱中症になった!って感じで。…あ、無理だ。校舎壊れてるんだった。

「お、おいアンタ!さっきの!」
「あ、」
「一体何が起こったんだ…!」
「えーっとまあ、とりあえず落ち着きましょう。」

うーん、外村先生と伊藤翔太の記憶は…、やっぱり残しておくべきか。

「吉野順平君と伊藤翔太君についてお話があります。」

私は外村先生には順平が伊藤翔太にいじめられていた事を話した。今回の事件は順平が伊藤翔太に復讐するために起こした事件である、と。いじめがあった事について外村先生は知っていながらも黙認していたし、他の生徒達も自分がいじめられることを怖れて助けることもできなかったに違いない。いじめがあった事を認めて、それを徹底的に調査するようにと厳しく言っておいた。伊藤翔太については硝子に頼んで腕の麻痺をそのままにしてもらった。これは罰だ。そして外村先生にも、いじめを黙認していた罰をきちんと受けてもらう。

「理玖、終わったよ。」
「硝子ありがとう、お疲れ様。それじゃあ私達はこれで失礼します。ちゃんと見てますからね、外村先生。」
「…ああ。」

改造人間だった子供3人は無事に意識が戻ったらしい。病院に連れて行き念の為に精密検査を受けさせることになった。里桜高校の壊れた校舎は私がセレクトで直しておいた。高専に戻った私と硝子は医務室の前で解散。私はゆじたんのいるであろう地下室へ向かった。地下室のドアを開ければ、ゆじたんと順平がソファに座って映画を見ていたらしい。私に気付いた2人が振り返る。

「やっほー!」
「理玖姉!」「理玖さん!」
「2人共、体は平気?」
「応!」
「あの理玖さん…真人さんは、」
「逃げたまま見つかってないよ。その事で話をしに来たの。」
「あ〜…俺、聞かない方がいいよな?」
「いや、悠仁君も聞いてて大丈夫だよ。」

再生中だった映画を止めて、里桜高校の事件の前に何があったのかを順平に聞いた。やはり真人は私の指示通りに動いてくれていたらしい。伊藤翔太が呪霊を使って凪さんを襲わせたと思っている順平に、あれは真人がやった事だと伝える。

「順平君の家にそのつぎはぎ呪霊…真人の残穢が残ってたから間違いないね。」
「そんな…、」
「理玖姉、その真人って呪霊は…、」
「まだ捜索中だけど、私がすぐ見つけるから安心して。お母さんが心配だろうけど、順平君は数日の間高専にいてもらうね。」
「…母さんは、」
「大丈夫、真人もかなり消耗してるだろうし、すぐには襲って来ないと思う。念の為に高専関係者に監視させるから。それで、今後の順平君への対応だけど、一般人…今回の事件で言う里桜高校の生徒や先生たちへの呪術の使用は、呪術規定に基づけば呪詛師として認定される可能性があるの。」
「そうなると、順平はどうなる…?」
「厳しい対応をするならば死刑になってもおかしくないね。でもそこは私がなんとかするから安心して。」
「…はい。」

腐ったミカンの上層部はもういないから、あとは楽巌寺学長みたいな保守派をねじ伏せれば順平の処罰はなんとかなるだろう。保守派は悟が少しずつ潰すとか何とか言ってたけど、今のところ誰かが死んだとかそういう話は聞いていない。保守派の事はもう少し放置していても問題ないと思う。

「順平君にも考えて欲しいことがあるんだけど、」
「考えて欲しいこと…?」
「呪術を扱えるようになった順平君は、これからどうしたい?」
「…どう、」
「例えば、真人みたいに人を襲ったり殺したりする呪霊を祓う呪術師になりたい、とか、呪術は扱えるまま元の生活に戻りたい、とか、呪術はもう使いたくない、とか。」
「…使いたくないっていうのは、」
「私が順平君の呪力も術式も奪えば、元の生活に戻れるよ。呪霊の姿も見えないし、式神を使うこともできなくなる。」
「……、」
「呪術師になることを強制はしたくない。でも、少しでも人を助けたいと思う気持ちがあるなら、呪術についてもっと学んで人を傷付けることに使うんじゃなくて、守るために使って欲しい。それこそお母さんを守るために、とかね。」
「……母さんを、守る…、」
「すぐに答えを出せなくていいよ。とりあえずお母さんが心配するだろうから、連絡はすること。スマホ持って来てる?」
「はい。」
「それじゃあ…友達の家に泊まることになったとか、そんな感じで今日は帰れないことは伝えて。明日は私が付き添って順平君を家まで送り届けるから。」
「…分かりました。ありがとうございます。」
「必要な物があれば気兼ねなく連絡してね!悠仁君、順平君も一緒にここに泊めるけど大丈夫?」
「応!俺は大丈夫!」
「そ?じゃあ、彼の事よろしくね。」

話を終えて地下室を出ると、そのまま真っ直ぐ自室へ戻った。寝支度を整えてベッドに横になると、今後の事を考える。里桜高校の一件が終わればすぐに交流会だ。

「どうしよっかなぁ…、順平。」

呪術師になったとしても順平が死なない未来は保証できない。順平の意志で決めてとは言ったけど…、

「はぁ…、」

試しにセレクトしてみるか…?うーん、でもなぁ…私が彼の未来を勝手に選択してもいいものか…。…それを言ったら今更か?今までいろんな人たちの未来を勝手に変えてきたんだし…。

「…見るだけで…選ぶかは選択肢次第にしようかな…。あーでもなぁ…、折角順平が生きてる未来を選択できたのに、また死ぬかもしれない呪術師の道を選ぶのも…うーん…、」

迷うくらいなら救うべきではなかったのかもしれない…。いや、でも私は…、順平がゆじたんと一緒に笑ってる未来を見たかったんだし…、

「セレクト…、」



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