「かくかくしかじかな理由で、吉野順平とその母、吉野凪の高専での保護を求めます。」
順平を家に送り届けた後、ゆじたんと荒井さんの3人で一緒に学長室に来ていた。真人は里桜高校の一件で消耗しているから、交流会までは暫く回復に専念するようにと伝書烏で伝えておけば暫く動きはないだろう。あとで烏に手紙を頼まないと。
「吉野順平に関しましては、高専で呪術師として育てる方がよろしいかと。本人もそれを望んでいますし、私としても真人と呼ばれるつぎはぎ呪霊に何らかの理由で襲われた場合、自分で対処する術を磨いておくべきだと。」
「うむ…。」
「吉野凪に関しては高専での保護を条件に、学生寮の清掃管理の仕事を依頼しました。要は寮母さんですね。高専で自分の子供も自分の身も護れるんですから、間違いなく承諾するでしょう。」
「吉野順平の里桜高校での事件はどうするつもりだ。」
「真人に唆されての犯行ですし、本人は深く反省しているようなので……今後呪術師として人を助けることに尽力する事でチャラでいいんじゃないですか?未来ある若者の命をそう簡単に奪いたくないですから。でしょう?」
「…そうだな。よし、吉野順平とその母親を高専で保護することを認めよう。手続きに関しては荒井と理玖に任せよう。」
「かしこまりました。」
「了解でーす。じゃ、報告は以上なので失礼しまーす。」
「理玖、少し話がしたい。」
「……はーい、悠仁君ごめん。荒井さんと一緒に部屋に戻っててくれる?」
「応!」
「では、行きましょうか虎杖君。失礼いたしました。」
「失礼しましたー。」
ゆじたんと荒井さんが学長室を出て行くと、夜蛾さんは深い溜息を吐いた。
「理玖、今回の件もオマエの知っている未来に関係するのか。」
「……すみません、ハッキリとは言えません。でも私の知っている未来よりも確実にいい未来にはしたつもりですよ。」
「……そうか。あまり自分を蔑ろにするなよ、と言ってもオマエはやめないんだろうが…。」
「そうですね…もう少しだけ待ってください。」
交流会が終わればきっと平和になるはずだし。
「交流会は平和に終わればいいんだがな…。」
学長自らフラグ立ててるやんけ!
「あー…ハハハ、ハハッ、ソウデスネ。」
「何故カタコトなんだ。」
「とりあえず、交流会は予定通りでお願いします。」
「うむ。しかし、虎杖と釘崎は理玖の過去や行いについて知らないんだろう。万が一、理玖の行いについて知れた時、2人が理玖をどう思うか……。」
「……まあ、恨まれる覚悟はできてますから。」
じゃなきゃ皆を救えない。ゆじたんに至っては宿儺の指を取り込まないで平和に暮らせた未来を、私の一存で変えたんだから。
「その時はその時で、自分でなんとかしますよ。」
学長室を出た私は自室に戻って真人に手紙を書いた。交流会まで残り1週間ある。その間に体を本調子に戻しておくこと。それから作戦のおさらいとして真人たちに頼みたい事を順に書いていく。部屋の外の木に止まっていた烏の足に手紙を結び付けて、真人の元へ運んで貰うと、残った任務を片付けるべく荒井さんの待つゆじたんの地下室へ戻った。荒井さんと合流して任務に向かう車内では順平にLIMEで、高専側はいつでも吉野親子を受け入れ可能であると伝えておく。恨まれる覚悟はできている……確かにそう言ったけど、正直…まあ怖いよね。順平の件だって、私がいなければ原作通りに順平も凪さんも死んでいたかもしれない。死ぬはずだった人を助けたんだから、感謝されなくたっていい、恨まれたっていいから、未来を幸せに生きて欲しい。野薔薇は…私を恨むかな…。いや、馬鹿じゃないのって怒られそうだなぁ…。
「はぁ……、」
「大丈夫ですか?」
「え?ああ…ちょっと眠たいので、着いたら起こしてください。」
「分かりました。」
窓に頭を預けて外を眺めながら、ゆじたんなら私がやってきた事を知ったらどう思うだろうと思った。私があれこれ手を回したことで、宿儺の指を取り込まざるを得なかったゆじたん。家族と一緒に幸せに過ごせたはずの未来を、私が原作通り宿儺の器にした事で死にかけて、呪いと戦う未来を選択せざるを得なくなった。ゆじたんの命を私に頂戴、とは言ったけど…ゆじたんは私を恨むだろうか…。家族との幸せを、平和な未来を、死にかけることもなく好きに生きれたハズの若人の青春を奪ってしまったんじゃないだろうか…。静かに目を閉じて、深呼吸をひとつ。今更なにをクヨクヨしてるんだろう…。誰に何を言われても気にしてる場合じゃないだろ。原作通りに不幸の連鎖が続く未来よりも、少しでも皆と笑い合える時間が多い未来を選んだ方がいいに決まってるじゃないか。考えるのはやめよう。だってそれは、今じゃない。
「到着しました。」
「帳をお願いします。」
「はい。お気を付けて。」
車を降りるとホルスターから十手を引き抜いて歩きだす。今の私があるのは、最悪を回避するため。私がこの世界に存在するのは、私にしかできないことがあるから。
「さっさと終わらせて帰ろ〜っと。」
いっそのこと世界中の呪いが丸っと消えちゃえば、
『私は世界から呪霊を無くしたい。君になら、それができるんじゃないか?』
……今すっごく嫌な人を思い出してしまった。
「そういえば、あの人結局海外でなにをしてるんだろう…。ま、滅多に会うことないし気にしたところでって話だけど。」
確かに私の術式を使えば、世界中の呪霊や人の呪力、術式を奪うことも、逆に世界中の全員を術師にすることもできると思う。でもそれにはかなりのリスクがある。1つ目は、私が強制的に呪力回復イベントに入る事。セレクトで消費する呪力は私にリスクがある危険な選択であればあるほど、消費呪力は多い。世界中の人間を術師にするか、呪力や術式を奪う事で間違いなく回復イベント不可避。そしてそれがどのくらい長い間続くかの予想ができない。2018年現在の世界人口が約76億人だとすれば、1人に50の呪力を消費すると仮定して、単純計算で…あー……ん〜…???つまり私何十年眠るの…?下手したら100年とか眠っちゃわない?えっ、流石にそれは勘弁してほしいよね。とにかく、可能ではあるけどその間私は呪力を回復するために眠り続けなくてはならないという事。2つ目は、術師だけになった世界で新しく生まれる命が絶対に術式を保持するとは限らないという事。術師家系にも非術師は生まれる。それこそ真希と真依のように双子は?三つ子は?禪院家での真希と真依のように、術式を持たない者が術式を持つ者に虐げられる可能性がある。皆が皆、禪院家のような人間じゃないと分かっている。でも、他と違うというだけでその者を虐げる者は必ずいる。万が一、呪力回復イベントから目を覚ましてもう一度セレクトで呪力、術式を持たない者を救うためのセレクトをしたとして、それは果たして全人類の人口の何%がそうだろう。間違いなく呪力回復イベント再来。3つ目は術式を使う者が皆揃っていい人ではないという事。術式を利用して呪詛師のように悪さを働く者が少なからずいるだろう。呪いは生まれずとも、争いの根源がなくなったわけじゃない。未だに戦争をしている国なんて、術式を使った戦争なんて起きてもおかしくないだろうし……。そう考えると、九十九由基の考えには全部が全部賛同する事は出来ない。最適化と言っていた羂索の方がまだ頷けるけど、羂索の考えもどうせイカレた考えだろうからどちらにせよ却下。だから九十九由基の提案に術式を使いたくはない。冷たいようだけれど、結局人は、死ぬときには死ぬのから私は私の救いたい人を救う。勝手だと言われようと、恨まれようと、私が幸せになって欲しいと思った人を救いたい。全員は救えない。でも、私の手の届く範囲は救いたい。これじゃダメだろうか。
「あぁ〜もう、めんどくさい。考えるの疲れちゃったからやーめた!」
今は交流会のことを考えておかないと。楽巌寺学長は間違いなく悠仁を殺そうとするだろうけど、悠仁はもう弱くない。それに皆も強くなったんだから、交流会で強くなった皆を見せておじいちゃんの寿命縮めてやろう!よしっ!
「転校生を紹介しまーす!テンション上げてー!」
「「……。」」
ダブルピースでそう言った私に、メグエルと野薔薇はゲッソリした顔。え、なんでそんな顔?
「ちょっと2人とも、どうしたの?元気ない?」
「連日の交流会の鍛錬と任務で疲れてるんでそのテンションやめてください。」
「私も今そのテンションについていけないわ…。」
「えぇ〜、2人とも私より若いのに情けないぞぉ♡」
うわっ、すっごい顔顰められた。野薔薇はともかくメグエルが私にそんな顔するなんて…!ハッ、まさか反抗期!?
「理玖ちゃん悲しい…ぐすんぐすん…。」
「いいから早く紹介してくださいよ。」
「全くもう、せっかちさんだなぁ♡」
「理玖さんってこんな人だったかしら。」
「時々。」
「入っておいでぇ〜!」
教室のドアを開けて入ってきたのは、高専の学ランを身に着けた順平だ。順平は年齢的には2年生だけど、高専で学ぶことは多いしゆじたんと同じクラスの方が順平としても居心地がいいだろうという事で、1年生に編入した。というかさせた。私が。
「吉野順平君でっす!2人とも仲良くしてね!」
「よ、吉野順平です…!よろしくお願いします!」
「ちなみに順平君も式神使いだから、その点恵とは気が合うんじゃないかな?全部とは言わずとも共通する部分はあるだろうから、色々教えてあげてね。」
「…分かりました。」
「じゃ、2人を紹介するね!男の子は伏黒恵君。順平君と同じ式神使いです。女の子は釘崎野薔薇ちゃん。現在恋人募集中!」
「理玖さん!?余計なこと言わないでくださいよ!」
「あれ、この前パンケーキ食べに行った時そう言ってなかった?」
「あ、あれは…!あの、私は理玖さんが…ごにょごにょ…、」
「ああ、あと、今日から学生寮に寮母さんが来まーす!順平君のお母さんなんだけど、この前報告した通り高専で保護する事になった非術師です。でも順平の件も知ってるし、呪術師についての説明もしてあるから、気兼ねなく生活面で頼ってあげて!あと料理がめちゃくちゃ美味いらしいから!」
ちなみに順平には、ゆじたんの事はまだ内緒にするように言ってある。交流会で復帰するゆじたんのサプライズを成功させるためにも、ゆじたんの話題は禁句だと口を酸っぱくして言っておいた。
「3人とも仲良くね!それじゃあ早速、授業を始めまーす!」
交流会はいよいよ、明日だ。