日下部っちと飲んだ後の記憶があんまりない気がする。目を覚ますと見覚えのある天井と、見覚えのある人物が同じベッドで寝ていた。…え、あれ?え?
「…硝子…?」
「…起きたか…。」
「んぅ〜…?え?あれ?ここ硝子の部屋だよね…?」
「そ。昨日日下部サンから理玖を預かった。」
「マジ?うわぁ…全然覚えてない…。」
「だろうね。酔い潰れた理玖をおぶって医務室に来たから私が部屋に連れ込んだってわけ。」
寝起きで掠れた硝子の声はちょっと色っぽくてドキドキする。もぞもぞと布団から起き上がって…え、
「硝子ちゃん…?私の服は…?」
「脱がせた。」
「どこやったの?」
「洗濯機にぶち込んだ。」
「嘘ぉん!」
「理玖は下着も脱がせやすくていいね。」
そう言ってフッと笑った硝子。素っ裸の私。よく見れば硝子も素っ裸だ。え、待って、私ついに硝子と一線を越えた…!?嘘でしょ!?全然覚えてないんですけどぉ!!私の馬鹿っ!!
「まさか、昨日の事を覚えてないなんて言うなよ?」
「ひぇ!?」
「可愛かったよ、昨日の理玖。」
そう言って硝子は私にキスをして、私は目をぱちくり。硝子とキスした事はあったけど、それ以上の事をした事なんて…え、私マジでヤったの…?
「シャワー、浴びるだろ?」
「え、あ、うん、お借りします。」
「お先にどうぞ。」
「ありがと、」
そろりそろりとベッドから降りて浴室へ。硝子も裸のままベッドから降りて、キッチンへ。
「簡単な物しかないけどいいよね?」
「あ、うん!ありがとう硝子!すぐ出るから!」
「ゆっくり浴びなよ。そこにあるタオル適当に使って。」
「はーい!」
お言葉に甘えて浴室を借りてシャワーを浴びると、バスタオルで体を拭いて髪をポンポンとタオルで叩きながら部屋に戻った。硝子にスウェットを借りて着替えに自室へ戻り、下着と予備の仕事着に袖を通すと冷蔵庫から食材を適当に取り出してまた硝子の部屋へ戻った。
「硝子、私も食べもの持って来たー。」
「悪いな。」
「いえいえ、作っておくから一緒に食べよ!硝子もシャワー入っておいで。」
「ああ。ドライヤー使って。」
「うん、ありがと!」
硝子がシャワーを浴びている間に髪の毛を乾かして、部屋から持って来た食材をキッチンを借りて調理していると、硝子がシャワーを終えて戻ってきた。硝子が髪を乾かし始めると、冷めたものは温め直してお皿に盛りつける。
「キッチン借りたー。」
「ん。いいね、美味しそうじゃん。」
「硝子が作ってくれたのも美味しそう!食べよ食べよ!」
「いただきます。」
「いただきまーす!」
適当な有り合わせの朝食を2人で食べながら、じーっと硝子を見つめる。交流会の時に真人に殺された術師や忌庫番は、死んでしまったから私の術式では元に戻せない。硝子はそのご遺体を引き続き解剖するらしい。
「死んでなかったら戻せるんだって?」
「え?あ、うん。」
「…報告は聞いてる。夏油が取り込んだからもう被害者が増えることはないだろう。」
「うん。あとは真人が取り込んだままの改造人間を地道に元に戻していかないと。傑に真人を借りて毎日2人ずつくらい戻そうかなって考えてる。」
「無理して倒れるなよ。」
「うん。心配してくれてありがとう、硝子。」
朝食を食べた後は一緒に片付けをして、私は自分の部屋に化粧をしに戻った。見支度を終えて部屋を出ると教員室へ。今日は傑が授業、悟が出張、私は普通に任務だ。そういえばミゲルどうなったんだろう…?
「悟、そういえば私が頼んだものは結局どうなったの?」
「黒縄?あれなら言われた通りミゲルとかいう黒人からぶん取って、五条家が管理してる呪具庫に置いてるよ。」
「そ?ならよかった。それでそのミゲルは?」
「さぁ、なんかもう僕に会いたくないって逃げられた。」
「ウケる。」
「や、おはよう2人とも。」
「傑おはよ!」
「おはー。」
教員室に入ってきた傑がスケジュールの書かれたボードに目を向けた。
「…ああ、今日は私が授業か。」
「それなんだけどさ、授業の間真人を借りてもいい?」
「真人を?なにかあるのかい?」
「ほら、報告にあったように改造人間をストックしてると思うの。少しずつしかできないけど、元の人間の姿に戻していこうと思って。真人単体でも十分強いから、改造人間のストックは全部無くしても問題ないだろうから。」
「…そういう事なら、分かったよ。」
「それ、どこでやるわけ?」
「うーん、医務室にしようかな?硝子にも診せた方がいいだろうし。あ、悟!早速黒縄使いたい!真人が私の言う事聞かなかったら黒縄で縛っちゃおうかな…。」
「そのまま祓わないでくれよ?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと亀甲縛りするだけだから!」
「なにそれ、僕が理玖にしたいんだけど!!」
「ダメだよ悟、私が理玖にするんだから。」
「オマエ等朝からなんちゅう会話してんだ。」
「あ、あっちゃんおはよう!昨日は寝ちゃってメンゴ!」
「「あっちゃん…?」」
あっちゃんこと日下部っちはげんなりした顔で私を見た。私を挟むように立った悟と傑がグルルルルと日下部っちに唸っている。いや、犬か?コイツらマジで大型犬か?
「理玖、いつの間に日下部先生と親密な仲になったのかな?」
「僕達なにも聞いてないんだけど?なに?寝ちゃってメンゴってなに?ナニしてたわけ?」
「おい、勘違いすんなよ。ただ飲みに行っただけで、酔い潰れた理玖を家入に任せただけだ。」
「「理玖…?」」
「は?いつの間に日下部サンが理玖のこと呼び捨てにしてるわけ?」
「今までは廻神って呼んでいたハズだけど、名前とあだ名で呼び合うような仲になったというわけかな?」
「…おい、こうなるからお前の事名前で呼びたくねぇんだよ俺は。」
「ごめんちゃい♡ほらほらわんこ達!メッ!」
「「くぅ〜ん!」」
「…はぁ…、」
私に抱き着いて頬にちゅっちゅっとキスをして擦り寄る大型犬2匹を宥めながら、てへぺろ☆と日下部っちにウインクをすれば、日下部っちは呆れたように溜息を吐いた。
「ほらわんこ達、授業の時間きちゃうから行くよ。」
「理玖、私とのデートはいつになったら行ってくれるんだい?日下部先生とは飲みに行ったくせに…!」
「僕と理玖の愛の巣にはいつになったら引っ越すわけ!?早く毎日新婚さんごっこしたいんだけど!」
「は?」「あ?」
「はいはい、そういう事は色々片付いたら考えるね!傑、真人貸して!」
「…はぁ、分かったよ。」
傑が手を翳した先からずももも…と真人が出て来ると、真人は私に飛び掛かった。
「理玖!」
「こら真人!」
真人が私に手を伸ばす前にぴたりと動きが止まる。傑が意図的に止めてくれたらしい。真人は拗ねたようにぷくぅっと頬を膨らませた。
「俺は理玖のこと許してないからね…!よくも騙したね!信じてたのに!」
「悟、黒縄持って来て。」
「…大丈夫なわけ?」
「大丈夫、ちゃんと躾けるよ。」
「理玖に躾けられるなんて…私の手持ちになったとはいえやはり気に食わないな。」
「僕の方が理玖に躾けられたいし理玖を躾けたいしいっぱいえっちな躾プレイしたいのに…、」
「いや、いやらしい意味の躾じゃないから。」
「…はぁ、分かったよ、すぐ戻るよ。」
悟は黒縄を取りに行ったらしい。傑も溜息を吐いて真人の頭をガシリと鷲掴みにした。
「いいか真人、君の所有権は私にある。ある程度の意志を持って自由に動けるようにはしているが、理玖に手を出したら祓う。分かったね?」
「…フン!」
「取って来たよー。」
「早いね、悟!ありがと。」
悟から受け取った黒縄を解いて真人の首に結びつけた。真人は目を見開いて私を見ている。うへへ、どうだこれ、あらゆる術式を相殺する黒縄なら真人の無為転変も使えまい!
「傑、もう大丈夫だよ。」
「…本当に大丈夫なのかい?」
「うん、今真人は術式使えないでしょ。」
「…なにこれ、めちゃくちゃ嫌な感じ…。」
「さ、おいで真人。2人っきりで話をしようねぇ?」
「「新顔の癖にズルい…!」」
「悟と傑は自分の仕事をしなさい!」
「「わん!」」
真人を連れて向かったのは医務室。中に入ってすぐ、首に黒縄を巻かれて大人しく私に引っ張られる真人を見た硝子は、持っていたコーヒーカップを落として割っていた。
「え、大丈夫?」
「…そんな趣味もあったんだな、理玖。」
「え、硝子ちゃん?」
「ついに呪霊にまで手を出すとは…。」
「待って、なにか勘違いしてるから!」
「教師や生徒に飽き足らず呪霊にまで触手を伸ばすなんて…やるね。」
「だから違うんだって!」
真人は頬を膨らませたまま大人しくしている。ベッドに座るように伝えれば、私からプイっと顔を背けつつも言われた通りベッドに座った。
「それで?なんで連れてきた。」
「さっき話してた改造人間を元に戻そうと思って。一応硝子に戻った人を診てもらったがいいかなって。」
「成程、そういう事か。それにしても…コイツが例のつぎはぎ呪霊か…。改造人間を全員元に戻したら解剖してみたいな。」
「それは傑がダメって言うと思うから諦めて。」
「そう、残念。」
「じゃ、真人く〜ん?」
「フン!」
「話は聞いてたから分かるよね?今は術式を使えないから抵抗しても無駄だよ。大人しく改造人間を出そうね?」
「…理玖の裏切者!」
ベーっと舌を出す真人に、私はにっこり笑って黒縄を真人の体に巻き付けた。どうだあああ亀甲縛りじゃああ!!
「なんて事するんだよぉ!理玖の馬鹿ぁ!」
「オホホホホ、女王様とお呼びなさい!さあ吐くのよ!改造人間を2人!」
「えーん!助けてー!漏瑚ー!花御ー!陀艮ー!」
「もっといい声で啼きな!跪いてお嘗めよ赤い爪を!」
「SMプレイなら他所でやって。」