デデンデンデデン!


「お゛えっ。」

医務室のベッドの上に黒縄で亀甲縛り状態の真人が、改造人間のストックを2体吐き出した。それを拾い上げてよくよく観察していると、手袋を嵌めた硝子が1体ひょいっと私の手から取り上げた。2人してジーッと改造人間を観察してみる。小さくなったそれにはちゃんと目鼻口らしきものが付いているのが見える。

「へえ、凄いな。これで生きてるなんて不思議でならない。このまま解剖してみたいところだね。」
「硝子ちゃん!?絶対ダメだよ!?生きてるんだからねこの人達!!」
「冗談だ。」
「硝子ちゃんの冗談は冗談に聞こえないの!!とにかくこの2人を元に戻してみるね。」
「ああ。」
「え〜!折角ストックしたのに〜!」
「うるさい。」
「いでっ!」

真人の太ももをペチンと叩いてやった。唇を尖らせてブーブーと文句を言う真人に、硝子がちらりと視線を向ける。

「理玖の言う事も聞くんだな。」
「ん?ああ、まあね。交流会までに色々あって、真人とは知り合ってたから。」
「聞いてよ!理玖ってば俺達のこと裏切ったんだよ!?呪術師が呪霊と手を組んでたんだよ!?」
「余計なこと言わないの。」
「いだっ!もお、なんで叩くのさ!」
「躾けるって言ったでしょ?」
「真人、とか言ったな。」

硝子が冷たい目で真人を見下ろした。え、硝子ちゃんどうしたの…?

「理玖に躾けられるなんて、光栄だと思えよ。」
「え?」
「まあ、私は理玖を躾ける側だから、理玖の言う事が聞けないなら私がオマエを躾けてやってもいい。」
「あれ、硝子ちゃん?」
「オマエ如きに理玖の手を煩わせるなんて勿体ないからな。それに、私は一度、オマエを解剖してみたかったんだ。理玖の言う事が黙って聞けないならオマエを解剖する。分かったか?」

硝子の言葉に、真人はぱちくりと瞬きをして私に視線を向けた。私はうんうんと頷いておいた。我らが硝子ちゃんは怖いんだぞ!

「は〜、分かったよ。皆して理玖、理玖ってなにさ。」
「真人、言っておくが、今高専にいる殆どの人間は理玖に救われている。オマエも本来は祓われるはずの存在だ。それが理玖が手を回してくれたおかげで今存在しているという事を忘れるな。」
「まあそういう事。言ったでしょ?真人たちは祓わないって。」
「……ふん!でも俺は許したわけじゃないから!べ〜!!」
「はいはい、別にそれでいいけど、ストックした改造人間は全員元に戻すからね。こっそり隠し持ってても傑にはバレるだろうから、余計なことはしないように。それじゃ、この2人は元に戻すから。」
「…好きにしなよ。」

セレクト。

【改造人間が2体います。選択してください。選択すると呪力を100消費します。(残り呪力:280)】
【1.元の姿に戻して殺す 2.元の姿に戻さず殺す 3.元の姿に戻す 4.なにもしない】

3!

【3.元の姿に戻す を選択しました。呪力を100消費しました。(残り:呪力180)】

2体の改造人間が見る見るうちに元の姿に戻った。大人の男女の2人組だった。子供も大人も、消費呪力は1人50なのか…。今度からは戻す人数を増やしてもいいかもしれないな…。朝から私が授業の日に、朝一で3、4人くらい元に戻しておけば授業が終わって任務先に到着するまでに、呪力もある程度回復してるだろうし…。よし、そうしよう。

「硝子ちゃん、この2人お願いね。」
「分かった。」
「真人、行くよ。」

黒縄を亀甲縛りから首に巻き直して、医務室を出た。事務室に顔を出して、補助監督で手が空いてる人にさっきの2人を任せよう。さて、これから真人と内緒の話をするにはどこに行くべきかな…。地下室は順平がまた呪力操作の特訓してるだろうし、グラウンドは子供達が鍛錬してたら話をできないし…、とすれば私の部屋かな?

「どこ行くの?」
「私の部屋。」
「理玖の部屋?なにしに?」
「話しておきたい事があるの。でも他の誰にも聞かれちゃ困る事だから、私の部屋。」
「へぇ、なんの話?」
「まだ内緒。」

教員寮の私の部屋に着くいて真人をベッドに座らせると、真人は部屋を見渡した。

「狭いね?」
「寮の部屋だからこんな物でしょ。私達の場合は寝る為に帰って来てるようなものだし。」
「ふーん?それで?話って?」
「それなんだけど、なんか飲む?」
「は?俺呪霊なんだけど?」
「呪霊でも人の形してるし、食べ飲みできるんじゃない?……え、ダメ?」
「……プッ、フハッ、アッハッハッハ!ほんと理玖って変わってる!呪霊が人間の食べ物とか口にするわけないじゃん!食べる必要がないんだし!飲み物だって飲まないよ。」
「……そう、勿体ないね。試しに飲んでみたら?美味しいよ。」
「……それなに?」

キッチンでケトルに入れた水を沸かしていると、真人がのそのそとベッドを下りてキッチンに来た。カップにいつも悟が来た時に淹れていたミルクココアのパウダーを入れて、冷蔵庫の中を覗き込む。あ、牛乳あった。危な、賞味期限今日じゃん!飲んじゃわないと!

「ココアだよ。ミルクココア。甘くておいしいの。」
「…ふーん。それで?話ってなに?」
「あー、その事だけど、メカ丸との縛りあったでしょ?情報を渡す代わりに京都校の生徒には手を出さないってやつ。」
「ああ、あったね。花御が結局手出しちゃったけど。」
「そう、それでペナルティを受ける前に傑に取り込まれたから、今2人共ペナルティを受けていない状態なのね。」
「うん。」
「でも、そのままだと2人を取り込んだ傑が代わりにペナルティを受ける、なんてことになりかねないわけ。だから、メカ丸と話を付けて、縛り自体をなかったことにしたから。」
「…は?どうやって?」
「私の術式で。ついでにメカ丸も私が体を治しておいたから。」
「理玖の術式って、ほんとになんでもできるんだ?」
「凄いでしょ。その分リスクはあるけどね。とまあ、そういう事だから、真人とメカ丸の関係性はなかったって事でよろしく。」
「…ま、別にいいけど。」
「良かった。」

コポコポとケトルの中でお湯が沸くと、真人は興味深そうに私に近付いた。カップにお湯を少し注いでスプーンで掻き混ぜ、ココアが解けると牛乳を注いで氷も何個か落とした。またカラカラとスプーンで掻き混ぜている私の手元を、真人がじーっとみている。

「甘い匂いがする。」
「味も甘いからきっと気に入るよ。」
「…ふーん。」

真人の好感度が少しずつ上がる音を聞きながら、カップを手に部屋に向かった。ローテーブルにカップを置いてクッションを床に敷くと、ベッドを背凭れに座る。真人の分もクッションを置いてポンポンと叩いた。

「はい、座って。」
「…人間って変なの。」
「その変なのから生まれたんだよ、真人は。」
「ハハッ、確かに。」
「でもさ、全員が全員変なのばっかりじゃないからね?」
「…俺からしたら理玖が一番変だけどね。」
「なにぃ?」

肘で真人の横腹をつついてくすりと笑う。カップを手に取ってココアを一口飲んだ私を見て、真人も同じようにした。

「…甘い。」
「でしょ?」
「…理玖みたいだね、これ。」
「よく言われる。私は甘いんだって。自分じゃ分からないけどね〜?」
「そうなの?匂いも甘いし、前にキスされた時も甘かった気がする。」
「マジ?ココアとどっちが甘い?」
「……確かめさせてよ。」
「え?」

真人がカップをローテーブルに置いて、私のカップを取り上げた。そのまま私の体を床に押し倒した真人に、私はサッと血の気が引くのを感じる。これ、ヤバいのでは?!絶対ヤバいよね!?

「真人、悪いことは言わないからやめときな。」
「なんで?」
「いいからやめ【ドゴォン!】あ、終わった…。」

突然爆風が私の部屋に吹き込んだ。慌てて真人を押し退けて体を起こせば、砂埃の向こうでゆらりと揺れる影。あのフォルムは…間違いない…!

「す、傑…、」
「真人、理玖の部屋でナニをやってるのかな?」
「え〜?べっつに〜?」
「君がどこにいるのかは、私に手に取るようにわかる…。ナニをやろうとしていたかまでは分からないが、大体の予想はついているよ。」

今、私の脳内でター〇ネーターのあれが流れている。デデンデンデデンというテーマ曲が。土足のまま私の部屋に上がりこんだ傑が、真人の頭をむんずと鷲掴んだ。

「いだだだだっ!」
「私の理玖に手を出そうなんて、1億光年速いよ。」
「まさかの光の速さ。」
「真人、君は理玖のおかげで祓われずに済んでる事をよく覚えておくといい。私はいつでも君を祓える。それとも、君のお友達を祓おうか?」
「な、なんだよー、ちょっと理玖を揶揄っただけじゃんか!」
「そ、そうだよ、傑!ほんの冗談だってきっと!私も自力でなんとかできる状況だったし!」
「理玖、私はその辺りの心配はしていないよ。理玖が強い事は私も充分知っているからね。でも、ここ数ヶ月まともに理玖に触れられなかった私を置いて、真人に触れることを許すなんて…、」
「あ、やべ。」
「え、ちょ、理玖〜!」

真人がずぞぞぞ…と消えてしまった。私はダラダラと冷や汗を流しながらサッと傑から目を逸らす。ていうか、私の部屋のドアどこ行った…?爆散したよね?!え、どうすんのこれ!!私の部屋どうすんのこれ!!

「理玖、」
「うひっ、」
「…私という者がいながら浮気は許さないよ。」

ガシッと顎を掴まれて、無理矢理傑と目線を合わさせられると、傑がそう言い放った。その顔には影が差し、傑の切れ長の目がこれでもかと開かれてギロリと私を見下ろしている。や、やべぇ〜〜〜、めっちゃ怒ってるじゃん…!

「私とのデートもまだだと言うのに…私の手持ちの呪霊と浮気だなんて。」
「イヤ、違うから!浮気の前にそもそも付き合ってないから!」
「いいや、付き合っているよ。小1からね。」

ニッコリと笑う傑に、私は「あ、そすか…。」とチベットスナギツネのような顔で返した。いや、マジで部屋どうすんの。



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