「あー、あー、マイクテスマイクテスッ!」
遂に10月31日、ハロウィンが来てしまった。朝、悟と傑が部屋に訪ねて来たかと思いきや、私のお腹に「えいっ☆」とか言って呪符を貼った悟。貼られた呪符はスゥっと私のお腹に透けて入っていった。いや、なにこれ!?傑はにこにこと紙袋から何かを引っ張り出し、私に押し付けた。それはあのグループLIMEで見た、白と黒のボーダー服…。ということは…、マジでやる気か!?
「いや、え、待って、」
私の視界にいつもあったはずの【残り呪力】が見えなくなり、内心プチパニック。いや、目に見えてパニック。なに貼ったの!?
「その呪符、特殊な呪符だから、暫く呪力練れないと思うんだけど、どう?」
「練れないどころか見えない…!」
「「見えない?」」
「こっちの話!!ていうかマジで囚人服用意したの!?」
「勿論。着替えたら9時までにグラウンドに集合してね♡」
「来なかったら無理矢理にでも引っ張り出すから♡」
「マジか…。」
試しにセレクトしてみようとしたけど、いつもの文字すらなにも見えない。ていうか久し振りに視界がクリアな感じ。いつも視界のどこかに残り呪力の表示だったり、人の好感度が見えたり、スピーカーマークがあったりしたから、なにも見えなくて逆に困惑しちゃうな…。悟と傑は絶対に着替えてグラウンドに来るようにと、私に念を押して部屋を出ていった。1人ポカーンと取り残された私に、着替える以外の選択肢はない。仕方なく、シャワーを浴びてから化粧を済ませ、囚人服に袖を通した。胸元に谷間を強調する穴が開いていて、ピチッと体にまとわりつくほどタイトなそれ。スカート丈は短すぎて、少しでも屈めばパンツ見えるじゃん!!くそぉ、皆してすぐ私に痴女みたいな格好させる!!なんかありがとうね!?!?なんか、なんとなく!!
「…うわぁ〜お…、」
付属品として入っていた網のニーハイソックスを穿いて、鏡の前に立って見る。…まあ、まあね?私だし?悪くないんじゃないですかね…?なんてちょっとにやけながら鏡を眺めた後、貴重品だけを入れたショルダーバッグを下げて部屋を出た。時計を見れば9時まであと5分ほど。ヤバいヤバい。早足でグラウンドに着くと、そこにはまあ、ポリスコスチュームに身を包んだ皆さんが勢ぞろい。しかも私が最後だったらしい。いや、皆どんだけ気合入ってんの?!そして冒頭のマイクテストに戻る。
「え〜、オッホン!やあやあ皆さんおはようさん!今日は待ちに待ったハロウィンだよぉん!」
キーンとマイクをハウリングさせながら話す悟は、いつもの目隠し姿じゃなくてサングラスを掛けていた。しかも皆、刑事ドラマなんかでよく見る青いシャツの警官服ではなく、外国風の黒いポリスコスチュームだ。そして似合っている…くぅ、目の保養…!ってあれ、硝子と夜蛾さんはいないんだ?伊地知もいねぇじゃん。
「理玖さんヤバい!凄い似合ってます!私の目に狂いはなかった!」
「野薔薇ちゃんも似合ってるじゃん、真希ちゃんも美々子ちゃんも菜々子ちゃんも!津美紀ちゃんまで着るとは思ってなかったけど、皆可愛い…!いいなぁ〜、そっちの方が可愛い〜!くぁわいい〜!」
「理玖様ゲロヤバ〜!」
「理玖様…えっち…、」
「理玖ちゃん、これ…下にちゃんと穿いてる?」
「穿けるわけないじゃん!高専は穿いたら絶対文句言うやつらの巣窟だよ!?むしろ穿いた方が脱がされる、の方が正解か…?」
「ハッ、クソみてぇな巣窟だな…、」
「ちょっと女子ぃ〜!自分達だけで盛り上がらないでよ〜?これから夏油先生のありがた〜いルール説明なんだから!」
美々子と菜々子から両腕に抱き着かれながら、悟に視線を向ける。悟はマイクを傑に渡した。
「ルールは簡単だよ。玩具の手錠を人数分用意した。これには特殊な呪符が貼られていてね、繋いだ者を条件付きで拘束する効果がある。これは理玖以外の全員が所持する事。それから、この手錠を使って文字通り理玖を拘束した者が勝者となる。外す方法は、拘束された側が条件を満たした時。使い方はこうだよ。理玖、」
「え?」
傑が私の元に来たかと思えば、私の手首にカチャンと手錠をつけて、もう片方を自分の手首につけた。
「これをつける時は、外す条件を必ず口に出すこと。そうだね、理玖から私にキスをしてくれたら、外してあげる。」
「なっ、え、今!?」
「そう。じゃないと外れないよ。」
「せんせー、夏油先生がズルいでーす!」
「これは見本だから、まだ軽い方だよ。ほら理玖、私にどんな形でもいいからキスをしてみて。」
「……絶対に外れるんだよね?」
「勿論。」
「どんな形でもいい」という傑の言葉を信じて、手錠で繋がった傑の手の甲に、ちゅっとキスをしてみた。すると、カチャンと音と共に、手錠がポトリと地面に落ちる。
「おお…!」
「使い方は分かったかな?手錠をつけるだけじゃなく、外す時の条件を必ず口に出すことで、呪符の効果が発揮される。内容は自由に決めれるけど、死を連想する条件は使えないから気を付けるように。」
「はぁい、分かりやすい説明だったでしょ〜?皆手錠取りに来て〜。」
「理玖を捕まえる制限時間は、学生諸君に合わせて22時までだから、皆アラームをセットしておくように。それから、理玖を捕まえたらグループに報告してね。補助監督は全員休みで、寝てるか出払ってるかだから、協力を仰いでも無駄だよ。夜蛾学長と硝子は高専で待機してるから、この2人も不参加。」
「それと、この前もグループで話した通り、大人も子供も同じ条件で理玖を探せるように、理玖の呪力は封じてるから。呪力探知はできないよ〜。術式の使用も禁止。」
「しつもーん。」
「はい、パンダ!」
「俺は手錠が手首に入らないし、棘は呪言があるから条件を口に出すことはできない。そこんとこどうするんだ?」
「手錠は必ずしも自分にもつけなきゃいけないわけじゃないから、理玖だけにつければ問題ないよ。それから、棘の場合はしょうがないから、手錠を理玖につけたらスマホで文字打って、それを理玖が読み上げる形で。」
「しゃけ。」
「意外と緩いんだな。」
「ようは使い方次第ってことか。」
「そういうこと。自分と理玖を繋ぐのもよし、理玖だけを繋ぐのもよし、理玖と他人を繋ぐでもよし。まあ、最後はオススメしないかな。」
「はい、先生!」
「はい、悠仁君!」
「どこからどこまでが範囲?高専内?」
私が一番気になっていたこと!!ナイスゆじたん!すかさずシュバッ!と挙手をした私に、皆の視線が集まる。
「そこは私が決める!」
「別にいいけど、」
「行動範囲は東京都内のみ。それから、私が高専を出た1時間後に、皆は私を探しに高専を出る。この条件にして!」
「いいんじゃないか?」
「術式の使用は禁止だし、皆が勘で行動しないといけなくなるから、これで私を含めて全員平等になるでしょ。」
「じゃあ、そういう事で!他に質問は〜?」
「なさそうだね。理玖が高専を出た1時間後に私達は出発するから、タイマーを設置しておくよ。」
「それじゃ、『ドキドキ☆ハロウィン大捜査線』スタァートォ!」
こうして、私は1人早足で高専の敷地を飛び出した。目指すは渋谷。私の中で、これは1人渋谷事変だ。いや、意味分かんないけど、なんかそういう事にしておく。スマホで時間を確認しながら高専からの最寄り駅まで全力ダッシュ。だって車使えないし!!補助監督全員グルだし!!今日の為に皆、スケジュール調整で割と任務詰め詰めだったし!補助監督は今日全員お休みらしいし!!むきぃ〜〜〜!
「いや、全力坂かよ…っ、はぁ、下り坂だけど、はっ、普通にきっつ…、」
最寄り駅まで全力疾走で駆け下りた私は、息を弾ませながら最寄り駅の改札を抜けて、渋谷駅を目指す。渋谷に着いたらまず香水を買う。ここまで全力疾走して汗掻いたら、間違いなくパパ黒が追い掛けてくるに違いない。香水で匂いを掻き消しつつ、渋谷周辺を聖地巡礼…!どうよこの作戦、完璧でしょ…!パパ黒対策さえしておけば、あとはのらりくらり渋谷周辺を歩き回っても、簡単に見つかりっこないでしょ。
『次は渋谷〜、渋谷〜、お出口は左側です。』
渋谷駅に着いたのは、私が高専を出て約1時間半ほどが経った頃。皆高専を出て、私を探しに駅に向かったことだろう。山手線は利用客が多いし、渋谷のハロウィンと言えば割と早い時間から夜遅くまで、仮装した集団が歩き回っているイメージだ。でも異常に視線を感じるのは、やっぱりこんな朝っぱらからコスプレしてるから…だよね、絶対。めっちゃ見られてる…。改札を抜けてヒカリエに向かう。確か香水専門店があったハズ…!急いで店舗に駆け込んで、普段使わないタイプの香りの香水を買った。すぐに全身に振りかけて、ひとまず安心。パパ黒対策完璧!!
「さてと、走ってお腹も空いちゃったし、ご飯でも食べようかなぁ…。」
丁度ヒカリエにいる事だし、この中でなにか食べちゃおうかな!飲食店エリアに上がって気になったお店に入ると、サクッと食事を終わらせて、聖地巡礼の旅を開始…!寝てる間に読み漁った原作の記憶を掘り返して、ヒカリエから近い順にキャラ達が集合していた場所や、戦っていた場所を回っていく。一応ほら、私もオタクだからさ、聖地巡礼したら写真とか撮っちゃうよね…うへへ…。パシャパシャと原作でキャラが立っていた位置や、描かれていた角度を見ながら写真を撮った。あとは五条悟が封印されたあのホーム…!あれは改札を通らないといけない。副都心線B5Fを目指して歩いていると、誰かが私の名前を呼んだ声に振り返る。マジ?もう来たの…!?そこにいたのは…▼
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