朝起きて、身支度をして朝食を食べる。お父さんはもう仕事に行ったらしい。お母さんに行ってきますを告げて家を出る。昨日悟に乗せてもらった車で通った道を思い出しながら、なんの考えもなしに学校へ向かう。小学生って普通登校班とかあるよね?なんで私1人で歩いてるんだろ。黄色い帽子は邪魔くさいし恥ずかしいから、ゴム紐を腕に絡めて振り回しながら歩いた。ついでにランドセルも久し振り過ぎて忘れてたけど、結構肩痛いし重いよねー。しばらく歩いていると、視界に入ってきたのはふよふよと漂う蠅頭。なんだ、初めて見たけどなんかちょっと可愛い感じ。ソイツと目が合ってしまい、私はちょっと頭を悩ませた。昨日は深く考えてなかったけど、そもそも私の術式、呪霊って祓えるのか?
「…とりあえずセレクトするか。」
1人顎に手を添えて首を捻る。視界に表れた文字に、口に出してもセレクトできるのか、という新発見!でもブツブツ言うのも人前だと気味悪がられそうだなぁ。1人ならいいけど。
【あなたに気付いた蠅頭が、あなたを襲おうとしています。選択してください。選択すると呪力を10消費します。(残り呪力:60)】
【1.祓う 2.逃げる 3.なにもしない】
「1。」
【1.祓う を選択しました。呪力を10消費しました。(残り呪力:50)】
ばちゅんっ、と弾けた蠅頭を見て、小さく感激の息を吐いた。おお、できた。え、すごっ。これ私何級相手までできるんだろ?ちょっと面白いな、他にいないかな?キョロキョロと周囲を見渡すけど、見た感じ他に蠅頭は愚か呪霊の呪の字もない。仕方なく学校への道程を思い出しながら歩き出す。家から歩いて20分もすれば小学校が見えて、校舎に入る。下駄箱で靴を脱いでいると、丁度同じクラスの下駄箱に靴を入れようとしていた女子生徒に会った。…昨日は悟のせいで誰とも話せなかったし、挨拶くらいしてみよっかな!そう思って彼女を見れば、ひっ、と小さく悲鳴を上げて逃げられた。…て、なんで逃げんの?!
「あ、ちょっと待って、おはよう!」
「きゃああ!」
「えぇー…、なんだその反応…、」
「邪魔。」
「あ、悟じゃん、おはよ。」
「プ、逃げられてやんのー。」
「いやいや、私何もしてないし!てか、悟が来たからじゃね?」
「はァ?」
悟の頭上には昨日と変わらず50%の文字。私は手に持っていた靴を下駄箱に入れて、上履きを履いた。悟が自分の上履きを履くのを見届けて、一緒に教室へ向かう。
「オマエ、迎えに行ってやったのに家にいねえし。」
「え、わざわざ来たの?ご苦労様だね。」
「昨日家の場所知らねえって言ってただろ!人がわざわざ気を利かせてやったのに!だからオマエはブスなんだよ!」
「ハイハイ、アリガト。」
「心こもってねえな!」
「悟って私の事大好きなの?友達いなかったから嬉しかったのかな?えー、なにそれ、かわいいね?」
「は、はァ?!誰がオマエなんか、」
はいはい、悟くん、照れ隠ししても無駄だぞー、52%になった頭上の数字に私は顔がニヤける。おい、なんでそんな汚い物見るみたいな顔してこっち見んのさ。
「意味わかんねえ!」
そう言って頭をガシガシかく悟に、私は声を出して笑った。授業中も私達は先生の目を盗んで…というか、悟が堂々と私に話し掛けてくるから盗むもクソもなかったけど、話をしながら授業を聞き流した。悟は小1とは思えないくらい賢いし、私も強くてニューゲーム状態だから、正直授業聞かなくてもどうとでもなるし、先生も私達…というか主に悟にビクついていて特に注意されることもなかった。…これぞ五条家パワー…なのか?いや、関係ないか?休み時間になって、私は1人で教室を出た。トイレトイレ〜と1人で鼻歌交じりに廊下を歩いていると、今朝見たような蠅頭が視界を横切る。お、いたいた!もっかい祓ってみようかな、なんて思いながらセレクトしようとした所で、蠅頭は私を見つけたらしい。シャー!と小さく牙を向いたそれが私に向かって飛んできた。セレクト。
【あなたに気付いた蠅頭が】
まで読んだところで、蠅頭が潰れるように消えた。ビックリした!なにごと?!そう思っていると、後ろから駆け寄ってくる足音。振り向けば悟が怖い顔して私に駆け寄ってきた。
「何やってんだバカ!蠅頭見えてんじゃねえのかよ?!さっさと祓えよ!」
「もしかしなくても今の悟がやったの?」
「そうだよブス!」
「ねぇ、ブスなのかバカなのか統一してよめんどくさいなぁ。てかもう名前で呼べよめんどくせー。」
「だ、誰が…!つーか、蠅頭とはいえ呪霊目の前にしてボーッと突っ立ってんじゃねえよ!」
「祓おうとしましたー!今朝だって一体祓いましたー!」
「!」
悟が目を丸くして私を見た。なんだよその顔、オマエが?!みたいな事考えてるの顔に出てんぞ。失礼な!
「ま、でも助けてくれたんでしょ?ありがとう、悟。」
「…フン!」
いいね、今日も絶好調のツンデレ日和!トイレに向かっていたのを思い出して歩き出す私の後を、悟が無言で着いてくる。…え、何この子、カルガモ?
「…女子トイレまで来んの?」
「ち、ちげえし!俺もトイレ!」
トイレに入ると5つ並んだトイレの内真ん中のトイレだけ扉が閉まっていた。右から2番目のトイレに入る。さてと、今後の小学校生活をどうするかなぁ、なんて考えながら用を足していれば、隣から聞こえたくすくすと笑う声。誰だよトイレで1人で笑うなんてキショいなあなんて思っていると、ゾワリと感じた不気味な気配。…あれ、これもしかしたらなんかヤバイやつじゃね?なんて思いながらカラカラとトイレットペーパーを引っ張っていると、
「おいブス!さっさと出てこい!うんこしてんのかー?」
…この声は紛れもない悟の声だ。うんこしてねぇし!なんて思いながらトイレを出ようとする。…あれ、鍵開かないんだけど。…えー、なにそれー、もしかしてこれ呪霊の仕業?そんなエンカウント率高いの?マジ?しかもここトイレじゃん?トイレと言えばなんだ、花子さんとか赤いちゃんちゃんことか、赤巻紙とか?マジかー。困った。とりあえずセレクトしとくか。
【あなたは???の簡易領域に引き込まれました。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:50)】
【1.祓う 2.助けを呼ぶ 3.呪霊の正体を暴く 4.なにもしない】
あー、祓えはするらしいけど、呪力全部使い切っちゃうのか。助けを呼ぶにしても悟がすぐそこにいるわけだし、どうにかなるでしょ。正体を暴くってどうやって暴くんだろ。なんか過去編の時みたいに口裂け女の簡易領域みたいな感じだとしたら、何か条件を満たさないと出れないって事だよね?なにもしないはまずありえないしなぁ、なんて考えを巡らせていると、すぐ隣の仕切りを凄まじい勢いで叩く音がする。えぇ、落ち着いてくれよまじ、てかうるさいんだけど!んー、とりあえず祓えるなら祓ったが良くない?よし、1番で!
【1.祓う を選択しました。呪力を50消費しました。(残り呪力:0)】
「お?」
ギィィと不気味な音を立てて扉が開いて、私は顔を出す。女子トイレの前で目を見開いてる悟を見つけて、私はなんかデジャブじゃね?と思いながらトイレを出ようとして、
【あなたの残り呪力は0です。呪力が回復するまでセレクトできません。これより呪力回復イベントに入ります。呪力が回復するまでイベントが続きます。】
「は?」
突然視界がブラックアウト。わーお、なに呪力回復イベントって、ウケるーなんて思っていると体が重くなって、感覚的に悟った。…倒れてね?視界も暗くて何も見えないし、体も重くて動かない。悟が私の名前を呼んだ声がして、そのまま耳も聞こえなくなった。…なんだよ、私の名前ちゃんと呼べるじゃんーーーー