退屈な日常に色がついた


廻神理玖。俺の通う小学校に転校してきた女子。俺の隣の席で、俺の事を知ってるっぽい。そして呪力を持っていて、術式も使えるらしい。他のクラスメイトとは違う堂々とした雰囲気と、掴み所の無いと思いきや俺に恐れもせず反抗する性格。正直めんどくさい小学校に、少しだけ楽しみができたと思った。絶対に言わないけど。それに、他の乳臭いガキどもと違って身なりもちゃんとしてるし箸の使い方も、鉛筆の持ち方も綺麗だ。給食も米粒ひとつ残さず綺麗に食べるし、しっかりハキハキ喋るし、なんつーか、同じ小1とは思えないくらい常識ありそうな感じ。

「廻神って呪術師について調べろ。」

理玖を車で送り届けた後に、運転手にそう告げながら理玖が家に入るのを見届けた。廻神って呪術師は高専に所属する1級術師だった。その家族を記した資料には理玖の名前も書いてある。ふぅん、高専を卒業して地方で呪術師やってた親父の都合で東京に移り住んだらしい。母ちゃんも呪術師やってたなら、理玖にも術式あるのも納得。俄然興味が湧いてきた。次の日車で理玖の家に行けば、理玖はもう家を出たらしい。なんだよ、せっかく乗せてやろうと思ったのに。学校に着いて車を降りる時に、今日も理玖を送ってやる事を伝えれば、運転手は頷いて俺を見送った。理玖の気配を下駄箱の方に感じる。俺が早足で下駄箱に行くと、丁度同じクラスらしい女子に逃げられてる理玖を見つけて笑った。クラスメイトは俺の事を避けている。俺が他とは違うから。俺はそもそも同い年とはいえ乳臭いガキどもと仲良くする気もないから別に不自由もしてない。今朝迎えに行ったことを伝えれば、理玖はパッチリとした目を大きく見開いて俺を見た。

「昨日家の場所知らねえって言ってただろ!人がわざわざ気を利かせてやったのに!だからオマエはブスなんだよ!」

ホントはブスなんて思ってないけど。

「ハイハイ、アリガト。」
「心こもってねえな!」
「悟って私の事大好きなの?友達いなかったから嬉しかったのかな?えー、なにそれ、かわいいね?」

正直図星だった所はある。だって誰にも俺と釣り合わねえもん。けど、オマエは違うと思ったから、

「は、はァ?!誰がオマエなんか、」

俺が照れてる事もどうせ知ってんだろ。ニヤニヤしながら俺を見る理玖に、昨日からずっと調子を崩されてばかりだ。

「意味わかんねえ!」

だから俺は、素直になれなくても分かってんだろって思いながら、最大限に照れ隠しをした。授業中も退屈な話は右から左にして理玖のノートの表紙にちんことうんこの落書きをした。しかも油性ペンでしたから消しゴムじゃ消せねえし、いいザマだ。

「まじか…油性ペンで…ありえんコイツ…。」
「おい、どこ行くんだよ。」
「トイレだよバーカ!」

授業が終わって教室を出ていく理玖を追い掛ける。ふと、視界に入った蠅頭。理玖が立ち止まっていた。理玖に気付いた蠅頭が、小さな口をめいっぱい開けて牙を向いているのを見て、すぐに祓った。昨日も思ったけど、理玖は時々ボーッと突っ立ってるから危ねえ。それなのにコイツは今朝一体祓ったと言う。こんな隙だらけでどうやって祓ったってんだよ。仕方ねえから俺が守ってやるよ。理玖の後を追いかけて気付いた。そういえばコイツ、トイレ行くって言ってたな。

「…女子トイレまで来んの?」
「ち、ちげえし!俺もトイレ!」

誤魔化すために俺も男子トイレに行って用を足して、適当に手を洗うと手についた水を飛ばしながら理玖を待った。待ってる間に感じた大きな呪力の気配。これ、何級だ…良くて2級か、それ以上か…、

「おいブス!さっさと出てこい!うんこしてんのかー?」

俺の声が届いているのかわからない。簡易領域が女子トイレ内に展開されていて、俺は無限を発動させながら簡易領域に手を伸ばす。バチン、と弾かれて舌打ち。何度も理玖に声を掛けるも、返事はない。

「クソ、今までうちの学校でこんな事なかっただろ…!」

どうする、頭を働かせろ!

「お?」

突然簡易領域が崩れて、トイレから理玖が顔を出したと思いきや、突然その場に倒れる体。

「は?」

俺の口から漏れた間抜けな声。

「おい!おい、起きろブス!」

閉じた瞳と動かない体を揺さぶる。授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

「おい、おい!理玖っ!」

初めて理玖の名前を呼んだ気がする。理玖は起きる気配が無くて、俺は理玖の腕を掴んで無限でその体を浮かせると保健室に向けて走り出した。なんなんだよコイツ!よく見れば体に纏っていたはずの理玖の呪力が消えている。…もしかして呪力切れか?!起きたら絶対問い詰めてやる!

「心配させやがって…。」

保健室のドアを蹴り破る勢いで開けて、驚いて駆け寄ってきた保健室の先生に理玖を押し付けた。

「ど、どうしたの?」
「突然倒れた。とりあえず寝かせろ。」
「え、あ、あなた達クラスは?」
「うるせえ。いいから黙ってコイツ寝かせろよ。」

俺が睨みを聞かせれば、言われた通り理玖をベットに運ぶソイツ。俺は保健室のソファーにどかりと座って大きく息を吐いた。マジで意味わかんねえ、どういう術式だよコイツ。六眼で見てるのに全然術式見えねえし。

「早く起きろよ理玖。」

ベットの周りを囲んだカーテン。その中で眠る理玖を想像しながら、俺も目を閉じた。授業に戻れと言う声も聞き流しながら、俺は理玖の術式について考えてみる。昨日もそうだったが、理玖は1人でボーッと突っ立ってる時に何か別のものを見ているような感じがする。一体何が見えてんだよ。理玖の両親の術式を思い出す。確か親父の方は式神使い、母親は封印術の使い手だった。もしかしたらコイツにもどっちかの術式が受け継がれてるのかと思ったけど、それなら俺の六眼で分かるはず。また理玖についての謎が増えた。

「んー、よく寝た!」

理玖が目を覚ましたのは、昼休みだった。給食も食わずに理玖が起きるのを待っていた俺に、ケロッとした顔で、なにやってんの?という理玖。ムカついて思いっきりゲンコツしてやった。

「いったい!!なんで?!」
「呪力切れでぶっ倒れるとかザコの極みだろ!お前のせいで給食も食いっぱぐれたじゃねえか!」
「え、食べればよかったじゃん!わざわざ起きるの待っててくれたの?優しいとこあるね?」
「はぁ?!俺がここまで運んでやったんだから感謝しろよ!」
「マジか?どうやって?」
「俺の術式で。」
「…なるほど、無限か。」
「…知ってんのか。」
「昨日うちのお父さんに聞いた。五条家って御三家なんでしょ?色々大変そうだね、息詰まらない?うちはなんてことないただの平凡術師の家系だから、大変さはよく分かんないけど、いつでも話聞くからね。」

…やっぱりコイツ、変な奴。もう1回ゲンコツしてやった。



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