その後私たちは屋上にのぼった。勿論厭らしいことをする為ではなく、明日の作戦会議だ。明日、お母さんが殺されるのは、私が学校に行っている時間だ。
「理玖が殺したい相手ってどんな奴?」
「私も直接会った事はないよ。けど、私のお母さんが明日危ない目に遭う。だからそれを回避するために奴を殺す。」
「相手について分かってることは?」
羂索について分かっている事、それは喋るメロンパンだという事。そしてあの加茂憲倫に関係がある事。…けど、これを言っていいのかは分からない。だって奴は、将来傑を器にするのだから。
「…それは言えない。けど、特徴ならわかるよ。額に縫い目がある。今は男か女かまでは私も分からないけど、額にある縫い目を目印にして。」
「フランケンかよ。」
「とりあえず2人にやって欲しいのは、奴が家に現れたらまずは足止め。それと私が止めを刺すから、お母さんを守って欲しい。」
「足止めは私がするよ。手持ちの呪霊もいるし、足止めに使えそうなのもいる。」
「じゃあ俺は理玖のお母さんの護衛な。」
「うん、お願いね。…それと、奴は気配に敏感だと思う。私は奴を殺すのに呪力全部使うと思うから、その時まで術式を使えない。多分ぶっ倒れると思う。万が一、奴を討ち損ねたらその時は2人が奴を殺して。」
「お安い御用さ。」
「理玖の頼みだからな。」
「ありがとう2人とも。」
作戦会議が終わって、私は自分の状況を整理する。お母さんに会いに行って、お父さん抱き締められた時、何となくできる気がしてセレクトをした。今まで人前では口に出して使わなかったけど、初めて人前で使った。術式については話せないけど、術式を使うためのセレクトは人前で口に出して使えるらしい。まあ、傍から見たら何言ってんのコイツ状態だろうな。それと領域展開についてだ。呪力をすべて消費して、最後に選択した時点に戻るって書いてあった。正確に言えば、最後に選択をした直前に戻って来た。そして、未だに私は領域を展開中らしい。領域展開中にセレクトを使用すると、普段の倍の呪力を消費するって書いてあったな。明日万全の状態で奴に何かしらセレクトを使用した場合、私は120の呪力の倍、240も呪力を消費する。呪力を回復するための強制イベントもまた発生するだろうし、もしかしたら何日間か眠りこける事になりそうだ。領域が閉じたらどうなるんだろ?というか、領域展開でタイムリープ的な事出来んのか、すげえな宣託呪法。神様仏様ありがとう。
「理玖、今日はもう帰るか?」
「明日の為に万全な状態で臨みたいだろう?」
「そうだね、帰ろう。明日はいつも通り学校に行く体で家に集合ね。いつも通り家を出たフリをして、お母さんの行動を監視しながら奴が来るのを待つ。」
「どこで?」
「今日は水曜日だよね?」
「え?ああ、そうだけど。」
「じゃあちょうどいい。建人くんにお願いして建人くんの部屋を借りる。」
「七海の?」
「私の部屋と近いし、建人くんの部屋からならうちの庭が見える。」
「野郎の部屋で待機かよ。」
「文句言わない!明日は何が何でも計画を成功させないといけないんだから。」
授業は全部サボって、その日は家に帰った。私が帰ってきたことにお母さんにはビックリしてたけど、私は湿った制服のままお母さんの胸に飛び込んだ。温かいお母さんの温もりと、聞こえる心音。確かに生きてる。お母さんは絶対殺させない。
「理玖ったら、その恰好どうしたの!それに学校は?」
「ちょっとお母さんに会いたくなったから帰って来た。」
「全くこの子は…変な子ね。」
「お母さん、今日は一緒にご飯作ろう?今日の晩御飯はお母さんの好きな物作るの。ね、いいでしょ?」
「はいはい、わかったわ。早くシャワー浴びて来なさい。買い物に行くわよ。」
「うん!」
サッとシャワーを浴びて服を着替える。身支度を終えるとお母さんと買い物に出かけた。買い物を終えて帰って来ると、家事を手伝って、お母さんと一緒に庭いじりをして、ナナミンが来るのを待った。それと同時に、電話を掛ける。
「…あ、甚爾様?」
『理玖か。久し振りだな。』
「お久し振りです、甚爾様。今どこにいますか?できれば会って話したいんですけど。」
『…野暮用で東京に来てる。』
「少しだけでも会えませんか?お借りしたいものがあるんですけど。」
『なんだ。』
「”特級呪具 天逆鉾”。」
『…知ってんのか。』
「どうしても殺したい相手がいるんです。貸してもらえませんか?」
『…理由次第だ。』
「じゃあ何時でもいいので、うちに来てください。待ってますから。」
『ああ。』
一か八かで聞いてみたけど、この時からもう所持してたみたいで安心した。羂索が来たらこれであのメロンパンを粉微塵にしてやる。そうこうしている内にそろそろナナミンが来る時間だ。ナナミンの気配がして、インターホンが鳴ったので私は玄関の扉を開ける。私がいる事に驚いた顔をしたナナミンを招き入れて、早速私の部屋へ。お母さんが用意してくれた飲み物と軽いお菓子も持って部屋に向かうと、ナナミンが宿題を取り出したところだった。
「今日は早いんですね。」
「ちょっとね。建人くん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「なんですか、改まって。」
「明日さ建人くんの部屋に行きたいんだけど、窓の鍵開けておいてくれない?」
「は?」
「実は明日ね、訳あって学校サボるの。それで、建人くんの部屋ってうちの庭見えるじゃん?明日家を訪ねてくる奴に大事な用があるんだけど、お母さんに心配かけたりバレたくないから、建人くんの部屋で待ちたいなぁって思って!お願い!」
「…別にいいですけど。」
「ホント!?あ、ちゃんと建人くんママには私から事情を説明するから!」
「その必要はありません。私がうまい事話しておきます。」
「ありがとう建人くん!だぁいすきっ!」
「わっ、急に抱き着くのやめてください!」
ナナミンが自分の宿題を解いている間、私はお母さんと夕飯の支度を手伝った。ナナミンが宿題を終えて私を呼びに来たので勉強を教えた。夕飯が出来上がると、三人で夕飯を食べた。お母さんの好きな海老とブロッコリーのマカロニグラタン。ナナミンが帰ると、次はパパ黒が家を訪ねてきた。パパ黒が来たことに驚いているお母さんに、後で説明する、とだけ伝えて、部屋に上がってもらった。
「で、なんだ。」
「…どうしても、明日殺したい奴がいます。でもソイツの術式について、私はあまり分かってないです。だから保険です。」
「誰を殺したい。」
「…私のお母さんが狙われています。ソイツの目的は恐らく私の存在です。額に縫い目がある事と、明日お母さんが奴に襲われることだけがわかってます。」
「なんで理玖がソイツを殺さなきゃなんねぇ。他の奴に任せりゃいいだろ。」
「私がこの世に生まれた理由は、ソイツを殺す為です。」
「…意味が分かんねぇな。貸すのはナシだ。」
「そこをなんとか!お願いしますっ!」
「貸しはしねぇ。が、俺が代わりにソイツ殺してやるよ。」
「…え、」
「理玖が手を下すこたァねぇ。殺しは俺の仕事だ。聞いた限り、ソイツは呪詛師だろ。」
「…はい。」
「オマエの手を血に染めるのは俺が許さねぇ。」
「…甚爾様…!!好き!!大好き!!抱いて!!!」
「ハッ。」
急遽作戦に参加することになったパパ黒に、明日の作戦を説明した。悟と傑には明日事情を説明することにして、傑とパパ黒が奇襲と足止め、悟はお母さんの護衛、私がとどめを刺すという作戦に変更。パパ黒と二人を会わせていいものか本当はすっごく迷ったけど、羂索をここで殺さなければ後の未来は結局最悪な展開になってしまう。もう形振り構っていられないでしょ。パパ黒を見送って、私は部屋に戻った。
「あ、恵のこと聞き忘れてた。」
ま、いっか、今は明日に集中しよう…!