とうとう土曜日が来た。悟から今から迎えに行くというメールを貰ったのは、私がクローゼットの中の洋服たちに向けて、どれにしようかなをしていた時だった。
「て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り!…おお、これか。…うん、いいね、清純派理玖ちゃんって感じじゃん?」
なんだ、清純派理玖ちゃんって。とセルフツッコミをしながら手に取ったワンピースに着替える。白いレースのロングワンピースだ。…なんかウエディングドレスみたいって言われそう…。薄手のカーディガンでも羽織るか。着替えも化粧も髪のセットも終えると、荷物を確認して家を出た。家の前に悟が立っていた。…あれ、今日車じゃないんだ?
「着いてたならインターホン押せばいいのに?」
「……………。」
「悟?」
「…あ、いや、待ち合わせより、早く来すぎちまったから…、」
「そうだったの?家の中で待っててよかったのに。行こ?」
荷物の入ったミニリュックを背に、空いた右手で悟の左手を握った。悟と二人きりで過ごすのはなんだか久しぶりに感じる。
「今日はどこ行く?」
「…理玖、好き。」
「…ふふ、私も悟のこと好きだよ?」
「…っ、」
お、おい、悟くん?どうした悟くんや!?…スピーカーON。
【五条悟のスピーカーをONにしました。】
(今日の理玖めっちゃ可愛い…いや、いつも可愛いんだけど今日は一段と可愛すぎる。今日これ俺独り占めできんだよな?マジか…マジか!!!クソ、なんでエロい事禁止なんだよ、ふざけんなよマジぶち犯す。あああああクソ…っ!!!ちんこいてぇええ!!)
…うん、やっぱりそうなるのね?!?!?!可愛いね!?!?
「悟…大丈夫?」
「ぁ、な、何でもねぇよ。行くぞ。(くそ、落ち着け俺…。今日は理玖をエスコートすんだろ!!)」
「悟はどこ行きたい?」
「ホテル。(ホテル。)」
「え?」
「…じゃなくて、理玖の行きたいとこ行こうぜ。(ホテル行きたい、ヤりたい。)」
「…じゃあ、また行く?」
「どこに?」
「初デートした上野動物園。」
「…行く。(好き好き好き好き好き好き好き…、)」
「ぷ…、」
「何笑ってんの?」
「いや、悟が可愛くて好きだなぁって思って。」
「…可愛くねぇし。(可愛いのは理玖だろ。)」
2人で手を繋いで駅に向かって歩く。車道側を歩いてくれる悟が可愛い。可愛い!!!!電車に乗って上野を目指す。上野駅から少しして見えてきた上野動物園。6年振り、と言っても私からすればほんの何か月か振りのそこ。入場券を買って中に入る。
「ね、またパンダから見て行こうよ!」
...
廻神理玖。俺の初めての友達。俺の初恋の相手。俺の初デートの相手。俺の初キスの相手。俺の好きな理玖。
「ね、またパンダから見て行こうよ!」
そう言って俺の手を引く理玖が堪らなく愛おしくて、俺は手を引かれるまま歩いた。理玖が嬉しそうに笑うから、俺もつられて笑みが浮かぶ。
「理玖は神の子だから、様々な者達から狙われているんだ…。」
理玖の父ちゃん…織神さんが言っていた。理玖を守るために俺のいる学校に転校させたことも聞いた。呪力を切らせて死んだように眠る理玖の頬を撫でながら、俺は、
「理玖のこと、絶対守るから。」
「え?」
「…いや、何でもねぇ。」
嬉しそうにパンダを見る理玖の横顔を眺めて写真を撮った。シャッター音に気づいた理玖が恥ずかしそうに俺を見上げる。いつもの癖で傑に写真を送ろうとして、やめた。今日は俺だけが理玖を独占できる日なんだ。傑にもこの写真は見せたくない。理玖が好きだ。
「好き。」
「…もう、知ってるってば!私も好きだよ、悟のこと。」
「好き、理玖。好き。」
どうしようもないほど膨らんだ俺の理玖に対する気持ち。
「…悟?」
「…回らねぇの?」
「あ、うん、行こ!」
あの時の初デートと同じルートを辿った。その度理玖が嬉しそうに俺を見上げる。ああ、くそ可愛い。好きだ。どうしようもなく好きだ。抱きしめてキスしたい。そのまま理玖を俺のものにしたい。
「ね、前にさ、休憩所でジュース買ってくれたでしょ?あそこ行かない?」
「ん、いいよ。」
「もうボタン届くね!」
そう言っていたずらっ子みたいに笑った理玖。揺れた髪から匂った花みたいな香り。スカートを揺らして歩く理玖。休憩所で女子トイレに入っていった理玖を待つ。あの時は背伸びをしても届かなかった自販機のボタンも、今では余裕で手が届く。あの時と一緒でファンタグレープを買った。俺の名前を呼びながら小走りで戻ってきた理玖。買ったばかりのファンタグレープを見せれば、理玖が綺麗に笑った。
「悟、ジュース買ってくれてありがとうね!一緒に飲もっ!」
あの時と同じ言葉。蓋を開けて渡す。理玖がペットボトルに口を付けた。喉が上下して、それがなんかすっげぇエロく見えた。理玖が俺にペットボトルの口を向ける。
「間接チューだね?」
「っ、」
ペットボトルを掴んでそのまま理玖を引き寄せる。あの頃は同じくらいだった体格も、今では理玖が俺の腕の中にすっぽり収まるくらい、俺は大きくなった。腕の中で理玖が俺の名前を呼ぶ。いつもは煩わしく感じる周りの奴らの声も視線も、今は不思議と何とも思わない。腕を緩めて、俺を見上げた理玖にキスをした。一度キスしてしまえば止まらなくなった。理玖とのキスはいつも頭がクラクラして何も考えられなくなる。理玖以外のことが総てどうでもよくなるくらい。理玖が俺の胸板を叩いた。名残惜しくもゆっくりと唇を離す。赤くなった顔。手の甲で口元を覆って俺を涙目に見上げる理玖。
「さ、悟、人が見てるから…、」
「んなの見せつけりゃいいじゃん。」
「ま、待って、恥ずかしいから…ダメ。」
髪の間から見えた耳も真っ赤になっていた。クソ可愛すぎる。掴んだままだったファンタのペットボトルをあおって、飲み干した。半分以上入っていたそれを一気飲みした。胃の中から空気が上がってきて、ゲップが出そうになるのをこらえる。理玖が笑った。
「悟、飲みすぎ!」
「うっせ。」
「ほら、ペットボトル捨てて、次行こう?」
そう言って理玖がベンチから立ち上がった。ペットボトルをごみ箱に捨てて、理玖の手を握る。前と同じルートで回った後はフードコートに来た。ここも前理玖と一緒に来た場所だ。ミートスパを一つ買って、フォークも一つ。理玖と交互に食べて、食後にソフトクリームを食べた。口でしてる時みたいに下からソフトクリームを舐める理玖を見てちんこが勃った。
「そういえば覚えてる?お揃いで買ったパンダのキーホルダー。」
「大事にしまってる。」
「じゃーん、私今日持ってきた!」
「…俺も、」
理玖がリュックから取り出したキーホルダー。俺もポケットに入れていたそれを取り出す。チャリ、と揺れたパンダ。理玖が嬉しそうに笑う。
「理玖、俺を選んで。」
「え?」
「俺の全部、オマエにやるから、だから俺を選んで。」
理玖が目を泳がせる。
「…ごめん、悟。前にも言ったけど、私の術式にかかわるから、ごめん。」
そう言って悲しそうに笑った理玖を、俺はまた抱きしめた。わかってる。わかってはいるつもりだ。けどどうしようもなく胸が締め付けられて、心臓に鉛を吊るしたように重たくなった。
「ごめんね、悟。でも、悟のこと本当に大好きだよ。」
そう言って理玖が俺の背中に手を回した。…ズルいだろ、それ。理玖は、いつもズルい…。