公園から家までの道のり、悟は私の手を繋いで無言だった。気まずいいいいいい…!!え、これどうしたらいいの!?だってこんな、え、ちょ、ヤバくない!?いきなりこんな事になるなんて予想してなかったし!!ヤバい、とりあえず冷や汗止まんない。明日私傑とデートしたらどうなるのこれ、めっちゃ怖いんだけど…!え、ど、どうすればいい…!?マジでどうすればいい!?!?
「…着いた。」
「え、あ、送ってくれてありがとう、また月曜日ね…?」
「…明日、行くなよ。」
「そ、それは…、」
「見てるからな。」
「え…、」
「じゃ。」
「…あ、うん、気を付けて…、」
悟が背を向けて帰って行く姿を見ながら、私はその場にしゃがみ込む。やべぇえわ。え、どうしよう、見てるってどういうこと?明日の傑とのデート、悟に監視されちゃうってこと…?ま、ええぇぇ!?え、ちょ、えぇぇえ!?
「ヤバいって、悟ヤバいって、」
家に入って洗面所に向かう。鏡を見れば私の首には悟が嚙んだ傷があった。アイツ…絶対犬歯で嚙んだだろ…!めっちゃ痛かった…。傷口を優しく洗ってタオルで拭う。まだ血が出ているらしい。どうしよう、明日これ傑に会ったらなんて説明すれば…、
「理玖−?」
「あ、今行くー!」
タオルを洗濯籠に入れてリビングに行くと、お母さんが料理の乗ったお皿を並べながら私を見た。
「あら…、首どうしたの?」
「な、なんか噛まれた…、」
「何に?」
「…悟…。」
「まぁ、中学生でもうそんなことしてるの!?」
「ち、違うの、悟がちょっとおかしくなって!」
私はお母さんに悟の奇行を話した。突然の嫉妬と私を独占しようとする悟の行動。お母さんは真剣に話を聞いてくれた。
「…悟くんは御三家で、しかも最強とまで呼ばれて大変な境遇でしょ?理玖の存在が心の救いだったんじゃないかしら?だから今日のデートで理玖のことを久し振りに独占できて、嬉しかったのよ。傑くんと取り合ってないだけまだ平和だったのね。」
「でも明日は傑とデートなんだけど、何するかわからないって言われて…正直めっちゃ怖い。」
「いいじゃない、デートしなさい。悟くんも月曜日になれば元に戻ってるはずよ。いつも3人で過ごしてるんだから、ね?」
「…そうだといいな…。」
「何かあったらお母さんに連絡して。助け舟を出してあげるわ!」
「う、うん、期待しておくね。」
翌日、クローゼットで服を選びながら、首の傷を鏡で確認する。赤くなったそこをどうやって隠そうか…。服を着替えて化粧をして髪型もセットすると、時間まで余裕があるのでリビングに向かった。携帯を確認すれば悟から鬼のように着信が来ていたらしい…。マナーモードにしてて全然気づかなかった…。傑からはそろそろ着くよ、という内容のメールが来ていた。
「あ、丁度良かった、理玖、これつけていきなさい。」
「なに?」
「今日の服ともバッチリ合うわね!これなら傑くんに首の傷がバレないでしょ?」
そういってお母さんがフリルチョーカーを首に巻いてくれた。な、なるほど、その手があったか!!!
「おかあさんありがとうううう!!」
「はいはい、何かあったら連絡しなさいよ?それとあまり遅くならないこと。」
「うん!」
インターホンが鳴って玄関を開ける。傑が私を見てにっこり笑った。
「や、待たせたね。行こうか。」
「うん!お母さん行ってきます!」
「はーい、いってらっしゃい。」
傑と手を繋いで家を出た。昨日買った傑へのお土産を渡すと、傑は嬉しそうに笑ってくれた。
「理玖はどこに行きたい?」
「んー…どこでもいいよ?傑は?」
「私も、理玖と一緒ならどこでもいいよ。」
「あはは、決まらないやつだね?じゃあ…水族館とか?」
「いいね、実は候補は調べておいたんだ。」
「え、調べてたなら最初から言ってくれたらいいのに!」
「悟とかぶっていたらと思ってね、」
悟の名前が出て、私はぎくりとしてしまう。悟は昨日見てるって言ってたから、もしかしたら今もどこかから私と傑のことを…、
「理玖?」
「え?あ、ごめん、何でもないよ!今日は悟の話はなしにして、2人でデートを楽しもうよ、ね?」
「ああ、そうだね。」
傑と水族館に行って、魚やペンギンたちを見る。イルカのショーも見て、水をかぶって笑いあった。やっぱり傑と一緒にいると落ち着くなあ。服がちょっと濡れちゃったけど、イルカショーもアシカショーも見て楽しんだ私たちは、水族館を出た。近くのファミレスでお昼ご飯を食べることになって、席に座る。ふと携帯で時間を確認しようと開いて、ギョッとした。悟からの恐ろしい数の着信と、メールの数々。…ど、どうしよう。そう思っていると、傑の携帯が鳴った。傑が電話に出る。
「…悟か、どうしたんだい?」
「え…、」
「…いや、今お昼を食べようと思って、…え?いや、ちょっと待ってくれ、今日は私が理玖とデートを、」
「傑…?」
「…すまない理玖、悟が、」
「…悟が…、ちょっと変わってもらってもいい?」
「…ああ、いいけど、」
傑から携帯を借りて電話に出る。私が出たことに悟は少し驚いたらしい。
「もしもし、悟、」
『理玖、今どこいんの。なんでメールも電話も無視すんの?』
「昨日も言ったけど、今日は傑とデートの日なんだから、やきもち妬かないでよ…。じゃないと悟のこと嫌いになっちゃうからね!?」
『…、』
…嫌いになるはさすがに言い過ぎたかな…。で、でも、そうでもしないと今日を楽しめないし…。
『…ったよ…、』
「え?なに?」
『わかったよ!!』
電話が切れた。私は傑に携帯を返して溜息を吐く。困ったなぁ…。傑が私を心配そうに見ていたので、大丈夫、と笑顔を向けておいた。
「…理玖、すまない。」
「傑のせいじゃないよ、むしろ私が悟を甘やかしすぎたから…。」
「…今日は悟を忘れて理玖を楽しませれるように、私も努力するよ。」
「ありがとう、傑…大好きだよ。」
「ああ、私も理玖のこと大好きだよ。悟に渡したくないくらいにね。」
【夏油傑の好感度が反転しました。今後は好感度の変動に注意してください。】
えぇぇええ!?!?!?スグータス、オマエもか!?傑のハートがグレーになっていた。え、もう、なんでこんなことになるの…!?傑が私を見てにっこりと笑った。
「す、傑くんや…、私は私のものだからね?誰のものにもならないからね…?」
「私のものになるまで愛するまでだよ。もちろん、私のものになった後も愛してあげるから、心配しないで。」
うん、なんでこんなんばっかり…!?!?ご飯を食べ終えてファミレスを出ると、傑が私の腰を抱いた。…ち、近い…近いでっせ傑くんや…。傑に連れられるまま近くの公園に来た。木陰のベンチに座って、傑が私の肩に手を置いて引き寄せる。
「私はね、理玖。」
「はい…、」
「こう見えて嫉妬深いんだ。」
「…はい。」
「悟と二人で過ごした小学校時代の理玖を知らないから、正直東京に来るまでは内心穏やかじゃなかったよ。理玖が悟と付き合わないかとか、悟とキス以上のことをしていないかとか、」
「し、してません…、」
「本当に?」
「んっ!」
耳元で囁かれて、思わず肩が跳ねる。んんん声がいい…っ!!って喜んでる場合じゃねぇやい!!傑が私の顎をくいっと掴んで目が合う。傑の唇が触れた。言葉とは裏腹にとても優しい口付けだった。んんんときめかせてくるねぇえええ!?!?!?!
「初めて会った時から理玖のことが気になって、いつの間にか好きだと思った。呪霊を取り込んだ後は酷く嫌な味がしていたのに、理玖とキスをすれば嘘みたいに甘く満たされた。」
「…そ、それはよかった…。」
「…理玖、君は一体何者なんだい?」
「…っ、」
「思えば、違和感は多々あった。呪霊操術についてやけに詳しい。私や悟よりも大人びているし、術式も特殊だ。」
「…神の子って、お父さんに聞かなかった…?」
「ああ、聞いたよ。けど、いくら何でも知りすぎだと思ったんだ。…あの日だって、なぜ額に縫い目のある人物が家に来ると分かっていたのかと思ってね。…未来でも見ているのかな?」
「…、」
…ある意味未来は見ている…いや、見てきたけど…、それを言うことはできない。羂索を祓ったとはいえ、傑が呪詛師になるフラグを全部折ったわけじゃない。
「ごめんね傑、何も…言えないの。」
…どうしよう…。私は両手で顔を覆った。