公然の秘密


「すまない、理玖。」

傑の手が私の頭に乗った。

「君を困らせたいわけじゃないんだ。ただ、どうしても気になってしまってね。」
「…私こそ、何も話せなくてごめんね。」
「…術式が絡んでいるんだろう、無理に聞く気はないさ。」
「…前も少し話したけど、私の術式には縛りがあるから…。」

そういうと、傑はくすりと笑う。傑を見れば、いつもの優しい笑みで私を見ていた。

「…ねえ傑、何があっても世界に絶望しないでね。私も悟も傑の味方だし、私たちは3人でひとつだよ。楽しみも悲しみも苦しみも、3人で分け合ってずっと一緒にいよう。」
「…そうだね。」
「私たちは運命共同体だよ。」
「…ふふ、そうかい。」
「皆で呪術師になって、たくさんの人を助けるの。」
「うん、いいね。」
「それで…、それでね、」

それで、私は何がしたいんだろう。3人で呪術師を目指して高専に通って、星蔣体の任務を遂行する…?いや、天内理子を救う選択をするんだ。…それで天元様はどうなる?原作同様同化をしなくても大丈夫なんだろうか?パパ黒は?星蔣体に懸賞金をかけて、悟を瀕死にして、傑も重傷、私にそれを防げる…?灰原だって、美々子と菜々子だって、パパ黒の死だって、津美紀の呪いも、虎杖の宿儺受肉も、全部全部回避しないと、助けないと、でも助けてどうなる?その先は?それ以外の人は?私は私が知っている人しか救えないの?そもそも私に全部できるの…?

「廻神理玖…なにも、分かっていないな…。」

「理玖?」
「!」
「大丈夫かい、顔色が優れないようだけど。」
「…あ、ごめん、何でもない。」
「もう少し休むかい?」
「…いや、時間が勿体無いから次のところに行こうよ。」
「行きたいところがあるんだ、一緒に来てくれるかい?」
「勿論!」

あー…ダメダメ、今は傑とデートなんだから、変なことに頭使っちゃだめだ、切り替えて私。傑と手を繋いで歩き出す。どこに行く気だろう。たどり着いたのはゲームセンターだった。傑が私の手を引く。階段を上ってフロアの奥に進めば、四角い箱が並んでいた。

「プリクラ?」
「一緒に撮りたいんだ、どうかな?」
「うん、撮ろう!」

小銭を入れてカーテンの中に入る。荷物を画面の脇に置いて案内の声に従って画面を操作する。

「理玖、プリクラ初めてかい?」
「あー、昔めっちゃ撮ってた。最近のはわかんないけど。」
「悟と?」
「わ、こんなんだったなぁ、懐かしい!…あ、いや、うん、悟以外のね、その学校の友達とね?」
「…ふふ、そうかい。」

…ヤバい、なんか自爆した気がする。傑は深く聞いてこなかったけど、私は内心ひやひやしていた。背景やフレームを選んで撮影がスタートすると、カメラを見ながらポーズをとった。傑も私に寄り添って優しい顔で笑っている。次のポーズを考えていたところで、傑が私の顎を掬い上げた。

『はい、チーズ!』

陽気なアナウンスの声を聴きながら、私たちはキスをした。傑の舌が唇から割り込んで、私の舌を絡めとる。最後のシャッター音が鳴るまで、私たちはひたすらお互いを貪るようにキスをした。落書きコーナーに移って、適当にデコレーションをしてプリントされたそれを手に取る。…うん、見事に最初の1枚を除いてちゅープリになりました。傑の分をハサミで切り取って渡すと、傑はそれを長財布にしまった。私もリュックにしまって傑と手を繋ぎなおす。気付けば好感度は16%まで戻っていた。

「ありがとう、一生の宝物だよ。」
「そんな大げさだよ〜!でも、また撮りたいね?今度は3人で撮る?」
「そうだね、悟が拗ねそうだから次は3人で撮ろう。」
「あ、ねえクレーンゲームしない?私得意なの!」
「いいね、どれをやろうか?」
「…そうだね、あ、これ可愛い!だれぱんだ!」
「パンダが好きなのかい?」
「ふふ、そうだね、好きだねぇパンダ。」

ショーケースの中でぐったりとしているパンダのぬいぐるみを見つめながら、財布を取り出そうとリュックに手をかける私の手を、傑が止めた。

「私にやらせてくれるかな。」
「お、傑得意?」
「実を言えば初めてだけれど、私が取って理玖にプレゼントしたいんだ。」
「…ふふん、じゃあお手並み拝見!」

傑が財布から小銭を取り出して入れた。陽気なメロディーが流れ始めて、傑が矢印の書かれたボタンを押す。グラグラと揺れるアーム。2本のポールの上に乗せられただれぱんだの間を目指してアームが動く。アームが開いてだれぱんだの体を掴んだ。

「お!?」
「いったか?」
「…あ、ああぁ…!!!」
「…もう一回やらせてくれ。」
「大丈夫、もう一回やれば落ちる!」
「………ふぅ〜…、」

小銭を入れて傑が大きく深呼吸をした。さっきと同じようにアームを動かして、だれぱんだの真上にアームが止まる。

「あ…、あっ!」
「理玖…、」
「ああっ!傑っ!」
「…可愛い声を出さないでくれるかな、その…、」
「あああっ!やった!やったよ傑!」
「…まあ、いいか。」

ポケットに落ちただれぱんだを取り出して抱きしめる。傑が私を見て優しく笑った。

「傑、2回目でとれるなんてクレーンゲーム上手かもよ?」
「そうかな?どうしても理玖を喜ばせたかったから、頑張ったかいがあったよ。」
「ね、本当にもらっていいの?」
「いいよ、そのために取ったんだから。」
「ありがとう、傑!」
「どういたしまして。」

それから私も傑に御茶犬のぬいぐるみを取ってあげた。他にもお菓子のクレーンゲームでんまい棒を取ったり、ハイチューを取ったりして気付けばお財布が軽くなっていた。

「…帰りどうしようか?電車賃ある?」
「…ギリギリ一人分だね…。」
「無計画にやりすぎちゃった…調子に乗っちゃったよぉ…。どうしよっか、どうやって帰る?」
「…悟を呼ぶかい?」
「…でも、折角2人きりのデートだよ?」
「…足に使うようで悪いけど、悟も理玖に会いたがっていたからね。」
「…じゃあ、足に使って、3人でご飯食べる?勿論悟の奢りで!」
「はは、それはいい。」

そうと決まれば、だ。私は携帯を取り出し悟に電話を掛ける。ワンコールで繋がった。もしかして連絡待ってた…?

『…なんだよ。』
「悟、お迎え来てほしいな…ダメ?」
『…今どこ。』
「今ね、池袋!早く悟に会いたいから、車で来てくれる?」
『…傑は、』
「傑もいるけど、私は悟にも会いたいなぁ…?」

にやける顔でそう言いながら傑を見れば、傑も意地の悪い顔で笑っていた。

『…ふん。別に、行ってやってもいいけど。』

そう言いながらも電話口でどったんばったんと音がする。ほんとかわいいなコイツ…。

「ありがとう、悟!さっきは嫌いになるとか言ってごめんね?悟のこと大好きだよ?」
『…お、俺も、理玖のこと大好き。』
「じゃあ、待ってるから、近くに来たらまた連絡してくれる?」
『わかった。』

電話を終えると、私と傑はお腹を抱えて笑った。

「そうだ、さっき撮ったプリクラは、悟には内緒ね?」
「どうしてだい?」
「私と傑だけの秘密の宝物だから。」
「…いい秘密だね。わかったよ、悟にはバレないように大事に保管しておく。」
「バレたらハサミで切り刻まれそう…。」
「それは嫌だな。」

悟の迎えが来るまで駅の近くのお店を見ながら時間を潰した。お母さんにも夕飯を食べて帰ることを連絡しておいた。悟から電話がかかってくると、分かりやすい場所で待機した。

「悟、迎えに来てくれてありがとう!今から3人でご飯行かない?」
「…いいけど。」
「もう、まだ怒ってるの?折角のイケメンが台無しだぞ〜?」
「悪いね、悟。」
「…何そのパンダと犬。」
「ああ、クレーンゲームで遊んだんだ。」
「お菓子もとったよ、悟にもお裾分け!」

リュックと袋からお菓子を取り出して悟に渡すと、悟は一瞬だけ嬉しそうな顔になった。と思いきやすぐにいじけ顔に戻る。可愛いな、何だこの可愛い生き物。

「これで許すと思うなよ。」
「せっかく傑と一緒に、悟のために取ったのに…。」
「私達のお小遣いを使い切ってまで、悟のために頑張ったんだけどね…。」
「…ま、まあ、別に、許してやらんこともない。」
「じゃ、ご飯行こ?勿論悟の奢りね?」
「はぁ?財布持ってきてねぇよ。」
「え〜?」
「…オイ、財布は。」
「え、わ、私ですか?!も、って、ますけど…、」
「じゃ、コイツの奢りで飯行こうぜ。」
「えぇっ!?」
「いいね、焼き肉なんてどうかな?」
「回らないお寿司もいいよね?」
「そ、そんなぁ…!」
「ふざけんな、どっちもだろ。」
「悟様!?」



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