夜蛾さんに連れられて向かったのは遺体安置所だった。どうやら、遺体を解剖した後らしい。呪霊が人間の体を乗っ取って人間に紛れていたなど恐ろしいことだ、研究が必要だ、と上層部が騒いだらしい。なるほど、流石は腐ったミカンのバーゲンセール。
「この遺体、私が消します。」
「消すだと?!」
「実を言うとちょっと引っかかることがありまして、」
引っかかる事、それは羂索の最期の言葉だ。
「廻神理玖…なにも、分かっていないな…。」
これは私の仮説。もしかしたら羂索は既に高専の上層部と繋がっている。虎杖悠仁が生まれているかどうかはまだ確認していないけど、生まれていたとすると、宿儺の器は既に完成しているわけだから、羂索がいなくとも宿儺を蘇らせる計画自体は可能だ。そして羂索の術式は脳みそを入れ替えると、相手の術式を使用できるというもの。反転術式も可能。羂索の本体があの脳みそかどうかもよくわからない。そもそもアイツって脳みそだけの呪霊?呪詛師?それとも本体がちゃんとある呪霊?呪詛師?どっち?
「とにかく、この遺体を残しておくと後々面倒なことになるかもしれません。確証はないですけど。…ホントのことをいうと既に面倒なことは起きてると思いますが…。」
「…何を知っているんだ。」
「言えません。」
「…上に確認する。」
「上層部には、私がやったと伝えてください。」
「…何故そこまでする。」
「これ以上不幸を生まないためです。恐らく上層部の誰かと、この人物は繋がりがあります。」
「なぜそんな事を言いきれるんだ。」
「それも言えません。」
「言えないことばかりだな。上層部は納得しないだろう。」
「そしたらもう直談判です。あ、もしかしたら何人か死んじゃうかもしれないですけど、その時は許してくださいね?」
「なんてことを言うんだ、全く。」
「とにかく、摘める芽は摘まなきゃいけないので。セレクト。」
【羂索の器があります。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:120)】
【1.消滅させる 2.復元させる 3.なにもしない】
「おっと…そう来たか…。」
何、復元させるって!?!?復元させたら羂索生き返ったりしない!?いや無理無理無理無理!怖すぎる!1番しかないでしょ!!!
【1.消滅させる を選択しました。呪力を50消費しました。(残り呪力:70)】
突如遺体がぐしゃりと圧縮されたと思いきや、塵になって消えた。夜蛾さんが驚いた顔で私を見ている。いや、正直私も驚いてる。
「全く分からん術式だな…。」
「あはは、実は私もよく分かってません!上層部の人と話します。案内して欲しいです。」
「…本当に良かったのか?」
「勿論。」
とか言った私は本当にバカだった。呪力使いすぎたかも。もし上層部と喧嘩になったとして、私残りの呪力で腐ったミカンを踏みつぶせるか?無理だろ…。どうしよう。夜蛾さんの後に続きながら頭を悩ませる。そうこうしている内に上層部に通じる部屋に着いたらしい。ふむ…ここは0巻で五条先生が乙骨の件で話していたところだ…!まんまだ!!!テンション上がるじゃん!!!ほんでもって乙骨もここ来てたよねぇ!!やっべ、聖地巡礼あざます!!って、盛り上がってる場合じゃない…!漫画で見た通り、障子でぐるりと囲まれた円の中心に立つ。ゼ〇レじゃん…。
「何の用だ、廻神理玖。」
「初めまして、上層部の皆さん。事後報告ですみませーん、あの遺体は処分しましたー。」
「あの遺体…?」
「処分しただと…!?」
「何を考えているのだ貴様!」
「おやおやー、なんかめっちゃ慌ててますけど、どうしたんですか?神様のお告げですと、どうやらこの上層部に、あの遺体と繋がりのある人物がいるらしいんですよー。で、誰だろう?と思いまして、今日は忠告だけ。」
「一体何の話をしているんだ!」
「小娘が、我々を愚弄する気か!!」
「貴様の等級を廃止してもよいのだぞ!」
わーお、めっちゃ荒れてんじゃん。ウケるー。ま、正直あんまり深く考えてないんだけど、どうしようかなぁ。セレクト。
【上層部はあなたに反発しています。選択してください。選択すると呪力を50消費します。(残り呪力:71)】
【1.あなたに反発する者を殺す 2.あなたに反発する者の術式・呪力を剝奪する 3.なにもしない】
うっわ、なんか面白そうなの出てきた。もはや何でもありかよ!そりゃ2番だわ。
【2.あなたに反発する者の術式・呪力を剥奪する を選択しました。呪力を50消費しました。(残り呪力:21)】
「あら不思議☆神様仏様がお怒りになったようですね。もはやあなた達は呪術界に必要ないということらしいので、さっさと退散してくださーい。それと、あの遺体との内通者に関しては、これだけでは済みませんから、覚悟してくださいね?神様仏様は、ちゃんと見てますから。」
上層部の間を出ると、ドッと疲れが押し寄せた。いやぁ…呪力足りてよかった…いやあああ…腐ったミカンのバーゲンセールだったわあああ…。ゲッソリ顔の私を見て、夜蛾さんが苦笑いをした。
「家まで送ろう。」
「あ、ありがとうございます。あ、大事なことを忘れてました。」
「またか。今度はなんだ。」
「…人を探して欲しいんです。虎杖仁という方を。なる早でお願いします。」
「…それも理由は言えない、か?」
「謎の多い女は嫌いですか?」
「フッ、嫌いじゃないな。」
「ふふ、良かったです。私も夜蛾さんのこと大好きですよ〜!」
ちゅ、っとほっぺにキスをしてやった。驚いた顔をした夜蛾さんを置いて、私は見知らぬ補助監督の運転で高専を後にした。虎杖仁、虎杖悠仁のお父さんだ。羂索の器を消滅させちゃったけど、今更になって悠仁が生まれてない気がして私は内心焦っている。
「今回ばかりは選択ミスった気がする…。遺体を復元させるってきっとそういうことだった気がする…。うわああやばっ、どうしよう悠仁生れてなかったら…。」
夜蛾さんから連絡が来たのは、それから2日後のことだった。私の予想通り、虎杖悠仁は生まれていなかった。
「…どうしよう…。やっちまったよなぁ…これまずったよね!?うわあああ…。」
学校を休んで、一人で虎杖仁の住む家に向かう。夜蛾さんからもらった報告書に記載された住所に。虎杖仁は小さなアパートに住んでいるらしい。どきんどきんと心臓があらぶっている。今日は悟と傑には適当な理由で学校を休んだから、さっきから電話とメールが止まらない。けどこれは後で何とでもなる。問題はこっちだ。音符のマークが描かれたインターホンを押す。部屋の中でピンポーンと鳴っているのがドア越しに聞こえて、若い男の人の声がした。
「はい、どちら様ですか?」
「…虎杖…仁さんですか?」
出てきたのは悠仁に似たのピンク髪の男性だった。私を見て首を傾げたその人に、私は大きく頭を下げた。
「突然押しかけてすみません、私は廻神理玖と申します。香織さんに会わせてください!」
「え?」
「とても大事なお話があります。なので、香織さんに会わせてください。お願いします。」
「えっと…、とりあえず中にどうぞ?」
「…お、お邪魔します。」
通された部屋は家具が最低限しかない殺風景なものだった。箪笥の上に置かれた写真立てに目が釘付けになる。目の前の人物と寄り添って笑顔を向ける女性が映った写真。見たことない人だから、きっとこの人が香織さんだ。仁さんは私に座るように勧めた。
「香織は今、入院してるんだ。」
「え…どこか悪いんですか?」
「…ちょっと体がね…。」
「お会いすることはできますか?!どうしても、香織さんに会わないといけないんです。」
「ああ、勿論。けど、香織とどういう関係なのかだけ、聞いてもいいかな?」
…ど、どうする…?!関係性なんて全くの無関係だしな!?!?親戚?いとこ?いや、遠縁の親戚とでも言っておくか!?神様仏様、今回はちょっと嘘吐くけど許して下さああああい!!!
「そ、の…遠縁の親戚なんです…。香織さんの存在を知ったのはつい最近で、けどどうしても会っておきたくて…。」
「そうだったんだね…。」
ちらりと仁さんが壁に掛かっていた時計を見た。そして私に優しく微笑む。え、今の嘘信じたの?マジ!?超いい人じゃん!?!?!?ああああ…だから羂索に…!?!?!あの腐れメロンパンめ!!!!
「実は、今からお見舞いに行こうと思っていたんだ。理玖ちゃん、だっけ?一緒に行くかい?」
「いいんですか!?」
「うん、香織も喜ぶよ。」