ヒーローじゃないと言われても


香織さんはたくさんの管に繋がれていた。聞けば、原因不明の病で突然倒れたと。あの手この手で治療をしたものの、結果的には植物状態。けど、私は一目見て分かった。羂索の残穢。きっとアイツが香織さんを呪ったんだ。仁さんが集中治療室のガラス越しに香織さんを見つめていた。そして振り向いて私に力なく笑いかけた。香織さんのすぐ傍で緑の線が波を打っていた。

「ごめんね、どうしてこんな事になったのか原因がわからないらしいんだ。」

どことなく悠仁に似てるその顔に胸が締め付けられた。私にできることはないだろうか。お願いします、神様仏様。セレクト。

【虎杖香織が呪われています。選択してください。選択すると呪力を100消費します。(残り呪力:120)】
【1.解呪する 2.なにもしない】

「仁さんは、神様を信じますか?」
「…神様に祈っても、香織は…、」
「じゃあ、私のことは信じてください。」
「え?」
「私があなたの神様になりますから。」

1。

【1.解呪する を選択しました。呪力を100消費しました。(残り呪力:20)】

緑の波がさっきとは違う波を立てていた。近くにいた看護師がそれに気づいて香織さんに駆け寄る。香織さんに何かあったのかと、仁さんもガラスに張り付いて様子を窺う。突如、香織さんが目を覚まして体を起こした。

「香織…!」
「もう大丈夫ですよ、仁さん。」
「理玖ちゃん、一体何を…?」
「内緒です。」

ガラスの向こうでバタバタと医師や看護師が駆け回った。仁さんと通路のベンチに座って、医師に呼ばれるのを待った。香織さんは今までの状態が嘘のように動いていた。病室に通された私たちに、香織さんは写真で見たままの笑顔を向けた。仁さんが香織さんに駆け寄って、2人は熱い抱擁を交わす。さて、もう一仕事できるかな。セレクト。

【虎杖香織は虎杖仁と結ばれています。選択してください。選択すると呪力を10消費します。(残り呪力:24)】
【1.確実なものにする 2.なにもしない】

「仁さん、こちらの方は?」
「あ、」
「初めまして、香織さん。廻神理玖といいます。どうしてもあなたに会いたくて、仁さんに連れてきてもらいました。」
「理玖ちゃんが君の体を、」
「仁さん、」
「ん?」
「仁さんは、香織さんのことを愛していますか?」
「え、それは、勿論!」
「香織さんは仁さんのことを愛していますか?」
「ふふ、突然そんなことを聞かれるなんて恥ずかしいわ。でも、愛しています。」
「じゃあ、私にその愛を誓ってください!必ず元気な子供が生まれることを祈ってますね!あ、男の子ですよ!」

1。

【1.確実なものにする を選択しました。呪力を10消費しました。(残り呪力:14)】

「それじゃ、お幸せに!」

私は病室を後にする。

「理玖ちゃん…、」
「あの子、一体何だったの…?」
「香織の遠縁の子だって聞いたんだけど、」
「え…?そんな子いたかしら…?」
「え?」




くぅ〜!今の私ちょっとカッコよくなかった!?ちょっとヒーロー感あったよね!?あったよねぇっ!?いやぁ、いい仕事したわぁ!ぐぐぅ〜っと伸びながら病院を出ると、見覚えのある厳つい顔のおじいちゃんがタクシーから降りてきたところだった。あれって、悠仁のおじいちゃんじゃね?私の横を早足で通り過ぎたその人を見送って、次の客を待つタクシーに乗り込んだ。家の住所を告げて、タクシーが動き出す。タクシー代は後で夜蛾さん宛てに領収書を送り付けるつもりだ。家に着くとドッと疲れが押し寄せた。ふぃ〜緊張したぜぇ…呪力足りてよかったぁああ…。自分の部屋でベッドにダイブしていると、携帯が震えた。そういえば忘れてたわ。着信は悟と傑両方から何件も着ていたし、何ならメールだって1分おきに来ていた気がする。よく充電持ったな?!携帯を開いて着信相手を確認すると、私はすぐに通話ボタンを押した。あと疲れも全部吹っ飛んだ。

「もしもし、甚爾様!?」
『うるせえ。』
「2週間ぶり?ですね!その節はお世話になりました!どうしたんですか?」
『今近くまで来てる。家の前で待ってろ。』
「デートのお誘いですか!?そ、そんな!!妻子持ちの甚爾様とデートなんて、なんて不純な…!」
『俺の呼び出しが聞けねぇのか。』
「すぐに準備しまっす!」

電話が切れると私は慌てて服を着替えた。パパ黒好みの清楚かつ大人っぽい服に着替えると、髪型と化粧を確認して家を出る。門の前で鼻歌交じりに待っていると、一台の黒塗りの車が近付いてきた。見覚えがある人物が乗っている。あれは孔だ!

「よ、久しぶりだな理玖ちゃん。元気にしてたか?」
「お久しぶりです、孔さん!めちゃくちゃ元気ですよ!」
「そいつはよかった。後ろ乗ってくれ。」
「はーい!」

後部座席のドアを開けると、足を組んで座るパパ黒の姿が。ぴぇえん、いっけめぇん!後部座席に座ってドアを閉めると、再会を祝してパパ黒の首に抱き着いた。恵ママごめんっ!パパ黒借ります!!

「元気そうだな。」
「お陰様で、もうすっかり元気です!甚爾様今日も素敵ですね!好き!抱いて下さい!」
「あーはいはい。」
「いやん、冷たい甚爾様も大好きです!」
「相変わらずだな理玖ちゃん。」
「あ、勿論孔さんも大好きですよ!」
「そいつは嬉しいことを聞いたな。」
「それで、今日はこれから一体何処へ!?」
「金が入ったからな、呪具を仕入れに行く。欲しがってたろ。」
「え?」

欲しがっていた?呪具欲しいなんて言ってたっけ、記憶記憶〜…。あ、言ってるわ。記憶の中の自分がパパ黒に、なんかいい呪具くれって話してた。

「まさか、買ってくれるんですか!?」
「まあな。」
「は、激しくすこなんですけど!?」
「は?」
「え、もう結婚します?私たち結婚しますか?」
「禪院はもう既婚者だぞ、理玖ちゃん。」
「あああああ…そうだったっ!!!!日本の法律変えましょう。一夫多妻制にしましょう!?」
「無理だろ。」
「(今日も絶好調だな、理玖ちゃんは。)」

孔の運転で連れてこられたのは明らかにヤバい取引してそうな海辺の倉庫だった。これあれじゃん、絶対ヤの付くお仕事の人たちが使うようなとこじゃん…。私がきょろきょろしながらパパ黒の後に続く。もちろん私のことが大好きなパパ黒は私の手をしっかり握っている。もちろん恋人繋ぎだ。はぁあああすこ…!!!

「待たせたな。」
「来たか。」
「で、ブツは?」
「ここに。その娘が神の子か。」
「そうだ。先にそっちを渡してもらおうか。」
「フン、いいだろう。」

取引相手はいかにもヤバい奴って感じだった。うん、あなたヤの付くお仕事の人ですよね!?絶対そうですよね!?

「ほらよ、特級呪具、俱利伽羅不動明王の十手だ。」
「…フン、確かに。ほらよ、好きにしろ。」
「え?」

気付けば私はパパ黒から押されてヤの付くお仕事の人の前にいた。え?は?どういうこと?パパ黒を見れば、ニヤリと意地の悪い顔をして私を見ていた。ま、まさか…私と今の特級呪具を交換したと…!?はっ!?嘘でしょ!?!?

「と、甚爾さま!?」
「悪いな理玖、これが欲しけりゃオマエを渡せって条件だったからな。ま、もう渡しちまったからあとはオマエがどうにかすれば問題ねぇ。」
「えぇ…!?」
「騙したのか!!」
「人の話聞いてたか?渡しただろ。あとはソイツの意志の問題だ、俺には関係ねぇよ。」

つまり、私と呪具の交換は済んだから、あとは私の意志でこの状況を打開すれば問題ないってこと…?パパ黒を見れば呪具を手でクルクルとまわしながら私を見ていた。んんんんんもうっ!!!!!そんなところもしゅきぃぃいいい!!!!!!スカートが捲れるのも構わずにヤの付くお仕事の人に全力の金的蹴りをお見舞いする。

「ハゴァッ!!」
「いやぁああ!!ぶにゅってしたぶにゅってしたあああ!!!気持ち悪い!!もう!!嫌い!!!」

ダムダムと倒れた男のおちんを踏みつけて、ふぅ、と一息。額の汗を拭ってパパ黒に慰めてもらおうと思って振り向くと、パパ黒も孔もおちんを両手で覆って顔を真っ青にしていた。

「…てへっ☆」

私は最上級に可愛い笑顔ですっ呆けたけど…うん、無理か。



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