「で、残りはどうする?」
悟が崖の下を覗きこんだ。白蛇ちゃんの解説によると、どうやらムカデ呪霊は本当に崖下に突き落とされた人身御供が呪いになったものだったみたいだ。たくさん手をつけてムカデになったのは、まだ生きたかったとかそういう無念を残した者たちが崖を這いあがるために繋がったらしい。それ以外にも口減らし目的で崖下に落とされた命が多数あったそうだ。崖下で蠢いている呪霊たちは、恐らくそれらから成ったもの。この崖はそれらに引き寄せられて自殺スポットへとなり替わったらしい。傑のランタン呪霊が崖下を照らした。蠢く呪霊たちが幽かに照らされて見えた。きっしょ。
「傑、欲しいのある?」
「いや、他は全て低級呪霊だからいいかな。」
「じゃ、俺が片付けるね。」
そういうと、悟はすいーっと崖下に降りていくと、蒼で呪霊たちを一気に祓った。またすいーっと戻ってきた悟は涼しい顔をしていた。
「終わり。」
「さんきゅー!」
「これで解決でいいのかな?」
<ありがとうございました。>
「あとはこの崖封鎖しないと、また悪循環しそうだね?」
「報告書に書いて提出すりゃいんじゃね?」
「そっか、その手があった。」
「白蛇はどうするんだい?ここの土地神の様なものだろう?」
「祠に戻せばいいのかな?」
<はい。>
「よし、祠に戻ろう!」
祠に白蛇ちゃんを戻して、私たちは山を下りた。夜も遅くなってしまったので帰りがけにコンビニでおにぎりやホットスナックを買って、車の中で食べながら帰ることに。運転手さんにコーヒーを差し入れしたら泣いて喜ばれた。高速に乗ってすぐに見えたお城。悟が指をさす。
「なにあの城。」
「ラブホじゃない?」
「ラブホだね。」
「マジ?行こうぜ?」
「もう高速に乗ったから無理だろう。」
「んなの引き返せばいいじゃん。」
「早く帰らないとお母さんに外出禁止食らうからパス。」
「えー。つーかなんで2人ともあれがラブホって知ってんの?」
「田舎あるあるじゃない?」
「田舎あるあるだね。」
「マジ?」
私と傑の言葉に悟は面白くなさそうに口をすぼめて外を眺めた。私はツナマヨおにぎりを齧る。傑はフランクフルトを齧った。
「フランクフルトってさ、ちんこじゃね?」
悟の言葉に私と傑が噴き出すと、悟はしたり顔で私たちを見ていた。咽る私たちをよそに、悟はご機嫌にシュガーツイストの袋を開けた。
「食べてる時に下ネタ禁止!」
「理玖、ちょっと一口咥えてみてくれないか。」
「傑も悪乗りしないの!」
帰りの車は賑やかだった。ご飯を食べ終えてうとうとする私に悟と傑が凭れかかった。…肩が重い…。けどそのままにして目を閉じた。
「理玖、起きろ。」
「理玖、家に着いたよ。」
「…うーん…押し売りは結構です…壺も買いません…。」
「何の夢?」
「さぁ?」
私の家に着いたらしい。2人に右に左にと揺さぶられてようやく起きた私は、2人におやすみのちゅーをして、運転手さんにお礼を言って家に入った。家に入るとお父さんがお酒を飲んでいた。お母さんはと尋ねると、友達と飲みに行ったらしい。珍しいな。
「理玖、夜蛾さんに聞いたよ。上層部総入れ替えの犯人は理玖だそうだね?」
「あーバレちゃったか。」
「父さん、心配するからぁ…危ないことやめてよぉっ。」
「分かったから、お父さんすぐ泣かないでよ…。」
私にしがみ付いて滝のようにだばだばと涙を流すお父さん。マジでこの人何歳だよ…。
「そういえば、今日初任務だったよ!」
「えぇっ!?聞いてないよぉ!!」
「あれ、お母さんには連絡したけど…、」
「父さんは何も聞いてないっ!」
「あー、はい、今度から連絡しまーす。」
「どこでどんな任務!?」
お父さんに任務の詳細を伝えて、ついでに報告書の書き方を教えてもらった。お父さんにアドバイスをもらいながら、任務概要の書かれたプリントの一番最後に綴じられていた報告書に、手書きで記入していく。
「これは明日、父さんが代わりに提出しておくよ。」
「お願いしまーす!」
「それにしても、特別1級術師とは…夜蛾さんもお目が高いね!」
「私と悟と傑の実力から判断したってさ。」
「さすが父さんの娘だぁっ!」
「だからすぐ泣かないでってば!」
しがみ付くお父さんを引き剥がして、ふと思い出す。
「お父さん、この人形知ってる?」
「ん?」
鞄からブードゥー人形を取りだして机に置く。お父さんは人形を手にまじまじとそれを見て、首を傾げた。
「いや、どこか異国の人形だね?どうしたんだ、これ。」
「誰かが私を呪いたいみたいなんだよね。」
「…、」
「ま、今のところ実害はないけど、さっさとこれを送り付けたやつを見つけないとと思って。」
「…理玖、」
「なに?」
「……父さん、心当たりがあるかもしれない。」
「え。」
「…ちょっと待ってなさい。」
そういうと、お父さんは自室に籠ってしまった。その間にお風呂に入って寝支度を整える。私が髪の毛を乾かし終えたころ、お父さんが私を呼んだ。リビングに戻ると、お父さんは私に座るように言った。
「これを見てくれ。」
「…誰?」
お父さんが机に置いたのは1枚の新聞記事と、1枚の写真。写真には異国の男が写っていて、新聞記事には、
「…呪いの人形屋?黒魔術師?」
「昔、黒魔術というものが流行ったんだ。映画の影響でね。」
「黒魔術って言うと悪魔召喚!みたいな?」
「そういう感じ。この男は黒魔術師として一世を風靡した男だよ。テレビにもよく出ていてね、一躍人気者だった。けどある日、黒魔術を信じた非術師の集団がいてね、悪魔召喚を名目に人を殺したんだ。それがこの事件。」
トン、とお父さんが新聞記事を指で叩く。
「…それとこの人、この人形に関係あるの?」
「その男がよく、テレビで見せていた人形に似ているんだ。男は事件以降メディアから姿を消した。噂では国に帰ったって聞いているけど、父さんは何となくまだ日本にいると思っている。」
「なんでその人が私を呪うんだろう。意図が分からない。」
「…父さんも分からない。」
「じゃ、神様に聞いてみるしかないね。」
「…理玖、頼むから「危険なことはしないで、でしょ?」
「…分かっているならいいんだけど、なんだか嫌な予感がする。」
「私も、なんかちょっと気になる。」
人形を指で突いて、私とお父さんは溜息を吐いた。次の日、いつも通り学校に行って靴箱を開ける。中にはまた紙切れが入っていた。しかもこの字は…、
「また萌部谷さん?」
「昨日と同じ字だね。」
「今度はなんの呼び出しだよ、暇か?」
「知らなーい。」
教室に行くと、萌部谷の姿はなかった。特に気にも留めずに授業を聞き流して、昼休み。呼び出し通り体育館裏に向かう。萌部谷がいた。
「昨日の今日で何?」
「…これ、廻神さんに渡してって。」
「また?昨日と同じ人。」
「…そうよ。」
「外国人?」
「…そう。」
「理玖なんか知ってんの?」
「あー、あとで話すね。とりあえず萌部谷さん、もうその人から何も受け取っちゃダメ。いい?」
「…分かった。」
「それは危ないから私が貰うね。他になにも貰わなかった?」
昨日同様十手で突く。ストラップの紐を通して人形を受け取ると、萌部谷がその場に蹲った。
「え、どうしたの?」
「…ちょっと、気持ち悪い…、」
「顔色も悪いね。」
「呪力にあてられたんじゃねぇの?」
「マジ?どうしよっか。あー、ちょい待ってね萌部谷さん。」
人形を手に取り、萌部谷の肩に十手を当ててみる。顔色は少しマシになったらしい。呪力吸収やべぇな。吸引力の変わらないただ一つの呪具ってか。
「大丈夫?」
「…うん、ありがと…。」
「それで、その人は他に何か言っていたかい?」
「廻神さんに、早く会いたいって言ってた…。」
「なんで?」
「…そこまでは、知らない…。」
「なにが目的なんだろう。」
「神の子も大変だな?」
「知らないうちに狙われてるってキモいわぁ…。萌部谷さん、保健室行く?」
「…平気。」
萌部谷は立ち上がってふらふらと歩いて行った。その背中を見ながら、昨日お父さんと話したことを2人に伝える。写真も預かったので2人に写真を見せた。
「黒魔術師ィ?胡散臭っ。」
「理玖を狙う理由がわからないね。」
「それなんだよね、一番の問題は。ま、向こうが会いたがってるってるなら、会ってみるしかないよね。プレゼントも返品しないと。」
そういって私はクルクルと人形を回した。