その日は結局禪院家に泊まることに。部屋に案内されると敷かれていた布団。勿論枕は二人分あった。チョロ哉が得意げに鼻を擦る。
「俺と理玖たんの初夜やさかい、」
なんというおめでたい頭なのだろう。あといい加減そのハチマキとハッピはヤメロ。
「直哉君、私一人じゃないと眠れないの。だから直哉君とは一緒に寝れないよ。」
「心配あらへん、今夜は寝かせへんから。」
「…甚爾様に言いつけちゃおっかなぁ…。」
「と、甚爾君はやめてくれ!俺殺されたない!」
携帯を開くと、着信の数々。パパ黒、悟、傑、お父さん、お母さんからもメールが来ていた。
『今日の子は何曜日の子なの?ダブルブッキングはダメよ。建人君がかわいそうだったわ。 母より』
『どうしてそんなことになったの!?禪院家も怖いから危ないことしないで!!! 父より』
お母さんんん…。そういうのじゃないよ、と返信をして、お父さんには、大丈夫、とだけ送った。またメールを確認する。悟と傑からもメールが来ていた。
『禪院家の奴ら皆殺しにするわ。すぐ行くから待ってろ。』
『悟と一緒に迎えに行くよ。待ってて。』
『2人とも心配してくれてありがとう、今のところ平気。明日学校休むわ(ノД`)・゜・。』
よし、とりあえず二人に一斉送信しておいた。甚爾様からもメールが来ている。
『直哉殺す。』
あ、死刑判決出ましたねチョロ哉君。私が寝る予定の布団に寝転がっているチョロ哉に、パパ黒からのメールを見せた。一気に顔を真っ青にしたチョロ哉は逃げるように部屋を出て行く。ようやく一人だ。ふぅ、と息を吐くと、布団にぼふんと体を預けた。あーヤバ…ねむ…。うつらうつらと意識が薄れかけた時、ものすごい轟音が響いた。それはもうバギバギバギバキィ!ととてつもなくでかい音だった。騒がしくなったお屋敷。私も眠たい目を擦って起き上がると、私のいた部屋が半分になっていた。ん?半分!?
「お、理玖見っけ!」
「理玖、迎えに来たよ。」
「よぉ、生きてるか。」
「え、悟と傑と甚爾様…?マジ?夢?」
「現実だアホ。」
見上げた先には虹龍に跨った3人の姿が。…え、日本昔ば〇し?坊やよいこだねんねしなで来たの!?!?マジ!?実はこいつら仲良かったりしない!?!?
「え、これ大丈夫なの?」
「見つからないようになるべく高いところを飛んできたよ。この方が早いしね。」
「俺は自分で走った方が早い。」
「ケッ、帰りはそうすりゃいいだろ。」
「帰りは理玖もいるからね、1名降りてもらった方が助かるよ。」
「ハッ、生意気なガキ共だな。」
「「ベー!!」」
何やってんのこのカワイ子ちゃんたち。やっぱり実は仲いいんじゃん!?!?私はポンポンと制服についた埃を払うと、立ち上がる。
「とりあえず3人とも、お迎えありがとう!」
「何もされなかったかい?」
「あー、うん、まぁ。」
まさか自分の同人誌を描かれていたなんて死んでも言えない。そしてそれが禪院家の中で布教されて、皆頭がぶっ飛んでるなんて言えない。廊下をどたどたと走ってくる足音がして振り向くと、チョロ哉と直毘人がいた。おいっ!だからいつまでそのハチマキとハッピつけてんだよ!!!
「「理玖たん!!!無事か!?!?」」
「は?理玖たん?」
「なんだい、そのハチマキ…。」
「頭がおかしいとは思っちゃいたが、ここまでとはな。」
「…甚爾、貴様…、」
「よぉ、当主様。随分ご立派な格好じゃねぇか。」
「甚爾君、これには理由があるんや!さ、悟君も、本物!?わ、傑や!!」
「誰だよテメェ。」
「見たところ年下みたいだね、口の利き方教えてあげようか?」
今にも一触即発状態だ。うーん、どうしたものか。
「理玖さん…!」
「あ、ママンじゃん!真希ちゃんと真依ちゃんは大丈夫!?」
「ご無事でよかったです…!真希と真依は無事です。驚いてはいましたが、こ、これは…、」
「あー…ちょっとアグレッシブなお迎えが来たもので…。ママンにも真希ちゃん真依ちゃんにも怪我がなくてよかった…。それにしてもこれは…申し訳ないことしたね。」
そう言って私は禪院家の屋敷を見渡す。恐らく悟の蒼による禪院家半壊。大丈夫かこれ、問題にならない?御三家会合とかにならない!?加茂家も聞いてびっくりでしょうに…。
「この有様、どうしてくれる。」
「どうもこうも、お前んとこのガキンチョが理玖のこと攫ったからだろうが。」
「御三家会合で訴えてもよいのだぞ。」
「やってみろよ、買うぜその喧嘩。」
あ、ヤバい、悟と直毘人がメンチ切ってる。パパ黒もチョロ哉の頭鷲掴みにしてるし。傑は面白がって写メってるし。何だこの状況、カオスか?チョロ哉浮いてるのウケるわ、私も写メろ。
「はいはい皆さんちゅうもーく!」
カオスな場面を写メり終えて満足した私は、手を叩いて注目を集める。全員が私を見たところで、オホン、と咳払い。
「ここにそれはそれはか弱くて可憐な廻神理玖ちゃんがおります!」
「か弱くて?」
「可憐な?」
「S・Gコンビはお黙り。」
ビシリ、私が指をさすと、悟と傑は人差し指で口元にバッテンを作った。ミ〇フィーちゃんかよ、可愛いかよ。
「そんなか弱くて可憐な理玖ちゃんは、禪院チョロ…げふんげふん、禪院直哉君により無理矢理拉致されてここに来ました。」
「チョロ…なんや?」
「お黙り、直哉君。」
またビシリ、私が指をさすと、チョロ哉は口を両手で覆った。はいはい可愛い可愛い。なんだコイツら、何いちいち可愛い事してくれちゃってんの?喧嘩売ってんのか?買うぞコラ!?
「そんな捕らわれの身である理玖ちゃんを救うべく、悟、傑、甚爾様の三銃士が立ち上がりました。」
「三銃士だぁ?」
「甚爾様、お口にチャックです。」
さらにビシリ、私が指をさすと、パパ黒が不服そうな顔で右から左にお口チャックをした。ハイもう可愛いいいいいい!!!吐血しそうになった私は慌てて口元を覆った。
「三銃士が理玖ちゃんを取り戻すべく、お屋敷を破壊したのですが…はい、直毘人さんここでクエスチョン!」
「なんだ。」
「嫌がる私を無理矢理連れてきた直哉君、私を救うべく屋敷を破壊した三銃士、はてさて悪いのはどっち?シンキングタイムスタートォ!」
「…悪いのは屋敷を破壊した方だろう。」
「ふぁいなるあんさー?」
「…ファイナルアンサー。」
デーン、と私の頭の中で某クイズ番組のBGMと司会者の顔が浮かぶ。ジッと直毘人の顔を見つめると、直毘人がごくりと唾を飲み込んだ。
「テレレン………ん残念っ!!!」
「なんじゃと!?」
「正解は、嫌がる私を無理矢理連れてきた直哉君、でしたー。いやぁ、残念ながら一千万円は手に入らず、という事で帰りまーす。」
「ちょっと待て!子供のやったことだろう!」
「おや、それは子供だから何をやってもいいってことですか?あーはいでたでた、禪院家の悪いところ!アンタ親ならちゃんと躾けなよ。次期当主だからって甘やかしてるんじゃないの?当主なら当主らしく、親なら親らしく、悪いことは悪いってちゃんと教えなきゃでしょ。そして直哉君。」
「な、なんや、」
「移動中に言ったこと、覚えてるかな?」
「…理玖たんの嫌がることはせぇへん。」
「うんうん、そうだね。じゃあそれは私だけに?それとも次期当主として皆に?」
「…み、皆に、」
「それはなんでかな?」
「…理玖たんのために、禪院家を変える…。」
「Exactly!」
「いぐ…なんや?」
「その通り、って意味。じゃあ直哉君、自分が悪いことしたって自覚ある?」
「…ある、」
「悪いことした時はどうするのか、分かる?」
「…ごめんなさい。」
「うん、よくできました。直哉君が禪院家を変えてくれること、期待してるよ。」
最後にチュッ、とチョロ哉のほっぺにキスをしてあげた。チョロ哉が鼻血を出してぶっ倒れ、直毘人はチョロ哉に駆け寄り、ママンもハンカチを出して駆け寄っている。さてこの隙に、と三銃士を見ると、3人ともすんごいしかめっ面をしていた。え、なんでそんな顔で見るの?!
「人誑し。」
「鬼、悪魔。」
「そんな女に育てた覚えはねぇ。」
「人聞きが悪いですなぁ!?サクッと帰る最善の方法だったのに!ほら、早く家に帰してよ。今度こそ外出禁止食らっちゃうから。」
私がそう言うと、傑が再び虹龍を出した。…あれ、そういえば私のローファー。
「理玖さん、こちらを。」
どうやらママンが私のローファーを取って来てくれていたらしい。受け取ってローファーを履くと、ぎゅうっと抱きしめた。
「ママン、ありがとう!」
「いえ…その、またいらしてください。真希と真依も喜びますから。」
「はい、勿論。あ、これ私の番号とメルアド。いつでも連絡してくださいね、それこそ禪院家がどんな変化を遂げたのか、当事者から聞いてみたいので。」
制服のポケットに入れていた番号とアドレスの書いたメモ用紙をママンに握らせる。このメモ用紙はいつ何時好感度イベントが始まるかわかったもんじゃないので、いざという時のために持ち歩いているものだ。ママンがメモ用紙を大事そうに受け取って、小さく笑った。
「真希ちゃん真依ちゃんの写真も、ぜひ送ってください!それじゃ!」
ママンに手を振って、虹龍に横座りをした。何故ならスカートが捲れるからだ。全員が乗ったことを確認した傑が虹龍に指示を出したのを見ながら、ママンに手を振る。ママンは小さく手を振り返しながら、何度も頭を下げていた。
「これで変わるといいなぁ。」
「あのごみ溜めになにしたんだ。」
「うふふ、秘密です。」
丸い満月の光を浴びながら、坊やよいこだねんねしな、で帰った。
「でんでん太鼓買っとけばよかった。」
「いやなんでだよ。」