全日本全力枕投げ大会決勝戦


家に着いた頃にはとっくに日付が変わっていた。玄関を開けて中に入ると、にっこりと笑顔で仁王立ちするお母さんがいた。私は壊れたブリキ人形のようにぎこちない動きで玄関のタイルに正座をして、お母さんにこっぴどく叱られた。そしてその様子を見て爆笑していた悟と傑、にやにやと笑う甚爾様。いやまじで、なにわろてんねんだから。

「まったくこの子は…!1週間、学校以外の外出禁止!」
「そんなああああ!!不可抗力だよぉ!!私は拉致監禁の被害者なのにぃ!」

がくり、文字通りorz状態の私。それを見て笑いながら写メっていた悟と傑に、私のお母さんの雷が落ちた。

「悟君と傑君も笑ってないで早く帰りなさい!何時だと思ってるの!!」

へっ、ざまあみろ。うちのおかん怒ると怖いだろ。自分たちが怒られるとは思っていなかったらしい二人が、口をすぼめてブツブツと文句を言っている。お母さんが般若の如く恐ろしい顔で二人を睨みつけると、2人は大人しく私の両側に正座をした。そしてきゅるんと目を潤ませてお母さんを見上げた2人。

「理玖のお母さん、もう夜も遅いし、」
「私達もか弱い中学生です。」
「「泊めてください!理玖の部屋に!!」」
「アンタらのどこがか弱いのよ、どこが。」

私のツッコミに、お母さんがはぁ、とため息を吐く。そして次のターゲットはパパ黒だ。

「甚爾さん、あなたも大人なら、子供たちの保護者に連絡をしましたか?もしくは連絡をさせましたか?」
「ハ?俺?」
「理玖に聞きましたけど、ご結婚されて、お子様も生まれるらしいですね?父親のあなたがこれからしっかりしないといけないのに、奥様放って何をしてるんですか!座りなさい!正座です!」
「…おい、理玖、」
「すみません、庇いきれません。」
「…チッ、」

私達に並んでパパ黒が正座をしている。何だこの構図、ぱねぇなうちのおかん。最強三銃士をものともせずに正座させるとは…流石私のお母さんだ。そう思っていると、お母さんが私の前に膝をついた。ふわりと香るお母さんの香り。ぎゅっときつく抱きしめられて、お母さんの温もりが制服越しに伝わる。

「はぁ…理玖、本当に無事でよかった…。」
「…うん、心配かけてごめんなさい、お母さん。」

お母さんを抱きしめ返すと、両隣から鼻をすする音。首だけ動かしてみてみると、悟と傑が泣いていた。え、なんで!?

「いい話だな…。」
「ああ、いい話だ…。」
「そうやって泊めてもらおうとしてるのバレバレだけど。」
「「チッ、」」
「容赦ねぇな、おい。」

お母さんが離れると、ふぅ、と小さく息を吐いた。そして普段の優しくてきれいな笑顔を向けられる。

「疲れたでしょ、皆泊って行っていいわよ。理玖を迎えに行ってくれてありがとう、感謝してるわ。怒鳴ってごめんなさいね、吃驚したでしょう?」
「いや、親子だなって思った。」
「私も。」
「ハッ、」
「いやいや私よりお母さんのが怖いでしょ。」
「どっちもどっちだったよ。」
「寧ろ理玖の方がタチが悪いし。」
「別の意味の怖さがある。」
「甚爾様まで!?」

玄関先でわいわいしていると、ガチャリとドアが開いた。振り向くと吃驚した顔で固まっているお父さん。

「あ、お父さんお帰り。」
「あ、た、ただいま…えっと、これは…、」
「悟君と傑君、それと甚爾さんが理玖を迎えに行ってくれたのよ。」
「え、禪院家まで!?京都でしょ!?」
「うちの家が迷惑かけたな。」
「あ、いえいえ、えっと禪院家の…、いや、これはまた…、うちの娘がお世話になってます。」
「ほら皆上がってちょうだい。子供たちは先にお風呂に入ってきなさい。着替えは…、」
「あ、僕の出張用にストックしてる着替えがあるから、それでもいいかな?新品未使用だから、そのままあげるよ。パンツとスウェットだけなんだけど、いいかい?」
「まあ、」
「ありがとうございます。」
「理玖も一緒に入ろうぜ。」
「こら、いけませんっ!悟君と傑君が一緒にお風呂に入りなさい!中学生にもなって理玖と一緒にお風呂は許しませんからね?」
「どんまい、どスケベコンビ。」
「理玖もどスケベだろ。」
「はぁ?私は身も心も清い純情可憐なか弱き乙女ですけど!?」
「「「は?」」」
「なんで3人ともそんな顔するわけ。やめろ、その顔やめろ。」

私たちのやり取りを見て、お父さんとお母さんが笑っていた。悟と傑がお風呂に入っている間、私とお父さんは夕飯を食べた。パパ黒はお父さんがお酒を勧めていたけど、確かお酒酔えないから嫌いだったなってことを思い出して、やめさせた。ご飯を食べ終えると、悟と傑に夜食のおにぎりを握ってあげた。パパ黒も小腹が空いたらしい。私の手を掴んで握っていたおにぎりを食べ始めたのでギョッとした。お父さんとお母さんも見ていたらしい。2人とも目を丸くしていた。うん、私も正直びっくりしてる。まさかパパ黒におにぎりで餌付けする日が来るとは…。私の指先についた米粒まで綺麗に完食したパパ黒が、悪くねぇと言って私の頭をくしゃくしゃと撫でたので、思わず吐血しかけた。

「風呂あがったー。」
「お風呂頂きました。」
「あ、甚爾様、お次お風呂どうぞ。」
「理玖先に入れ。明日学校だろ。」
「え、でもお客様優先ですから。」
「俺は理玖の後でいい。」
「…じゃ、じゃあお言葉に甘えて…。あ、悟、傑、おにぎり握ったからお腹空いてたら食べて。」
「お、マジ?腹ペコだわ。」
「ありがとう理玖、頂くよ。」
「うん!あ、ドライヤー私の部屋に置いてあるから、勝手に使ってね。甚爾様も、私の部屋で寛いでていいですから。」
「ん。」

手を洗って着替えを手にお風呂場に向かう。さっさと入ってパパ黒にお風呂を譲らなければ。入浴を済ませて歯も磨き、パパ黒を探す。リビングにはお酒を飲むお父さんしかいなかった。お母さんは先にお風呂も済ませていたらしく、もう寝たらしい。

「お父さんおやすみー。」
「ああ、おやすみ。」
「…あ、そういえば昨日の件、片付いたよ。写真の人が私のことを呪ってた。動機は意味わかんなかったけど。」
「やっぱりそうだったか…。本当に理玖が無事でよかった。また何かあったらすぐに相談して。」
「うん、ありがとう。おやすみ。」
「はい、おやすみ。」

階段を上りながらタオルで髪を叩いて部屋に向かう。ドアの隙間から私の部屋の電気がついているのが見えて、ドアを開けた私は固まった。

「あ、」
「やべ、」
「…何やってんの?」

そこには私のブラジャーのカップで目を覆った悟と、私のショーツを頭から被っている傑、私のベッドで枕に顔を埋めているパパ黒がいた。固まる私と三銃士。何事もなかったようにどスケベコンビが下着をしまう。パパ黒は動かない。

「…うん、正座しよっか?」
「「すみませんでした。」」
「甚爾様も!!人の枕の匂い嗅ぐのやめてください、恥ずかしいので!!!あとお風呂どうぞ!!」
「ん?ああ、風呂か…。」

もぞもぞと起き上がったパパ黒がお腹を掻きながら部屋を出て行く。へそチラ!!!へそチラたまらんぞ!!!!

「で、アンタたちは何勝手に引き出し漁ってんの!?」
「暇だったから。」
「いい暇つぶしができたよ。」
「よくないわい!まったく…ほら、布団敷くから手伝って。」

ミニテーブルを退けてクローゼットに収納していた客人用の布団を敷く。足りない分の布団は客間から引っ張り出して、三銃士分の布団を敷き終えた。私が髪の毛を乾かしていると、パパ黒がお風呂を出たらしい。階段を上がる足音が聞こえる。悟がニヤリと悪い顔で枕を手に取った。傑も意図が分かったらしい、悟同様枕を手に取った。部屋のドアが開くと同時に2人が枕を投げた。

「バレバレなんだよ、くそガキ共。奇襲なら殺気出してんじゃねぇ。」
「「チッ、」」
「馬鹿だなー…。」

枕をキャッチしたパパ黒が2人に枕を投げ返した。三銃士のガチンコ枕投げが始まった。おいやめろ、お前らの枕投げは確実に死人が出るぞ。髪の毛を乾かし終えた私は小さくあくびをする。ベチン、

「あ、」
「あーあ、」
「知らね。」

悟が投げた枕が私の顔面にクリティカルヒットした。

「…悟…、」
「俺じゃねぇし、コイツが避けるからだろ!」
「避けなきゃ俺に当たるだろ。」
「避けたから理玖に当たったんだけど。」
「この馬鹿三銃士ぃっ!」

枕を引っ掴んで悟に向けて投げる。悟が枕をキャッチした。私は自分の枕を掴んで今度はパパ黒に投げる。ぎゃいぎゃい騒ぎながらガチンコ枕投げラウンド2が開幕し、ドタバタと私の部屋で騒ぎまくった。

「何時だと思ってうぶっ!」
「あ…!」
「「あーあ、」」
「知らね。」

あまりの煩さに起きてきたお母さんがドアを開けたと同時に、私が投げた枕。悟が枕を避けると、私が投げた枕は見事にお母さんの顔面にクリティカルヒットした。

「理玖〜っ!!!!」
「はぁい!!!ごめんなさぁい!!!」
「アンタたちも何時だと思ってるの!!早く寝なさい!!!でないと朝食抜きですからねっ!!!!」
「「「「すみませんでした。」」」」

ぷんぷんぷりぷり怒りながら部屋に戻ったお母さん。私達は大人しく布団に入った。誰が私のベッドの隣で寝るか一悶着あったけど、じゃんけんさせて勝った人が私のベッドの隣で寝ることに。勝ったのはパパ黒だった。

「ケッ!」
「はいはい、悟、じゃんけんなんだから文句言わないの。皆おやすみ!」
「理玖、おやすみのキスをしようか。」
「俺も俺も。」
「マセガキ共が。理玖、俺だけにしろ。」
「既婚者が何言ってんだ。」
「浮気者ー。」
「あーもう分かったから、皆順番!ほっぺにちゅ!文句言う人にはナシ!」

ぎゃいのぎゃいの騒ぐ三銃士に、私はベッドの方から並んだ順にほっぺにちゅーをした。いや、なんて幸せなお泊り会なのホント…。



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