京都から無事に帰りついた私は、またしてもお母さんにこっぴどく叱られた。学校を勝手に早退したことを、担任から電話で聞いたらしい。クソ、あのハゲ教師め覚えてろ…。ご機嫌取りにお土産を差し出したけど、あまり効果はなかった。学校以外外出禁止を食らっている私の為に、仕方なく悟と傑と3人で私の部屋で駄弁ることに。2人はいつお母さんが来るかわからない家では、下手なことはしてこない。ただ本当にぐうたらと漫画を読んでお菓子を食べていた時だ。私の携帯が着信を告げる。画面を見れば夜蛾正道の文字。
「誰?」
「夜蛾さん。」
「また任務かな?」
「わかんない、出てみるね。もしもし、」
『理玖か、急にすまん。』
「いえいえ、どうしました?」
『頼まれてほしい案件がある。』
「いいですよ、今からですか?」
『できれば早い内の方がいいだろう。今から行けるか?』
「大丈夫です。あ、その代わり補助監督さんつけて車でうちまで来れますか?今お母さんに学校以外の外出禁止食らってて、自分から出れないんですよ。」
『…何をしたんだ。』
「禪院家と加茂家に拉致られて色々と。」
『…大変だな。』
「人気者はつらいですね。」
『いいだろう、私も一緒に行こう。』
「了解です。悟と傑も一緒にいいですか?」
『勿論だ。』
電話を終えると、2人に今の電話の内容を伝えた。2時間程してインターホンの音がした。お母さんが対応する声を聞きながら、私達も家を出る準備をする。
「理玖ー!」
「はーい!行こ。」
3人で下に降りると、夜蛾さんが玄関先に立っていた。お母さんがちょっと怒った顔をしている。
「まったく、この子は…。」
「ごめんなさい!でも私にしかできないなら、仕方ないよ。ちゃんと帰って来るから!行ってきます!」
「…行ってらっしゃい。皆気を付けていくのよ。」
家の前に停まっている車に乗り込み、助手席に座った夜蛾さんから今回の任務概要の書かれたプリントを受け取る。私を真ん中にして、悟と傑もプリントを覗き込んだ。
「なになに…、へー…神社の境内で神隠し。」
「ここ2、3か月の内に10人近くが行方不明になっている。決まって毎週金曜日。つまり、」
「今日って、金曜日。」
「ああ。恐らく今日も神隠しが起きると思って間違いないだろう。」
連れてこられたのは都内のそこそこ大きな神社だった。神聖なはずの神社からは呪力の気配を感じる。
「悟的にどう思う?」
「別に。ただの神社。」
「けどこれだけ禍々しい呪力を放つ神社は普通じゃないだろうね。」
「じゃ、行きますか。」
「帳を降ろそう。気を付けて行けよ。」
「終わったら夜蛾さんの奢りでご飯連れて行ってくださいね?」
「…全く、緊張感のない奴らだ。」
帳が下りて、私達は神社の中に足を踏み入れる。作法通りに鳥居を抜けて境内を歩き回った。呪力が濃いのは境内の裏手にある森林地帯。参拝を済ませて森林地帯に進む。
「うっわ…、」
「これは…、」
「今時こんなことあるんだね…。」
高く聳え立つ木々に打ち付けられた無数の藁人形。呪力の気配元は恐らくこれだろう。
「藁人形って抜いていいんだっけ?」
「どうだろう。」
「抜いた奴に呪いが来るんじゃね?」
「それは困るね。じゃあこの子の出番じゃん。」
十手を取りだして藁人形を突くと、目の前の藁人形から悲鳴が聞こえた。…え、マジ?
「超ホラーじゃん。」
「この藁人形と神隠しにどんな繋がりがあるのかな。」
「知らね。」
十手で突いた藁人形に刺さっていた釘を木から引っこ抜いてみると、ぶしゃっと赤い血が噴き出した。
「うわぁあ!?」
「理玖、」
「大丈夫、濡れなかった。」
「…もしかしてこれ、マジモンの人間じゃね?」
「「は?」」
「呪力の流れがおかしい。これを打ってるやつは恐らく呪詛師。人を藁人形にしてやがる。」
「悪趣味…。」
「じゃあこの藁人形どうする?」
「呪詛師を殺したとして、藁人形にされた奴が元に戻るとは限んねぇし。」
「戻ったとしても釘は刺さっているだろうね。」
「うん、決めた。セレクト、」
【8人が呪われています。選択してください。選択すると呪力を80消費します。(残り呪力:120)】
【1.供養する 2.元の姿に戻す 3.供養して元に戻す 4.なにもしない】
「よし、硝子呼ぼう!」
「「は?」」
「私が全員を元に戻して、硝子が反転術式で治療。これならどう?」
「…まあ、」
「それなら。」
「じゃあ呼ぼう!」
すぐに硝子に電話をした。硝子は気だるげな声で電話に出た。
「硝子今どこ?」
『今?吉祥寺。』
「…割と近いな。今○○神社にいるんだけど、硝子の力が必要なの。来てくれない?」
『…理玖怪我したの?』
「いや、私はケガしてないけど、ちょっと怪我人がいるんだ。お願い!あと終わったらただ飯だよ!」
『行く。』
「待ってる!着いたら電話して!」
『りょーかい。』
硝子は20分程で来た。夜蛾さんには硝子のことを伝えておいたので、悟に硝子を迎えに行ってもらった。傑と二人で藁人形の数と配置を確認して、祀られている神様の名前を確認していると、悟が硝子を連れて戻ってきた。
「硝子!来てくれてありがとう!」
「うっわ、何ここ、ヤバ。」
「じゃ、今からこの藁人形たちを人間に戻すから、硝子は戻った人たちを治療して。大丈夫そう?」
「…ま、なんとかなるっしょ。いいよ。」
「おっけー。じゃ、セレクト。」
【8人が呪われています。選択してください。選択すると呪力を80消費します。(残り呪力:120)】
【1.供養する 2.元の姿に戻す 3.供養して元に戻す 4.なにもしない】
「3番。」
【3.供養して元に戻す を選択しました。呪力を80消費しました。(残り呪力:40)】
ボフン、と藁人形がいっせいに人間に戻った。皆釘の打たれた胸部を押さえている。硝子が反転術式で全員を治療しているのを見ながら、ふぅとため息。この犯人である呪詛師はどこだろうか。
「呪詛師、今日もここに来るよね。」
「理玖が藁人形を人間に戻したことに気付いているかもしれないね。」
「気付いて様子を見に来るかもしれねぇな。」
「じゃ、そこを叩こう。正直呪力残り少ないんだよねぇ。」
「俺らがいるじゃん。」
「もっと頼ってほしいね。」
「頼りにしてるよ?」
「終わったよー。」
「ありがとう硝子!じゃ、一旦外に行こうか。皆さん、動けますか?」
わらわらと藁人形だった人たちを従えて帳を出ると、夜蛾先生はびっくりしているようだった。
「救急車呼んでください。念の為皆さん病院で検査してもらってくださいねー。」
「一体どういうことだ?全員神隠しの被害者じゃないか。」
「呪詛師が人を藁人形にして呪ってたんだよ。」
「大体そんな感じです。呪詛師が来ることを考えて、私、悟、傑でもう一度境内を散策します。帳は降ろさず、普段通りの状態で奴を誘き出しましょう。硝子は念の為夜蛾さんと車で待機して。」
「分かったー、」
「あ、夜蛾さん、彼女は家入硝子。さっきも軽く説明したとおり、他者への反転術式が使えます。高専にもスカウトしておいたので!」
「…お前はよくやるな…。」
「お礼は回らないお寿司か焼肉でお願いしまーす!」
「…フッ、いいだろう。必ず件の呪詛師を捕らえて、この事件を解決させるぞ!」
境内に戻った私達3人。呪詛師と思われる人物が来たのは1時間ほど待機していた頃だった。きょろきょろと挙動不審な男が神社にやってきた。さっき傑と二人で境内を見て回った時、ここにはどうやらあの疱瘡神が祀られているらしい。私の記憶だと、偽夏油が使っていたのは疱瘡婆だ。どうやらこちらが本物の疱瘡神らしいので、折角なので何かあったらお力を借りようと思う。悟が呪詛師と思われる男の呪力を確認し、頷いた。傑が呪霊で男を捕らえる。
「な、何だ!?」
「どーもぉ。」
「か、神の子…?!」
「私ってば有名人!照れちゃうー!」
「何やってんの理玖。」
「照れてるようには見えないよ。」
「マジレスやめろ。で、あなたここで一体何をするつもりかな?まさか、人間を藁人形にして呪うつもり?」
「9人目はオマエだっ!廻神理玖!」
「させないよ。」
「ぐあああっ!」
「殺すなよ、手足は折っていい。」
傑の言葉に呪霊が男の体を締め上げた。呪詛師の男は無事に捕獲したし、今度こそ解決?
「じゃ、戻ろっか。傑の呪霊操術も使い勝手いいよね。取り込む時がネックだけど。」
「理玖のおかげで最近は苦じゃないよ。」
「そ?ならいいけど。」
ちゅ、と傑にキスをされて思わず頬が緩む。悟がそれを見てつまらなそうに顔を顰めた。
【夏油傑の反転していた好感度が100%になりました。これより高感度が変動することはありません。再び反転しないように注意しましょう。】