次の日、土曜日の今日は授業が休みらしい。聞いた話では臨時で任務が入ることもあるらしい。念の為に制服を着た私は一人こっそりと高専を出た。理由はパパ黒から届いたメールだ。どうやら今は埼玉に住んでいるらしい。
「住所だけ書いたメールって…。」
メールに書かれた住所に向かうと、そこはあのボロアパートだった。ここって五条悟が初めて伏黒恵に会ったとこじゃん。…マジ?もうここに住んでんの?
「理玖、」
上から声がする。見上げるとパパ黒が窓から私を見下ろしていた。いやん、今日もしゅてきっ!
「甚爾様!」
「上がれよ。」
「はい!」
カンカンと鉄の階段を上がって部屋に向かう。音符マークの付いたベルを押せば、中からパパ黒の声がした。それと同時に好感度イベントの選択肢が出て、迷いなくイベントを選択する。
「開いてる。」
「お邪魔します!物騒ですよ、鍵閉めないと!」
「俺がいるだろ。」
「甚爾様の方が物騒でしたね。」
「あ?」
「なんでもないです。」
部屋の中は簡素だった。所々子供のおもちゃが転がっている。恵のかな?
「あれ、恵君は?」
「その辺にいるだろ。」
その辺!?部屋を見渡すと、洗濯物のタオルに埋もれて眠る、ばぶ?ショタ?の恵がいた。は?はあああ!??!?!?何それ可愛すぎでしょ舐めてんの!?!?!?むしろ舐めちゃうよ!?!?ぺろぺろしたろかあああああ!?!?!??!?!
「きゃわいいいいい…!!!」
私は迷わず恵…いや、ちゃんメグの寝顔を写真に収める。ひやあああああこの歳からウニ頭なの可愛すぎるうううう…!!!泣きながらちゃんメグの写真を撮る私。パパ黒がドン引きしてるが今はそれどころじゃない。シャッター音で小さく身じろいだちゃんメグ。ふえええかわいいいいいい!!ふぅうううううっ!!口から血を垂らしながら写真を撮る私。パパ黒が私にティッシュの箱を投げた。
「まだ血吐いてんのか。」
「これはもう不治の病なのでお気になさらず。」
「…死ぬのか。」
「何度も(萌)死んでます!!」
「は?」
あ、やべ、語弊を生んだか?パパ黒がドカッと私の隣に座った。抱き寄せられて写真がブレる。
「オマエまで…いなくなるなよ。」
「…甚爾様?」
「……。」
「…私は死なないですから、甚爾様の前からいなくなったりしませんよ。」
携帯を仕舞ってパパ黒を抱きしめ返す。抱きしめる腕に力を込めたパパ黒。私はその額にひとつキスをする。恵ママの事を思い出したんだろうな。ちゃんメグが目を覚ましたらしい。小さく唸る声が聞こえると、パパ黒が手を離した。私はちゃんメグをまた写真に収める。
「…ぱぱぁ?」
「ぴぇええ…甚爾様のことパパって…!!パパって!!!」
「うるせぇ。」
「もう、パパったら照れちゃって☆」
「…もう一回言えよ。」
「え?パパですか?」
「…悪くねぇな。おい、恵起きろ。」
「…んぅ、」
「恵きゅん、起きてぇ?」
「なんだ恵きゅんって。」
「恵君が可愛すぎて心臓がきゅんきゅんするので恵きゅんです。」
ちゃんメグがむくりと起き上がった。寝ぼけ眼で私を見るちゃんメグ。ひゃああんきゃわいいいいい!!!
「…ままぁ?」
「ごふっ…!」
「おい、」
「あぁ…これは…これはヤバいです…。」
慌ててティッシュで口を押えた。いや、破壊力!!!!!私のことママって、ママって!!!!
「初めまして、恵きゅん。廻神理玖です。理玖お姉ちゃんって呼んでね!」
「…うん。」
「はぁああ…可愛すぎる…、ちょっとヤバい、これマジでヤバい、由々しき事態です。」
「…理玖…おねーちゃん?」
「ん゛ふっ!!!」
さっきから吐血が止まらない。棘ピーもそうだったけど破壊力特級クラスだろ…!!!
「ごはん…、」
「あ、お腹空いたの?甚爾様、恵きゅんのご飯なにかありますか?」
「…冷蔵庫になんかあんだろ。」
「ちょっと失礼します、台所お借りしますねー?」
冷蔵庫の中を見ると、小さな子供用のお皿が入っていた。手に取ってラップを開けてみる。コンソメスープらしい。電子レンジで加熱して、他にも何か食べ物がないか確認した。お、ソーセージあるじゃん!手を洗ってまな板と包丁を見つけると、ソーセージをタコやカニの形にカットして焼いていく。炊飯器にはご飯もあった。少し拝借して、見つけたふりかけをまぶして小さなおにぎりを作ると、ソーセージと一緒にお皿に並べた。うーん、見たところちゃんメグ2、3歳くらいだよね?どのぐらい量食べるんだろ…。とりあえず出してみるか。足りなきゃなんか作ればいいし。そう思っていると、後ろからパパ黒が私を抱きしめた。
「…理玖、」
「どうしたんですか、甚爾様。」
「……婿に入った。」
「え?」
「…今は伏黒だ。」
「そうだったんですね。おめでとうございます!」
「…何も言わねぇのかよ。」
「え、いえ、おめでとうございますと…、」
「…。」
「甚爾様、言わなくても分かってますよ。恵きゅんの為に婿に入ったんですよね?」
「…。」
「甚爾様はいいパパさんですね。」
「…オマエと結婚出来たらよかったな。」
「え、」
「…冗談だ。」
「あ、ちょ、」
するりと離れた腕。え、パパ黒私と結婚したかったの?!?!?えええっ!?!?!?する!?!?!??!いいよ!?!?!?!って言いたいけど、それでは“伏黒恵”ではなくなってしまう。…それってそんなに拘る事なのかな…。どちらにせよ、遅すぎた。ズキリ、胸が痛む。パパ黒がちゃんメグを子供用の椅子に座らせた。ちゃんメグのご飯を持っていくと、ちゃんメグがニパッと笑った。うん、可愛い…。
「恵きゅん、いただきますできるかな。」
「いたらきます。」
「えらいね!召し上がれ!」
「たこさんだぁ!」
「うん、たこさんだよぉ!」
たこさんウインナーにぐさりとフォークが刺さる。うん、もう、可愛いいいいいいい……てえてえええええ…。ちゃんメグがご飯を食べる様子を動画に収めながら、私は何度も口から血を垂らした。その度にパパ黒がティッシュを私の口に押し当てる。うん、好き…!!!!
「理玖おねえちゃん、」
「なぁに?恵きゅん。」
「ふふん。」
「えへへ、かわいい!」
ご飯を食べ終えるとお皿を洗って、ちゃんメグとひたすらいちゃいちゃした。私に抱き着くちゃんメグ可愛すぎワロタ。パパ黒は面白くなさそうな顔で私たちのやり取りを見ている。やだぁ、ヤキモチぃ?!?!?ぐへへへへ!!!!私がデレデレしていると、電話が鳴った。…あ、私の携帯だ。画面を見れば夜蛾さんからだ。
「ちょっとすみません。恵きゅん、ちょっと待ってね。」
「うん。」
2人から少し離れて通話ボタンを押す。
「はい、理玖です。」
『すまん、今どこにいる?』
「今は人に会いに外出してます。埼玉です。」
『…そうか、すまんが、今から任務だ。』
「え!?マジすか…。ちなみに場所は?」
『都内だ。』
「…分かりました。高専に戻ります。」
『すまない。』
「いえ。」
電話を切って、はぁと溜め息を吐いた。ちゃんメグが私の足元にいた。え、なにこの子、可愛すぎ。思わずぎゅうっと抱きしめる。ちゃんメグも笑いながら抱きしめ返してくれる。パパ黒が再婚したなら、津美紀にもいつか会えるだろう。パパ黒は…幸せなのかな。視線を向ければ、窓から外を眺めるパパ黒の背中が目に入った。私の視線に気づいて振り返るパパ黒。やっぱり、寂しそうだ。そして私の胸もまた、ズキリと痛んだ。
「すみません甚爾様、今から任務が入ったので高専に戻りますね。」
「…ああ。また来い。」
「はい、連絡します。」
「かえっちゃうの?」
「うん、ごめんね。また来るよ。」
ちゃんメグが私を見上げて涙ぐんでいる。あ、だめ、そんな目で見たら昨日の棘ピーと同じループに入っちゃうから…!!!ごめんねちゃんメグ!!!ごめんね私!!!パパ黒がちゃんメグを抱き上げた。見送ってくれるらしい。ローファーを履いてちゃんメグを抱っこするパパ黒ごとぎゅっと抱きしめると、ちゃんメグのほっぺにキスをした。にへらと笑うちゃんメグがの好感度が100%になる。パパ黒を見上げると、噛みつくようにキスをされた。ほんとはダメだって分かってる。分ってるけど私はそれに応えて舌を絡めた。ズキリ、また胸が痛くなる。唇が離れると、パパ黒が少し悲しそうに笑った気がした。
「…お邪魔しました、また来ますね!」
「…ああ。」
「ばいばい、理玖おねえちゃん!」
「恵きゅんまたね!」
バタン、扉が閉まる。またズキリと痛んだ胸に、私はその場に蹲った。涙が零れて小さく嗚咽が漏れる。ごめんなさい。小さく呟いた言葉。恵ママを救えなくてごめんなさい。恵ママがいれば、パパ黒はまだ幸せだったかもしれないのに…。ごめんなさい。もう一度呟く。ガチャリ、扉が開く音がして、ふわりと温もりに包まれた。
「…何で泣いてんだ。」
「…甚爾、様、」
「…誰に謝ってんだよ。」
「…ごめんなさい、言えません…。」
「…理玖、」
「はい…、」
「…愛してる。」
パパ黒の言葉に、私はまた涙を流した。