ストーカーダメ絶対!


「オマエ誰だよ。」

インターホンの向こうにいる男の顔は帽子とマスクでよく見えない。

<馨ちゃんを返せ、悪魔め!俺の馨ちゃんだ!>
「はぁ?馨は俺のだから。つかオメェ誰だっつってんだろ。」
<馨ちゃん!!!俺の気持ち受け取ってくれたんだろ!?早く出てきてよぉお!!>
「気持ちわりぃんだよ、警察呼ぶぞ。」
<俺は強いんだっ!!警察なんて怖くないっ!!俺の女神を返せええ!!>

「お兄ちゃん…、」
「馨向こう行ってろ。」
「待って、これ見て。」

馨がスマホ画面を見せてきた。傑からのLIME画面だった。傑が家に向かっているからできるだけ時間を稼げという内容。俺は頷いて、不安そうな馨の頭を撫でる。配信用のカメラはまだ作動中だ。インターホンの前でカメラを構える。

「今、馨のストーカーが家のマンションの下にいる。インターホン鳴らして、馨を出せっつってる。多分コイツもまだ配信見てる。」

カメラを馨に渡して、馨が俺を映した。

「オマエいつから馨のことつけてんの。」
<始めて馨ちゃんに出会った時からだよ、文句あるか!!俺の女神だぞ!!>
「馨が女神級に可愛いのは分かるけどオメェのじゃねぇんだよ。気色わりぃ手紙とくっせぇ写真送ってきやがって。馨の写真汚してんじぇねぇよ、テメェ童貞か?」
<童貞じゃない!!!>
「おい、素人童貞。馨はオマエに渡さねぇよ。俺のこと殺したいみたいだけど、やれるもんならやってみろよ。言っとくけど、俺最強だから。」
<オマエなんか殺してやる!!馨ちゃんは俺と結婚するんだ。>
「ふざけんな馨がオマエと結婚するわけねぇだろ!!」
「もう嫌だぁ…っ、怖いこの人…、」
「馨、部屋戻ってろ。配信も止めるから。」
「お兄ちゃん一緒にいて、」
「ん。」

カメラを置いて馨を抱きしめる。泣きながら俺に抱き着く馨が映ったけど、このくらいはバレても大丈夫だろう。頭と背中を撫でながら、カメラに向けて今日の配信はここまでという事と、後日ちゃんと報告動画を上げると伝えてカメラを切った。コメント読む暇もなかった。あとでログ確認するしかねぇか。インターホンの前にまだ男が立っているのが映っている。

「オメェのせいで馨が泣いてんだよ。」
<俺のせいじゃない!オマエがいるせいだ!オマエが馨ちゃんのストーカーだ!>
「ストーカーはテメェだろ、頭湧いてんのか?」
「もうやめてくださいっ、怖いし迷惑ですっ!」
<馨ちゃん!今助けるよ!!ここ開けて!!>
「人の話聞けよ、馨はオメェのことが怖いって言ってんの!」

傑はまだかよ、早く来いよ。スマホを見る。ピコンと通知音が鳴ってLIMEを開く。傑が着いたらしい。馨をギュッと抱きしめる。インターホンをのマイクを切って、馨の頬を包む。涙を拭ってキスをした。

「傑が着いた。俺も行ってくる。」
「やだっ、危ないよ!」
「大丈夫。俺たち最強だって知ってんだろ?」
「でも、」
「馨は部屋にいろ。自分で警察呼べるか?俺のこと殺す気らしいし、ナイフとか持ってるかもって言っておけ。あと傑の名前出せば大丈夫だから。できるか?」
「…分かった。」
「ん、いい子。行ってくる。」
「待って!」

馨が俺の服を掴んだ。振り返ると馨が背伸びをして俺にキスをする。チュッと触れた唇。

「悟、好き。気を付けてね。」
「…馨、あとで抱くから。」
「も、もうっ、なんでこんな時にそう言うこと言うの!?」
「ハッ、行ってくるわ。」
「うん。」

靴を履いて部屋を出る。玄関と鍵が閉まる音を聞いてエレベーターで下に降りた。エントランスの向こう、オートロックの入り口で傑が男を地面に押さえつけて男の背に座っていた。

「や、待たせたね悟。」
「わりぃな、傑。」
「馨ちゃんは?」
「怖がってっから置いてきた。連れてくる理由もねぇだろ。あと警察呼ばせた。」
「それは丁度よかった。」
「で、顔見せろよオッサン。」
「ぐ…っ、うあああああっ!」
「おっと、危ないよ。」

突然暴れだした男の帽子が取れる。男のマスクを剥ぎ取って俺は目を見開いた。傑が男の腕を捻り上げる。

「やっぱりオマエかよ、小野川。」
「くそぉおおどけぇええ!!」
「知り合いかい?」
「運ちゃんだよ、贔屓の。」
「ああ、あのタクシーの。」
「オマエなんか怪しいって思ってたんだよねぇ。いっつもミラー越しに馨のこと見てたの知ってんぞ。」
「余罪があるかもしれないね、調べるように言っておくよ。」
「さっすが、警察庁長官の息子。」
「褒めても何も出ないよ。」
「警察ぅう?」
「そ。だから君は私の一言で塀の中というわけさ。残念だったね、お疲れさま。」

パトカーの音が近付いてきた。刑事らしき男と警察官が数人やってきて、傑に敬礼をしている。

「傑様、お待たせ致しました。その男ですね。」
「ああ、なるべく長めに塀の中に入れてあげて。」
「無期懲役な。」
「あとこれ、持っていたみたいだから渡しておくよ。」
「畏まりました。おい、逮捕だ。」
「はいっ。20時31分、銃刀法及び脅迫罪、迷惑防止条例違反で現行犯逮捕。」
「連れて行け。悟様、証拠品などについては後日で構いません。馨様には落ち着いたころにお話を伺えればと思います。それではこれで。」
「ん。」
「助かったよ。」

刑事たちが帰っていくと、傑はズボンを掃ってその場で伸びをした。

「傑、バイクで来たの?」
「ああ、その方が早いからね。」
「ん、サンキュ。上がってくか?」
「いや、馨ちゃんは悟がいた方が安心するだろ。2人でラブラブしてるといい。」
「なんだよその言い方。」
「何年幼馴染してると思ってるんだい?気付かないわけないだろ。」
「…マジ?」
「マジさ。でも、誰にも言うつもりはないから心配しなくていい。けど、馨ちゃんが悲しむようなことをするなよ。その時は私が貰うから。」
「ハッ、ねぇよ。」
「じゃあね、また学校で。」
「おう、お疲れサマンサー。」

傑がバイクに跨って走り去るのを見届けると部屋に戻った。鍵を開けて馨の部屋に向かう。布団を頭から被って泣いていた馨に優しく声を掛けると、馨は真っ赤に目を腫らして俺に抱き着いた。

「よかった…、」
「ん、ただいま。傑が来てたし、男も捕まった。」
「…はぁ…、」

いつものタクシードライバーがストーカーだったことは言わないでおいた。どうせ明日から親父が手配したドライバーが来るんだし。馨が落ち着くまで一緒にごろごろした。スマホの通知がずっと鳴ってるけど今は無視。馨にキスをして、あんな気色悪い奴なんて忘れられるように優しく抱いた。馨が啼き疲れて眠った後、スマホを確認する。親父に電話を掛けて、ストーカーがいつものドライバーだったことを伝えた。馨のことを配慮して、新しいドライバーは女性にしてもらった。

『るんるんチャンネル:今日は配信途中で切っちゃってメンゴ!馨のストーカーは捕まったから安心してね〜!それと、俺の馨泣かせる奴はマジで許さねぇからそこんとこヨロシク 悟』
『西中の虎:@るんるんチャンネル ストーカー捕まって良かった!馨ちゃんが心配!!』
『恵:@るんるんチャンネル 捕まって良かったです。馨さん大丈夫ですか?』
『モブ美:@るんるんチャンネル 捕まって良かった!!(´;ω;`) 馨ちゃん怖かったよね…!ストーカーはマジで滅べばいいと思う!!』
『おにぎり:@るんるんチャンネル ツナマヨ?!( ;∀;) いくら、すじこ…!(´;ω;`)』
『パンダ:@るんるんチャンネル 捕まってよかったな。カルパス食って落ち着け。』
『73:@るんるんチャンネル 捕まって安心しました。馨さんが心配です。大丈夫ですか?』
『硝子:@るんるんチャンネル マジ?馨大丈夫ー?いつでも電話しておいでー。』
『傑:@るんるんチャンネル あとは任せて。馨ちゃんによろしく。』
『呪いの王:そのストーカーとやらは鏖殺だ。ま、あの女の泣き顔は素晴らしくそそられたぞ。』
 『恵:@呪いの王 不謹慎です。』
 『呪いの王:@恵 貴様もあの女の泣き顔で興奮したのではないか?』
 『恵:@呪いの王 そういう事思っても言うべきじゃないでしょう。アンタ歳いくつですか。』
 『呪いの王:@恵 知らん。千を過ぎてから数えるのをやめた。』
 『恵:@呪いの王 頭大丈夫か。』
『伊地知潔高:@るんるんチャンネル ストーカーに遭われていたとは…。心配です。掴まって一安心ですが、今後も気を付けてください。』
『モブ子:@るんるんチャンネル 馨ちゃん怖かったね…!2人とも怪我とかないみたいでよかったよぉ…!』
『萌舞男:@るんるんチャンネル 釣りかと思ったwww』
 『恵:@萌舞男 草生やす要素ないと思いますけど。』
『脹相:@るんるんチャンネル 俺こそが真のお兄ちゃんだ!!次は元気な姿を見せてくれ、馨!!』
『直哉ちゃんねる:@るんるんチャンネル 馨ちゃん無事なん?泣き顔もかわええけど、ストーカーはあかんやんな?俺かて馨ちゃんのことストーカーしたいくらい好きなの我慢してるんやで。』
 『恵:@直哉ちゃんねる 通報します。』
 『直哉ちゃんねる:@恵 なんでや!?』
 『西中の虎:@直哉ちゃんねる ストーカーはダメだっての!!』
 『直哉ちゃんねる:@西中の虎 せやから我慢してる言うてるやろ!?』
 『恵:@直哉ちゃんねる そういう問題じゃないです。』
『モブ代:@るんるんチャンネル 配信間に合わなかった…と思ったらストーカー!?馨ちゃん大丈夫!?』
『モブ菜:@るんるんチャンネル 馨ちゃんが女神級に可愛いのは同感。だけどそれがストーカーしていい理由にはならないよね。馨ちゃんが早く元気になりますように…!』

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