馨のストーカーの件について


「今日から2人の送迎係に配属になった庵歌姫よ。」
「歌姫さん、お久しぶりです!」
「久しぶりね、馨!元気そうで良かったわ!」
「ま、歌姫ならいっか。」
「アンタはいちいちムカつくわね…!」

お父さんが私とお兄ちゃんの送迎係に歌姫さんを送ってくれた。昨日のストーカー騒動もあって、お兄ちゃんが女性ドライバーにしてくれとお父さんにと頼んだらしい。歌姫さんは昔からうちのお父さんの会社に勤める秘書だった。

「秘書のお仕事はいいんですか?」
「秘書課にいるのは私だけじゃないから、心配しなくて平気よ。それよりも、馨ったらホント美人に育ったわね?会うのは何年ぶりかしら?」
「えっと…2年振り?」
「馨の中等部卒業以来じゃね?」
「そうだったそうだった!あの時はもう少し背も小さかったのに、見ない内に大人になって…!」
「言う事ばばあみたいじゃん、ウケる。」
「アンタねぇ…!」
「もうっ、お兄ちゃん?」
「おら、早く車出せよ。」
「分かってるわよ!!」

ゆっくりと車が動き出した。今日は学校を休んで、昨日の件で警察署に行くことになっている。証拠品の提出と、少しだけ事情聴取をされるらしい。

「…小野川さん、急に契約打ち切りみたいになっちゃって申し訳ないな…。」
「気にしなくて大丈夫よ、会長…アンタたちのお父さんが話を付けてくれてるから。」
「あんなオッサン気にすんなよ。」
「でも、凄くお世話になったでしょ?最後に挨拶だけでも出来たらよかったなぁ…。」
「そういえば、ストーカーの件だけど、会長から新居の手配をするように言われたわ。もう少し学校に近くてコンシェルジュのいるところを探すように言われてるんだけど、大丈夫かしら。」
「あれ、捕まったんですよね?」
「捕まってても、どっから情報が漏れてるかわかんねぇし、引っ越した方がいいだろ。」
「そっか…。今のお部屋結構気に入ってたのに…。」
「大丈夫よ、私がしっかり目を光らせていい部屋探しておくから!」
「わぁ…流石敏腕秘書…!カッコいい…!」
「ふふん、任せなさい!」

警察署に着くと、証拠品の提出と事情聴取をされた。女性の警察官が色々と聞いてきたので、分かっている範囲で答えて、終わった頃には時刻はお昼を過ぎていた。歌姫さんにマンションまで送ってもらうと、今日は昨日の出来事を伝える動画を録ることに。

「馨、平気か?あれだったら、俺一人で録るけど。」
「大丈夫…。自分の事だから自分で話す…。」
「…しんどくなったらいつでも言えよ。編集用動画だから、ヤバいとこはカットできるし、」
「…うん、頑張る。ありがとう、お兄ちゃん。」
「2人の時は悟、」
「…悟、ふふ…好き、」
「可愛すぎだろ。」

ちゅっとキスをして、カメラに目を向ける。お兄ちゃんが録画ボタンを押して、撮影がスタートした。

「るんるんチャンネルをご覧の皆さん、お疲れサマンサー!皆のお兄ちゃん、悟だよ!」
「お疲れサマンサー!皆の妹、馨です。」
「今日は昨日の配信で話していた通り、馨のストーカーの件について話せる範囲で話そうと思います。」
「今日、警察署の方に証拠品の手紙を提出して、事情聴取を受けてきました。」
「ストーカーの個人情報とかは言えないけど、結構昔から馨のこと狙ってたみたいで、家からいろいろ押収品が出たらしい。あと余罪についても今後調べるらしいんで、しばらくは塀の中だろうね。」
「ストーカーは、本当にやめてください…。本当に怖いです、絶対にやめてください…。」

声が震えた。お兄ちゃんがテーブルの下で私の手を握る。指を絡めてしっかりと握られた手に、私も力を込めて握り返した。

「これには僕も思うことがあるね、男女が逆だったとしても怖いと思う。相手が何をしたいのかわかんないし、こっちも神経すり減るし、精神的に参っちゃうのね。馨なんて泣き虫だし怖がりだから尚更。まあ、僕としては泣いてる馨を慰めたりよしよししたりで役得だったんだけど、」
「お兄ちゃん?」
「ていうのは冗談で、馨はずっと泣いてたし、犯人が捕まったとはいえ恐怖心は残っててあんまり眠れてないみたいだから。」
「…うん、眠れなかった…。」
「お兄ちゃん眠れないって枕持って僕の部屋に来た馨はめっちゃ可愛かったけどね。」
「もうっ、そんな事してないもん!」
「今日も馨が可愛い。…ま、おふざけはここまでにして、俺から忠告。マジで馨のこと泣かせる奴は許さねぇから。出るとこでっから。」
「お兄ちゃん、」
「分かってるって!というわけで、家バレしちゃった僕たちは、お引越しを決意しましたー!」
「まだ新居は決まってないんですけど、少しずつ荷造りを始めると思うので、荷物が映り込むこともあるかもしれないです。そのときは見なかったふりをしてくれると助かります!散らかってると思われたくないので…恥ずかしい!」
「決まり次第荷物移して、引っ越し完了くらいの報告動画は上げるかなぁ。」
「でもやっぱり、特定とかはしないでほしいです。切実なお願いです。」
「てなわけで、話せる内容としてはこのくらいかな?」
「そうだね?」
「終わるか。」
「うん。」
「じゃ、お疲れサマンサー!次はちゃんとした動画か配信で会いましょー☆」
「お疲れサマンサー!」

お兄ちゃんが録画ボタンを切った。ふぅ、とため息。私の隣に座り直したお兄ちゃんの肩に体を預けてぎゅうっと抱き着いた。お兄ちゃんが私のつむじにキスをする。

「大丈夫か?今日は俺が全部やっとくし、眠たいなら寝てろよ。」
「…もうちょっとくっついとく…。」
「好きなだけくっつけよ。俺も好きなだけくっつく。」

そう言ってお兄ちゃんが私の脇腹を擽った。笑いながら身を捩ると、お兄ちゃんが私をギュッと抱きしめる。顔を上げると目が合って、吸い寄せられるようにどちらからともなくキスをした。

「馨大好き。俺が何からも守ってやるから、ずっと死ぬまで俺だけの馨でいて。」
「私も、悟のこと大好き。私の全部、お兄ちゃんにあげる。」
「じゃ、法律変えて結婚する?」
「え!?」
「あれ?そこまでは考えてねぇの?」
「…本当にできるなら、おに…悟と結婚したい。」
「じゃ、そのうち法律変えちまうか?それとも外国で結婚する?」
「もう、話が早すぎるよ〜。」

私が笑って誤魔化すと、お兄ちゃんもフッといつもの優しい顔で笑った。お兄ちゃんと結婚できるなら、私は嬉しくて飛び回っちゃいそうだ、って思ったけど言わないでおいた。

『るんるんチャンネル:【馨のストーカーの件について】お疲れサマンサー!昨日の件についての動画です!ストーカーは犯罪です、絶対にやめましょうね!心配してくれた皆さん、私はもう大丈夫です!ありがとう!(*´ω`*)♡ 馨』
『西中の虎:@るんるんチャンネル お疲れサマンサー!馨ちゃんが無事でよかった!今日も可愛い!』
『恵:@るんるんチャンネル お疲れ様です。馨さんが元気そうで良かったです。笑顔が見れて嬉しいっス。』
『モブ美:@るんるんチャンネル 馨ちゃあああん!(´;ω;`)無事でよかった…!元気な顔が見れて嬉しいよぉ!』
『モブ佳:@るんるんチャンネル 馨ちゃん元気になってよかった…!!怖かったね…!』
『傑:@るんるんチャンネル 馨ちゃんが元気そうで良かったよ。今度悟と一緒にご飯でもいこうね。』
 『硝子:@傑 私も誘えよ。』
 『傑:@硝子 勿論、いつものメンバーで行こう。』
『モブ菜:@るんるんチャンネル 馨ちゃん元気になったみたいでよかった…!悟君も本当にお疲れサマンサ…!』
『パンダ:@るんるんチャンネル 元気そうで何より。また動画楽しみにしてるわ。』
『おにぎり:@るんるんチャンネル すじこ…!(ノД`)・゜・。いくら、明太子!!高菜!( *´艸`)♡』
『直哉ちゃんねる:@るんるんチャンネル 馨ちゃん元気になって良かった!またコラボしよな?』
 『るんるんチャンネル:@直哉ちゃんねる 馨はオマエとは死んでも絶対会わせねぇ。 悟』
 『直哉ちゃんねる:@るんるんチャンネル そないな冷たいこと言わんとってや、お・に・い・ちゃ・ん♡』
 『るんるんチャンネル:@直哉ちゃんねる 通報。 悟』
『脹相:@るんるんチャンネル 馨!!!脹相お兄ちゃんと呼んでくれ!!!』
『73:@るんるんチャンネル お元気そうで何よりです。今後も気を付けてくださいね。』

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