ファンその1の心情
俺には好きな人がいる。
『るんるんチャンネルをご覧の皆さん、お疲れサマンサー!皆のお兄ちゃん、悟だよー!』
『お疲れサマンサー!皆の妹、馨です!』
初めてその人を見たのは、同じクラスの虎杖がJwitterでリジュイートしていたリンクを開いた時だった。その人は銀髪碧眼、隣に並ぶ兄と似てるけど、もっと目がくりくりしてて、ぷっくりした唇ところころ変わる表情が可愛い、綺麗な人だった。
『あ、恵君、今日もコメントありがとう!』
初めて俺が動画を見たその日から、JwitterもJnstagramもフォローした。ファンレターも書こうか迷ってる。
「俺のこと認知してくれてる…。」
コメントを読まれたり、名前を呼ばれると胸が締め付けられる。正直かなり嬉しい。同じクラスの釘崎も、俺と同じで虎杖のリジュイートからるんるんチャンネルを見始めたらしい。馨さんの使ってる化粧品が知りたいって騒ぐようになった。
「昨日の配信、馨さんめっちゃ可愛かったー!」
「馨さんが可愛いのはいつものことでしょ!にしてもホント、お人形さんみたいで羨ましい…。」
「釘崎までるんるんチャンネルハマるとは思ってなかったけど、リジュイートしてよかった!」
「虎杖がしょっちゅうイイネとリジュイートしてるから、嫌でもTLに流れてくんの!ま、おかげでいい配信者に出会えたわ、ありがと。」
「応!そういや伏黒も俺のリジュイートで知ったって言ってたよな!」
「ああ。」
「それにしても意外よね。伏黒こういうの一番興味なさそうなのに。」
「釘崎知ってる?伏黒ってば俺がいつも1コメ取るから、2コメしか打てねぇって悔しがって荒れるらしいぜ!」
「は!?ちっさ!」
「何で知ってんだよ…。」
「津美紀の姉ちゃんに聞いた!」
「アイツ…、」
「にしてもオフ会かぁ〜!超楽しみ!俺何着て行けばいい!?」
「虎の着ぐるみでも着てろ。」
「お、いいねぇ!絶対気付いてもらえるじゃん!」
「アンタのセンスどうなってんのよ。」
「ファンレター書いて持って行こっかなぁ!握手会の時渡せたりすんのかな?俺こう言うの初めてだからさ、すっげーテンション上がる!」
「私もファンレター書こうかしら…。」
「伏黒は?書かねぇの?」
「…書く。」
「ムッツリ。」
「うるせぇ。」
その日の夜、配信中にオフ会についての告知があった。俺はすぐに部屋のカレンダーに赤い丸を付けた。12月7日、るんるんチャンネルバースデーオフ会だ。
「おい恵、」
「…んだよ、親父。今大事な、」
「また動画見てんのか。…ハッ、まぁ、女は悪くねぇ。」
「やめろ、そういう目で馨さんを見るな。」
『オフ会で待ってますね!』
『皆に会えるの楽しみにしてるよー!』
「オフ会だぁ?行くのか。」
「…行く。」
「…フン。保護者同伴だな。」
「はぁ!?」
「俺も行く。」
「…親父、仕事あんだろ。」
「あ?俺が社長だ。俺の都合で俺が休んで誰が責めるってんだよ。」
「…チッ、」
俺の親父は伏黒建設の社長だ。俺が通う中高一貫の東京都立呪術学園も俺の親父の会社が建てた。
「…この2人どっかで見たことあるな…。」
「…五条財閥。」
「五条財閥?…ああ、あのでっけぇ財閥か。」
「知ってんのか。」
「知ってるも何も、日本どころか世界中にビル持ってるボンボン財閥だよ。」
「…うちの先輩。」
「おいおいマジか。」
「高等部だから会った事はない。」
「そりゃお近付きにならねぇとな。」
「はぁ!?」
「ビル建てる時はうちを使えってな。」
そう言うと親父は俺の部屋を出て行った。…クソ、邪魔が入ったせいで配信最後の方聞きそびれた。…オフ会か…。
「…馨さん、」
楽しみだ。
「…ファンレターってなに書けばいいんだ…。」
俺はその日、馨さんへのファンレターに何を書くか悩んで眠れなかった。次の日、隈を作った俺はいつも通り学校に向かう。虎杖と釘崎といつも通りるんるんチャンネルの話で盛り上がって、昼休み。学食を食べ終わって教室に戻る途中で、
「…あ、あれって、」
「嘘っ、マジ!?」
「「馨さんじゃん!!」」
「…なんで中等部に、」
中等部に馨さんがいた。キョロキョロ周りを見渡しながらこっちに歩いてくる馨さんに、俺たち三人は顔を見合わせる。
「…話し掛けていいのかな?」
「プライベートでしょ!?」
「何か探してるように見える。」
「…俺行く!」
「は!?抜け駆け禁止よ!」
「…あの、」
「「あ、伏黒ぉ!!」」
「あ、中等部の子?」
「…っス。」
「ごめんね、2年生の教室に行きたいんだけど、久しぶり過ぎてテンション上がっちゃって…迷子!」
「「「可愛い…、」」」
恥ずかしそうにはにかんだ馨さんに、俺たち3人ハートを撃ち抜かれた。
「ハイハイハイ!俺、1年の虎杖悠仁っす!案内しゃっす!!」
「私、釘崎野薔薇です!馨さんいつも応援してます!」
「え?あ、もしかして、Yon Tube見てくれてるの?」
「「見てます!!」」
「…大ファンです…。」
俺がぽつりとつぶやいた言葉に、馨さんはにっこり笑ってくれた。
「ありがとう!えっと、君はなにくん?」
「…伏黒恵です。」
「…もしかして、恵君?よくコメントくれる…、」
「…っス、」
「俺も俺も!西中の虎!!」
「そうだったんだ!?いつもありがとう!」
「私、最近コメントするようになったんですけど、野薔薇様って名前で、」
「あ、見てるよ!バラの花のアイコンでしょ?西中の虎君は、手書きの虎の絵で、恵君はわんちゃん!飼い犬かな?」
「「覚えててくれてるぅ〜!!!」」
「…っス、白と黒です。」
「犬、好きなんだ?」
「…好きっス…。」
馨さんの事も好きです。
「あ、2年の教室ですよね!?こっちです!」
「あ、釘崎ずりぃ!」
釘崎が馨さんの手を引いた。虎杖が釘崎の反対側にぴったりとついて行く。…クソ、折角会えたのに出遅れた。
「恵君?」
「!」
「あ、もしかして何か予定あった?」
「いえ、俺も行きます。」
「俺オフ会絶対行く!!」
「私も行きます!!」
「俺も、行きます。」
「ありがとう!会えるの楽しみにしてるね?」
2年の教室に馨さんを案内し終えると、馨さんは俺達と握手してくれた。すっげぇいい匂いした。手が小っちゃくて柔らかかった。…手、洗いたくねぇな。
「案内してくれてありがとう、お疲れサマンサー!」
「「「お疲れサマンサー!」」」
「馨?」
「あ、真希ちゃん!この前LIMEで話してたの持って来たよ!」
「馨、久し振り。」
「真依ちゃん久し振り!中等部久々で迷子になっちゃった!」
「「可愛いかよ。」」
「やっべぇええ!!馨さんと握手!!オフ会より先に握手しちゃった!!」
「私もう一生手洗わないわ。」
「…オレモ。」
「伏黒ぉ?!すっげぇ顔真っ赤じゃん!」
「…イイニオイ、シタ…。」
「釘崎大変だ!!伏黒がオーバーヒートしてる!!」
「頭から水ぶっかけなさい!!」