匂わせちゃって
朝目が覚めて、俺の腕枕で眠る馨の寝顔が目に入って顔がにやけた。すやすやと寝息を立てる馨も、俺も、裸だ。馨の素肌が見えないように布団を掛け直して、ベッドボードで充電していたスマホを手に取る。カメラを起動して内カメにすると、馨の寝顔も写るようにカメラにウインクをしてシャッターボタンを押した。…俺裸なのバレるか?ま、いっか。俺の肌は肩までしか写ってねぇし。個人のジュンスタとJwitterに投稿っと。
『るんるんチャンネル 悟:おはようサマンサ―!馨はまだおねむだよ♡[写真]』
投稿してすぐにいいねとリジュイートが来た。また西中の虎だ。アイツマジでガチ勢じゃん。ウケる。すぐにコメントがついて、俺はそれに目を通す。
『西中の虎:@るんるんチャンネル 悟 おはようサマンサ―!馨ちゃんの寝顔可愛い!!!ってか悟さん上裸で寝てんの?!』
『るんるんチャンネル 悟:@西中の虎 そうだよー。』
『西中の虎:@るんるんチャンネル 悟 マジ!?馨ちゃんは!?』
『るんるんチャンネル 悟:@西中の虎 ナイショ♡』
他にもコメントといいねとリジュイートが複数来て、めんどくさくなった俺はとりあえずコメントにいいねだけを返してスマホの画面を消した。馨を見れば、まだ起きる気配がない。
「…馨、起きろ。走るぞ。」
「…んぅ…、」
「起きないなら襲うけど?走る代わりに別の運動する?俺はいいけど?」
「………おきるぅ…、」
俺の腕の中でもぞもぞと身じろいだ馨にキスをすれば、馨はにやにやとだらしなく口元を緩めて笑う。可愛いな、マジで。俺の妹何でこんな可愛いわけ?
「…おはよ、悟、」
「ん、おはよ。」
ちゅっとキスをして、見つめ合って、もう一回キスをする。あー、マジで可愛い。2人でベッドから起き上がると、馨はまだ眠たそうに目を擦った。
「…あれ、服どうしたっけ…、」
「飯食った後そのままベッド行っただろ。」
「…そう言えばそうだった…。」
「時間勿体ねぇし走ってからシャワーでよくね?」
「…しょうがないなぁ、もう。あぁ、化粧したまま寝てた…。」
「化粧落としたら行くぞ。」
馨がスマホを手に取った。俺は裸のまま馨を後ろから抱きしめてスマホ画面をのぞき込む。
「あ!」
「あ?」
「ちょっと、悟!この写真はヤバいって!」
「は?別いいだろ。馨は顔しか映ってねぇし。」
「いや、お兄ちゃんが裸で寝てるってバレたらヤバいでしょ!」
「上裸って事にしたからいいの。」
「もー…、絶対直哉君がうるさいやつじゃん…。」
「俺が黙らせるから心配すんなって。それより早く準備しろよ。」
「わわっ、」
抱き着いたまま馨を押すように洗面所に向かう。馨が化粧を落として顔を洗っている間に俺は歯を磨いた。歯磨きを終えると今度は俺が洗顔、馨は歯磨き。下着とスポーツウェアを身に着けると部屋で軽くストレッチをして、鍵とアッポーウォッチをそれぞれ腕につけて部屋を出る。新居にしてからはランニングコースはその日の気分で走るようになった。2人で並んで走り出す。馨は髪をポニーテールにしてるから、俺が昨日つけた項の痕が揺れる髪の合間に見えて、嬉しくてにやけながら走った。多分馨は忘れてるな、これ。ランニングを終えて帰宅後すぐにプロテインを飲むと、馨を先に風呂に入れて俺は朝食の準備に取り掛かる。朝食を食べて後片付けを馨に任せて俺もシャワーを浴びに風呂へ。身支度を済ませて歌姫の運転で学校に向かう。車に乗り込んで早々、歌姫は俺を睨み付けた。
「ちょっと、朝のジュイートはダメよ!会長も奥様も見てるんだから、バレるでしょ!!」
「別によくね?俺は上裸で寝てるって事にしたんだし。」
「そもそも高校生にもなって同じベッドで寝てること自体が問題だってのに!」
「歌姫さんすみません…。お父さんたち何か言ってましたか?」
「悟が勝手にやったんだろってちょっと怒ってたわよ。奥様は特に何も。」
「だから細かい事気にし過ぎだっての。匂わせてみたとかそんなんでドッキリ企画って事にすればどうとでもなるだろ。」
「それがどれだけ通用するか分からないでしょ!?」
歌姫がガミガミ説教して俺は次第にイライラ。貧乏ゆすりをした俺に、馨は静かに俺の手をきゅっと握った。俺も馨を見てその手を指を絡めて握り返す。
「とにかく、アンタ達が付き合ってることは公にできないんだから、もっと考えて行動しなさいよ!?」
「へーへー。」
「ごめんなさい。」
「馨は別に寝てただけだし謝る事ねぇだろ。」
「馨に謝らせたくなかったらアンタがもっとしっかりしなさい!」
「分かったよ、うっせぇな。俺正論嫌いっつったろ。」
「正論言われるようなことやめなさいって言ってんのよ!まったく!」
学校について馨を教室まで送った。
「またお昼な。」
「うん、」
くしゃくしゃと馨の頭を撫でて、フッと笑う。
「ポニテ、しろって言ったろ。」
「だって、見えるから…。」
「見せつけろよ。虫よけだし。主に直哉とか直哉とか直哉とか。」
「直哉君だけじゃん。」
馨が小さく噴き出して笑う。俺は、じゃあな、と手を振って自分の教室に向かった。教室について傑と硝子に声を掛けて自分の席へ。
「悟、Jwitter見たよ。」
「おー。」
「五条オープンにし過ぎじゃない?バレたらヤバいでしょ。」
「私も注意しただろう?」
「別に大丈夫だって。どうとでもなるからやったんじゃん。」
「またこのドラ息子は…。」
「誰がオマエの息子だよ。」
「困ったねぇ、母さん。」
「そうだねー、父さん。」
授業が始まって、俺は頬杖をついてぼーっとグラウンドを眺めた。そう言えば馨が1限目体育でテニスだって言ってたな。体操着のジャージを着た男女がグラウンドにわらわらと集まっている。俺はその中でも一際目立つ、俺と同じ白髪を見つけて頬が緩んだ。ガラリと窓を開けて、
「馨ーーーー!!!!!」
「悟、授業中だぞ!」
「いっでぇ!」
夜蛾先生に教育的指導をされた俺。クラスメイトのくすくす笑う声を聞きながらちらりと外を見れば、馨は両手で口元を覆って笑っていた。目が合って手を振ると、振り返される。つーか、ジャージ萌袖じゃん。可愛い。
「悟、前を向け!」
「俺の前は馨だから無理。」
「廊下に立たされたいのか。」
「……。」
「なんだその顔は。」
「べっつにー。」
仕方なく前を見る。と見せかけて目線はグラウンドだ。馨はまだ俺を見上げていた。馨が両手を頬に添えて何か口をパクパクさせている。なんだ?
「…は、なに?」
「悟!」
「ちょっと夜蛾先生黙って、馨が俺になんか言ってんだよ。」
「また指導されたいようだな。」
「…あ?愛?す?愛してる?は?アイツ…マジ、なに可愛い事やってんの!?」
「悟、落ち着きなよ。多分違うから。」
「あ゛ぁん!?ちょ、馨ーーーー!!!愛してるーーーーー!!!」
「オマエたち兄妹は何をやってるんだバカ者。」
俺はまた教育的指導を食らった。馨を見れば両手で顔を覆って座り込んでいた。絶対にやけてんだろ!!馨が漸く立ち上がったかと思うと、
「お兄ちゃん授業に集中してーーー!!」
…は?
「俺のこと愛してるって言ったんじゃねーのかよーっ!!!」
「言ってないからーっ!!前向いてって言ったのーっ!!」
「はぁああ?!?!絶対愛してるって言っただろ!!!」
「五条さん急にどうしたの!?」
「あ、すみません、あの、兄が騒がしくてつい、」
「悟は後で指導室だ。」
「は?なんで?」
「この馬鹿者が。」
3発目の教育的指導を受けた俺は、たんこぶが3段重ねに出来上がっていた。クソ、絶対愛してるって言ってただろ。休み時間になって傑と硝子が俺の席に来た。
「悟、どういうつもりだい?」
「別に、俺らは普段からこんなんだって見せつけただけ。」
「いや、やり方よ。」
「別にいつも通りだろ。」
「「だめだこりゃ。」」
スマホを見れば馨からLIMEが来ていた。
『ビックリするからあんなこと叫ぶの禁止!』
『は?別いいだろ。』
『今朝も歌姫さんに怒られたでしょ?気を付けよう?(>_<)』
『愛してるって言っただろ絶対。』
『前向いてって言ったの!』
『何でだよ!!愛してるだろそこは!!』
『愛してるけど、さっきは言ってない!』
『愛してんじゃん。』
『愛してるよ。』
『もっと言えよ。』
『文字でいいの?』
『他になんかあんの?』
( ▶ )
『恥ずかしいから絶対イヤホンつけて聴いてね!!(*ノωノ)』
「ん?」
馨から突然送られてきたボイスメッセージ。俺は馨の言う通りワイヤレスのイヤホンを付けて、再生ボタンを押した。ガヤガヤと騒がしい雑音が聴こえて首を傾げていると、
(愛してるよ、悟、ちゅっちゅっちゅっ、…ふふっ♡)
「は?」
囁くように聞こえた馨の声に、俺は頭が真っ白。は?なんて?もう一度再生ボタンを押して、さっきと同じ内容に、俺は机に頭を打ち付けた。
「悟!?」
「ついに頭イカレたー?」
クソいてぇ…現実だわ…。次第ににやける口元。不気味な笑いが出て、傑と硝子がギョッとした顔で俺を見ている。俺はそんなの気にせずに、また再生ボタンを押す。
「…クソ可愛すぎだろ、は?マジでぶち犯す。」
普通にちんこ勃ったわ。帰ったら覚えてろよ馨。