誘われちゃって


体育の授業中に悟が叫んだことで、私は驚きと同時に恥ずかしさを感じた。普通にバレるからやめてぇ…!!!

「お兄ちゃん授業に集中してーーー!!」

私がグラウンドから悟の教室目掛けてそう叫び返すと、悟は窓から身を乗り出す勢いでまた叫んだ。

「俺のこと愛してるって言ったんじゃねーのかよーっ!!!」
「言ってないからーっ!!前向いてって言ったのーっ!!」
「はぁああ?!?!絶対愛してるって言っただろ!!!」

体育の先生が駆け寄って来て私はヤバ、と顔色を変える。

「五条さん急にどうしたの!?」
「あ、すみません、あの、兄が騒がしくてつい、」
「…仲がいいのは宜しいけど、授業中はやめて頂戴ね?」
「は、はい、すみません。」

その後、自分の番が回ってきた私はテニスラケットを手にコートに入る。ペアになった子と一緒にはしゃぎながら試合をして、いい汗を掻いた。授業が終わって更衣室に移動した私は、悟にLIMEを送る。

『ビックリするからあんなこと叫ぶの禁止!』
『は?別いいだろ。』

全然悪びれる様子のない悟に小さく溜息。…ホントにバレたらどうするつもりなんだろう…。

『今朝も歌姫さんに怒られたでしょ?気を付けよう?(>_<)』
『愛してるって言っただろ絶対。』
『前向いてって言ったの!』
『何でだよ!!愛してるだろそこは!!』
『愛してるけど、さっきは言ってない!』
『愛してんじゃん。』
『愛してるよ。』
『もっと言えよ。』

もっと言えって…いつも言ってるのに。今だってLIMEで…、あ、

『文字でいいの?』
『他になんかあんの?』

私はLIMEの入力欄の端にあったマイクのアイコンをタップした。周りを見渡して、皆が着替えや会話に夢中になっているのを確認すると、マイクに向けて小さく囁く。ちょっと恥ずかしくなって笑っちゃった。

( ▶ )
『恥ずかしいから絶対イヤホンつけて聴いてね!!(*ノωノ)』

そう送ると私は汗拭きシートで体を拭いて制服に着替えた。悟からの返信は来ない。…まだ聴いてないのかな?それとも聴いた?どっちだろう、なんかドキドキしちゃう。にやけそうになる口元に、小さく唇を噛んで荷物を手に女子更衣室から教室へ向かう。

「あ、五条さん!」
「ん?あ、さっきはお疲れ様、萌部院寺さん。」
「お疲れ様!ねえさっきから気になってたんだけどさ、」
「うん?」
「首、虫刺され?なんか赤くなってるよ?」
「…あ!」

忘れてた…!体育だからと髪の毛を結んでいた私は慌てて首を押さえて、髪ゴムを解いて手櫛で髪を整えた。

「ありがと、そう言えばちょっと痒いなぁって思ってて…、虫刺されかな、あははは…、」
「保健室で薬塗ってもらった方がいいんじゃない?」
「う、うん、ありがとう、あとで行ってみる!」

それから萌部院寺さんと教室に戻って席に座ると、机の下でこっそりとスマホを見た。悟から返信が来ていて開こうと、

「なあなあ馨ちゃん、」
「わっ、びっくりした!」

直哉君が私の机に肘をついて頬杖をしていた。その近さに慌てて身を引く。

「体育の時なんや悟君と叫びあっとったな?なにしてん、学校で。」
「あ、僕も聞こえた!五条さん凄い大声だったからね!」
「あの声量じゃ下手すれば中等部にまで聞こえてますよ。」
「…そ、そんなに…?」
「意外と響きますから。」
「…はぁ…ホント困った…。授業中なのにいきなりあんなこと叫ぶなんて思ってなかったから、前向いてって言ったんだけど…、」
「まあ、言ったところで意味ないでしょうね、五条さん相手じゃ。」
「なさそうだね!」
「ないやろ。」
「はあ…、」
「なあ馨ちゃん。」
「ん?」
「ほんまに悟君と付き合うてへんの?」
「…な、なんで?」
「いや、あんなやり取りしておいて、付き合うてないは通用せぇへんやろ。」
「それは僕も思ったなぁ…。」
「私も思いました。」
「…付き合っては、ない、よ、いつものシスコンが爆発しただけでしょ…!うん、絶対そう!」
「ほんまにぃ?」
「うん!」

多分私の目は泳いでいる。もう…悟のせいで大変な目に…!

「悟君の朝のジュイート見たけど、ほんまに同じベッドで寝てるんやね。」
「…あれは、お兄ちゃんが勝手にベッドひとつしか置かなかったからで…仕方なく!あ、あの、ちゃんと間にごじょにゃんいるから!」
「ほーん?」
「ほんとに!ごじょにゃんはいつも私とお兄ちゃんの間に割り込んできて、」
「割り込んで言う事は、割り込まなあかんほど隙間なくくっ付いて寝とる言う事か?」
「それはさと…お、お兄ちゃんが無理矢理くっ付いてくるからで!も、ほんとに、そういうのじゃないから!はい、この話おしまい!授業始まるから前向いて!!!」
「あの幼馴染はやっぱブラフやな?」
「もういいからあっち向いて!」

ニヤニヤしながら漸く前を向いた直哉君に私は大きく溜め息を吐いた。次の授業の準備をしながらさっき悟から来たLIMEを思い出して、スマホをこっそり開く。

( ▶ )

ボイスメッセージだけが届いていた。…イヤホン…。鞄からワイヤレスのイヤホンを取り出して耳につけると、再生ボタンを押してみた。ほんの数秒の無音が続いて、

『馨、帰ったら覚えてろよ。今日こそめちゃくちゃに抱き潰す。立てなくなったらごめんねー♡…愛してる、マジで。』

ゴン、気付けば私は机に頭を打ち付けていた。…めちゃくちゃ痛い…現実だ…。

「馨さん?!」
「馨ちゃん!?大丈夫!?」
「何やってんねん馨ちゃん、可愛い顔が真っ赤になってしもて、もっとかわええことになってるで。」
「…な、なんでも、ない…、ホント、なんでもない…。今は誰も私を見ないで…お願いだから見ないで…。」

顔中に集まった熱に私は机に伏せてぎゅっと目を瞑った。ズルい…こんなのズルい…。ホントにズルい…。にやけてしまう顔を伏せて隠したまま、私はスマホを見る。

『聴いた?』

新しく来ていたメッセージ。

『聴いた…死ぬかと思った…(>_<)』
『馨が先にやったんだろ。』
『どこで撮ったの?』
『トイレまで走って行った。』
『走って行ったんだ( *´艸`)』
『ちんこ勃ったから昨日のこと思い出して抜いてる。』
『は!?』
『授業サボる。』
『ちょ、バレたらヤバいでしょ!?教室戻ってよ!』
『手伝って♡』
『絶対やだ!』
『ケチ!!!馨がこうしたくせに!!!』
『勝手にそうなったんでしょ!?』
( ▶ )

チャイムが鳴って、冥冥先生が教室に入ってきた。次は冥冥先生の授業だ。何だろ、ボイスメッセージ来てた、なんか聞くの怖い…。

『次冥さんだっけ?』

引き出しの中でまた新しいメッセージが来ていた。つけたままのイヤホンを髪の毛で隠れるように調整して、返信を打つ。

『そうだよ!』
『聴いた?』
『まだ!』
『早く聴いて。』

先生の様子を窺いながらこっそり再生ボタンを押した。ゴソゴソと布擦れのような音が聞こえて、

『ん…、はぁ…馨…、愛してる…はぁ…、あ…やば…、ン…、』

ゴン、私はまた頭を打ち付けていた。な、なに、え?!なにやって…!?!?

「馨、大丈夫かい?」
「す、すみません、あの、すみません、大丈夫です。」
「…顔が赤いね、熱でもあるのかな?保健室へ行った方がよさそうだね。」
「ほ、ほんとに大丈夫です!」

冥冥先生がカツコツとヒールを鳴らして私の席までやって来ると、にっこりと笑った。

「保健室に行きなさい。馨に何かあれば、君の兄がうるさいからね。」
「…は、はい、スミマセン。」
「せんせー、俺が馨ちゃん保健室まで送りましょか。」
「禪院君は馨に近付かないように。」
「あ゛?」
「フフフ、」

冥冥先生が私の耳元で小さく囁いた。

「3階の男子トイレに来い、だそうだよ。」
「え…、」
「気分が良くなるまで保健室でゆっくりするといい。馨は大事な生徒だからね。」

…もしかして、悟は冥冥先生を買収して…?!私は冥冥先生に背中を押されながら教室を出た。振り返ればぴしゃりとドアを閉められる。…マジ?

『冥冥先生に教室から締め出されたんだけど!?』
『早く来いよ。』
『本気?!』
『と書いてマジと読むだろ。』

私は熱くなった顔を扇ぎながら3階へ向かう。授業中だから教室のドアは全て閉まっていて、廊下には当たり前だけど誰もいない。男子トイレは確か…、

「…どうしよう、ほんとに入るの…?」

私は男子トイレの入り口にあるドアの前で立ち尽くしていた。どうしよう…ほんとにどうしよう。

『男子トイレついたけど、ほんとに…?』
『早く来いって、マジで早く!!!』

「…もうっ!」

周囲を見渡して誰もいないことを確認した私は、ゆっくりとドアを開けて中に入る。お金持ち学校な事もあって、トイレもかなり広くて綺麗だ。男子トイレもめちゃくちゃ広い…。常に換気されているのと芳香剤が置かれているのか、かなりいい匂いがする…。女子トイレもそうだけど、ほんとキレイ…。一番奥の個室が閉まっているのが見えて、私は上履きからスリッパに履き替えて上履きを手に個室へ向かう。

「…お兄ちゃん?」

私が小さく声を掛けると、ガチャッと鍵が開いてドアが開くと同時に中に引っ張り込まれた。個室の中も結構広いな…って、そうじゃなくて!

「おっせぇ。」

悟はズボンとパンツを下ろして勃ち上がったモノを握りしめていた。

「ちょ、ほんとに何してるの!?」
「早くカギ閉めろ。」
「もう…!」

言われた通り鍵を閉めて振り返る。悟は私の手を掴んで引き寄せた。

「口でして。」
「ちょっと、学校で、」
「早く、馨がこうしたんだから責任とれって。」
「……もう、今日だけだからね。」

悟が壁に背を預けて立った。ちなみに便座カバーもマットも完備されてる。学校のトイレとは思えないほどの設備だ。上履きをマットの上に置いてスカートが床につかないように悟の足元にしゃがむと、悟のモノをそっと手に取る。悟がニヤニヤしながら私を見ているので、ペチンと軽く見えていた太ももを叩いておいた。

「ほら、早く、」

私を急かす声。空いた左手で髪の毛を耳に掛けると、私はそれに舌を這わせた。

title you