サボっちゃって


「あー、もしもし歌姫?俺と馨今から早退するから迎えよろしくー。」

俺はそう言うと歌姫の返事を聞かずに通話を切った。馨は赤く火照ったままの顔で俺を見上げた。あぁ…ヤバい、もっかいヤりたい。けどとりあえず今は早退だ、早退。制服を着て何も落としたり忘れたりしてないかよく確認して、俺が先に男子トイレを出る。入り口のドアの前で周囲を確認して、馨に合図をすると馨はそそくさと男子トイレを出た。馨は一旦保健室に向かわせて、体調悪いから早退すると養護教諭に伝えるように指示して、俺は自分の教室へ。

「五条君、遅刻です。」
「せんせー、馨が体調悪いから早退するわ。」
「…えっと、妹さんでしたね?何故五条君まで、」
「は?馨を一人で家にいさせるわけにはいかねぇだろ。馨は寂しがり屋だから体調悪いと甘えたになんの。だから俺が一緒にいてやるってわけ。」
「えぇっと、まあ、そういう事なら…、」

荷物を整理しながらちらりと傑と硝子を見る。…硝子なら実家がでっかい病院だし薬こっそり回してくれねぇかな。あとでLIMEしてみるか。

「馨ちゃん大丈夫なのかい?」
「さっき普通に体育出てたよね。」
「それから体調崩れたの!じゃあな、あとで連絡するわ。」
「お見舞いに行くよ。」
「今日は来るな。」

荷物を持って教室を出ると今度は馨の教室に向かう。

「しつれーしまーす。」
「おや、馨はどうだったかな、五条君。」
「早退すっから。」
「悟君、ほんまに馨ちゃん体調悪いん?」
「あ?直哉に関係ねぇだろ。」
「あとでお見舞い行ったるよ。」
「家知らねぇだろ。てか知ってても来るんじゃねぇよ。」
「五条さん、馨ちゃん大丈夫なんですか?」
「ダイジョブダイジョブ。」

馨の机と鞄を漁って必要な荷物を詰め込むと馨の教室を出て保健室に向かう。

「ういーっす、馨迎えに来ましたー。」
「あら、五条君も早退?」
「馨1人家に置いておけねぇし。」
「本当に妹さん思いね。仲が良くて羨ましいわ。」
「ま、そゆこと。馨、帰るぞ。」
「あ、うん、ありがとうございました、失礼します。」
「お大事にね。」

馨の手を引いて保健室を出ると、靴を履き替えていつもの送迎スペースまで向かった。

「冥先生何か言ってた?」
「いや、特になにも。つか、直哉うぜぇから席離してもらうように冥さんに言っておくから。」
「そこまでしなくても、」
「そこまでしておいた方がいいの。じゃねぇとアイツそのうち同じマンションに住み始めるかもしれねぇだろ。馨のストーカーだし。」
「…ストーカーなのかな…?」
「お、歌姫来た。」

車に乗り込んですぐに歌姫は俺達を振り返った。

「急に早退するって一体どうしたのよ。」
「馨がタイチョー悪いの。」
「だからってなんでアンタまで早退?!」
「馨1人でおいとけねぇじゃん。」
「私が面倒見たわよ。」
「歌姫はすぐヒスるから。」
「アンタねぇ!」
「歌姫さんごめんなさい、今日だけお願いします…。」
「…馨がそう言うなら、今日だけよ?」
「何で馨にだけ甘いわけ?」
「日頃の行いよ!それで、スーパーに寄ったりは?熱があるの?あ、先に病院かしら。」
「あー、硝子のとこの病院行って。」
「硝子の病院ね。診察の間買っておいて欲しいものがあったら考えといて。」
「ありがとう、歌姫さん。」
「今日はゆっくり休みなさいよ?動画も今日は休んだ方がいいでしょ。」
「動画も配信も後でどうとでもなるから早く車出せよ。」
「分かってるわよ!」

硝子の病院で車を降りると、歌姫には適当に買い物を頼んだ。

「あー、院長に会いてぇんだけど。五条って言えばわかるから。」
「五条様…は、はい、すぐにお繋ぎ致します。」
「ん、よろしくー。」
「おじさま元気かな?」
「いつも通りだろ。」

近くのベンチに座って待っていると、硝子の親父が小走りでやってきた。

「悟君、馨ちゃん、待たせたね。」
「お久し振りです。」
「おじ様、こんにちは。お久し振りです。」
「学校はどうした?まだ授業中だろう。あぁ、一先ず静かな所に行こうか。」

院長室に案内されて俺と馨はソファに座った。正直に全部話すのは流石にリスクがたけぇしなぁ。どーっすかな。

「それで、今日はどうした?」
「あー、実は、うちの親には絶対内緒にして欲しいんすけど、」
「おお、なんか事情があるなら、そうしよう。心配をかけたく無いんだろ。海外だもんな。」
「あー、まあ、そんな感じ。馨にピル出してやって欲しいんだよね。」
「…はい?」
「ちょ、お兄ちゃん、」
「いや、言わなきゃ貰えねぇだろ。」
「でも…、」
「…もしかして、馨ちゃんに彼氏ができたとか…?」
「……そんな感じ。」
「…そうか…馨ちゃんに彼氏ができたのか…。」
「おじ様、なんで泣いてるの?」
「悟君はこーんなに小さい頃から馨ちゃんと結婚するって言ってただろう?そんな悟君が馨ちゃんに彼氏を作ることをを許したとは…。それで、相手は誰だ?やっぱり傑君か?」

傑と馨が付き合ってる訳ねぇだろ!って言いたい。が、俺達の関係は公にはできねぇし…ここは、

「………傑。」
「ぇ、」
「傑君かぁ…!これはお祝いしないとなぁ!」
「いや祝わなくていいから薬頂戴って。」
「しかし傑君が避妊を失敗するとは思えない。あの子はしっかりしているからね。」
「いいから薬頂戴。」
「そうかそうか、馨ちゃんと傑君がねぇ。真面目な子だからてっきり傑君が来ると思ったけど、悟君が来たんだね。」
「だから薬!」
「ああ、そうだった。まずは問診して、薬の服用について説明するよ。女医がいいだろう?」
「は、はい。」
「すぐに手配するから、少し待ってなさい。」
「ありがとうございます。」

硝子の親父が院長室を出て行った。俺はこれでもかとデカい溜め息を吐く。

「相変わらず人の話聞かねぇオッサン。」
「硝子ちゃんいつも適当に流しとけって言ってたよね。」
「さっさと帰ってゴロゴロしてぇし、用件だけ言えばいいって思ったんだけどな。」

暫くして婦人科の女医を連れて戻ってきた硝子の親父。馨と女医が院長室を出て行くと、俺と硝子の親父だけが残された。

「それで?」
「…何が?」
「悟君、いくら兄妹で好き合っていても一線を越えるのはダメだろう。」
「………いや、傑だし。」
「硝子から聞いているよ。」
「アイツ…、」
「安心しなさい。君達の両親には話しはしないさ。」
「……学校で勢いでヤったらゴム無くて、そのまま出した。」
「まったくぅ…、君のお父さんの若いころそっくりだな。」
「…親父に?」
「……いや、今のは冗談だ。」
「すげぇ目泳いでんじゃん。」
「さて、私は仕事が残ってるからこれで失礼するよ。」
「あ、おい、逃げんな!」

硝子の親父は院長室を出て行った。俺はソファーで項垂れた。馨が戻って来るまでJwitterでも見るか。適当にタイムラインをスクロールして、エゴサして、アンチらしき奴らは全員容赦なく通報した。暫くして馨が戻ってきた。薬を飲んだら副作用で気分が悪くなることがあるらしい。マジか、副作用とかあるんだな。

「帰ろっか。」
「ん。あ、歌姫にゴムも買っとけって頼んだ。」
「え、歌姫さんになんて買い物させてるの?!」
「別に、いつもアイツに頼んでるけど。」
「嘘でしょ?!」
「俺らが一緒に買い物行ってゴム買ってたらバレるだろ。リスナーに会ったらヤバいし。」
「…そうだけど…歌姫さんに迷惑かけすぎじゃない?」
「いーの。帰ったら動画編集しながらゴロゴロしようぜ。」
「うん。」

会計を終わらせて病院を出ると、買い物を終えて戻ってきた歌姫の車に乗り込んだ。部屋まで帰りついて馨は早速薬を飲んで、部屋着に着替えるとベッドに横になった。俺も着替えて馨の隣に横になって動画編集をした。馨はスマホを弄りながら時折俺のノートパソコンを覗き込む。

「お兄ちゃん今度これやってみない?」
「ん?…何これ、ダンス動画?」
「最近流行ってるグループの曲だってさ。これ再生数伸びそうだし、新規フォロワー獲得チャンスだと思う。」
「…じゃあ空き部屋に鏡貼るか。」
「え。」
「ダンスするなら鏡いるだろ。」
「そこまでする?スタジオ借りたらいいじゃん?」
「バッカ、外だとカメラあるだろ。イチャイチャできねぇじゃん。」

俺がそう言って馨にキスをすると、馨は小さく笑った。

「気分は?なんか飲むか?」
「今のところ平気だけど、うーん、あったかいの飲みたいかも。」
「ココア?」
「うん!」
「待ってろ。」
「…やっぱり一緒行く。」

馨はもぞもぞとベッドから出て俺の後をついて来た。しかもスウェットの上着の裾を摘まんで。なんでそこ?!いやめちゃくちゃ可愛いけど、可愛いけど!?

「ねえねえ悟ぅ、」
「ん?」
「…ふふふっ、」
「んだよ、」
「愛してるよ?」
「俺も愛してる。」

ココアの準備をする俺の背中に抱き着いた馨に、俺はだらしないほど頬が緩んだ。それからココアを飲みながら2人でベッドでゴロゴロして、ごじょにゃんが馨と俺の間に割り込んできて、馨はごじょにゃんを抱きしめて寝た。いや、俺じゃねぇのかよ。

「…俺も寝るか。」

『るんるんチャンネル:今日は馨が体調不良の為配信お休みするね〜。僕も馨と一緒に今日は休むね!馨は薬飲んで寝てるよー。心配しなくても明日は配信するし、動画はいつもの時間にアップするから! 悟[写真]』
『西中の虎:@るんるんチャンネル お疲れサマンサー!馨ちゃん大丈夫!?2人ともたまにはゆっくり休んでな!馨ちゃん寝顔可愛い♡』
『恵:@るんるんチャンネル 馨さん大丈夫ですか?お大事になさってください。』
『脹相:@るんるんチャンネル 馨!!!!!俺が見舞いに行く!!!住所を教えろ!!!猫は俺と代われ!!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!!』
『直哉ちゃんねる:@るんるんチャンネル 馨ちゃん大丈夫なん?寝顔かわええなぁ♡明日学校で会えるの楽しみにしてるで♡』
『硝子:@るんるんチャンネル 五条LIME見ろ。』
『傑:@るんるんチャンネル 馨ちゃんは大丈夫かい?』
『野薔薇様:@るんるんチャンネル 馨さん大丈夫ですか?!ゆっくり休んでくださいね!』
『モブ美:@るんるんチャンネル お疲れサマンサー!馨ちゃん大丈夫!?ごじょにゃんも一緒に寝てて可愛い( *´艸`)♡』
『おにぎり:@るんるんチャンネル ツナマヨ!?いくら、すじこ…しゃけ!(ノД`)・゜・。』
『パンダ:@るんるんチャンネル 大丈夫か?たまにはゆっくりしろよ。』
『モブ佳:@るんるんチャンネル 馨ちゃん大丈夫?!お大事に!!(>_<)悟君も今日は馨ちゃんとゆっくり休んでね!ごじょにゃん可愛い!(*ノωノ)♡』
『呪いの王:@るんるんチャンネル 今日は配信もないのか(´・ω・`)』
『真人:@るんるんチャンネル え、馨ちゃん大丈夫?女の子の日とか?(*^▽^*)?』
 『恵:@真人 そういうのセクハラです。』
 『真人:@恵 (*^▽^*)てへっ』
『はいばら:@るんるんチャンネル 馨ちゃん大丈夫?今日はゆっくり休んで、明日学校でね!(>_<)』
『ゆうた:@るんるんチャンネル 馨さん大丈夫ですか?お大事になさってください…!明日配信楽しみにしてますが無理はなさらず!(*'ω'*)』
『73:@るんるんチャンネル お大事に。』

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