ごじょにゃんの一日


吾輩は猫である。名前はごじょにゃん。俺の大大大大大好きな馨がつけてくれた名前だ。

「ごじょにゃーん、ご飯だよー、」
「んみゃ!」

この麗しき美少女が、俺の愛する馨だ。俺にそっくりな白くてサラサラな毛並み。俺と同じ眼色。最高級猫缶が載った俺のご飯皿をことりと置いて、馨は俺の頭を優しく撫でる。その手が凄く好きだ。

「ふわぁ〜、」
「あ、もう準備終わったよ。」
「何見てんだよデブ猫。」

コイツは俺の下僕。

「ちょっとぉ、デブって言わないでよぉ。可愛いじゃん。ねぇ〜ごじょにゃん?」
「んにゃん、」
「ご飯食べてね、行ってきます!」

学校とやらに行く準備を終えた馨と下僕が玄関に向かうのを追いかける。飯は後だ。今は馨だ。玄関で靴を履く馨の足にすり寄って俺の匂いをしっかりとつけておく。他の猫にも下僕にも俺の馨は渡さねぇ。

「馨、」
「わ、ん…っ、」

いつもそうだ。下僕が馨にキスをして俺に見せつけてくる。だから俺はこの自慢の爪で下僕の足で爪を研ぐ。

「いででででっ!」
「こらごじょにゃん、ダメでしょ?」

どうだ、参ったか!俺の馨は渡さねぇ!フン、と鼻息。

「俺の足は爪とぎじゃねぇんだけど。」
「んみゃぁ、」
「ごじょにゃんよしよし、行ってきます。いい子にしててね?」
「みゃ!」
「ほんと生意気。おいモップ、掃除しとけよ。」
「猫に掃除は無理でしょ。」

馨が俺の頭をわしゃわしゃと撫でまわして、下僕と一緒に出て行った。ガチャンと鍵が閉まる音がして、俺は早く帰って来いよ、と鳴いた。…腹減ったな。飯食うか。ご飯皿まで走って戻って、最高級猫缶をむしゃむしゃと食べ進めていく。前のやつよりこっちのが美味いな。流石俺の馨だ。俺の好みを分かっている。ご飯を食べてぺろりと口周りを舐め回すと、ちょろちょろと音を立てる給水器で水を飲んだ。馨が俺の為に買ってくれたやつだ。いつでもうまい水が飲める。人間はいいものを作ったな。褒めてやる。さて、俺は今から大事な大事な仕事がある。それは、

「ぐるぐるぐるぐる…、」

馨の枕で寝ることだ。馨の匂いが一番残ってるそこで俺は喉を鳴らしながら枕をふみふみした。馨大好き。俺の馨。ご機嫌に枕をふみふみして、寝位置を定めて枕の上に転がった。さて、今日も馨の夢を見るぞ。




目を覚ましてまず最初に毛繕いをした。寝癖ひとつない俺で馨を出迎えるんだ。全身を綺麗に舐め回して毛繕いを終えた俺は、水を飲みに向かう。満足するまで水を飲み、今度はトイレだ。これも馨が俺の為に買ってくれた。ぷりぷりとウンチをして、ざっざっと砂を掛ける。…うむ、ヨシ。指の間に嵌った砂を蹴り払ってトイレを出ると、今度は日当たりのいい窓際に行く。お、鳥がいるな。あれを捕って馨にプレゼントしたら喜んでくれるかな。窓を開けようと爪を立てる。クソ、開かねぇぞ!鍵が閉まってるのか。チッ、

「…、」

よくよく考えたらこの部屋、虫1匹いないな。困った。これじゃあ馨にプレゼントができねぇ。どうしたものか…。その時俺は、部屋の外から足音を聞いた。…この足音はアイツだ…!

「お邪魔しまーす。」
「…みゃおん、」
「あらごじょにゃん、珍しいじゃないお出迎えしてくれるなんて。」

コイツは歌姫とかいう女。俺の下僕2号だ。俺は玄関のドアノブを背伸びしてガチャガチャする。開けろ。俺は外へ行く。

「こらだめよ、ごじょにゃん。」

すぐに鍵を閉められた。クソ。

「さてと、…もうそろそろかしら。ごじょにゃんは寝室にいなさいね。」

下僕2号が俺を寝室に追いやった。ガチャリと閉まったドア。クソ、ますます外に出られねぇ!

『ピーンポーン』
「はい、」
『伏黒建設でーす。』
「はーい、」

下僕2号と知らないやつの声がする。誰か来るのか?俺と馨の家に何の用だ!俺はドアノブに手を伸ばした。ガチャリ、ドアが開いて俺は玄関に向かう。

「あ、こらごじょにゃん!」
「んみゃっ!にゃあおん!」

下僕2号が俺を抱き上げた。やめろ!俺を抱っこしていいのは馨だけだ!じたばたと暴れて下僕2号の手から逃げた俺。

「もうっ、今から業者が来るのよ!?」

またあのピンポンの音。足音が複数。知らない声と足音だ。下僕2号が玄関を開けた。知らないやつがいっぱい入ってきた!!!誰だオマエら!!

「ゔ〜!」
「こらごじょにゃん!すみません、どうぞ。」
「邪魔するぜ。」

なんだコイツ、偉そうだな。コイツ一番嫌いだ!ずかずかと俺と馨の家に上がり込んだその男の足に俺は渾身の猫パンチをかました。どうだ!参ったか!

「あっ、こら!すみません、」
「…でけぇ猫だな。」
「シャーッ!」

ソイツは俺の威嚇にも猫パンチにも怯まなかった。クソ、コイツ…!怪しいことしたらすぐに噛みついてやる!

「この部屋の壁です。こっち側に鏡を貼って欲しいと。」
「…ああ、大判8枚くらいか。」
「予算は問わないそうなので、お願いします。」
「ああ。んじゃ、早速。」

ガチャガチャと何か大きな荷物を置いたソイツ。何だこれ。初めて嗅ぐ匂いだ。クンクン、

「おい、危ねぇぞ。」
「ごじょにゃんこら、アンタは寝室!」
「社長、」
「そこ置いとけ。」

知らない奴らがどんどん部屋に入ってきた。俺は下僕2号に抱えられてまた寝室に閉じ込められた。クソ、なんだアイツらは!少しして、ごんとかがががとかうるさい音がして、俺はまたドアノブに掴まった。ガチャリ、ドアが開いて俺はさっきの部屋に走る。何をしてるんだ!…お、なんだあれ、誰か映ってるぞ?…俺か?おお!俺が映ってるぞ!…やっぱり俺男前じゃねぇか。フン。

「じゃ、金は請求書に書いてる口座に振り込めよ。」
「どうも。」
「またいつでもどうぞ。」

知らない奴らが家を出て行ったらしい。下僕2号も俺のご飯皿に最高級猫缶を入れて部屋を出て行った。ご飯を食べて、すんすんと匂いを嗅ぎながらあの部屋に入る。…うむ、俺だな。鏡って言うらしい。さっき下僕2号がそう言っていた。俺が首を傾げると、そこに映った俺も首を傾げていた。何だこれ面白いな。

「ただいまー!」

馨が帰って来るまで俺はその部屋にいた。馨の足音と下僕の足音に玄関まで走る。ガチャリと鍵が開いて俺はドアまで走った。馨!すごいぞ!俺が映ってた!俺は馨の足にすり寄って、また匂いを付ける。他の奴らの匂いがするからな。俺の匂いを付けて馨は俺のだってマーキングするんだ。

「ごじょにゃんただいま。手洗うから待っててね?」
「んみゃう!」
「鏡どうなったか楽しみだな。」
「ね、楽しみ!」

洗面所に向かう馨を追いかける。下僕が邪魔だ。足の間をすり抜けて馨に抱っこをせがんだ。

「ちょっと待ってねごじょにゃん、」
「おい邪魔。」
「もう、そんな言い方しないの!」
「馨〜、早くちゅー、」
「ちょっと、うがいしてないから!」

おのれ下僕め!

「いってぇ!クソ、俺の足は爪とぎじゃねぇって何回言えばわかんだよ。」
「こらこら、ごじょにゃんダメでしょ?」
「みゃおん?」
「はい、抱っこね、」

馨が俺を抱っこしてくれた。俺はおかえり、とそのほっぺをざりざり舐める。擽ったそうに笑う馨が俺の鼻先に鼻で触れる。うむ、挨拶もヨシ。俺を抱き上げたまま今度は下僕が馨にキスをした。こいつ!俺は下僕のほっぺに猫パンチをする。

「いてっ、コイツ爪伸びてる。」
「ごじょにゃん爪切ろうか?」
「……んみゃ、」

爪切りは苦手だ。でも馨が俺をぎゅっと抱きしめてよしよしして、首をこしょこしょしてくれて甘やかしてくれるから、嫌いじゃない。

「制服毛つくぞ。」
「あ、コロコロしないと。」

馨が俺を下ろして部屋に行った。俺もその後をついていく。馨が着替える姿を見ながら俺も毛繕いをして待った。馨が部屋を出るのを追いかける。馨!馨!

「ごじょにゃんおいで、爪切りしようね。」

馨が俺を抱き上げてソファに座った。足の間にお尻を乗せるように後ろから抱き上げられて、俺は近付いた馨の顔をざりざりと舐める。擽ったそうに笑う馨に俺も満足した。

「あ、悟爪切り取って?」
「ん、」
「ありがと。」

下僕が爪切りを持って来た。にやにやしながら俺を見る下僕。あとで覚えてろよ!

「ごじょにゃん痛くないからね、大人しくしててね。」
「んみゃん。」

パキン、パキン、俺の立派な爪が切られていく。馨は優しく俺の爪を押し出して、またパキン。

「はい、おしまい!頑張ったからご褒美にじゅ〜るあげるね!」

じゅ〜る!!馨が俺を下ろして立ち上がった。俺は馨の後を追いかける。じゅ〜る!早く!じゅ〜る!くれ!

「じゅ〜るじゅ〜るチャオじゅ〜る〜♪」
「みゃおん!」
「はいはい、どうぞ!」

じゅ〜る!うまいぞ!もっとくれ!じゅ〜る!馨が俺の頭を撫でる。気持ちがいい。じゅ〜るを食べ終えた俺は2人がいつもやってる撮影だとか配信だとかの準備を見ながら、馨の後を追いかけた。

「るんるんチャンネルをご覧の皆さん、お疲れサマンサー!皆のお兄ちゃん、悟だよー!」
「お疲れサマンサー!皆の妹、馨です!そして、ごじょにゃん!」
「なぁーおん!」
「今日は皆にお披露目するよー!実はね、余ってる部屋をトレーニングルームにしようと思って、ジャーン!鏡を貼ってみましたー!」
「すっごい!ダンススタジオみたい!」
「ほんとだよね!それで今回の企画は!デデン!」
「人気のあの曲を、2人で踊ってみようと思いまーす!」
「みゃお!」
「ごじょにゃんも踊るー?」
「モップは転がってなさい!」
「モップじゃないもんねー?」
「みゃ!」

2人があの部屋に入って何かしている。俺も混ぜろ!俺は猫じゃらしを咥えて馨の元に走った。

「はぁー休憩!」
「ごじょにゃん遊んで欲しいの?ちょーだい。」

馨に猫じゃらしで遊んでもらった。高い所でフリフリと揺れるそれにジャンプ!

「着地音やば、ドスンって言ったね。」
「ごじょにゃんもダンスダンス!」
「フーフーフー、」
「息切れしてんじゃん、ウケるねー。」

それから暫く俺は待ちぼうけ。たまに馨が俺にかまってくれる。カメラとかいう奴に馨と下僕が映っている。

「あー、こらデブ猫!カメラ触るな!」
「ごじょにゃん、おいで!」

馨に呼ばれた!

「カメラはダメでしょー?」
「んみゃん?」
「んふふ、可愛い〜。」
「僕は僕は〜?にゃんにゃん?」
「さて休憩終わり!」
「ちょっと馨〜!」

フン、どうだ下僕!馨は俺のだぞ!それから俺は馨がベッドに来るのを待った。馨の枕で寝ていると、馨と下僕がベッドに来た。布団に入った馨に俺も布団をガシガシと掻く。

「ごじょにゃん入る?」
「また間にくんの?」
「ごじょにゃん温かいからいいじゃん。」
「冬場だけだろ重宝すんのわ。」
「もう、そんな事言わないの。」

オマエの為に布団に入ったわけじゃないんだぞ!馨の隣で寝るのは俺なんだ!俺は馨の腕に顎を乗っけて寝転がる。馨が優しく俺の体を撫でてくれる。いいぞ、もっと撫でてくれ。ぐるぐると鼻を鳴らしながら、俺は温かい馨の腕の中で眠った。

「おやすみ、ごじょにゃん。」

こんな毎日だが、悪くない!

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