13

…と、不意に視界がくらんで、身体から力が抜けそうになった。


(……え、…?)


「返事はわかってる。…俺が、まーくんに伝えたかっただけだから」

「…なん、…で…」

「…それと、1つだけ…俺からのお願い。…もう二度と、何があってもこの屋敷には絶対に来ないで」


言わなくても来たくもないだろうけど、と自嘲気味に笑う声が聞こえる。


「……ッ」


なんでそこまで、と胸が苦しくなる。
これじゃ、一方的に言われっぱなしのまま終わってしまう。


「――っ、ぁ、」


(いやだ、そんなの、嫌だ――)


心が叫ぶ。
嫌だと、そんなこと言わないでくれと声にならない声で叫ぶ。

けど、それすらも声にできないほど何故か不明瞭な意識に困惑する。

…身を離し、…空になった容器に視線を移す蒼に、確信に変わった。

(もしかして、さっきの紅茶に…何か、…)

絡めた指の感触だけが、そこから伝わってくる体温だけが、これは現実なのだと俺に告げてくる。
……繋いだ手を、離したくない。

ここで目を閉じてしまったら。

ここで眠ってしまったら、もうこの先二度と会えないような気がして、


「俺、は…ッ、」


自分でも、何を言おうとしたのかわからない。
でも、何かを伝えたくて。
このまま離れるのは、どうしても嫌で。
考えるよりも先に声を出していた。


「…ッ、おれ、は……」


(……だめだ)


だるくて、唇が動かない。

視界がかすむ。
意識が遠くなる。
瞼が重くなる。

完全に身体から力が抜ける前、
俺を見つめる蒼の顔が見えた。



「まーくん、」


「…―――――っ」



(なんで、そんな顔…)



「…ばいばい」


そう呟く彼の声に

結局何かを伝えることもできず、泥のような眠りに押し流されて

……意識を 失ってしまった。


―――――――


(嗚呼、)

(目を閉じてしまった)
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