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どう答えればいいかわからなくて、とりあえず曖昧なへらりと緩い笑みを浮かべる。
……けど、やっぱり期待通りの反応ではなかったらしい。
ムッと眉を寄せた依人が「なんだよその顔はー。仕方ないから真冬で遊んでやろー」なんて軽い口調でうししと笑いながら、首にぐっと後ろから腕を回して軽く絞めてきた。
「うわ、ちょっと」
その腕に手をかけて「く、苦しい…」と、わざとらしく呻く。
段々本気で締まってくる腕に、ちょっとだけ焦りながらそんなばかみたいなことをして遊んでいた。
すると
「職員室ってどこ?」
近くで抑揚のない、落ち着いた声が聞こえる。
それは別段大きくもないのに、響くような凛と澄んだ声で。
瞬間、…教室内の音が消えた。
「……」
あんなに騒がしかったはずなのに、シーンとして今は何一つ音が聞こえない。
その光景に若干うろたえる。
ふざけていた身体が、皆に合わせてぴたりととまる。
「……(う、)」
何故か教室の中にいる生徒全員がこっちを見てるような気がする…んだ、けど。
集まる視線が怖い。
向けられる目が怖い。
「…(え、)」
な、なんなんだろう。この空気。
それに、いつの間にか一之瀬君に夢中になって集団になっていたはずの彼女らまでもがこっちに目を向けている。
「……っ…?」
その集団が顔に浮かべているのは、ほとんどが驚きの表情で。
何故そんな反応をされるのかが理解出来なくて、たじろぐ。
でも、すぐに向けられている視線の先が違うことに気づいた。
彼らが見ているのはおれと依人のどちらでもなく
「……(な、なん…で、)」
唖然として驚きを隠せない。
この状況に、うまく反応できない。
皆の視線の方向に顔を上げると、彼が
……一之瀬君が、いた。
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