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相変わらず、ひやりとするほど感情の起伏のない冷たい瞳が、答えを待っているように静かにおれを見据える。

こうしている間にも向けられている、怖いくらいの大量の視線。
こんな風に注目されることに慣れてなんかなくて、背筋が寒くなった。


「………」


目の前で、そんなこと全く気にもしていないような表情で立つ一之瀬君に見下ろされ、凍り付く。

ゾクリとした。

比較にもならない。
それを本能で感じてしまう。

……神に特別に愛された存在とは、こういう人のことをいうのだろう。

近くで見ると、もっと凄かった。
顔も、肌も、身体つきも全部理想的なものとして完成されている。

さっきあれだけ見たんだからそろそろ見慣れろと自分に言いたいけど、

あまりにも自分との格の違いを間近で目の当たりにして、…まるで少年という若さにして王様に成り上がった彼の下に跪く家臣の…いや、それどころか奴隷にでもなったかのような錯覚に陥る。


(…な、なんで、おれに…)


おれじゃなくても、周りにたくさん人がいたじゃないか。
そうは思っても、今自分が答えなければ状況は一向に好転しないままで。

若干圧迫感はなくなったけどそれでも首に強く腕を回されている状態のままごくんと唾を飲みこんで、一之瀬君を見上げた。


(…え、えっと、)


気持ちを奮い立たせて答えようとした…けど、
綺麗な冷たい表情に圧倒されて、無意識に目を逸らしてしまう。

……そんな仕草が、相手の機嫌を損ねていることに気づくはずもなかった。


「あ、あの、」


なんだっけ。

……確か、職員室の場所だっけ。
なんでおれに聞くことにしたのかはよくわからないけど、とりあえず答えなければ。

そんな使命感に襲われて、緊張で震える唇を動かすと、


「えー、何言ってんだよ。真冬は今からおれと一緒に帰るんですー」


耳元でぶーと不満げな声が聞こえた。
後ろからおれの首により強く、ぎゅっと腕を回して依人が答える。


「…、わかった」


ぽつりと呟かれた小さな言葉。
その声に反応して、一之瀬君を見上げれば、

一瞬、目が合う。


「……っ、」


すぐに瞼を伏せ、背を向けて立ち去ろうとする一之瀬君の姿に、放っておけなくて


「ちょっと、待って」


……気づけば、呼び止めていた。
というか、声をかけずにいられなかった。


目が合った瞬間、
一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど。

微かに、……彼の顔に痛みが滲んだように見えた。

一之瀬君のことを何も知らないのに、考えすぎかもしれない。おれの勝手な思い込みかもしれない。

けど、少なくとも動揺したように見えて、意識するより先に声が出た。
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