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「あ…っ、あの、蒼くん…!!」
流石にそろそろ可哀想になってきて、依人をどう慰めようかと考えていると、声がかかった。
高めのトーンの少し上擦った声。
「あ、あの、友達が、これを渡してもらいたいって」
余程緊張しているんだろう。
岩永さんがぷるぷると震える手で、蒼くんに手紙のようなものを差し出す。
その雰囲気と封筒を見た瞬間に、ラブレターだと気づいた。
依人も何を期待しているのか、目を輝かせて様子を見守っている。
「………」
蒼くんは目の前に出された手紙に対し、反応を見せない。
わー、すごいな。さすがだなと感心しながらそれを観察していると、何故か蒼くんが一瞬ちらりとこっちを見たような気がした。
けど、それは瞬きする間もないほど一瞬で、?マークを頭の中に浮かべつつ、気のせいだったのかもしれないと思い直す。
「わかった。ありがとう」
受け取った蒼くんが少し表情を緩めてそう返せば、やかんが沸騰しそうなくらい真っ赤になる。こくこくと勢いよく頷いて席に戻っていった。
ちゅーっとストローでストレートティーを飲みながら、その後ろ姿を見送る。
「可愛いよな。ああいう女子」
震えながら渡す感じが、なんだか一生懸命な感じがして可愛いと思ってしまった。
それに頼まれたからって、渡す役目を引き受けたのは優しいと思う。
気になって、少しの間そっちに視線を向けていた。岩永さんは周りの女子となにやらキャーキャー騒いでいる。
多分、蒼くんの話で盛り上がってるのかな。
そんな推測を立てつつ、顔を机の方に戻すと。
「へぇ、まーくんはああいう女子が好きなんだ」
「んー、好きって言われるとわかんないけど。まぁ、嫌いじゃない、かな」
思ったままに答えれば、蒼くんは興味を失くしたように冷たい表情で目を伏せ、無言になってしまった。
あれ、おれ何か変なこといったっけ。
いや、言ってない…よな…?
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