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元々の色素が薄いから肌が白いというのもあるだろうけど、顔から少し血の気が引いているように感じるのは気のせいだろうか。

人形と間違えてしまいそうなほど美しい少年を体現したような見た目をしているから、こういう食べないところを見ると実は本当に生きている人ではなかったりするのかと錯覚してしまいそうになる。


(……でも、蒼くんは間違いなく話もするし、動いてる)


豪華な弁当があるのに自分の一般的な弁当の中身を食べさせるのも悪いなと思って、今まで遠慮してたけど。



「…(このままじゃ、だめだ)」


どうにかして一口だけでも食べさせようとオムライスをスプーンですくって、蒼くんの前に差し出してみる。


「はい、蒼くん。あーん」

「…っ」


これやるの何年ぶりだろう。
少し面白くて無意識に笑顔が零れる。
でも、スプーンを差し出しても、蒼くんはなかなか食べようとしなくて。


「…ほら、蒼く…、」


言いかけた言葉がとまる。

何故だろう。
蒼くんが、硬直してしまった。


「…あ、あの、」


やばい。自分でやったことなんだけど、今更恥ずかしくなってきた。
自分のしていることを客観的に考えてみると、徐々に頬が熱くなってくる。
一向に動かない状況に、耐えられない。

中学二年生の男子生徒が、あーんを友達にする光景。


「…(う、うお…)」


何してるんだろう自分。
蒼くんも気持ち悪いと思ったかな。

「あーん」をした状態のままで、この差し出したスプーンを持つ手をどうしようなんて考えて、フリーズする。


「……」

「…………」


その静寂をぶち壊すように一つの声。


「あー、蒼だけ甘やかされてずるいー」


不満げな依人の声が突然耳に届いて、ハッとする。

蒼くんも困ってる…よな。


「ご、ごめん…!!やめ…」


やめる、そう言いかけた時。


「……っ、ちょ、」


焦ったような声とともに、スプーンを持っている方の手首を掴まれた。

「えっ」と小さく驚く声が遠くから聞こえた。


「食べるから、待って」

「…っ、」

「…いい?」


引き下げようとしたおれの反応が気にかかったのかもしれない。
確認するように問いかけられ、頭の中は真っ白なまま、小さく頷く。

蒼くんの言葉に、返事をする余裕もなかった。

彼はその薄く形の整った唇を僅かに動かし、口を開く。

それから、おれの差し出していたオムライスに少し顔を近づけて、

………食べた。

手が、離れる。


「おいしい。ありがとう、まーくん」

「…う、うん?」


零れるようなあまりにも嬉しそうな笑顔に、若干嬉しさやら驚きやらで変に語尾が上がってしまった。


いつから見ていたのか教室のそこら中で女子の歓喜の奇声が上がったけど、それが耳にも届かないくらい心臓がどきどきしている。
まさか、食べてくれるとは思わなかった。


「ずるいー。真冬―俺にもー」

「え、う」


もう一度やるの辛いなあと若干怯んだ。
でも蒼くんにだけやるのもおかしいし、と依人の言葉に頷こうとして、声が重なる。


「お前はだめ」

「なんで蒼にそんなこといわれないといけないんだよ!蒼の阿呆!」


ぴしゃりと跳ねつけるように即答する蒼くんに、依人が「ばか!阿呆!変態!むっつり!」と暴言を吐く。
それを意に介せず、完全無視する蒼くん。
そんな二人のやりとりが面白くて、ちょっと笑ってしまった。
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