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そんなことを思い出しつつ、マフラーをただ貰うだけでは忍びないので、手袋をあげるといったら即拒否されてしまった。

なので仕方なく、手袋を半分こずつで妥協することになった。

手袋をしてない方の手で蒼くんの手をぎゅ、と握ってみる。
……やっぱり冷たいじゃないか。


「わ…、」


校舎から出た途端、身体に雪が降ってくる。
見上げると少し灰色がかった空からぱらぱらと顔の上に雪が降って冷たい。

はぁーっと息を吐けば、口から出た吐息が空気に溶けて消えていく。

わーわーと年甲斐もなくはしゃぐおれを見て、蒼くんが苦笑しているのが見えた。

……流石に今のは反省した。ちょっとだけ恥ずかしくなる。


「なんでそんなに雪が好きなの?」

「んー、ちょっと雪には思い出があるんだ」


「思い出?」と不思議そうな表情で問われ、頷いて笑い返す。

まだおれが小さかった頃、父さんと母さんと三人で雪だるまを作って、とても楽しかったのを覚えている。
それを蒼くんに笑って言えば、「そっか」と何故か少し寂しそうな顔で頭を撫でられた。

話しながら、家の前まで歩く。

いつもならそこでばいばいするんだけど。

寒いしどうせならマフラーのお礼もしたいから「家に寄っていかない?」と言えば、「いや、いい」と断られたので、「う、ん…」何もお礼を返せないと頭を垂れた。

とりあえずマフラーだけでも返そうと首からそれを解いて、彼の首に巻いていく。

どういう顔をしたらいいのかわからない、というような慣れなさそうな表情で、でも一応されるがままになってくれている。

あと、ついでに半分こしていた手袋もどうせなら両方つけていってもらおうとすると蒼くんに拒否されそうになったけど、これだけは絶対にしてほしいと無理やり押しつけた。


「赤くなってる」

「うわ…っ、冷たい。今日は本気で寒いからなー」


頬に手を当てられて、そのひやりとした感触に身震いした。
彼の頬も寒さからかほんの僅かにだけど、熱を帯びた色になっている。


「マフラー貸してくれてありがとう。今後お礼に何かするよ」

「いいよ別に」

「ううん。おれだけがしてもらうのは申し訳ないから、蒼くんがしてほしいことがあれば何でもする」


また断られようとしてしまって、却下される前に力強く断言する。
してもらってばっかりは良くない。


「何でもいいの?」

「うん」


少し思案する仕草を見せた蒼くんにそう笑って返せば、彼はおれの頬に触れていた手を首に動かした。
首筋をひんやりとした冷たい指の感触がすーっと小さくなぞる。


「じゃあ、お礼にまーくんの身体でも貰おうかな」


そんなことをふいに真剣な目つきで言う。
整った顔に感情というものを一切滲ませず、薄く整った唇に囁かれる。

蒼くんもそういう揶揄い方するんだ。意外でびっくりしたと笑って軽口で躱したかったけど、…全く冗談には聞こえない。


(……ぇ、…?)



首に触れた指に少し力が込められたような気がして、どきりと変な感じに胸が跳ねた。


「……っ、ぁ、」


本能で、謝ろうとしてしまう。習性とは怖いもので、一度染み付いたらなかなか消えてくれない。

けど蒼くんだって本気でいってるわけじゃないだろうと思いながら、「なんでも困ったことがあったら言って」と返した。

「ごめん。意地悪しすぎた。でも、そんな顔しなくても冗談に決まってるだろ」と、やっぱり少しぎこちない笑顔だったらしいおれに、少し申し訳なさそうに柔らかく笑う。

いつもと変わらない蒼くんの態度に、ほっと息を吐く。

一瞬本気で言ってるのか、冗談で言ってるのかわからなくなってしまった。
大げさに反応しすぎてしまったと反省し、「おれがやりづらい感じにししちゃったから、謝らせてごめん」と頭を下げた。


「まーくんのそういうところ、好きだよ」


そう言って微笑む彼に、よしよしと頭を撫でられる。
子ども扱いされているようで、どうも素直に喜べない。

どういうところ?と聞けば、「そういう分かってないところ」って言われてよくわからなくて首を傾げた。


「おれも、蒼くんのこと好き」


勿論、変な意味なんかじゃないけど。
「困ったときに相談に乗ってくれて、いつもありがとう」と感謝の気持ちを込めて伝えれば、彼は一瞬驚いたような、戸惑ったような複雑な表情をして、優しく笑ってくれた。

―――――――――

嗚呼、こうやってずっと楽しくいることができたなら。
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