[オンナノコ]1

***

そしておれたちは中学三年になった。

秋になったある日のことだった。
ある女子生徒が蒼くんのいないタイミングでおれを呼び出した。
呼び出しにも、もう慣れてしまった。


「…(また、ラブレターの手渡しかな)」


そろそろ蒼くんにもこれ以上持ってくるなとうんざりされそうだ。そうなる前になんとかしないと、と考えながらその女子生徒の所へ行き、怯んだ。

……一見、性格がきつそうな感じだった。人を見た目で判断してはいけないとわかってはいても、本能で感じてしまうものはどうしようもない。
今までの経験上良い思い出がない雰囲気の相手に、既に席に戻りたくなってくる。その女子にぐいと腕を引っ張られて、耳元に口を近づけられた。


「蒼くんと仲良くなりたいの。協力してくれない?」

「…っ」


女子とこんなに近くにいたことがないせいで、思わず頬が熱くなる。


「いや、でも、」

「…でも?何?」


拒否しようと身体を離そうとすれば、強く腕を引っ張られて、ずいと身体が近づいた。
耳元に吐息がかかるレベルで近い。
うわ、うわわと心臓がバクバクして、反射的にうなずいてしまう。


「わ、わかったから。離して」

「うん。真冬くんって蒼くんと仲いいんでしょ?頼りにしてるから」


そうこそっと囁いて、隣のクラスだったらしい彼女は走り去っていった。
ああ、もう。安請け合いしてしまったけど、大丈夫かな。

もしおれにできることなら何でも手を貸したいとは思っているけど、蒼くん関係は今までのこともあって気が進まない。

これからのことを考えて、ため息をつきそうになった。


………それからは事あるごとにその女子に呼び出された。

彼女は鈴村紫苑という名前らしい。
顔は綺麗なのに、性格が滅茶苦茶女王様気質だと思う。
「鈴村さん」と呼んだら「紫苑と呼べ」と怒られたので、未だに全然慣れないけどとりあえず呼び捨てにしている。


今日は蒼くんの好きなタイプを聞いてくるようにと紫苑から命令された。

……うう、なんでこんな尻に敷かれてるんだろう。自分が情けない。

でも、任務を達成しないとまた怒られるので、ご飯を食べながらさりげなく聞いてみることにした。


「蒼くんって、どんなタイプの人が好き?」

「…え、」


おれの質問に絶句する蒼くんに、全然さりげなくなかったことを猛省する。
そういえば、蒼くんと恋愛話するの初めてだな。


「なんで?」


無表情に何かを探ろうとするような瞳に、う、と怖気づきながら、へらりと笑って春巻きを口に入れる。


「いや、ほら、ちょっと気になって」


紫苑のことをここで出すわけにもいかずに、曖昧な返答になってしまう。
頼まれたから蒼に聞いたって…なんかスパイみたいで嫌な感じがするし…。

…まぁ、興味あるのは事実だからいい、だろう。

蒼くんほど綺麗だと、やっぱり好みもこれ以上ないくらい美人だったりするのかな。


「あー、真冬ってば、蒼のこと好きになったんだろー」


冷やかし、揶揄うような依人の声に「違うって」と笑って返す。

いや、まぁ、好きではあるんだけど。

多分依人の聞いてるような意味の好きとは、違う…?し。…うん、多分。よくわからないけど違う、はず。

……こういうことを考え始めると永遠のループに陥るからあまり深く考えるのはやめておこう。


「…へぇ…」


何か含みを持たせた呟きが聞こえて、顔を上げる。
怪しげな笑みを浮かべる彼にドキリとして、返答を待つ。


……と、


「まーくんみたいな人かな」

「……?えっと、おれみたいなって、何の話…?」

「俺の好きなタイプだよ。まーくんが聞いてきたんだろ」


すごい期待しながら返答を待っていただけに肩透かしをくらった気分になった。
頬を緩めて恋人に対するような甘い台詞を言われたので、はぐらかされた気がしてちょっとムッとする。


「蒼くん、そういう冗談言うと本気で誤解されるからやめた方がいいって何回も言ってると思うんだけど…」


現に、男子で蒼くんのことを狙ってる人もいるみたいだし。
女子だけでも多いくらいなのに、男子にも狙われてるんだからな…。
万が一蒼くんが襲われでもしたらどうしよう。


(…そうならないように、おれが気を付けて見張っておこう)


やっぱりもう蒼くん宛ての手紙は全部断ろうと決意し、今後の対策を真剣に悩んでいると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。


「…ん?」


その方向に顔を向けると…、クラスのドアのところにあの女王様こと、紫苑がいた。
いつもなら垂らしている長い髪を、今日は一つに纏めている。
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