3
***
「………」
声が聞こえる。
けど、おれは海に沈んでいるような安らかな気持ちでふわふわしている。
頭の隅と喉の奥に引っかかるような怠さは微かにあるものの、それでも構わない。とにかくこのままでいたかった。
「……んー」
知らない。今は話しかけられたくない。お願いだから起こさないでほしい。放っておいてと何故か開きにくい口で抗議する。
今はもっと寝たい。眠りたい。
「………−くん」
「んー」
自分でも不機嫌に眉が寄るのがわかる。
それでも声はやまない。
しばらく「んー」「むー」と意味のない言葉で応答していると、ぽんぽんと肩を軽く叩かれた。
「まーくん、着いたよ」
「……………………あ、………え?」
突然鼓膜に形となってはっきりと届いてきた声に、ハッとして目を開ける。
途端に視界に入ってきた光景に、驚く。
女子3人と依人がおれを見ている。
……というよりは、皆おかしそうに笑ってこっちを見ていて、しまったと青ざめた。
(おれ、なにやって、)
一瞬状況がわからず、身体に触れる感触にようやく自分が今どういう体勢になっているかを思い出して。
「ぁ…っ、ごめん!」
ばっと飛び起きて蒼くんに謝ると、彼は首を横に振って笑った。
「いいよ」と優しく微笑んでくれるから、罪悪感でいっぱいになる。
(……眠ってる間、ずっと寄りかかってたんだ。重かっただろうな)
うううと情けなさと申し訳なさで死にたくなる。
「……っ、ぅ、ほんと、ごめん…すぐ起きなくて、重かっただろうし、ほんとにごめん…」
「重くなかったよ。それに俺はあのままでも良かったけど、色々見て回りたいところがあるって言ってたから起こした方が良いかなって」
「寝ぼけてるのも可愛かった」なんて凄く気を遣ってくれる蒼くんができた人間すぎて下げた頭を上げられない。
なんだこの人は。内面まで格好良すぎる。弱った心に染みるほど、ころりと堕ちてしまいそうな言葉を返してくれる。
そんな思いを抱えながら恐る恐る周りを見回してみると、いつの間にか車内には人がいなくなっていて。
まだ残っているのは、おれたちのグループだけのようだった。
……誰の顔も、みることができない。
「…っ、皆も、ごめん、おれのせいで自由時間減っちゃって、」
それに、見られた。見られてしまった。
軽蔑されたらどうしよう。いやおれのことはいい蒼くんまで変な目で見られてたらどうしようと若干本気で焦る。
そう思って、振り返れば
「もー、真冬はすぐに蒼に甘えるんだから。俺にも甘えろよー」
とぶーっと頬を膨らました依人が抱き付こうとしてきて、それを見事に蒼くんが止めてくれる。
いや、正しく言えば依人の腕を掴んで動きをおさえてるだけなんだけど。
(蒼くん、依人の扱いに慣れてきたな)
依人は相変わらずのテンションで、ほっとする。
他の女子はというと
「あの、柊君!!」
「な、なに…」
何故か一人がはぁ、はぁと息を荒げながら近寄ってきた。
なんでこんなに鼻息荒いんだこの人。
可愛い容姿なだけに、何がそこまで興奮させるのかと目を瞬いた。
若干引き気味でうろたえてしまう。
もしかして、それほど怒らせてしまったのか。それとも、おれたちのしてたことが気持ち悪すぎて吐きそう…とか?
色々な予想で頭の中がぐるぐる高速に回転する。
もう一度謝罪すべきか、むしろ土下座した方がいいんじゃないかと覚悟をしながら、声をかけようと瞬間。
「今、蒼くんにもたれて寝てたよね?!!」
「…?…う、うん」
勢いに負けて白状すれば、彼女は甲高い変な声を出して「なんでそんな当たり前に距離感近いの肩抱かれて寝ちゃってんの何それやりとりも彼氏彼女かよ最高なんですけどありがとう蒼くんと柊くんのいちゃいちゃサイコーすぎます全力でありがとう」と、わけのわからないことを言われて手を握って感謝された。
大袈裟なくらいに他にも思い出せないことまで褒められ?(褒められてるといっていいのかわからないけど、「二人が〜してたの良かったよ」とか「〜〜なところ素晴らしかった」って言われまくったから、そういう感じだった…気がする)て、綴られる単語に首を傾げる。
握られている手を軽く上下にぶんぶんされて、ふらついたところを「まだ体調戻ってないんだから、動揺させるようなこと言わないで」と蒼くんに抱き留められる。
「…っ、あびゃびゃ…かほご、しっと、だき、だきしめ、…っ、ひゃ…」
心配して庇ってくれただけなんだけど、こっちを見ていた顔が余計に真っ赤になってよろめていた。
彼女の友達曰く、彼女は『腐女子』というやつらしい。
[back][TOP]栞を挟む