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そんなことをしている間に、荷物を持った男子が入ってきた。

同じ部屋の人だ。

二人とも明るく挨拶をしてくれて、結構人見知りだと自覚している自分を改めて情けなく思うほど「あ、よ、よろしくお願いします」と不自然な返事になってしまった。

(き、緊張する…)


どちらかというとクラスで目立つ系統の、たまに悪ノリしすぎるタイプの二人だ。

……う、苦手なタイプだな、と言いはしないけど思う。
さすがコミュ力高の依人は話しかけに行って楽しそうに話していた。すごい。

それから皆で輪になって今日がどんなだったあんなだったと自己紹介を交えつつ話していると、お風呂に入ろうという話になった。

個室にそれぞれのシャワー室がついていて、各々自分たちで入ることになっているので一人ずつ入る。
お風呂から上がって用意されていた浴衣を着てみると蒼くんに何故か笑われた。

何だ、何かおかしいのか、と拗ね半分戸惑い半分で困惑していれば「ごめん」と謝った蒼くんが「逆だよ」と言って浴衣を直してくれる。

左が上にならないとだめらしい。
知らなかった。だから紐の位置がおかしかったのかと納得した。


「これでいいよ」

「おおー、すごい」


慣れているように手際の良い姿に感服する。
きゅっと最後に腰の帯を結んでくれて、「似合ってる」と微笑んでくれる蒼くんにお礼を言った。

初めて着る浴衣が嬉しくて気分を高揚させていると、「あ、もうまーくんは」なんてため息をついた蒼くんに、「ちゃんと拭かないと」と言われて頭をタオルでぐしゃぐしゃやられた。


あと、寒いだろうからと紺色の羽織のようなものを着せてくれる。
「お母さんみたい」っていうと、複雑そうな表情というか、納得のいかなそうな顔をされて、それが何故か面白くて笑ってしまった。


……
……………


皆で輪になった状態で適当に話す。

順番が最後の蒼くんが今お風呂に入ってるから、既に皆浴衣状態だ。

全員なんだかんだ浴衣の着方が適当で、ところどころ浴衣の下が見えてしまっていた。
知り合いが一人減ったことで余計に緊張して、構えてしまう。

じっと三人に見つめられて、「な、なに?」と若干気まずくなって問うと、彼らは顎に手をあててふむと頷いた。


「いやー、柊の浴衣姿やばいわ。これはモテる」

「なー、風呂上りマジでやばいだろー。ふふん、まふゆさいこー」


抱き付いてきた依人に、ぎゅーっと締め付けられて苦しい。
シャンプーのいい匂いが漂ってくる。


「え、っと、あ、ありが、とう…?」


椙原君(二人の男子のうちの一人)と何故か偉そうにそれに同意する依人に、どう反応すればいいかわからなくて一応お礼を言っておく。


「だって、今日もすごかったもんな。超絶綺麗系男子カップル萌えーとか、女子がいつも以上にキャーキャー騒いでて」

「いやー、おれも真冬も蒼もイケてるからな」


ふんと偉そうに腰に手を当てる依人が「お前のことじゃないだろ」と突っ込まれてるのを見て、あははと苦笑いした。

話に合わせて相槌をうつことしかできない。
もっとうまく会話できれば場を盛り上げることもできるのにな、と自分の能力の低さを実感した。 



―――そして、しばらく話したとき


「失礼しまーす。お誘いありがとー」


やけに甲高い声が部屋の入口の方から聞こえてきた。


(…え?)


振り返ると、女子がいた。

五人いる。
それに全員風呂上がりっぽくて、浴衣姿だった。
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